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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIMによる積算業務の実運用へ向けて-その課題と今後の展望について-

 

BIM連携積算の現状

まず、最初は筆者の知る限りにおいてBIMによる積算連携の現状から話を始めたいと思う(※BI Mによる積算連携を以降「BIM連携積算」と呼ぶ)。
 
実は、この誌面でBIM連携積算のことを述べる機会を得たのは二度目である。前回は、5年前の2012年であった。その折には、弊社がBIM連携積算システムの開発に至った経緯やIFC連携を中心にそのメリットや作業効率のUP、さらに最も重要なこととして積算業務のルーチンワークが大幅に減る可能性について述べた。
 
現在でもこれらが実現できれば、さまざまな恩恵が積算技術者にもたらされると確信している。また、今後も社をあげてBIM連携積算の条件整備に取り組んでいく気持ちは今でも全く変化はないが、当初考えていたスピードよりもかなり進展が遅いと感じている。以降、これらに関係する原因や課題点および解決策の提案など思うところを述べてみたいと思う。しかしながら、当然異なる考え方を持たれている方々もおられると思うが、あくまでも筆者個人の見解であることを前置きする。
 
 

BIM連携積算を積算業界や積算技術者から見た場合

・積算事務所の場合
 
積算事務所に勤められている技術者の方々や経営側の立場の方々にとって、多くの割合で現状の積算業務のあり方がベストだと思っている方はいないと思う。それは、積算業界の黎明期から今でも変わらず、紙の図面を見ながらコツコツとひらいを行い内訳書を作成し値入をして業務が完成する。この流れは積算システムの進歩はあれども、半世紀以上なんら変わっていない。
 
弊社も積算業務の売り上げが全体の65 ~ 70%を占める積算事務所であるが、最近の新入社員の諸君は大学で4年間建築を学んできた若者や、大学院を経て入社してくれる若者もいる。
 
彼ら彼女らが最初に建築コスト部に配属されて行う作業は、例えばRC積算を担当した場合、紙図面の躯体断面リストを見ながら、「D-25 10 本」と、まるでトレースするようにキーボードを叩いて転写入力することが作業の大半になる。こういう単純作業は積算業務の宿命と言われればそれまでだが、日々の業務の随所に同様な作業が存在する。
 
筆者はこの作業自体が悪いと言うわけではないが、将来を見据えて継続的に優秀な若手技術者を積算業界に取り込むためには、あまりにも今まで工夫がなかったと先輩諸氏に言われても致し方ないのではないか・・と強く感じている。
 
前述の問題を解決する一つの手段が、BIM連携積算であることは間違いないと思うが、さまざまな課題点などがあり、なかなか実務では利用できていない。
 
・建設会社の積算部や見積部の場合
 
インハウスで積算をしている建設会社では、積算事務所と同様な問題点や課題点があると思われるが、最近は外部に積算業務を依頼することが圧倒的に多いので、そのような会社の大多数では、外注先の積算数量の精度さえ良ければ、Excel表計算のようなシステムであろうが、BIM連携であろうがどちらでも良いわけである。これは致し方ないことではあるが、積算業務を外注している場合、BIM連携積算のメリットと言えば積算期間の短縮や外注費の低減が主な内容となる。視点を変えて自社設計の場合などの設計データ有効活用や連携積算ではケアレスミスが発生しにくいなどのメリットは、現実にはなかなか論じられることはない。
 
 

BIM連携積算実運用への課題点とメリット

以下に実運用へ移行していくための主な課題点を列記する。
 
(課題点)
 
・外的な要因
 
①BIMによるデータの提供が少ない
(紙図面かPDFが圧倒的に多い)
②BIMデータが入手できても不備な内容が多い
(BIMデータの入力不足や紙図面との間に差異がある)
③発注側の見積部や積算部などがBIM連携積算に否定的
(使えるところから使う発想がない・使えないところだけ指摘する)
 
・内的な要因
 
①BIMに関する知識が不足している
(特にベテランは新しいことにチャレンジしにくい)
②BIM連携積算に対応できるシステム環境がない
(ハードとソフト双方・経済的な理由)
③経営陣など上層部の意志が統一できていない
④BIM担当スタッフに権限がない
(経営陣などからバックアップがない)
⑤設計部門と見積や積算部門の連携が取れていない
(特に自社設計の場合、設計情報を有効活用する視点に欠ける)
 
上記以外にも、現実には多くの課題点があると思うが、全てではなくとも主たる何点かが解決・改善できれば、BIM連携積算にはかなりのメリットがある。ただ、立場立場で感ずるメリットには見方が分かれる部分もあると思うが、大きな目で積算業務や積算技術者を捉えた場合、以下のようなメリットが挙げられる。
 
(メリット)
 
①ルーチンワークが激減する
(かなりの効率化が可能になる)
②ケアレスミスがセーブできる
③時代に即した新たな手法により、若手技術者を取り込む可能性が高まる
④特に概算には有効なツールとなる=多段階の概算も行いやすい
(フロントローディングによるコストコントロールが可能となる)
⑤積算技術者が関連した他部門へトライできるチャンスが増える=業務の効率化により新たな時間が生まれる
(コストマネジメント・CM・FM)
 
 

BIM連携積算でよくあるモデリングの問題点

以降、実務でよく見られるモデリングの問題点など実例をもとにいくつか挙げてみる。
 
・代用入力
 
この言葉は造語かもしれないが、本来使用すべきオブジェクトに他の内容を入力している場合のことで、まだまだ実務ではよく見受けられる。例えば、梁のオブジェクトにカーテンボックスやノンスリップを入力している例などが挙げられる。これは、なにも積算連携だけではなく、モデルチェックツールを活用する干渉チェックなど他のシステムと連携する場合にも大きな障害となり得る。
 
BIMツールの操作などに慣れるまでは大変だと思われるが、モデリングの結果だけ見ていると、代用入力があっても、あたかも設計意図にそって自動的に判断し修正されるか、入力不足は自動的に補完されると思われている…としか考えられないモデリングも散見される。
 
BIMモデルが外見上さえ表現できていれば良いとの考えで入力すれば、後々予期せぬ不具合が発生する。また、最も大きな問題点は、せっかくのBIMモデルが、他のシステムとの連携などで活用できなくなることがある。全てのモデリングを完璧にとまでは言わないが、主要な一部の内容だけでも注意して入力してもらえれば、設計データの有効活用の観点からも、また本来のBIM連携の観点からも、かなりの改善がはかれるものと思われる。これら代用入力のよくある事例を以下に示す。
 

(代用入力:例)




 



 
以上の内容などで代用入力の回避方法は、そんなに手間がかかるものではない。一例をあげれば要素分類を連携未対応で登録するなどの手法で簡単に回避できる。これらの回避方法はBIMツールごとで若干差異はあるが、代表的な回避方法を以下に示す。
 



 
 
しかしながら、設計側に積算連携などのために余分な負荷が出ることは避けなければならないので、弊社では最小限の約束ごとを取りまとめたものを事前に作成してお示ししている。これらをモデリングの開始前に説明して注意してもらえれば、かなりの割合で連携の不備が解消できる。
 
次に、これらの注意点を取りまとめた事前摺合せシートを紹介する。
 
・BIM連携積算事前摺合せシート
 
以下に示すBIM連携積算事前摺合せシートの例は、積算業務で最も処理時間がかかる内部仕上積算を対象に取りまとめたものである。モデリングの全てに対して属性情報など設定方法の約束事を決めるのは難しい面もあり、重要な内容から優先度を付けて提案している。下記の摺合せシートで、ランクAAとランクAに関しては、積算連携などにとっても重要な内容となるので、モデリングの際に必ず入力してもらいたい項目である。
 
下記に関して再度補足しておくが、これらの約束事はなにも積算連携だけを考えた場合のことではなく、他のシステムとの連携も含めてBIMツールで作成された設計データをいかに有効に活用できるかという観点から取りまとめた内容となっている。確かに欲を言えば、ランクBやランクCまで入力できていれば自動積算にかなり近づいてくるが、設計者(モデラー)側にかなり負荷が増えることとなる。
 



 
 

ダイレクトリンク機能について

冒頭に述べたが、弊社ではこれまでBIM連携積算システムを開発するに当たり、国際標準の「IFC」に対応できることを前提として開発してきた。確かに「IFC」は、国際的に一定の規約で定められた中間ファイルを使うので、デファクト・スタンダードとなり得る連携手法ではあるが、日本で開発されたものではないので、日本の建設生産にとって全てが使いやすいものではない。
 
特に情報量がかなり膨らみやすい特徴があり、連携する個々のシステムにとっては、それぞれで必要となる情報を選別するだけでも、相当の時間と労力を要することになる。
 
弊社は、「IFC」を否定する気は毛頭ないが、使用者が負荷を感じることなくスムーズに運用するには、どういう方法が良いか検討を重ねてきた。その結果として、それぞれのBIMツールと弊社の積算システムを直接連携(ダイレクトリンク)させることにより、大幅な時間短縮と連携精度の向上を実現することができた。以降、その概要を示す。
 
{なお、現状のダイレクトリンク機能は、ARCHICADおよびRevitと対応している}
 



 



 
 

今後の展望について

前述した課題点にもあるように、BIM連携積算で活用できるBIMデータを入手できる機会がまだまだ少ないので、現時点で積算事務所や積算技術者が感じるBIM連携積算に取り組む必要性はさほど大きなものではない。しかしながら、今後は干渉チェックや施工管理に使用するなど多方面での使用事例がどんどん増えてくるのは確実である。それに伴い、実務でもBIMデータが入手できる機会が増えてくるものと思われる。
 
海外の事例を見ても、規模の大きなプロジェクトは必ずと言っていいほど、BIMが利用されている。筆者や弊社の社員が参加する機会を得たいくつかの積算関係の国際会議でも、東南アジアの拠点都市では、QS(クオンティティー・サーベイヤー)が、BI Mに関して高い関心を持ち、積極的に利用している。また、いくつかの国や地域では、BIMライブラリーの構築など利用環境の整備を進めている。実務での利用がまだの国や地域でも、実運用に向けた取り組みが盛んである。
 
以下は、筆者の強い願望であるが、数量や単価情報を持っているBIM連携積算システムを積算技術者が有効利用すれば、これまでの積算業務のノウハウを生かしつつ業務の領域を広げることが可能だと考えている。現状の数量積算中心の積算業務では、なかなか明るい展望が見えてこない中で、BIM連携積算は積算事務所や積算技術者にとって、将来に向けて新たな可能性やビジネスチャンスをもたらしてくれると確信している。
 
 
 

株式会社 日積サーベイ 代表取締役 生島 宣幸

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 

最終更新日:2017-07-24

 

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