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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 環境と共生する技術 > 堺市における下水再生水を熱源・水源に有効利用した地域活性とスマート化推進の事例〜イオンモール堺鉄砲町〜

はじめに

堺市は,大阪平野のやや南寄りに位置し,北は一級河川大和川を隔てて大阪市と,西は大阪湾に接しています。面積は約15,000ha,人口は約84万人で,市域には住宅地,商業地,工業地が広がり,中部には世界遺産登録を目指している仁徳天皇陵古墳を代表とする百舌鳥古墳群があります。
 
本稿では,本市北西部に位置する三宝下水処理場(図-1)の高度処理水(下水再生水)を,鉄砲町地区にオープンした大型商業施設(イオンモール堺鉄砲町)の給湯・空調用の熱源として多段階利用するとともに,近接するせせらぎ水路の水源としても活用する,国内初の下水再生水複合利用事業について紹介します。
 

図-1 位置図




 
 

1. 事業実施の経緯

本市では,平成10年度に「仁徳陵・内川水環境再生プラン」を策定し,内川水系の水環境改善に向けて様々な取組みを進めており,同プランの長期的な計画の1つとして,下水再生水を活用した水環境の改善を位置付けていました。
 
一方,イオンモール(株)は,内川上流部のせせらぎ水路に近接する鉄砲町地区に,大型商業施設の建設を計画していました。イオンモール(株)は,都市部に潜在する未利用エネルギーを導入したい意向であったことから,堺市や関西電力(株)をはじめとする関係者と検討した結果,下水再生水を熱源として利用することが最も有効であると判断しました。
 
これらのことから,下水再生水をせせらぎ水路の水源として利用した後,内川に放流するとともに,大型商業施設の給湯・空調の熱源として多段階利用する,本事業の実施に至りました。
 
 

2. 三宝下水処理場の下水再生水の概要

2-1 三宝下水処理場の概要

三宝下水処理場は,昭和38年に供用開始した本市で最も古い処理場ですが,阪神高速道路大和川線の建設に伴い,水処理機能の移転が必要になったことから,これを契機として,全量高度処理化を行い,平成26年度2月より供用開始を行っています。
 
現在の処理方式は,担体投入型ステップ流入式3段硝化脱窒法および急速ろ過法(凝集剤添加)を採用しています(図- 2)。
 

図-2 担体投入型ステップ流入式3段硝化脱窒法および急速ろ過 法(凝集剤添加)




 
前者の担体投入型ステップ流入式3段硝化脱窒法は,硝化細菌を高分子ポリマーに吸着させた担体を用いて,無酸素槽と好気槽(担体投入)を1つのブロックとした3段の直列構成で窒素を取り除いた後,凝集剤(PAC:ポリ塩化アルミニウム)を添加してりんを除去する高度処理方法です。後者の急速ろ過法は,最終沈殿池で取り切れなかった微細な浮遊物質(SS)をポリエステル製のろ材でろ過し,大幅に除去する処理方法であり,処理の更なる高度化を図るものです。なお,処理能力は約12 万m3/日を有しており,同処理法の処理場としては国内最大級となっています。
 
三宝下水処理場では,平成21年度から臨海部の堺浜地区に下水再生水を送水する「堺浜再生水送水事業」も行っており,日本最大規模となるサッカーナショナルトレーニングセンター(J-GREEN堺)や,大型液晶パネル工場を中心とする大規模企業群等の散水用水,トイレ用水および工業用水を送水しています。
 

2-2 下水再生水の水質

三宝下水処理場の下水再生水の水質試験結果(平成27年度実績)を表- 1に示します。
 

表1 下水再生水水質試験結果(平成27年度実績)




 
水質は,一般的な水質評価項目であるBODで平均1.0mg/リットル,最大で2.4mg/リットルと極めて低い値を示すとともに,窒素およびりん含有量は平均値と最大値で大幅な変動がみられないことなどから,水源利用に足る安定的な水質が得られています。
 

2-3 下水熱利用の概要

三宝下水処理場の下水再生水の水温(下水熱)と外気温の経月変化を図- 3に示します。
 

図-3 下水再生水の水温と外気温との差




 
図のとおり,下水再生水は,外気温と比較して温度幅の変動が少なく,冬季には外気温よりも暖かく,夏季は外気温よりも低いといった特徴があります。本事業においては,この温度差を熱交換器やヒートポンプにより,給湯・空調の熱源に利用しています。
 
現在,下水熱は都市内に安定的かつ豊富に存在していることから,都市内で高効率のエネルギーシステムの構築による一次エネルギーの消費量やCO2排出量の削減が期待されており,日本全国で下水熱を利用した熱供給事業が始まっています。
 
 

3. 事業概要

3-1 事業スキーム

本事業の事業スキームを図- 4に示します。
 

図-4 事業スキーム




 
本事業では,堺市上下水道局が下水再生水送水に係る送水施設の設置と送水運転を行い,イオンモール(株)が,関西電力(株)および(株)関電エネルギーソリューションと連携して熱交換システムの設置と運転管理を行っています。利用料は,利用者であるイオンモール(株)および堺市建設局が負担する事業スキームとし,料金設定にあたっては,送水施設等の整備費および維持管理費から設定しています。
 
なお,本事業は平成25年度に国土交通省の「下水熱利用プロジェクト構想構築支援事業」や経済産業省の「再生可能エネルギー熱利用高度複合実証事業」に採択されるなど,各種補助事業の補助・支援をいただいています。
 

3-2 送水ルートおよび送水量

三宝下水処理場からの下水再生水の送水は,自然流下では困難であったため,三宝下水処理場からポンプ圧送しています(図- 5)。
 

図-5 送水ルート図




 
なお,送水管の一部は,本事業構想前から下水再生水の需要拡大に備え,幹線工事時に下水道管内に圧送管を布設していたことから,これを活用しました。
 
ポンプ圧送した下水再生水は大型商業施設で全量を熱交換した後,せせらぎ水路に送水しています。また,大型商業施設に送水した下水再生水の一部は,大型商業施設内のトイレ洗浄水や修景用水に利用するため一部取水しています。なお,送水量は,イオンモール(株)との協議等により,1,500m3/日と設定し,緊急時や維持管理時等を除き,原則24時間連続送水を行っています。
 

3-3 給湯・空調用の多段階利用

三宝下水処理場より大型商業施設に送水した下水再生水は,その全量を給湯と空調の熱源として多段階利用します(図- 6,7)。
 

図-6 下水再生水利用システム図

 

図-7 大型商業施設内の熱源利用システムの外観




 
 
なお,1つの施設内で下水熱を給湯・空調に多段階利用を行っているのは国内初の取組みです。
 
下水再生水は,夏季は給湯用の熱源として利用して水温を下げた後,空調用の熱源として利用します。一方,冬季は昼間に外調器(外気を取り込む際に冷媒や冷温水を使い温度調整を行う空調機)の予熱用熱源として利用した後,給湯用の熱源として利用します。
 
これにより,大型商業施設では年間で3.5%の省エネ効果と7.5 t のCO2削減効果を見込んでいます。なお,本事業は,平成26年度策定の「第2次堺市環境モデル都市行動計画」において,低炭素都市の実現をめざし,5年以内に具体化する取組みの1つとしても位置づけられています。
 

3-4 熱源から水源への多段階利用

熱利用後の下水再生水の一部は,大型商業施設内のトイレ洗浄用水や修景用水として活用し,大部分は近接する「せせらぎ水路」に送水します(図- 8)。
 

図-8 内川緑地内せせらぎ水路




 
この,下水再生水を熱源として利用した後,せせらぎ水路等の水源として複合利用するのも,国内初の取組みです。
 
大型商業施設内で取水した下水再生水は,UF膜にて処理を行った後,トイレ洗浄水および修景用水として利用します。なお,下水再生水を施設内で利用するにあたっては,下水処理水の再利用水質基準等マニュアル1)に従い,誤飲防止等の掲示を施設管理者に依頼しましたが,トイレについては,本市取組みを市民に広報したいとの考えから,本市作成の再生水を利用している旨を示すシールの掲示を依頼し,施設内の全トイレに掲示していただいています(図- 9)。
 

図-9 大型商業施設内のトイレ




 
次に,せせらぎ水路に送水した下水再生水は,せせらぎ水路の水源として利用した後,最下流部からポンプ施設により内川へ送水し,内川の水源として活用します(図- 10)。
 

図-10 整備前後のせせらぎ水路の水の流れ(通常時)




 
これまで,せせらぎ水路の水は雨水を循環させていたことから,晴天が続くと水量が不足する,循環が続くと徐々に水質が悪化する等の課題がありましたが,本事業により,下水再生水を連続的に送水できるようになることから,水量の安定化が期待できます。また,水の流れが循環から通水に切り替わることから,
一定の水質改善も期待できるものと考えています。
 

3-5 「環濠都市・堺」の再生に向けた取組み

本事業では,下水再生水はせせらぎ水路を経由して内川に送水する流れとなっています。かつて,この内川は土居川とともに堺の四方を囲む濠であったことから,環濠と呼ばれています(図-11)。
 

図-11 環濠都市・堺のイメージ




 
本市は,中世に「環濠都市」として栄え,その面影を残す歴史遺産が,今も市内に数多く残っています。このような歴史的街並みの保存・継承の取組みは,自治体だけでなく市民も協働して行われており,環濠の復活に向けた調査や検討が断続的に行われるなど,環濠の復活は堺市のまちづくり構想の1つであることから,本事業においても,内川の流れの創出などにより,環濠都市・堺の再生に貢献していきたいと考えています。
 
 

4. 安定的な事業継続のための取組み

4-1 堺市下水道条例の改正

本事業では,下水道管理者以外の利用者が下水熱利用を行った後,公共用水域に送水するという行為から,公共用水水域への影響が懸念されました。
 
そこで,平成27年度に堺市下水道条例を改正し,放流水熱利用に係る接続設備の許可基準や,許可取り消し基準等について新たに定め,利用者に対して法的責任を担保するとともに,適切な下水熱利用を促すこととしました。なお,本事業は同条例に基づき各種手続きを行っています。
 

4-2 下水熱利用における事業実施体制

大型商業施設への送水については,三宝下水処理場から大型商業施設まで約2kmもの距離を圧送することから,熱変動等や運転管理について,継続的に関係者機関と連携した情報共有を図る必要があると考え,事業開始後も引き続き円滑な事業実施体制の構築を図っています。
 

4-3 運転管理

せせらぎ水路への送水は,維持管理時や大雨による浸水被害が生じる恐れがある際等は,一時停止する必要があります。しかしながら,せせらぎ水路へは大型商業施設を経由して送水していることから,安易に三宝下水処理場からの送水を停止すると,大型商業施設の熱利用への影響等が懸念されます。
 
そこで,通常時の送水ルートとは別に,新たに「近接する下水道幹線へ送水できるルート」,「せせらぎ水路を経由せず内川へ直接送水できるルート」,「せせらぎ水路内で循環させるルート」を設けるとともに,これらの送水ルート変更をバルブ施設で遠隔操作できるようにしました(図- 12)。
 

図-12 送水ルートは遠隔操作で変更可能




 
これにより,大型商業施設への送水を継続しながら,せせらぎ水路の状況に応じた運転管理が可能となり,安定的な送水が継続できるものと考えています。今後は,これらの設備を活用しながら,せせらぎ水路の種々状況に応じた,適切な運転管理に努めていきたいと考えています。
 

4-4 水質面

せせらぎ水路は,水に親しむことができる空間であることから,市民が直接水に触れることに留意する必要があり,内川は,「仁徳陵・内川水環境再生プラン」における水質改善目標値,漁業への影響等に留意する必要がありました。
 
そこで,送水する水質基準や水質管理方法について,河川管理者および堺市漁業協同組合などと協議を行い,独自の基準を設けました。具体的には,せせらぎ水路の水質基準は,下水処理水の再利用水質基準等マニュアル1)における「親水用水基準」を基本としました。次に,内川の水質基準は,水質改善目標値等を加味してBOD等を低めに設定しました。また,水質管理方法は,水質検査頻度,検査項目,採水箇所を設定するとともに,水質異常があった場合の対応等についても詳細に設定しました。
 
事業開始後は,季節変動も含めて水質の挙動を適切に把握していきたいと考えています。
 
 

おわりに

国内初の取組みである本事業は,イオンモール(株),関西電力(株),(株)関電エネルギーソリューション等の関係機関の協力のもと事業を進めてきました。
 
今後も関係機関と連携しながら,円滑な事業運営を図るとともに,下水熱利用に係る取組みや下水再生水による水質改善等について,広くPRしていきたいと考えています。
 
 

引用文献

1) 国土交通省都市・地域整備局下水道部,国土交通省国土技術
政策総合研究所,下水処理水の再利用水質基準等マニュアル,
平成17年4月
 
 

筆者

堺市上下水道局 下水道部下水道計画課
 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2016年08月号



 

最終更新日:2023-07-11

 

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