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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 軟弱地盤・液状化対策 > 千葉市における市街地液状化対策事業の取り組み

1. はじめに

平成28年4月14日,16日に発生した熊本地震で被災された方々へ心からお見舞いを申し上げます。また,今回の熊本地震におきましても液状化が発生したと聞き,本市における液状化対策事業の早期完成と,その事業の重要性を改めて痛感したところです。
 
 

2. 東日本大震災とその対応

平成23 年3 月11 日14 時46 分に三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)が発生し,千葉市でも大きな揺れ(最大震度5強)が観測され,特に美浜区では地盤の液状化によって,土砂の噴出,舗装の隆起陥没,ライフライン損壊,家屋の傾斜等の甚大な被害を受けた。(写真- 1,表- 1)
 

写真-1 美浜区の噴砂の状況

表-1 千葉市被災状況




 
 
震災後速やかに道路や下水道などの復旧工事に着手していたが,民間宅地の復旧等については,宅地所有者の責任と判断で適切に対応することが原則であり,それに市としてどのような形で関わることが望ましいか苦慮していた。そのような状況の中,公共用地の液状化対策を実施するにあたっては,周辺宅地を含めた対策を考慮しつつ,一体的に実施することが効率的・効果的であるとの考えから,国において「都市防災推進事業(市街地液状化対策事業)」が制度化された。これを受け,本市においても道路・下水道等の公共施設と隣接宅地等との一体的な液状化対策に取り組んでいくこととした。
 
なお,本稿においては調査検討過程について説明し,主に本市で採用した地下水位低下工法について紹介する。
 
 

3. 地質調査

まず,液状化対策事業を実施するにあたり,液状化の発生は地層・地質と密接な関係があるので,地質調査に取り掛かった。平成24年度に事業区域(約143ha)を対象に,ボーリング調査(計64本),それを補完する形でコーン貫入試験(計88本)を実施した。美浜区は昭和33年~50年代初頭に海を浚渫により埋め立てた土地であるが,ボーリングにより地表面近くは砂質土と粘性土が混じり非常に複雑な地層を形成していることが改めて確認できた。(図- 1)
 

図-1 地層図[磯辺地区]…埋立層は8〜9m程度




 
 
 

4. 公共施設と宅地の一体的な対策工法の検討

地質調査を基にして,美浜区における対策工法の検討をした。液状化対策工法の内,既存家屋を存置させた状態で対策可能な工法は研究段階のものがほとんどであったが,費用負担や技術開発状況から,「地下水位低下工法」と「格子状地中壁工法」の2種類を選定し検討を進めた。(表- 2)
 

表-2 地下水位低下工法と格子状地中壁工法の比較表




 
 

5. 地下水位低下工法の適用

表- 2のとおり,地下水位低下工法は液状化の要因の1つである地下水を一定深度まで低下させることによって,非液状化層(地下水が無い層)厚を増大させ,液状化を抑制する工法である。このことから,液状化層(地下水位)が比較的浅い地盤にあること,液状化対象層の透水係数が高い地盤であることなどの地盤条件の制約がある。そして,地下水位を低下させる際に,周辺に影響を及ぼさないよう地区の外周を遮水壁で囲って,地区外からの地下水流入を防ぐとともに,下からの流入を防ぐ必要がある。このため,遮水層となる水を通しにくい粘性土層が必要となる。(図- 2)
 

図-2 磯辺4丁目地区の地層(地下水位低下工法実施イメージ)




 
 
ただし,粘性土層は地下水を低下させた時に圧密沈下が生じるので,適度な深さに適度な厚さで一様に存在しなくてはならない。美浜区の複雑な地層をした地盤の中で,磯辺4丁目地区は地下水位低下工法の地盤条件を満たし,国が示す市街地液状化対策推進ガイダンスに基づく対策効果の検討をした結果からも,同工法による対策が有効であると考えられた。(図- 3)
 

図-3 市街地液状化対策事業の位置図(千葉市美浜区)




 
 
ただし,密集した市街地で行うには地盤沈下による建物やライフラインの不具合を招くことが懸念されたため,実証実験を行い,地盤の圧密沈下量や地下水位の低下量,その際の排水量などを把握した上で,工法の適否を判断することとした。
 
 

6. 地下水位低下工法の実証実験

平成25年から磯辺4丁目地区内の街区公園を一時的に廃止し,地下水位低下工法の適否を判断するため,実証実験を行った。
 
実験施設は,中央に戸建住宅の建物荷重を掛けた2個の模擬家屋を設置し,その両脇に暗渠排水管(ドレーンパイプ)を布設するとともに,周囲に鋼矢板を打設し,実際の設計と同条件の施設を再現した。そして,地下水位を低下させた時の地下水位や地盤変動を観測するため,地下水位計などの観測機器を設置した。(表- 3,図- 4,写真- 3)
 

表-3 実証実験の観測機器一覧表




 

図-4 実証実験平面図




 

写真-3 実証実験施設設置状況




 
 
実験を開始し,想定どおり地下水が低下していることが確認できたが,千葉市液状化対策推進委員会から季節変動による地下水位を観測する必要性の意見を受けて,6か月間の予定だったが,期間を延長して約1年間実施した。
 
最終的な実験結果において,沈下量は検討の中で計算した値の半分程度であった。生活環境に影響を与える不同沈下は,1/1,000以下となり,また,遮水壁の外側の地下水位には影響を与えていないことも確認され,磯辺4丁目地区での地下水位低下工法による液状化対策は有効であることが確認できた。
 
 

7. 推進工法による暗渠排水管布設

地下水位低下工法は,道路の路面下3.5m程の位置に暗渠排水管をネットワーク状に布設し,末端に地下水を流下させマンホールポンプにより排出する方式である。当初は,開削工法による暗渠排水管布設以外の選択肢はなかったが,地下水位が高く軟弱な地盤かつ家屋が密集した地区で,地表面から5m程の開削をすることに対して,ウェルポイントによる地下水位低下や仮設鋼矢板の引き抜き時の地盤変動による周囲への影響が懸念されていた。その中,民間事業者から推進工法による暗渠排水管(ドレーン管)布設の提案があった。
 
これは前例の無い工事であり,砕石による透水層が設置できないので地下水位が低下するか,暗渠排水管設置後に鋼管さや管を押し出す際に地盤変動による周囲への影響がないかなどの課題があり採用することは躊躇われたが,この課題を解決するため,民間事業者による実証実験が行われた。
 
前述の実証実験と同様に模擬家屋を設置するとともに,実際の施工と同じく暗渠排水管布設を行い,地下水位の観測と施工時の地盤沈下量を測定した。その結果,開削工法と同様の地下水位の低下が確認でき,施工時の地盤変動による周囲への影響も確認されなかったため,推進工法による暗渠排水管布設を採用することとした。(図- 5,6)
 

図-5 開削工法のイメージ図

 

図-6 推進工法のイメージ図




 
 
 

8. 現状と今後

現在,磯辺4丁目地区において,住民の同意を得られたことから,平成28年1月に矢板打設工事に着手した。今年度暗渠排水管布設工事については着手している。また,隣接する磯辺3丁目地区も,平成27年に実施した詳細な地質調査と検討の結果,同工法の有効性が確認でき,住民の同意も得られたので,今年度から矢板打設工事に着手している。
 
なお,この2地区以外は地層の状況から格子状地中壁工法を検討したものの,個人負担が高額となることから,今のところ同意が得られた地区は無いのが現状である。
 
液状化対策事業は,公共施設と宅地を一体的に対策する事業であり,地元住民の主体的な取り組みが不可欠である。工事着手に至った2地区では自治会・防災会などの地元の皆さまの協力が大きな推進力となっており,今年度から本格的な工事が始まるが,今まで以上に地元の皆さまと一致団結して取り組みたいと考えている。
 
最後になりましたが,本事業の検討・推進にあたり,貴重なご助言をいただいた液状化対策推進委員会委員の皆さま,温かいご指導を賜った国土交通省,復興庁の皆さまに,感謝いたしますとともに,今後のご指導ご鞭撻についてもよろしくお願い申し上げます。
 
 
 

千葉市 都市局都市部市街地整備課 液状化対策室

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2016年10月号



 

最終更新日:2023-07-11

 

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