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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 生コンクリートの現状と将来展望について

 

はじめに

生コンクリートは,JIS等の規格では正式に“レディーミクストコンクリート”と称され,また簡略に“生コン”と略称されている。一時期に比べると需要が減少したとはいえ,現在でも我が国で人口1人当たり0.8m3弱の多量な生コンが,写真- 1に示すように,毎年製造されて使用されている。
 

写真-1 生コンクリート打込みの例




 
生コンの製造等を規定する各国の規格は,国ごとに制定・改正され,有用されてきたが,ISO規格が2007年に制定されて,各国はこのISO22965(コンクリートの仕様,性能,製造及び適合性)の国際規格を順守していくことが求められている。我が国の生コンの規格はJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)であり,1953年に制定され,2014年3 月の改正まで,13回の改正(追補)が行われている。そして,約1万件あるJISの中でも,数多く利用され,最も大きな影響力のある規格のひとつとなっている。
 
本稿では,JIS A 5308の規格の制定および改正(追補)の経緯について,強度とスランプの組合せに主体をおいて解説し,生コンの現状を概観する。そして,サスティナブルな配慮がコンクリート構造物にも求められており,そのためにリサイクル材を活用してきた経緯も述べ,最後に生コンの将来展望に言及する。
 
 

1. 生コンクリートのJIS A 5308の制定と改正(追補)の概要

生コンクリートのJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)は1953年11月7日に制定され,2014年3月20日の改正まで,表- 1に示すように,合計13回の改正(追補)が行われている。表- 1の中で,強度とスランプの組合せに関連する主な事項は,太字で強調している。
 

表-1 JIS A 5308の制定・改正の状況とリサイクル材の活用




 

1.1 JIS A 5308 の制定(1953 年)

制定されたJIS A 5308では, 米国のASTMDesignation C 94-48をベースにして,「基準第1」と「基準第2」のコンクリートの品質を規定し,購入者はいずれか1つの基準を指定することになった。
 

1.2 強度とスランプの組合せについての改正の経緯

JIS A 5308の制定後,約60年間で13回の改正(追補)の中で,コンクリートの強度とスランプの組合せについての重要な事項を採り上げて,以下に示す。
 
 
1.2-1 1968年の改正 第1 回改正
 
制定後15年経過した1968年の第1回改正では,「基準第1」と「基準第2」の2つの基準は廃止された。そして,「A種」および「B種」のコンクリートの種別を導入し,購入者がいずれかを1つを選んで指定することになった。そして,A種を指定する場合には,「設計基準強度または指定強度」とスランプとの組合せの表が与えられた。また,コンクリートの品質規定を改め,購入者の受入れ検査を定めている。
 
 
1.2-2 1978年の改正 第3 回改正
 
第1回の改正から10年後の第3回の改正では,コンクリートの種別の「A種」および「B種」が廃止され,「標準品」および「特注品」の種類の区分が導入され,種類が限定された。これは,製品の品質保証がより重視される方向になり,配合の標準化を図って,合理的な運営ができるようにしたためである。
 
また,従来の「設計基準強度または指定強度」に基づく強度区分を改めて,設計上の用語と関係の無い新用語として,無次元で表示される「呼び強度」の概念が導入された。そして,呼び強度に基づく強度区分が,従来の区分より狭い値で規定された。すなわち,ほぼ15(kg/cm2)の値で区分されたのは,建築分野における気温補正がこの値のピッチで与えられていたことに配慮したためであることが,解説に記されている。なお,特注品には,標準品よりも多い呼び強度とスランプとの組合せが与えられた。
 
また第3回の改正では,コンクリートの品質を従来のように確率的に規定することを改めて,日本工業規格のJISの他の製品規格と同様に,限界値を定め,強度の規格値を明確に規定している。そして,検査においては“検査ロット”を協議により定めて,ロットごとに合否を判定するという,現行の品質保証と検査の方法の根幹が定められた。
 
 
1.2-3 1993年の改正 第7 回改正および1996年の改正 第8 回改正
規格の名称を「レディーミクストコンクリート」と,現在使用している名称に変更された。それとともに,「標準品」および「特注品」のコンクリートの種類の区分が廃止され,現行のJIS A5308の規格構造に改めている。
 
呼び強度とスランプの組合せが,第7回の改正においては,大幅な見直しがなされた。すなわち,購入者が生産者に注文することができるコンクリートの種類は,182種類から122種類に大幅に削減された。
 
3年後の第8回の改正は,呼び強度とスランプの組合せの見直しをさらに行って削減し,呼び強度の区分はほぼ「3(N/mm2) ピッチ」になった。
 
 
1.2-4 2003年の改正 第10 回改正
 
2003 年の第10回の改正では,高強度コンクリートの種類が追加になり,呼び強度50,55および60が追加となった。そしてスランプフローをスランプに代わって用いることができるようになった。なお呼び強度50に限り,スランプが10cm,15cmおよび18cmも適用できる。
 
普通コンクリートおよび軽量コンクリートの呼び強度の領域が拡大された。すなわち,呼び強度42と45が,また呼び強度33,36,40が,それぞれ新たに追加された。
 
そして2014年改正の現行のJIS A 5308にまで,呼び強度とスランプとの組合せが踏襲されている。
 
 

2. 環境配慮によるJIS規格の制定とJIS A 5308への引用

地球温暖化,環境保護や資源の枯渇に対応するため,産業副産物の有効利用が各分野において推進されている。コンクリート用材料についても,これまで種々の試みがなされ,実用化されて,JIS A 5308にも採り入れられている。環境に配慮した生コンの製造におけるJIS A 5308の改正(追補)の経緯についても,一覧にして,表- 1に示している。特に,スラッジ水を含めた回収水の活用は,1978年以来積極的な努力を行い,社内規格を整備し,管理のための設備を配置している。
 

2.1 スラグ骨材の製法および種類

産業副産物のスラグは,精錬により鉱石から金属を取り出す際に副産されるもので,金属の生産量に比例して将来にわたり発生し続けるものである。そのため古くから,各種スラグをコンクリート用骨材として利用できるかが検討され,スラグ骨材として実用されているものも多い。
 
スラグは,鉄鋼スラグと非鉄スラグに大別される。鉄鋼スラグは,鉄鋼生産によって発生する副産物で,その工程により,高炉スラグと製鋼スラグに区分される。製鋼スラグはまた,鋼の製造方法の違いにより,転炉スラグと電気炉スラグに分類される。さらに電気炉スラグは,電気炉酸化スラグと電気炉還元スラグに分けられる。
 
非鉄スラグも,鉄鋼スラグとほぼ同じ工程で製造される。
 

2.2 スラグ骨材のJIS規格化

 
現在4種類7区分のスラグ骨材(フェロニッケルスラグ骨材のみ,細骨材)については,次に示すJISが順次制定されて,表- 1に示したように,JIS A 5308にも採り入れられている。
 
● JIS A 5011-1:(コンクリート用スラグ骨材-第1部 高炉スラグ骨材)
● JIS A 5011-2:(コンクリート用スラグ骨材-第2部 フェロニッケルスラグ骨材)
● JIS A 5011-3:(コンクリート用スラグ骨材-第3部 銅スラグ骨材)
● JIS A 5011-4:(コンクリート用スラグ骨材-第4部 電気炉酸化スラグ骨材)
 

2.3 環境JISの制定

2003年の第10回改正では,新材料として追加されたのは,新たに環境JIS1)として制定されたエコセメント,電気炉酸化スラグ骨材およびシリカフュームであった。環境JISは,環境と経済が統合された循環型経済システムを構築するために,環境配慮を導入した製品の需要拡大を狙い,JISを整備し制定しているものである。
 
エコセメントは,環境JISの第一弾として,平成14年にJIS R 5214:2002(エコセメント)として制定された。
 
電気炉酸化スラグ骨材は,前述したように,JIS A 5011-4:2003として,平成15年に制定された。コンクリート用骨材として新たに環境JISに加え,有効に利用するものである。
 
シリカフュームは,JIS A 6207:2000(コンクリート用シリカフューム)として,平成12年に制定された。シリカフュームは,金属シリコンやフェロシリコンをアーク式電気炉で製造する際に発生する排ガス中のダストを集じんする際に得られる超微粒子である。この規格も,環境JISに組み入れられるものである。
 
2009年の第11回改正では,2005年にJIS A5021として制定された再生骨材Hが追加になった。再生骨材H1)は,コンクリート構造物を解体したコンクリート塊を破砕し,粒形の改善や粒度の調整などの処理を行って造られたもので,JISA 5005(コンクリート用砕石及び砕砂)に相当する品質を有する高品質の再生骨材である。
 
 

3. 環境ラベルの導入

循環型社会の構築に向けて,JIS A 5308ではこれまでの改正(追補)により,エコセメントをはじめ各種スラグ骨材,回収水などのリサイクル材を使用したコンクリートでも,JIS規格品として出荷できることを,前述した。これら環境負荷の低減について,生コン工場の社会貢献を購入者はもとより,広く社会に公表することが必要である。すなわち,生コンの製造において,環境に配慮した材料を使用して循環型社会の構築に貢献していることをユーザーや工事発注者等の社会へ周知するために,“環境ラベル(表示)”の導入について検討し,2011年の第12回改正(追補)において採用した。このような環境ラベルを導入することにより環境負荷の低減への取組みを促進することは,廃棄物の低減に不可欠である。
 
環境配慮への姿勢の表示としては,プレキャストコンクリート製品と同様に,JIS Q 14021(環境ラベル及び宣言-自己宣言による環境主張(タイプⅡ環境ラベル表示))のタイプⅡ環境ラベルを表示して自己適合宣言を行うこととし,その環境ラベル(メビウスループ)をJIS A 5308の12.2(レディーミクストコンクリート納入書)に表示できるようになった。
 
この環境ラベルの使用にあたっては,生産者の自由裁量によることとしている。リサイクル材の品名および含有量の表示方法の例を,図- 1に示す 2)〜4)。
 

図-1 品名および含有量の表示方法の例




 

4. 生コンクリートの将来展望

2014年3月発行の第13回JIS A 5308の改正原案の作成後,全国生コンクリート工業組合連合会内に2013年度から2015年度において,「生コンJIS改正・制定準備委員会」(以下,JIS 改正・制定準備委員会と略称)が設置され,改正原案作成の際に継続的な審議が必要とされた事項および新たに提出された検討事項について,議論を重ねてきた5)。2016年からは2年間の予定で,経済産業省の補助を得て,第14回のJIS A 5308の改正原案の作成を行なっている。この改正原案の主な審議予定事項が,生コンクリートの将来展望であると考え,以下に継続検討事項と新たな検討事項に分けて紹介する。
 

4.1 継続検討事項

次回改正原案作成の継続検討課題としては,①スラッジ水の高度利用,②計量判定基準の見直し,③舗装コンクリートの強度管理試験の省力化が残された。
 
生コンの将来展望としては,次の2事項が特に重要である。
 
 
4.1-1 スラッジ水の高度利用
 
スラッジ水の高度利用とは,遅延性を有する“スラッジ水安定剤(仮称)”を有効に利用することにより,スラッジ固形分率を従来よりも多量の3%を超えて6%程度までのものも使用することを目指したものである。“スラッジ水安定剤”は,附属書D(規定)規定されている付着モルタル安定剤と同じ薬剤であるが,使用目的を明確にした名称にして利用するものである。JIS改正・制定準備委員会においては,現場実験も含めた実験的検討を重ね,附属書C(規定)(レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水)へ追加する“スラッジ水安定剤”の品質規格の改正素案,および新たに制定する附属書XX (スラッジ水安定剤の使用方法)の案文を提示することができた。
 
 
4.1-2 計量判定基準の見直し
 
計量判定基準について提示した改正素案は,各材料の計量検査ロットは,連続した40バッチ分の計量印字記録値を抜き取り,それぞれの材料(計量器)毎の計量値のうちJIS A 5308の8.2.2(計量値の許容差)に規定されている表- 7の“材料の計量値の許容差”の値を超える計量値の個数が1個以下であることを検査する方法である。現行の許容差の値を5回連続で全数合格する方法とともに,採用してもよいとの趣旨である。この方法によれば,“なるべく不合格としたいロットの不良率の下限”を示すp1を,現行の方法の30%程度から10%程度に小さくでき,計量精度の向上が図れるのである。
 
 

4.2 新たな検討事項

以上のような継続検討事項に加え,JIS改正・制定準備委員会では,主に①高強度化への対応,②スランプフローの追加,③舗装区分のスランプと強度の追加などの事項について,新たに検討を行った。生コンの将来展望としては,次の2事項が特に重要である。
 
 
4.2-1 高強度化への対応
 
JIS A 5308に規定されている高強度コンクリートの種類は,前述したように,2003年の第10回改正で新設された50,55,60の呼び強度が,50cm,60cmのスランプフローとともに規定された。高強度コンクリートは,プレストレストコンクリート(PC)の特に橋梁の上部構造物に一部用いられてきたが,建築構造物ではいわゆる「大臣認定の高強度コンクリート」に比べて,十分に利用されているとは言い難い使用状況であった。そこで,JIS改正・制定準備委員会では,高強度コンクリートの呼び強度を70程度まで拡大した場合の影響について検討した。今後は,大臣認定制度の動向を含め,課題点を集約した上で,呼び強度の範囲と強度区分について,製品規格のJISA 5308がJIS認証品となるための議論を継続していく。
 
 
4.2-2 スランプフローの追加
 
普通強度のコンクリートの範囲(呼び強度が例えば30〜45)においても,流動性と材料分離抵抗性の高い,いわゆる高・中流動コンクリートの使用実績が増えている。流動性の測定には,スランプではなくスランプフローが用いられているため,その対応も要請されている。(一財)建材試験センターにおいて現在検討されているこの種の高・中流動コンクリートの性能を簡便に評価する試験方法の提案も考慮して,検討していく。
 
 

おわりに

JIS A 5308 (レディーミクストコンクリート)は,社会基盤と生活基盤整備のための建設基盤材料である生コンの製品規格として広く活用され,国民の安全・安心な暮らしの実現に,制定から60年余にわたり寄与してきた。JISA 5308はその間に,規格の内容を見直し,特に環境に配慮した材料の採用を,高強度化と高耐久性化とともに,積極的に行ってきた。それらの経緯を概説し,今後の展望として現在作業が進んでいる次回14回の改正原案作成の内容を紹介した。
 
本報告が,生コンクリートの理解と利用促進において,その高品質化と更なる品質の安定化,環境への深い配慮,リスクへの対応および顧客満足度の更なる向上の一助となれば幸甚である。
 
 

謝辞

本稿の作成には,全国生コンクリート工業組合連合会の2013年度から2015年度に設置された「生コンJIS 改正・制定準備委員会」における調査・実験結果および改正素案を引用させていただいた。「生コンJIS 改正・制定準備委員会」では,桝田佳寛副委員長はじめ,委員会の委員とオブザーバの各位並びに事務局各位より,多大なご支援とご助力をいただき,所期の結果を得ることができた。また,全国生コンクリート工業組合連合会技術部に所蔵されているJIS A 5308の制定時からの規格票を参照させていただいた。付記して,厚くお礼申し上げる。
 

【参考文献】

1) 辻幸和:リサイクルコンクリートJIS製品,JIS使い方シリーズ,日本規格協会,2007.7
2) 辻幸和,城國省二,伊藤康司:JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の改正について,コンクリート工学,Vol.52,
  No.8,pp.631‐637, 2014年8月
3) 辻幸和,城國省二,伊藤康司:生コンクリート規格はこう変わった「JIS A 5308」改正のポイント,セメント・コンクリート,
  No.810,pp.9-18,Aug.2014
4) 辻幸和: サスティナブル コンストラクションと環境ラベル,コンクリート工学,Vol.54, No.2, pp.144‐148, 2016年2月
5) 辻幸和: 生コンJIS改正・制定準備委員会活動状況報告,ZENNAMA No.304, pp.17-19, 2016, 04・05
 
 

NPO法人 持続可能な社会基盤研究会 理事長/群馬大学・前橋工科大学 名誉教授  辻 幸和

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年2月号



 

最終更新日:2017-05-08

 

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