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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 環境と共生する技術 > 国土交通省気候変動適応計画について

はじめに

地球温暖化に伴い,世界各地において短時間強雨や大雨の発生頻度の増加,海面水位の上昇,台風の激化,干ばつ・熱波の増加などが懸念されており,これらに対処する適応策の検討が喫緊の課題となっている。わが国では既に,短時間強雨や大雨日数の増加,無降水日数の増加などが観測されており,近年,毎年のように全国各地で水害・土砂災害が発生し甚大な被害が発生しているほか,一級河川で取水制限が実施される事態も発生している。また都市部では全国的な平均気温の上昇に都市化の影響が加わって気温の上昇が大きくなり,熱中症患者数の増加など,人の健康や生活への影響が顕著になっている。さらに将来の気候変動によって,これらの傾向に拍車がかかることが懸念されている。
 
こうした状況を踏まえ,わが国においても,平成27年に政府全体の適応計画が初めて策定されることとなったが,国土交通省は,国土の保全,まちづくり,交通政策,住宅・建築物,気象など多様な分野を所管し,安心・安全な国土・地域づくりを担うなど,適応策に果たす役割が大きいことから,省として関連施策を取りまとめた適応計画を策定し,政府全体の適応計画に反映するとの方針を平成26年3月に策定された国土交通省環境行動計画において定めた。
 
水災害分野の適応策については,「社会資本整備審議会河川分科会気候変動に適応した治水対策検討小委員会」から平成27年8月に答申がなされた。また沿岸部の適応策については,「沿岸部(港湾,海岸)における気候変動の影響および適応の方向性検討委員会」による検討成果が平成27年6月および7月に公表された。これらに加え,交通インフラ,ヒートアイランドなど多方面にわたる適応策を省内で検討し,社会資本整備審議会環境部会・交通政策審議会交通体系分科会環境部会合同会議における議論も踏まえ,最終的に国土交通大臣を本部長とする国土交通省環境政策本部において,平成27年11月に国土交通省気候変動適応計画を策定した。
 

図-1 国土交通省気候変動適応計画の検討の流れ




 
 

1. 基本的考え方

1-1 気候変動による国土交通分野への影響

中央環境審議会は,政府全体の適応計画の策定に向け,気候変動が日本に与える影響の評価等について,平成27年3月に「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(意見具申)」として示している。
 
意見具申によれば,気候変動に伴って,国土交通分野でも様々な影響が発生するとされている。具体的には,自然災害分野では,短時間強雨や大雨の発生頻度が高まることによって,水害の頻発や極めて大規模な水害の発生,土砂災害の発生頻度の増加等が懸念され,また強い台風に伴う高潮や中長期的な海面水位上昇に伴って港湾や海岸への深刻な影響が懸念されるなど重大性が特に大きいとされている。また,水資源・水環境分野では,無降水日の増加等によるさらなる渇水被害の発生や,水温の上昇や水質の変化等が想定されており,一部の影響は重大性が大きいとされている。さらに,国民生活・都市生活分野では,豪雨の頻度や台風等の激しい気象現象の増加による交通インフラへのリスクの増大や,気候変動による気温上昇と都市化によるヒートアイランド現象が重なることにより都市域で大幅に気温が上昇することが懸念されており,重大性が大きいとされている。このほか,産業・経済活動分野においては,海氷面積の減少に伴う北極海航路の利活用の可能性に関心が高まっているほか,風水害による旅行者や物流への影響が想定される。
 

1-2 国土交通省が推進すべき適応策の理念

国土交通省では,現在生じている,あるいは将来生じうる気候変動の影響による被害を最小化する施策を,様々な主体による適切な役割分担とできるだけ科学的な知見に基づいて適切な時期に計画的に講じることにより,効果的・効率的に,①国民の生命・財産を守り,②社会・経済活動を支えるインフラやシステムの機能を継続的に確保する,③国民の生活の質の維持を図り,④生じうる状況の変化を適切に活用することを基本的な理念として適応策を推進する。
 
なお,気候変動の進行速度や程度が高まると,適応の有効性の限界を超える可能性が高まることから,従来から実施している緩和策と適応策を車の両輪として地球温暖化対策に取り組む。また,適応と同時に緩和にも資する施策(例えば,ヒートアイランド対策としての緑化や環境対応車の開発・普及促進等)を積極的に推進する。
 

表-1 中央環境審議会意見具申の項目と国土交通省気候変動適応計画の項目との対応




 
 

1-3 適応策の基本的考え方

(1)不確実性を踏まえた順応的なマネジメント
気候変動による将来影響の予測(発現時期や場所,程度)には不確実性を伴うことを念頭に,適応策を推進する際には,気候変動のモニタリングを継続的に行いつつ,気候変動の進行等を踏まえて,必要なタイミングで的確な適応策を選択できるように進める。
 
(2)現在現れている事象への対処
気候変動に伴って発生が予測されている短時間強雨や大雨の発生頻度の増加,猛暑日日数の増加などは,既にわが国でも観測され顕在化した事象である。これらに対しては,既に実施されている防災施策等の施策を,適応策としても位置づけてさらに推進する。
 
(3)将来の影響の考慮
現在現れている事象が気候変動に伴ってさらに悪化し,大規模な災害など社会に大きな影響を与えうる事象が発生する可能性もあることから,低頻度であるが大規模な影響をもたらしうるものを含め,様々な事象を想定して対応を検討する。
 
(4)ハード,ソフト両面からの総合的な対策
気候変動のリスクや地域の特性等も踏まえて,ハード対策(施設整備等)とソフト対策(住民への情報提供等)を適切に組み合わせ総合的な対策を講じる。また,気候変動の影響への脆弱性(注記1)や曝露(注記2)を低減する観点から,気候変動の影響による災害リスクも踏まえたまちづくり・地域づくりや土地利用を推進することの重要性に留意する。
 
(5)各種事業計画における気候変動への配慮
各種事業計画等へ気候変動による影響への適応の考え方を組み込むことに留意する。また,インフラやシステム等の整備,維持管理,更新等を着実に進める中で,必要に応じて将来の気候変動の影響も考慮した施設の設計等も検討する。
 
(6)自然との共生および環境との調和
適応策の立案や実施においても,同様に自然環境の保全・再生・創出に配慮する。また,目的や地域特性に応じて,自然環境が有する多様な機能(グリーンインフラ)も活用する。
 
(7)地域特性の考慮,各層の取組み推進(地方公共団体,事業者,住民等)
気候変動の影響への脆弱性および曝露は地域によって様々であり,適応策の推進にあたっては,地域がその特性に応じて柔軟な適応策を講じることができるよう配慮する。防災や環境等身近な問題を事例として,気候変動の影響や適応策に関する住民等への周知等を含め,国としても可能な支援を行う。
 


 
【注記】
1) IPCC第5次評価報告書によれば,脆弱性とは,「悪影響を受ける性向あるいは素因。脆弱性は危害への感受性又は影響の受けやすさ,対処し適応する能力の欠如といった様々な要素を包摂している」とされている。
 
2) IPCC第5次評価報告書によれば,曝露とは,「悪影響を受ける可能性がある場所および環境の中に,人々,生活,生物種,又は生態系,環境機能,サービスおよび資源,インフラ,もしくは経済的,社会的,文化的資産が存在すること」とされている。
 

1-4 適応策の実施・見直し

継続的なモニタリング等により得られた知見に基づき,気候変動の進行等も踏まえて適応策を定期的に検討し,必要に応じて柔軟に見直しつつ進めていく必要がある。その際には,過去の適応策の実施により得られた経験等を活用するとともに,最新の気候変動予測・リスク評価,調査研究・技術開発等の知見をできうる限り活用するものとする。
 
なお,平成27年9月に策定された第4次社会資本整備重点計画において,社会資本整備に際しては,限られた財政資源で社会資本の蓄積・高度化の効果を最大限に発揮するための「機能性・生産性を高める戦略的インフラマネジメント」を構築する必要があるとされている。適応策の実施に際しても,集約・再編を含めた既存施設の戦略的メンテナンス,既存施設の有効活用,社会資本の目的・役割に応じた選択と集中の徹底等の取組みを行う。
 
 

2. 適応に関する施策

自然災害,水資源・水環境,国民生活・都市生活,産業・経済活動の各分野における気候変動の影響,およびそれらへの適応に関する施策の概要は以下のとおり。具体的な内容については国土交通省適応計画の本文(注記3)を参照されたい。
 


 
【注記】
3) 国土交通省気候変動適応計画の本文および参考資料は以下の
ウェブサイトに掲載
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000130.html
 

2-1 自然災害分野

(1)水害
● 影響
 短時間強雨や大雨の発生頻度の増加,大雨による降水量の増大による水害の頻発
 
● 適応策
 ・比較的発生頻度の高い外力に対し,施設により災害の発生を防止
 ・施設の能力を上回る外力に対し,施策を総動員して,できる限り被害を軽減
 ・災害リスクの評価・災害リスク情報の共有
 
 1)比較的発生頻度の高い外力に対する防災対策
 ・施設の着実な整備
 ・既存施設の機能向上
 ・できるだけ手戻りのない施設の設計など
 
 2)施設の能力を上回る外力に対する減災対策
 ・施設の運用,構造,整備手順等の工夫
 ・まちづくり・地域づくりとの連携
 ・避難,応急活動,事業継続等のための備え
 
(2)土砂災害
● 影響
 短時間強雨や大雨の増加による土砂災害の発生頻度増加,リードタイムが短い土砂災害の増加 など
 
● 適応策
 ・土砂災害の発生頻度の増加への対策,深層崩壊等への対策
 ・警戒避難のリードタイムが短い土砂災害への対策
 ・災害リスクを考慮した土地利用,住まい方など
 
(3)高潮・高波等
● 影響
 強い台風の増加,中長期的な海面水位の上昇による高潮浸水被害の拡大,臨海部産業や物流機能の低下,
 背後地被害や海岸浸食増加への深刻な影響
 
● 適応策
 1)港湾
 ・港湾における海象のモニタリングとその定期的な評価
 ・防護水準等を超えた超過外力への対策など
 
 2)海岸
 ・災害リスクの評価と災害リスクに応じた対策
 ・進行する海岸浸食への対応の強化 など
 

2-2 水資源・水環境分野

(1)水資源
● 影響
 無降水日数の増加等による渇水の頻発
 
● 適応策
 ・既存施設の徹底活用等
 ・雨水・再生水の利用
 ・危機的な渇水の被害を最小とするための対策 など
 
(2)水環境
● 影響
 水温の変化,水質の変化,流域からの栄養塩類流出特性の変化
 
● 適応策
 モニタリングや将来予測に関する調査研究,水質保全対策
 

2-3 国民生活・都市生活分野

(1)交通インフラ
● 影響
 豪雨や台風による地下駅等への浸水や法面崩落,降雪を含む輸送障害 など
 
● 適応策
 ・物流BCP,災害時支援物資の保管協定
 ・地下駅等の浸水対策,鉄道関連の落石・雪崩等対策
 ・港湾の事業継続計画(港湾BCP)の策定
 ・空港ハザードマップ,空港除雪体制の再検討
 ・安全性,信頼性の高い道路網の整備,無電柱化等の推進,道の駅における防災機能の強化 など
 
(2)ヒートアイランド
● 影響
 気温上昇にヒートアイランドが加わり都市部で高温,人の健康や生活へ影響
 
● 適応策
 ・地表面被覆の改善(民有地や公共空間等における緑化の推進,都市公園整備,下水処理水の活用 など)
 ・人工排熱の低減(住宅・建築物の省エネルギー化,低公害車の普及拡大,下水熱の利用促進 など)
 

2-4 産業・経済活動分野

● 影響
 北極海の海氷面積の減少,風水害の増加による観光への影響
 
● 適応策
 ・北極海航路の利活用
 ・外国人旅行者への情報発信,風評被害対策など
 

2-5 基盤的な取組み

(1)普及啓発・情報提供
● 防災,気候変動に関する知識の普及啓発
● 地理空間情報の提供 など
 
(2)観測・調査研究・技術開発等
● 気象や海面水位,国土の観測・監視
● 気候変動の予測,雪氷環境変動傾向の解明
● 増大する外力が洪水・内水対策に及ぼす影響に関する研究 など
 
(3)国際貢献
● 防災分野におけるわが国の技術・知見の海外への提供
● 国際的な観測監視,研究への参画 など
 
 

おわりに

本計画に基づいて,国土交通省は,全国に展開している地方支分部局における現場業務から,本省におけるハード・ソフト両面での制度等企画・立案業務,さらには気候変動の観測・研究にかかわりの深い気象庁や国土地理院から,国土技術総合研究所等の研究機関まで幅広く所掌する総合力を発揮するとともに,関係省庁,地方公共団体との積極的な連携・共同や,国民,NPO,企業の幅広い参画・協力のもと,適応策の展開に総力を挙げて取り組んでいくこととする。
 
 

国土交通省総合政策局環境政策課 交通環境・エネルギー対策企画官 横井 貴子

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2016年08月号



 

最終更新日:2023-07-11

 

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