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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 海外鋼材調査シリーズ 第6回 世界的な鉄鋼の過剰生産とアジア市場への影響─ シンガポールにおける日本製鋼材の流通 ─

Ⅰ.はじめに

当会では,鋼材の内外情勢の調査として2009年以降,中国を中心に現地取材を重ね,アジアの鋼材市場や鋼材の流通状況についてレポートしてきた。そこでは経済成長に対する世界各国の施策が反映され,各国が未来への成長戦略を描くためにしのぎを削る場面を垣間見ることができた。
 
前回,シンガポールを訪問した2013年7月は第二次安倍内閣がアベノミクスによる経済政策のもと,日経平均株価がリーマン・ショック前の水準を回復した時期であった。この年,日本の粗鋼生産は5年ぶりに1億1千万tを達成したが,中国も生産能力の大幅増強を背景に生産量を8億2千万tまで積み上げて世界の鉄鋼品のおよそ半分が中国製となった。その後も中国の鉄鋼生産が高水準で推移したため,中国国内の需要の落ち込みで消費しきれなくなった鋼材が出口を求めて海外にあふれ出した結果,日本の年間粗鋼生産に相当する約1億tもの鉄鋼が昨年輸出され,世界的な鋼材市況の下落を招いている。
 
この数年間で鉄鋼を取り巻く状況は急速に悪化し,世界の鉄鋼メーカーが苦境に立たされる中,シンガポールは自国市場への参入に際して,現地法人の設立義務や外資参入に対する法的規制がないことから,旧来より開かれた市場として世界中から注目を集める存在となっている。世界銀行発表の「Doing Business 2016」においても「世界で最も現地での仕事がしやすく,参入が容易な国」として第一位の地位を保持し続けている国家である。
 
今回,世界的に鉄鋼の需給緩和が進行している中でシンガポールを再訪するに当たり,調査テーマを
①中国製鋼材の輸出増加の影響
②日本製鋼材の流通状況
として,東南アジアの拠点として活躍するわが国の建設業者,商社,メーカーに取材する機会に恵まれた。現在も国を挙げた複数の大規模プロジェクトが進行し建設市場が活況を呈する中,ASEAN経済共同体が発足して間もない今年1月中旬に現地調査を行った。本稿ではその後の鉄鋼に関するトピックも加えてまとめている。
 

写真- 1  高層ビルが立ち並ぶシンガポール島南東部 観光エリアとオフィス街が連なる繁華街




 
 

Ⅱ.世界的な鉄鋼の過剰生産

世界の粗鋼生産は2014年に過去最高の16億7千万tを記録したが,2015年は景気の減速から2.9%減の16億2千万tにとどまった。過去にさかのぼると2007年まで世界の各地域で鉄鋼生産の拡大が続いた後,リーマン・ショックを契機に世界の生産動向は二極化した。日本,EU加盟国,北米の先進諸国では縮小に転じた後は以前の水準まで回復することはなかったが,中国,韓国,その他のアジア各国では再び生産量のピークを更新している(図表- 1)。
 



 
 
日本の粗鋼生産は,国内需要の低迷に加えて輸出が振るわなかったことが要因で,2015年度は1億420万tと前年を5.1%下回った。これはリーマン・ショック後の2009年度に次ぐ低水準で,2年連続で1億1千万tを割り込んだ。輸出も過去最高を記録した2012年度を頂点に減少が続き,2015年度は4,145万tで前年度比2%減と3年連続の減少となった。
 
全鉄鋼ベースでの仕向け先では,これまで輸出先比率で上位を占めていた韓国(7.0%減の665万t,比率16.0%),中国(5.5%減の540万t,比率13.0%),タイ(4.9%減の524万t,比率12.6%),台湾(26.0%減の262万t,比率6.3%),米国(8.5%減の231万t,比率5.6%)は中国の過剰生産の影響で軒並み輸出量を減らしている。一方で,ベトナム(22.9%増の286万t,比率6.9%),インド(22.1%増の231万t,比率5.6%)は,おう盛なインフラ整備需要を背景に,将来にわたってわが国の仕向け先として市場の拡大が期待されている。
 
経済成長の鈍化で自国の鉄鋼需要に勢いを欠く中国は,2014年まで右肩上がりの生産量増加が続いたが,内需で消化できない大量の鋼材がアジア諸国を中心に輸出された結果,国際的な需給の緩和をもたらし,海外市況の急速な下落を招いた。現在も東南アジアを中心に中国製鋼材が安値で市場を席巻しているため,輸出先の鉄鋼産業は疲弊し,雇用問題を抱えた通商摩擦を引き起こしている。こうした中でも,中国政府は新シルクロード「一帯一路」構想で中央アジアをはじめとした発展途上国のインフラ整備に協力するかたちで今後も輸出比率の引き上げを図る意向を示しており,政府方針に沿った鉄鋼業の海外戦略を進めている。
 
 

Ⅲ.アジア鋼材市場への影響

1)シンガポールについて

シンガポールはシンガポール島を中心に60あまりの島々から成る国土面積約700km2の島嶼(とうしょ)国家で,ASEAN唯一の先進国である。東南アジアの貿易,交通および金融の中心地で,世界有数の外国為替市場,金融センターおよび港湾取扱貨物高を有する。総人口約550万人のうち外国からの移住者が約40%を占める複数民族国家であり,1人当たりの名目GDPは日本を大きく上回っている(図表- 2)。
 



 
 
シンガポール国内の鋼材メーカーは異形棒鋼を製造する電炉1社のみで,その他の品種は諸外国からの輸入に依存している。諸外国と同様に定尺での販売が原則で,日本のような細かなサイズオーダーには応じないのが一般的である。輸入関税が課されない自由貿易である反面,納期短縮のため鋼材問屋は多くの在庫を抱えなければならないという弊害も生じているようだ。
 
 

2)シンガポールで進む大型プロジェクト工事

シンガポール建築・建設庁(BCA)発表による2015年のシンガポールにおける建設需要は官民需合計で270億シンガポールドル(約2兆2,900億円,速報値)となったが,2016年以降も毎年260億シンガポールドル(2兆2,000億~2兆2,900億円)以上の建設需要が見込まれている(図表-3)。
 



 
 
現在,シンガポールでは数多くの大規模プロジェクトが進行中である(図表- 4)。
 



 
 
陸上交通庁(LTA)発注のMRT(大量高速鉄道)は2030年までに鉄道の総延長を約360kmに倍増し,総世帯数のおよそ8割が鉄道駅から10分以内に居住するという目標を立てている(図表- 5)。
 



 
 
海事港湾庁(MPA)ではシンガポ-ル島南東部のマリーナ地区からセントーサ島までの湾岸部にあるコンテナヤードを,今後15〜20年かけて南西部のジュロン地区に移設する方針で,移設後の跡地を観光に特化して再開発する計画を進めている。
 

写真- 2  手前のマリーナベイ地区から湾岸部を臨む 遠景にはコンテナ船が多数停泊している




 
 
アジア有数のハブ空港であるチャンギ空港はターミナル4が2017年に開港予定だが,ターミナル1~4の総面積と同じ広さになるターミナル5の建設工事がすでに着工されており,現在は地盤改良工事が進められている。
 
この他,マレーシアとの共同開発プロジェクトである「イスカンダル開発計画」では,隣接するマレーシアの南部ジョホール州に,工業団地や教育施設,病院,テーマパーク,商業施設,住宅などからなる大型の複合開発区をシンガポール国土の3倍以上の面積に相当する地域で建設中であり,併せてクアラルンプールとの鉄道新線も2026年の開業が計画されている。
 

写真- 3  中心部にある高層ビルの建築現場 複数のビル工事が行われていた




 
 
このように,島の内陸部はMRT,東端は空の玄関口,南部にかけては観光産業,西端は海の玄関口,さらには隣国との共同プロジェクトまで,シンガポールは将来を見据えた開発事業を積極的に行い,世界中から注目を集めている。
 

写真- 4  南部の港湾施設。コンテナヤードに隣接して 現在も埋立工事が続いている




 
 

3)シンガポールの鋼材流通状況

他のASEAN 諸国が独自規格を設けて流通サイズを事実上制限することで自国の鉄鋼産業を保護しているのに対し,シンガポールは独自の鋼材規格を設けず,世界で流通している鋼材の中から自国に適した規格を鋼種ごとに選定している。
 
シンガポールの基本となる鋼材規格はヨーロッパ規格(Eurocodes)であるが,建設向けにはH形鋼は EN / BS 規格,鋼矢板,みぞ形鋼,山形鋼は日本工業規格(JIS 規格)といったように,異なる鋼材規格も使用可能である。これは,どの鋼種の場合にどの鋼材規格を具体的に選択できるか,設計強度としてどのような値が採用できるかを,シンガポールの独自の設計基準(BC1: 2012Design Guide on Use of Alternative StructuralSteel to BS 5950 and Eurocode 3)で細かく定めているためである。
 
一例を挙げると,JISで規定のある「SS400」は,日本では一般構造用の鋼材としてもっとも使用頻度が高いが,シンガポールでは炭素含有量の規定がないため建設向けには使用できない。これは日本の製品が適合しないということではなく,「SS400」規格の鋼材が大量にシンガポールに流入した場合,炭素含有量の定めがないために溶接性(ウェルダビリティ)に関する品質管理の面で大きな不安が残るという理由からである。アジアの中でヨーロッパ規格を基本としている香港やマレーシアも同様の事情により,BC1 と同等の基準採用に向けた準備が進んでいるようだ。
 
シンガポール国内の鋼材全体の実需要は2015年が約400万t弱で,主な内訳は建築向けが約40%,土木向けが約25%,エネルギー(オイル,ガス)向けが約20%である。以下,シンガポールの通関統計をもとに流通の状況を探っていく。
 
 
○形鋼,鋼矢板
形鋼の国内需要は年間で40〜50万t程度とみられる。建築用途が多く,最近では日本同様に工期短縮を図ることなどを目的にRC造からS造への転換が増えているようだ。
 
通関統計によると,H形鋼は2015年で約20万tが輸入されている(図表- 6)。
 



 
 
内訳は,日本,タイ,韓国,中国の4カ国で全体の90%を占め,近年はタイからの輸入が多かったものの,2015年は日本が大幅にその量を増やしシェア1位の約30%となっている。通関量は年ごとの工事量に左右されるため一概には多寡は問えないものの,日本製が増えた要因はエネルギー関連向けとともに建設向けの鋼材受注が増えたためである。具体的には,LTA発注のMRT建設工事(地下鉄工事)で大型サイズのH形鋼の使用が集中したことによるものと推察される。
 
このようなプロジェクト工事で使用される大型サイズは,品質面の要求事項から安価な汎用品との競合には巻き込まれず,一般的に価格競争力に劣るといわれる日本製でも依然として有利な立場であることが分かる。
 
一方,価格に関しては2012年以降にすべての国で下落していた。2012年から2015年までの平均の下落率は,全体が−22.5%,日本製は−20.0%,中国製は−30.3%となり,特にこの1年の下落幅が大きく,とりわけ世界で供給過剰が問題視されるようになった時期と整合する。一方,鋼矢板は中国製の輸入比率が2012年以降の4年間で3倍以上に伸び,国内流通の約半分を占めるに至っている(図表- 7)。
 



 
 
2012年時点でシェア1位の韓国は2015年には25%以上もシェアを落としている。価格面をみると,おおむね2011年以降に下落に転じており,全体,日本ともに2015年の価格は同水準となっている。品質面の良さを基に優位に立つという日本製鋼材の特徴を活かした販売手法が鋼矢板では成り立ちにくいことがうかがわれる。
 
 
○異形棒鋼
異形棒鋼のシンガポール国内需要は前回調査時から大幅に増加し約220万tとみられる。そのうち現地電炉メーカーのナットスチールは約40万tを生産し供給している。残りの180万tは輸入材で,中国からの輸入が約99%,日本からの輸入はわずか1t未満である(図表- 8)。
 



 
 
2010年頃までは輸入材のうち中国製は約60%であったが,この数年間でほぼ全量を中国製が占めるまでに至っており,こうした状況下で異形棒鋼価格は2011年比のほぼ半値にまで落ち込んでいる。輸入関税がかからないことから,シンガポールは世界で最も鉄筋が安い地域との声もある。昨今の安価な市況を考えると高コスト構造のシンガポールにおいて輸入材との激しい競合で,現地メーカーは事業として成立するのか疑問視する向きがあるのも理解できる話だ。中国製の異形棒鋼は価格面の有利さもさることながら,品質に関しても高炉生産のため問題がなく,電炉生産の日本製との比較でも同等以上の評価を受けているというこれまで耳にすることのなかった話を今回聞くことができた。
 

写真- 5  シンガポール唯一の電炉工場 異形棒鋼を生産している




 
 
従来,中国製の異形棒鋼に対する品質面の評価は意見が分かれることが多く,日本製は価格面で太刀打ちできないが品質面の優位性はあるといわれてきた。日本製が品質面でのアドバンテージを失っているとすれば,価格面で優位に立つことのできない日本製鋼材がますます不利な立場とならざるを得ない。中国製鋼材をはじめ東南アジアでも現地生産が増加している中,品質面での差がなくなりつつある現実を再認識させられた。
 
 
○重仮設材
MRTなどの大型プロジェクト工事が現在活況を呈しているのは前述したが,シンガポールで重仮設工事の請負を中心に事業展開し,重仮設材に付随する鋼材の販売や他の重仮設工事業者に対するリースなども行っている日系企業に取材することができた。この企業は現地の大型プロジェクト案件にも参加しているシンガポールの大手重仮設企業4社のうちの一つである。
 
シンガポールでの仮設工事発注は詳細数量などがあらかじめ規定されない一式契約となることが多く,地下鉄工事でも簡単な仮設計画はあるが詳細部分への指定はない。同社では管理上,リース鋼材,労務などの内訳を作るが,たいていの場合これらを外部に示す機会はなく,長期の地下鉄駅舎建設工事などで各施工段階の内訳を便宜上作成することで支払いのタイミングを事前に決めておく程度である。工期が延びても基本的に金額の増減が生じることは少ない。
 
現在,民間住宅案件が冷え込んでおり,それを補うかたちで地下鉄工事などの公共事業が活発化し,治水関連工事や日本と同様に少子高齢化による病院建築工事が増えている。公団住宅の建築もあるがシンガポールでは地下構造が少ないことから,重仮設材を使用するような土留め工事は限られるようだ。
 
重仮設の材料調達では将来の使用状況を想定しながらどこの材料を手配するか決めているとのこと。転用を考えない埋め殺しのようなケースでは安価な材料が好まれ,繰り返して使用することが多い鋼矢板では耐久性が高いという理由で日本製を選ぶ場合が多い。大手4社は鋼材にシリアルナンバーを刻印することで,どのメーカーが製造して,どのミルシートに当たる製品で,どの現場で使用されてきたのかが分かるトレーサビリティを構築し,鋼矢板なら肉厚が確保されているのかというユーザビリティも管理されている。
 
重仮設材の細かな品質管理体制と用途別での調達先の使い分けはとても興味深い話である。再利用鋼材に対する品質管理はますます厳しくなることが予想されるため,重仮設材での日本製鋼材の地位が今後高まることも考えられる。
 
 

Ⅳ. シンガポールにおける日本製鋼材の流通例~地下鉄駅舎建設工事~

経済的かつ良質なインフラ整備を行うため,シンガポール政府は外資参入に対する法的規制を課さないことで海外から優良な企業を誘致している。海外企業はこぞってシンガポール市場への参入機会をうかがい,自由競争のもと熾し烈れつな受注競争が日々行われている。本項では現地調査で確認した日本製鋼材の流通実態をレポートする。
 
今回,日本製鋼材が使用された工事はLTAが発注した地下鉄Thomson-East Coast Lineの駅舎建設工事である。工事は仮設土留め材として日本製のハット形鋼矢板とH形鋼を溶接で一体化させた鋼材「ハット+ H」が2千t 採用されている。シンガポールでは従来,土留め材の在来工法としてU形鋼矢板とH形鋼を無溶接で組み合わせる構造のソルジャーパイル工法(以下,「従来工法」)が採用されることが多かったが,施工性と経済性において下記の内容で従来工法に勝ることを示したため,ハット+H の採用に繋がった。
 
 
○施工性
● 2種鋼材を溶接した合成構造のため,2種鋼材が独立した構造の従来工法より打設回数の低減が可能
● ハット形の幅900mmは従来工法のU形より幅広のため打設回数(枚数)の低減が可能
● ハット+Hの先端形状は打設時や引抜時に先端閉塞を起こしにくく施工性の向上が期待できる
 

写真- 6 建設現場でのハット+ H の溶接加工




 
 
○経済性
● ハット形の背面にH形鋼を溶接し剛性を高めたため鋼材重量の低減が可能(工事費の縮減)当該工事でハット+H が採用されるまでには,シンガポールにおいて事前に打設試験を実施し,工事費縮減や工期短縮に対する効果を確認した上で設計などを含めたソリューションを発注者に提案するなど,実際に鋼材を供給するのみならず上流側にも積極的な営業活動を行ったことで大きな苦労もみられたようだ。
 

写真- 7 打設後のハット+ H




 
 
海外市場における鋼材価格のこの数年の下落については前述したとおりだが,シンガポール国内での鋼矢板市場規模が10万tを下回り大規模な市場があるとは言い難いことに加え,日本からの輸送距離も他の競合国に較べると不利な状況下で一定のシェアを確保していることは,日本製鋼矢板が高い認知度をもって迎えられていることの証左といえよう。
 
 

Ⅴ. シンガポールにおける日本企業の進出と資材調達

今回の現地調査では古くからシンガポールでシールドマシン納入を手掛ける日本企業にも取材を行った。
 
現在,シンガポールの中心部を通る地下鉄工事(MRT)は全てシールド工法によるもので,国内のシールド工事は下水道も含めて増加傾向にある。シンガポールでシールドマシン納入に参加している主要メーカーは日本やドイツの企業が中心となっており,今回訪問した企業も日本国内でシールドマシンの製作を行っているメーカーで,海外でも東南アジアに複数の拠点を持つ。
 
中でもシンガポールでは政府による計画的な事業発注への信頼性が高いことから1980年代前半に積極的な事業展開を行い,最近では約6~7mの中口径の地下鉄工事に実績が集中している。シンガポールでの受注範囲は日本国内と異なり,シールドマシン製作のみ行うというケースは見られず,マシンに付随する設備も一連で納入することが一般的である。
 
多くの海外メーカーがシールドマシンの心臓部のみを自国で製造し,その他の部分を中国の提携工場で行うことで製造コストの低減を図るケースが増えている。しかし,この企業ではシールドマシンの技術精度を確保するためマシン全体の製作を日本国内で行うことが多く,付随する設備に供する部品や労務を中国やシンガポール,隣国マレーシアなどから調達することで価格競争力の維持に努めていることがうかがわれた。
 
一方,小口径が多い下水道工事では中国製が安価なため入札でも強く,大口径も以前と較べると日本企業の受注が減少し,中国企業の進出が目立つようになっている。技術力で勝る日本企業が金銭面で負けてしまうことや,中国や韓国の企業がトップセールスを行うことで受注獲得への企業判断を早めている一方で,日本企業は社内での確認に時間がかかり,結果的に商機を逃してしまうこともあるようだ。また,セグメントに関してはシンガポール国内での製作は行われておらず,マレーシアからの輸入に頼っているとのことである。
 
 

Ⅵ. さいごに

海外市場への日本製鋼材の供給には,ODA関連による港湾および橋梁などの大型プロジェクトが多大な貢献をしてきたことはいうまでもない。今回の調査では,シンガポールでは「どこの国の製品だから」といった先入観による優劣はなく,常に安くてサービスの良いものが好まれるという話をいたるところで耳にした。入札に参加して,いったんは受注機会を得ることができた欧米の企業も,まず価格競争ありきのため見返りが少ないと考えるのだろうか,シンガポールに根付いて事業を継続するところは決して多くはないようだ。前回調査で日本製鋼材は高い技術力に裏打ちされた提案力をもって他国企業との価格競争を克服していくという話をうかがったが,それ以降も鉄鋼製品全般の世界的な市況の下落はますます進み,日本製鋼材も否応なしに価格競争に巻き込まれる結果となっている。日本国内の鉄鋼需要が将来的に増加する余地は少ないとみられる中,今後は海外への市場開拓がさらに求められることになる。
 
今回の現地調査では,日本製鋼材が外国製品との価格競争に耐えつつも個別の鉄鋼製品に普遍的な競争力を付加していく必要があるとの話がとても印象的であった。
 
中国では政府主導による生産設備の削減を継続するとしているが,少なくとも今後数年間は世界の鉄鋼は過剰生産が続く見通しにあり,世界各国が自国の鉄鋼産業を保護するため他国の鉄鋼に対する輸入関税を引き上げる動きを強めている。もはや国内の流通動向だけでは日本の鉄鋼市況を語ることができない情勢にあり,アジア市場における鉄鋼の流通動向は日本国内の鉄鋼市況にそのまま直結すると言っても過言ではない。世界の中の日本,アジアの中の日本という視点から,各国の市場動向を幅広く注視していく。それが日本の鉄鋼市場を的確に把握していくための道筋になると考える。
 
最後に誌面を借りまして,この度の取材にご協力をいただきました皆様へ厚くお礼を申し上げます。
 


 
これまでの海外鋼材調査に係る寄稿文は“けんせつPlaza”(http://www.kensetsu-plaza.com/kiji/post/9104)にも掲載しております。あわせてご覧ください。
 
 
 

一般財団法人 経済調査会            
土木第二部 鋼材・石油製品調査室長 
折橋  秀幸

 

 
【出典】


積算資料2016年09月号



 

 

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