• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 土木施工単価 > 鋼橋の保全工事における特性および積算の留意点

 
 

一般社団法人 日本橋梁建設協会 保全委員会 保全積算部会
部会長 吉田 昌由
副部会長 川村 誠司
副部会長 国本 和之

 

1.はじめに

高度成長期以降(1955~ 1985年頃)の30年間で約25万橋(橋長2m以上)という膨大な数の橋梁が製作,建設されました。そして今,それらの橋梁が建設後50年を経過し,老朽化が顕在化するようになりました。今後20年間で建設後50年を経過する橋梁は加速度的に増加し,全体の65%程度(橋長2m以上)になる見込みです(図- 1)。
 

【図-1 建設年度別橋梁数(道路橋)】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
近年,老朽化した橋梁はトラス斜材の破断,疲労損傷,ケーブルの腐食損傷などが発生し,一時的に通行止めを行い,緊急補修を実施する事例が増えてきております。また,橋梁ではありませんが,平成24年12月には中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故が発生し,多くの犠牲者を出してしまいました。これらの結果も踏まえ,国土交通省では「社会資本の老朽化対策会議」を設置し,平成25年を「社会資本メンテナンス元年」として,インフラの老朽化対策についての総合的・横断的な取り組みが打ち出されました。
 
これは,日本の成長期から成熟期への移り変わりであり,新しい物を多く作る時代から維持管理を行い,長く使う時代が到来したと言えます。まさに,メンテナンスの時代です。
 
工事発注量でも,新設橋梁の工事が年々少なくなる一方,維持・修繕・改良工事は増加の傾向にあります。メンテナンスは社会の流れであり,ニーズでもあります。
 
また,平成26年度には2m以上の橋梁について,5年に1回の近接目視点検の義務化も始まり,今まで以上に修繕が必要な橋梁が見つかる可能性もあります。
 
このように,維持・修繕・改良工事は新しい事業であり,既存の技術ばかりではなく新しい技術を取り入れるのはもちろん,各橋梁に適した施工方法を採用する必要があり,現行の積算基準類だけでは積算が非常に難しい(またはない)ケースがあります。
 
一般社団法人日本橋梁建設協会では,積極的に鋼橋の保全事業に取り組むに当たり,「保全積算部会」を立ち上げ,保全工事特有の積算方法や新技術の歩掛の検討などを行っております。今回は「維持・修繕・改良工事(保全)の特性」「適切な積算例」「新工法の紹介および積算留意点」についてご紹介します。
 
 

2. 維持・修繕・改良工事(保全)の特性

新たに構造物を製作する工事とは異なり,施工対象が既設構造物となる維持・修繕・改良工事(保全)にはいくつかの特性があります。

2-1 現地調査

工事着手に際しては,必ず現地調査を行い,施工計画および設計図面に反映することが必要となります。
 
現地調査では,主に図面と既設構造物の整合性,支障物の有無,施工条件(作業空間・搬入方法・夜間作業の必要性),周辺環境への影響(騒音・粉じん)といった内容の確認を行います。
 
支障物などは施工前の現地調査を実施して初めて気付くというケースが多くあり,その要因として,工事発注前の計画段階における事前調査不足が考えられます。計画段階では,調査用足場がないなどの現地条件により対象構造物に近づいて調査することができず,竣工図面や遠方目視調査のみで補修設計を行ってしまうことがあります。構造物に添架されている施設設備などは竣工後に設置していることも多く,竣工図面に反映されていないケースがあり,状況によっては,大々的な再設計が必要となり,全体工期および工事費に大きな影響を与えてしまう場合があります(写真- 1)。
 

【写真-1 図面に記載のない施設設備】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2-2 トライ&エラー(施工と設計)

現地調査によって事前に解決する問題もあれば,実際に施工してみて初めて問題が判明することが多いのも保全工事の特性の一つです。
 
例えば,落橋防止システム工や支承取替工などの工事において,鋼製ブラケットをコンクリート製の既設橋脚や橋台に設置する際には,アンカーボルトを設置するために必要な孔を開ける必要があります。
 
コンクリート削孔は主にコアボーリングマシンを使用しますが,削孔時に橋脚や橋台の鉄筋を損傷させないことが重要となります。コンクリート削孔を行う前には,鉄筋探査工により内部の配筋状況の確認を行いますが,一般的な電磁波レーダー法による鉄筋探査機では探査可能深さが20cm程度となります。そのために橋脚や橋台の2段目以降の鉄筋など,鉄筋探査では把握しきれなかった鉄筋の存在が削孔時において初めて判明することが多くあります。
 
また,削孔時においては,鉄筋に干渉すると即時に停止する機械(メタルセンサー付機械)(写真- 2)や,鉄筋を損傷しない程度の小孔径ドリルによる削孔での位置確認を本削孔前に実施するなど,鉄筋を誤って切断してしまわないための最新の技術や工夫が多くみられます。
 

【写真-2 メタルセンサー付コアボーリングマシーン】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
しかし,いずれにおいても鉄筋の存在が判明した際には,別の位置に削孔する必要があり,鉄筋に干渉しては位置をずらして削孔をし直す,またそこで干渉したら再度ずらすといったトライ&エラーの繰り返しとなることが多くあります。そして,最終的に削孔が完了したときには,設計図面とは全く異なった位置となってしまうことがあります。
 
鋼製ブラケットの形状や構成している部材の板厚などは,設計図面による正規の削孔位置(アンカーボルト位置)に基づいた応力計算から決定されているため,その位置がずれることは,すなわち設計の見直しが必要となることを意味します。
 
このように,トライ&エラーの繰り返しや,施工と設計の見直しが同時進行し,それらに伴う時間と費用が多く発生するのも保全工事の特性となります(写真- 3)。
 

【写真-3 トライ&エラーによる削孔状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2-3 厳しい環境下での作業

橋梁補修工事は一般的に,新設橋梁工事や一般土木工事と比較して工事量が少量で多工種・多職種となり,かつ,その作業環境においては狭隘で粉じんなどがあるなど厳しいものとなります。
 
また,新設工事と同じ工種であっても,作業空間を十分に確保することができずに無理な体勢を強いられる狭隘箇所での作業(写真-4)や,1箇所当たりの施工量が少量で場所が点在している作業などについては,施工に要する日数および費用が新設工事の数倍から数十倍となることもあります。
 

【写真-4 狭隘箇所での作業】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
補強工事において新たに設置する補強部材の搬入なども苦労する作業の一つです。
 
供用下での工事においては夜間交通規制を伴ったり,箱桁橋の桁内に設置する部材については,狭い搬入口(マンホール)からの人力による部材取り込みが必要となることがあります(写真- 5)。
 

【写真-5 人力による部材搬入】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

3. 適切な積算に当たって

さまざまな特性を持つ保全工事の工事費算出に当たっては,その工事内容と条件に見合った適切な積算を行うための十分な配慮が必要となります。
 

3-1 足場設置期間

前章で述べたように,保全工事においては,施工計画を立案する前段階での現地調査が必要となり,その段階から足場を設置する必要があります。
 
現地調査の結果や施工時におけるトライ&エラーの繰り返し,施工数量,環境条件などによって足場の設置期間は大きく左右されます。
 
足場の設置期間の考え方については,一般社団法人日本建設機械施工協会から出版されている「橋梁架設工事の積算」において,次の3ケースを標準としています(図- 2)。
 

【図-2 足場設置期間の考え方】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この足場設置期間の考え方においての重要なポイントは,経済性・利便性・安全性を考慮することはもとより,調査・補修内容や施工・環境条件などにより設置期間を設定する必要があるということです。
 
例えば,落橋防止装置を設置する工事においては,足場の設置期間を設定する際に,コンクリート削孔や落橋防止装置の設置といった現場作業に関連する工種の施工数量のみに着目して期間設定されてしまうケースがあります。しかし,実際には現地調査や計測,トライ&エラーの結果による設計へのフィードバックや工場製作物の図面作成,時間制約といった現場施工条件など,施工数量には計上されないながらも,足場の設置期間に影響してくるものがあります。そのため,工事の内容と条件を良く理解した上で,工程表などを用いることにより,一連の流れに必要となる設置期間を設定することが保全工事における適切な積算の考え方となります。
 

3-2 足場の面積

保全工事における足場面積の考え方についても,工事内容を十分に理解した上での設定が求められます。
 
橋脚回り足場を例に挙げると,支承取替工事と落橋防止システム工事では,同じ橋脚回り足場として表記されていても作業に必要となる面積が異なってきます。
 
架設部材を全て橋脚(橋台)で実施する支承取替工事に対して,主桁と橋脚(橋台)を結ぶ構造の落橋防止システム工事では,後者の方が広い足場面積を必要とします。
 
また,足場については,作業内容と環境条件に応じて飛散物や落下物防止を目的として足場防護の設置を必要とすることもあります(写真- 6,図- 3)。
 

【写真-6 橋脚回り足場(落橋防止システム用)】

 

【図-3 足場面積の考え方】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
架設部材の大きさや作業方法に応じた足場面積の算出や環境条件を考慮した足場防護の設置に配慮することが,保全工事における適切な積算の考え方となります。
 
 

4. 新しい工法の紹介および積算留意点

4-1  環境対応型の現場塗膜除去技術(湿式塗膜剥離工法)

鋼道路橋防食便覧では,塗替え塗装については従来よりも耐久性に優れる重防食塗装系を基本としています。しかし,旧塗膜に有害物質である鉛化合物・六価クロム化合物・PCB(ポリ塩化ビフェニル)などが含まれる場合,素地調整にブラストやサンダーケレンを用いて塗膜を剥離すると,有害物質が微細化して飛散する可能性があります。このような場合,旧塗膜を飛散させずに除去する方法として塗膜剥離剤を用いる方法があります。
 
塗膜剥離剤を,刷毛やスプレーで,旧塗膜面に塗布し塗膜を徐々に軟化させることで,スクレーパーなどで一気に除去することができます(写真- 7)。剥離剤が浸透した塗膜は長時間湿潤状態を保持するので,塗膜除去時には粉じんはほとんど発生しません。
 

【写真-7 剥離剤による剥離状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
このことから,有害物質による作業者の健康障害の防止,また,市街地等での粉じん飛散防止を徹底するため,湿式塗膜剥離工法による塗膜除去を採用するケースが多くなっています。剥離剤の使用は,ブラストやサンダーケレンといった通常の素地調整と異なり,以下の点に留意する必要があります。また,本内容は設計図面に記載されることが少なく,費用を適切に計上し,積算する必要があります。
 
①剥離剤では塗料の剥離のみの作業となるため,鋼材表面の粗度が必要な場合は別途ブラストや動力工具処理が必要となります。
②剥離剤は,作業中,粉じんなどは発生しませんが,軟化した塗膜を剥ぐことから,
 養生設備の追加や,また,剥離した塗膜かすの回収および処分が必要となります。
③対象部位の膜厚が厚い場合や剥離時の気温が低い場合は,塗膜が容易に剥離し難いこともあるので,事前に試験施工を行い,
 塗布量(回数)を決定する必要があります。
④有害物質から作業者を守る保護具やシャワールームの設置,剥離した塗膜の管理に留意する必要があります(写真- 8~ 10)。
 

【写真-8 保護具着用状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【写真-9 クリーンルームの使用状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【写真-10 現地剥離後の有害物質保管状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

4-2  塗替え塗装の素地調整工法(オープンブラスト工法)

塗替えの際に,塗膜の寿命をより長くするためには,ブラスト工法による素地調整種別1種で,旧塗膜の完全除去が必要となります。旧塗膜に有害物質などを含む場合は,前述した湿式塗膜剥離工法にて塗膜を除去し,工事上の制約がなければ,その後オープンブラスト工法による素地調整を採用するケースが多くなっています。これは新しい工法ではありませんが,工法採用には,以下の点に留意する必要があります。
 
①塗替え時の足場は,板張りシート張りにて防護を行いますが,ブラスト工法にて素地調整を行う場合は,研掃材の飛散防止対策および,養生シートの破損防止対策としてシートを追加する必要があります(図- 4)。
 

【図-4 ブラスト用養生設備工図】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
また,研掃材は作業条件などにより異なりますが,一般には1㎡当たり40kg以上を必要とするため,吊足場や張出し足場は,十分な強度をみておく必要があります。積算においては,このような重荷重を考慮した足場の選定および養生の追加などの必要性があります。
 
②オープンブラストで使用した研掃材や塗料片は,足場床面上に飛散し堆積します。完全養生された足場内で集積し足場外へ搬出する作業は,ブラスト作業とは別の作業と考える必要があります。例えばブラストの日当たり施工量を70㎡とすると,約2.8tの研掃材を集積回収し足場外へ搬出する費用が必要となります(写真-11)。
 

【写真-11 研掃材回収状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

4-3  狭隘部の高力ボルト本締め技術(高力ワンサイドボルト締め付け工法)

鋼床版U リブの補修や,裏側が狭隘部で,手が入らない閉断面部材へのボルトの締め付けは,片面から締結できる,高力ワンサイドボルトが用いられます。
 
ワンサイドボルトはスリーブが付いた特殊なボルトで,片側からボルトを挿入し専用シャーレンチで締め付けることで,スリーブが変形しボルト頭が形成されます。このボルト頭により,ボルトの抜け落ちを防ぎ,軸力を導入できます(写真-12 ~14)。
 

斜材(箱構造)での当板補強採用例 【写真-12 ワンサイドボルト使用事例】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【写真-13 ワンサイドボルト頭側締め付け状況】

 

【写真-14 ワンサイドボルト写真及び締め付け後模式図】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
高力ワンサイドボルトは通常の高力ボルトと違い,以下の点に留意しての施工および,適切な積算を行う必要があります。
 
①通常の高力ボルトとは編成人員,日当たり施工量が異なります(橋梁架設工事の積算参照)。
②締め付けには専用工具が必要となります。
③裏面に錆などにより平坦性が取れていない場合は,軸力の抜けが懸念されますので,事前の確認が必要となります。
④高力ボルトに比べ,孔径が小さいため,孔明け精度が重要になります。
⑤現地での孔明け後は,裏面(頭側)のバリ取りが必要となります。
⑥ワンサイドボルトは高力ボルトに比べ材料費が高価になります。
 
 

5. おわりに

今回は,実態に則した形での積算における留意点として「足場設置期間の考え方」や「足場面積の算出方法」について,そして次に新技術および積算留意点として「湿式剥離工法」「オープンブラスト工法」「ワンサイドボルト」について紹介させていただきました。
 
足場については,保全工事に従事する技術者が最初に頭を悩ます項目であり,実態と積算に乖離があるケースが見受けられる工種だと思います。よって,一般社団法人日本橋梁建設協会としても発注者に積極的にアナウンスすべき項目と考えております。
 
湿式剥離工法については,有害物質の飛散防止対策として採用されるケースが増えてきておりますし,「やってみなければ分からない!」という保全の特徴が付きまとう工法であり多くの留意点があるため,今回紹介させていただきました。実施工では,現場条件など十分検討を行った後,実施するようにしてください。
 
オープンブラスト工法やワンサイドボルトについても実施工の際,多くの留意点があるため紹介させていただきました。
 
しかし,この他にも積算基準のない工種,工期延伸や複数現場での間接費の考え方,極小規模工事の歩掛など,多くのことに困っているのが現状です。特に,冒頭に少し述べましたが,5年に1回の近接目視点検が義務付けられた結果,施工数量は極小規模ではあるが補修を必要とするケースが予想され,歩掛の作成は急務と考えています。
 
極小規模歩掛の例
①塗装塗替え(桁端部など)
②高力ボルト(リベット)取替工
③現場溶接工(ガウジング工)
④コンクリート打設工
⑤型枠,鉄筋工
 
今回,紹介させていただいた内容からも保全工事の歩掛は,現場(施工)条件,数量の規模などによって大きく変わってしまうことがご理解いただけたかと思います。
 
従って,全ての現場に適した積算基準・標準歩掛を作成することは困難ですが,積算条件の整備や,補正係数の設定などをより充実させ,多くの人が納得して使用できる基準を提案することを心がけ,一般社団法人日本橋梁建設協会 保全積算部会は活動を行っていかなければならないと考えております。
 
 
 


図-1:国土交通省発表資料より作成
図-2,図-4,写真-6:一般社団法人日本建設機械施工協会「橋梁
架設工事の積算平成27年度版」より転載
 
 
 
【出典】


土木施工単価2016冬号

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

最終更新日:2016-09-27

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品