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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 官庁営繕事業におけるBIM試行-土浦労働総合庁舎設計業務における維持管理段階のBIM活用検討結果について-

 

はじめに

官庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトについては、平成22 年度より試行的に実施することにより、BIM導入の効果・課題等を検証してきました。
 
国土交通省初のBIM試行プロジェクトである「新宿労働総合庁舎」(図-1)においては設計段階・施工段階での試行を平成25 年7月に、関東地方整備局試行2事案目となる「前橋地方合同庁舎」(図-2)においては施工段階での試行を平成27 年5月に完了し、同時に完成、引き渡しを終えています。
 

図-1 BIM試行事案-新宿労働総合庁舎




 

図-2 BIM試行事案-前橋地方合同庁舎




 
 
これらの事案の検証の成果も踏まえ、国土交通省大臣官房官庁営繕部において「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成及び利用に関するガイドライン」が取りまとめられ、平成26 年3月に公表されています。
 
上記事案の設計・施工段階において見えてきた内容について、一昨年は「前橋地方合同庁舎」の施工段階でのBIM活用として部材の干渉チェックや3次元の工程シミュレーション、施工シミュレーション等について紹介させていただきました。そして、昨年は維持管理段階の検討として、土浦労働総合庁舎の設計業務において調査を行っている維持管理段階におけるBIMモデルのデータ活用に係る可能性調査・分析業務の内容について紹介させていただきました。
 
今回は、昨年度紹介させていただいた維持管理段階におけるBIMモデルのデータ活用に係る可能性調査・分析業務の調査結果について紹介させていただきます。
 
 

調査概要

(1)維持管理段階におけるBIM調査・分析業務の目的
 
施設の維持管理を進めていく当たっては、施設の各部位についてさまざまな情報が必要となります。例えば、一般的な平面図等の他、設備機器の属性情報、メンテナンス履歴等がそれら必要な情報に該当します。
 
これらの必要な情報の中には、工事の施工段階における情報だけではなく、設計者が設計内容を固めていく段階ですでに入手しているものもあります。そのような情報について設計BIMモデル等を介して設計者から施設の維持管理者に情報を伝達することで、維持管理業務のコスト削減や効率的・効果的な施設の維持管理につながる可能性があります(図- 3)。
 

図-3 業務の目的




 
 
このような観点から、本調査・分析においては、通常設計段階で入手している各種情報について、BIMモデルを介して施設の維持管理者に情報を引き継ぐことの合理性等を検証します。
 
 
(2)調査全体の流れ
 
検討のモデルケースとして、土浦労働総合庁舎(図-4)を例に本調査を行いました。
 

図-4 土浦労働総合庁舎 外観イメージ




 
 
土浦労働総合庁舎の事業概要は以下の通りとなります。
 
○工事場所:茨城県土浦市
○敷地面積:約4,500m2
○計画面積:約3,800m2
○構造規模:鉄筋コンクリート造地  上5階
○入居官署数:2官署
○設計:平成27 ~ 28年度
○工事:平成28 ~ 30年度予定
 
調査手順の全体の流れとしては以下の通りとなります。
 
①維持管理の実態について官民の施設管理者へヒアリング。
②①を踏まえた上で、各文献より維持管理に必要な情報項目についてリストアップ。
③②でリストアップを行った項目より、BIMに入力することが合理的であると思われる項目を
 「維持管理情報項目」として抽出。
④土浦労働総合庁舎の仮想BIMモデルを作成し、③の維持管理情報項目をBIMモデルへ入力。
 また、従来の維持管理情報の抽出方法と比較。
⑤BIMモデルから維持管理情報を抽出したデータをまとめた帳票を作成。
 
 
(3)調査の内容および結果
 
①ヒアリング
 
維持管理の実態を把握することを目的に民間のビルメンテナンス会社3社、官庁施設の管理者2者にヒアリングを
行いました。
 
ヒアリングの結果、維持管理の実態として以下のような意見が聞くことができました。
 
○維持管理に必要な基礎情報としては、面積表・平面図・機器表・系統図などの図面から得られる情報と、
 メーカー情報・修繕履歴・改修情報などの竣工後に時間とともに追加されていくデータなどがある。
 
○清掃業務の費用算定などに使用する部位別・仕上別の面積のような設計図からすぐに読み取れないデータについては、
 複数の図面を読み解き、別途算定を行う必要があり、多くの時間を要し手間がかかっている。
 
また併せて維持管理段階におけるBIM活用への期待についてもヒアリングを行ったところ、以下のような意見を聞くことができました。
 
○入力する情報が過大となると手間がかかり、かえって使い勝手が悪くなることも考えられる。
 必要最低限の情報を簡単に選別でき、管理する現場で使いやすい、操作が容易なものであるとよい。
 
○各種図面や資料にバラバラになっている施設情報を集約し、データの一元化ができるようになることを期待する。
 
以上のように、ヒアリングを通して、維持管理に必要となるが把握に手間がかかる情報があることや、
BIMを維持管理で活用することについて一定の期待があることが確認できました。
 
 
②維持管理の必要項目のリストアップ
 
ヒアリング結果を踏まえ、以下の各種文献より維持管理に必要な情報について調査を行い、その結果、必要な情報項目として1055 項目についてリストアップを行いました。
 
・建築保全業務共通仕様書
・建築物等の利用に関する説明書
・建築物のライフサイクルコスト
・庁舎維持管理業務 発注仕様書
 
これらの項目には、各設備機器の耐用年数等の個別の情報から仕上げ別の床面積などのデータ等が含まれ、多様な項目を抽出することができました。
 
 
③「維持管理情報項目」の抽出
 
リストアップした項目から、BIMに入力することが合理的であると思われる項目を抽出するため、スイッチ数量など維持管理をする上で明らかにBIMでの利用価値が低く非効率と思われる項目を除いた上で、各項目について、重要性、合理性、経済性の3つの観点から3段階評価を行いました(図-5)。
 

図-5 維持管理情報項目の抽出フロー




 
 
まず、重要性については、維持管理を行っていく上での重要性を以下の3段階に分けて評価を行いました。
 
評価「3」:維持管理上必要な情報と判断できる項目(例:清掃管理業務発注における床の材質や面積など)。
評価「2」:維持管理上活用できる項目(例:耐用年数など)。
評価「1」:情報がなくても維持管理可能と判断できる項目(例:設計時点の設備仕様など)。
 
次に、合理性については、図面や機器表、履歴等をまとめたExcelなどのデータで管理を行う従前の方法と、BIMを利用した管理の方法を比較し、BIMの活用が有効であるか否かを以下の3段階に分けて評価を行いました。
 
評価「3」:従来はどの図面にも記載のなかった情報(例:耐用年数など)や、設計時点での考え方や法的要件等で、
      効果を期待できるもの(例:搬出入ルートなど)。
評価「2」:従来の方法よりも使い勝手が良く、効率性の向上に効果があるもの(例:床や窓の面積など)。
評価「1」:抽出・出力情報は従来のものと変わらず、それ以上の使い勝手は望めない(例:設備機器の位置や数量など)。
 
最後に、経済性については、維持管理に必要な情報の入力および抽出・出力に要する手間から経済性を以下の3段階に分けて評価を行いました。
 
評価「3」:設計BIMモデル内にすでにあるデータを維持管理で使用しやすいように抽出するのみのため、手間は少ない
     (例:床の仕上別面積など)。
評価「2」:設計時点では一般的に入力をしない属性情報等を付加させるため、入力の手間がかかる
     (例:空調設備のメーカー仕様など)。
評価「1」:設計時点では一般的に入力をしない属性情報等を付加させるため、数が多く手間がかなりかかる
     (例:照明器具の履歴など)。
 
その結果、仕上げ別の床面積など、いずれの各項目も評価「2」以上に該当する278項目を、BIMに入力することが合理的であると思われる「維持管理情報項目」として抽出しました。
 
 
④維持管理BIMモデルへの入力
 
土浦労働総合庁舎をモデルケースとして、③で抽出した維持管理情報項目を入力した仮想のBIMモデルの作成を行い(図-6)、BIMモデルから維持管理情報を抽出する手間と従来の図面等から維持管理に必要な情報を抽出する手間について相対的な比較を行いました。
 

図-6 土浦労働総合庁舎 仮想BIMモデル外観




 
 
その結果、いくつかの項目でBIMモデルを使うことで従来の方法よりも効率的かつ正確な情報を得ることができることが分かりました。
 
例えば、床の仕上別の面積については、従来は仕上表と平面図を元に施設管理者等が自ら計算する必要があり、情報抽出に手間がかかっていましたが、BIMモデルを活用することにより、電子データ上での処理が可能となり、容易に計算することができました。①の施設管理者へのヒアリングにおいても面積算出に手間がかかるという声があったことから、BIMを使用した場合に有効である項目の一つと考えられます。
 
また、その一方、植栽の本数など従来の方法と手間が変わらない項目も多くありました。これらの項目には、図面からすぐに読み取れることができる項目が該当し、BIM上でも図面上でも読み取る手間が変わらないためと考えられます。
 
⑤維持管理BIMモデル以外でのデータとして出力する方法の検討
④では施設管理者がBIMの知識を有していることを前提に比較検討を行いましたが、本項においては、施設管理者がBIMの知識を有していないことを想定し、BIMモデルに入力された維持管理情報項目をBIM以外のツールにデータとして出力した上で、効果的に利用できる方法の検討を行いました。
 
具体的には、維持管理情報項目についてBIMモデルから抽出されたデータをPDFやExcelなどの一般的によく使用されるファイル形式で施設管理者に提供する方法の検討を行い、ハッチングで該当箇所を分かりやすく示した図と維持管理に必要な情報を示した表で構成される帳票の作成を行いました。具体的な活用例として、図7-1、図7-2の帳票を用いて説明したいと思います。
 
図7-1は仕上げ別の面積表についての帳票を示しています。先に挙げたように従来は平面図と仕上げ表より面積の算定を行っていましたが、BIMから抽出した情報であれば床仕上げごとの面積が電子データ上で算出され、一覧表として表示できるため、そのデータをPDFやExcelなどで抽出すれば清掃業務の発注などに活用が可能となり、業務の効率化を図ることができます。
 

図7-1仮想BIMモデルから抽出した図表(帳票)例1:仕上げ別面積表 




 
 
また、図7-2は図面作成時の法的要件についての帳票を示しています。改修を行う際など、従来は図面作成時に遡って建設当時の法的要件を確認する必要がありましたが、BIMモデルに入力することにより、図面作成時に適用されていた法的要件を容易に確認することが可能になります。条例などが改定された場合、図面作成時の法的要件が確認しづらくなるので、特に利用価値が高いと考えられます。
 

図7-2 仮想BIMモデルから抽出した図表(帳票)例2:図面作成時の法的要件




 
 

調査のまとめ

以上のように、維持管理に必要な情報を抽出する上で、BIMモデルを使用した方法と従来の方法の比較検討を行い、また、BIMモデルを介して維持管理者へデータを提供する方法の検討を行いました。
 
今回は設計段階での情報をBIMモデルに入力し維持管理段階での活用の検討を行いましたが、BIMモデルは一時点の情報のみではなく、設計・施工・維持管理の各段階において情報の入力や修正を行うことにより、データベースとしての利用価値が上がり、BIMモデルを活用するメリットも大きくなっていきます。
 
現状、維持管理段階では容易にBIMを扱える環境がないこともあり維持管理にBIMモデルを活用している例はあまりありませんが、今後、維持管理段階においてもBIMモデルのデータを活用することができれば、対象施設の最新情報を取り込んで、より効率的な維持管理・運営が可能な状況になり得ると期待されます。
 
 

おわりに

官庁営繕事業におけるBIMの試行の中で、設計段階における結果を踏まえて「BI Mガイドライン」が平成26 年に策定されました。
 
今後は、このガイドラインに則った適用事案の蓄積を図り、維持管理段階におけるBIMモデルの活用も含め、BIM活用による効果や課題を検証していくことで、本来の目的である建築生産のライフサイクル全体を通してBIMがどのように活用できるのかを引き続き検討していきたいと思います。
 
参考文献
1)国土交通省大臣官房官庁営繕部:建築保全業務共通仕様書(平成25年版)
2)国土交通省大臣官房官庁営繕部:建築物等の利用に関する説明書
3)一般財団法人建築保全センター:建築物のライフサイクルコスト(平成17年版)
 
 
 

国土交通省 関東地方整備局 営繕部整備課
営繕技術専門官 古堅 宏和

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 

最終更新日:2017-05-08

 

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