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1. 地山補強土工法の概要

1-1 地山補強土工法とは

現在切土法面や地山の安定化工法として用いられている工法として切土補強土工法があります。一方で鉄筋挿入工,補強鉄筋工など多くの名称が使われています。実務としては,設計計算,設計図,材料調達,施工と一連で行うため,名称のバラツキによる実質的な問題はほとんどありませんが,本工法がより確立した永久工法となるためには実情に応じて理解・整理する必要があります。
 
本工法の基本は土を補強するところであり,広義の”補強土工法”に含まれ,ここから整理します。補強土工法は地山系の工法と盛土系の工法に分けられます。このうち地山系の工法は,人工切土法面か自然地山かで,切土補強土工法,地山補強土工法の名称が使われることが多いようです。また盛土系の工法は,壁のイメージか否かで補強土壁工法,盛土補強土工法の名称が使われているようです。これらは補強する対象による分類と言えます(図- 1)。
 

図-1 補強土工法の分類




 

1-2 地山補強土工の歴史

地山補強土工は,1950年代にヨーロッパで斜面や切土面を安定化する工法として開発されました。日本には1980年ころに導入され始めましたが,それは斜面ではなくトンネル(NATM工法)でした。吹付コンクリートとロックボルトを用いることによって当時のトンネル支保の考えを一新し早期のトンネル施工を可能としたNATM工法は急速に広まりました。
 
この吹付コンクリートとロックボルト工は,まもなくトンネル坑口などの斜面安定化工法としても採用されるようになりました。
 
1998年には当時の日本道路公団が「切土補強土工法設計・施工要領(案)」を刊行しました。これを機に第二東名などの建設に使われるようになり,特に道路行政域を主体として,日本で急速に斜面に用いられるようになりました。この過程では切土補強土工法という名称が定着しつつありました。
 
一方で掘削仮土留め工や基礎の補強工事など,用途が拡大するようになり,また補強材としても鉄筋以外のものも使用されるようになってきたのを受け,「地山補強土工法」と呼ばれるようになってきました。
 
 

1-3 地山補強土工の目的

地山補強土工は,斜面に鉄筋やロックボルトなどの比較的短い棒状の補強材を法面や地山に多数挿入することにより,土と補強材の相互作用によって移動土塊や斜面上の岩塊等を安定化させる工法です(写真- 1)。
 

写真-1 地山補強土工の施工例




 
 
多くの場合,法面工(表面工)との併用がなされ,補強材と法面工が一体となり補強効果を増します。一般的には補強材の長さはアンカー工よりも短く,比較的崩壊規模の小さい斜面に適用されます。本工法の採用は,以下の目的が多いようです。
 
①用地制限などにより自然地盤で標準勾配よりも急勾配に切土を行う場合
②既設切土法面を用地の有効利用等の目的で急勾配化する場合
 
 

2. 地山補強土工に用いる補強材

地山補強土工に用いる補強材は,剛性や形状(細長比)の違いにより,①ネイリング(小径補強材),②マイクロパイリング(中径補強材),③ダウアリング(大径補強材)の3種に分類されます(図- 2)。
 

図-2 地山補強土工に用いる補強材の分類




 
 
これら補強材の一般的な選定方法としては,硬い地山で引張り補強効果やせん断補強効果を期待したい場合にはネイリングが,軟らかい地山で引張り補強効果だけではなく曲げや圧縮補強効果も期待したい場合にはマイクロパイリングやダウアリングが選定されます。日本国内では平成10年に当時の日本道路公団から「切土補強土工法設計・施工要領」が発刊されて以来,上記の分類上では”ネイリング”の考え,設計が急速に浸透してきました。
 
①ネイリング(Nailing)
細長比が大きく曲げ剛性の小さい補強材を地山に配置して,主として補強材の引張抵抗によって地山の安定性を向上させる工法。現在日本で用いられているロックボルトや鉄筋補強土工法の補強材のほとんどはこの分類に含まれます。
 
②マイクロパイリング(Micropiling)
ネイリングとダウアリングの中間的な細長比,曲げ剛性を有する補強材を地山に配置して,補強材の引張り抵抗のほか,曲げ抵抗および圧縮抵抗によって地山を補強する工法。代表的な工法として,SP フィックスパイル工法があります。
 
③ダウアリング(Dowelling)
細長比が小さく曲げ剛性の大きい補強材を地山に配置して,補強材の引張り抵抗のほか,曲げ抵抗および圧縮抵抗によって地山の安定性を向上させる工法。代表的な工法として,ラディッシュアンカー工法があります。
 
現在,国内で使用されている補強材は,材質から図- 3のように分類できます。また,実際に補強材として商品市場にあるものを紹介します(表- 1)。
 

図-3 補強材の材質による分類




 

表-1 現在使用されている主な補強材




 
 

3. 地山補強土工の表面工

法面工(表面工)には,吹付工や場所打ちの受圧板,プレキャスト製パネルなどがありますが,そのうち場所打ちの受圧板は以下のように分類できます(図- 4)。
 

図-4 受圧板の分類




 
 
この中で板は,強度が高く,設置面積が大きいという長所を持ちますが,地下水を遮断したり,施工性に劣るといった短所もあります。そしてこの中で施工例として圧倒的に多いのは吹付枠工です。
 
通常は,地山の地質状況,法面規模,勾配,緑化の有無,永久・仮設,補強効果などを考慮して数種類の法面工を比較して採用工法を決定しています(図- 5)。
 

図-5 吹付工法




 
 

4. 地山補強土工における吹付枠工設計のポイント

平成18年11月(社)全国特定法面保護協会から「法枠工の設計・施工指針(改訂版)」が発行されました。地山補強土工における法枠工,特に吹付枠工は,同指針を基本とし,国土交通省も随時新指針によることを通達しています。
 
ここでは地山補強土工+吹付枠工の設計で特に注意を要するポイントを解説します。
 
地山補強土工+吹付枠工の設計でよく問題となるのが,端部の張出しです。この問題については会計検査で問題となりました。上記の指針ではこの問題に対して,アンカー工と補強鉄筋工に明確な考え方の差を示しています(表- 2)。
 

表-2 アンカー工と補強鉄筋工




 
 
補強鉄筋工の計算では,設計計算においても,施工においても,張出し部という考え方をしなくてもよい。つまり,設計計算では張出しが極端に長いモデルも,張出しがないモデルも,シンプルな十字の法枠モデルで考えるのです。
 
また,吹付枠工にグラウンドアンカー工を併用する場合は,スターラップを配置することを原則としますが,補強鉄筋工ではこの限りではないとされています。
 
実際に吹付枠,プレキャスト受圧板として商品市場にあるものを紹介します(図- 6〜8)。
 

図-6 法枠工法




 

図-7  プレキャスト受圧板-1




 

図-8 プレキャスト受圧板-2




 
 

5. 補強鉄筋工の設計

地山補強土工法の設計参考図書としては,表-3に示す文献があります。大別して道路系の流れと鉄道系の流れがあります。
 

表-3 地山補強土工の設計参考図書




 
ここでは,よくある流れとしての事例を紹介します。
 
①土木の道路関連の事業
土木の道路関連の事業は概ねが「道路土工-切土工・斜面安定工指針」が優先文献となります。この文献では「極限釣り合い法,疑似擁壁工,2ウェッジ法など様々な考え方が提案されているが,施工実績の多い高速道路の斜面安定に用いられている極限釣り合い法の1つを参考に示す。」としています。基本は設計者責任で行うとのことですが,ほとんどは「切土補強土工法設計・施工要領」で設計されています。
 
②土木の砂防関連の事業
地山補強土工法が多く施工されている急傾斜事業では,「新・斜面崩壊防止工事の設計と実例」が優先文献です。本書では地山補強土工法はロックボルト工として取り扱われていますが,詳細な設計方法の記載はありません。このため多くのケースで「切土補強土工法設計・施工要領」で設計されています。
 
③土地改良の道路関連の事業
「土地改良事業計画設計基準設計(農道)」が優先文献ですが,「道路土工-切土工・斜面安定工指針」に従うこととしています。したがって土地改良の場合もほとんどは「切土補強土工法設計・施工要領」で設計されています。
 
④鉄道関連の事業
鉄道事業の場合は「鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物」に準拠し,「補強土留め壁設計・施工の手引き」によります。ただしRRR 工法は,「RRR-C工法設計・施工マニュアル」によって設計されます。
 
以上のように,特に公共事業の場合はほとんどが極限釣り合い法である「切土補強土工法設計・施工要領」に沿って設計されています。
 
 

6. 地山補強土工のトラブル例

6-1 地山補強土が計算通り機能しなかったのはなぜ?

 

図-9 




 
主要地方道の局部改良工事で,山麓斜面を切土し道路の線形改良を行いました。これにより高さ4〜5mの小規模な切土法面が出現しました。切土面には軟質な崩積土が出現したため,用心のため崩壊防止対策として,地山補強土+吹付枠工を施工しました。
 
この際十分大きめなすべりを考えて計画したつもりでしたが,施工1ヶ月後,法面が徐々に前面に傾動し始めました。明らかに地山補強土が利いていません。安全サイドで計画したにもかかわらず地山補強土が想定どおり利かなかったのはなぜでしょうか?
 
 

6-2 調査,計画は一般的な方法で

 
今回切取りした斜面は,もともとは15〜20゜の一律勾配の緩斜面で,地すべりの兆候を示すような地形的な乱れも一切ありませんでした。また当該斜面での切土の計画も規模の大きなものではなかったことから,設計段階では特別な調査や対策は必要ないとの認識でした。
 
ところが建設に入り,施工業者が現地を確認したところ,付近に基盤岩の露岩は一切無いことに気づきました。さらに対象斜面の地表面は樹高の高い杉で覆われていたことから,ある程度の層厚で崩積土が分布することがうかがえました。岩盤が浅所にあれば杉の大木は根が張れないと考えたのです。そして構成地質を調査ボーリングで確認することとしました。
 
ボーリング調査の結果では,N値10前後の軟質な土質が分布することが把握でき,その結果を受けて安定解析を行った結果,計画切土で地形変革した場合,斜面の安全率が0.849しか確保できず対策が必要であることがわかりました。
 

図-10 




 
対策工法としては,必要な安全率を確保するための力(必要抑止力)が60kN/mと小さいこと,アンカー工を適用するには基盤岩が深すぎることなどから,地山補強土が最適の対策工法と判断し対策を計画しました。
 
地山補強土の計画に際し重要なデータとして,定着地盤の極限周面摩擦抵抗値があります。崩積土の極限周面摩擦抵抗値をN値10程度の砂質土と考え,τp=0.08N/mm2と設定しました。これはかなり安全側のスタンスをとったはずでした。
 
そして1断面当たり5段配置,水平打設間隔1.2mで,安全率Fs=1.217を確保できるとして設計しました。
 

図-11




 

6-3 極限周面摩擦抵抗値

この値は地山補強土のグラウトと周面の地盤の間の単位面積当たりの摩擦抵抗値ですが,「切土補強土工法設計・施工要領」によれば,極限周面摩擦抵抗の地盤別の推定値は,「グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説」を0.8倍したものとなっています。これはアンカー工の極限周面摩擦抵抗が加圧注入した場合の実績値を参考として設定されているのに対して,切土補強土工法ではほとんど無加圧注入されていることによります。
 

表-4 極限周面摩擦抵抗の推定値




 

表-5 アンカーの極限周面摩擦抵抗




 
 
一方,極限周面摩擦抵抗の安全率については,アンカー工と比較して設計荷重レベルが小さく,プレストレスとして常時緊張力が作用しないことなどを勘案して,永久を2.0(アンカー工の0.8倍),仮設を1.5(アンカー工と同じ)としています。
 
 

6-4 鉄筋が利いていない!

法面工造成後1ヶ月経った現場作業員の何気ない一言から騒ぎとなりました。「なんか法面が立ってきた感じがしないか?」 そういえば・・・近くに寄って法面を見通してみると,1:0.5に造成したはずなのに,1:0.45くらいであろうか,明らかに傾動してきているのです。
 
「鉄筋が利いていない!」「全て安全側サイトで検討してきたのになぜ?」緊急に押え盛土を実施し,変状が収まったのを確認した後,被りの薄い1本の鉄筋がどのような状態になっているかオープン掘削で確認しました。
 

図-12 

写真-2 




 
 
「グラウトが細い・・。」掘削してみると,本来ならばφ65mmあるはずのグラウトの外形が平均でφ30mm程度しかありませんでした。また作業員からの聞き取りでも,削孔後,ボルトの挿入時にかなり孔壁に引っかかりがあったことが判明しました。
 
これらのことから,削孔後,グラウト注入・ボルト材挿入までの間に孔壁がせりだした可能性が高いと推測できました。軟質な崩積土を単管掘りした場合には十分に起こり得る現象です。孔壁がせり出しを超えて崩れれば,ボルトの挿入ができないため二重管掘りなどに変えることも考えられましたが,せり出し程度であったため単管掘りのまま施工しました。加えて注入も加圧式ではなかったため,グラウト材が孔壁から地山側に浸透することもなかったようです。
 
φ30mmの条件ではどのくらいの安全率になるのでしょうか。至急,条件を変えた安定計算で安全率を求めました。照査の結果,安全率はFs=0.974であることがわかりました。実に24.3%の安全率が低下していたのです。
 

図-13 




 

6-5 原因の整理

今回,十分に安全だと考えて計画したはずの地山補強土の中に,結果的に法面を傾動させた不安定因子が含まれていました。それを整理すると,
①補強対象の地質は軟質の崩積土であった。
②削孔は,二重管掘りではなく,単管掘りで行った。
③削孔具を引き抜き後,孔壁が押し出し,孔が変形した。
④変形して小さくなった孔にグラウトし,ボルトを挿入した。
⑤結果,φ30mmの極細のグラウト体となり,想定した摩擦抵抗面積を確保できなかった。
⑥1本当たりの耐力が減少し,法面全体の安全率が低下した。
 
今回の失敗は,その施工を行った時に土の中がどのようになっているかの見極めが不足していたからだといえます。上記のメカニズムを考慮していたならば,φ90mm(←φ65mm)の二重管掘り(←単管掘り)で削孔するとか,また注入は加圧注入(←無加圧注入)ができる地山補強土工法を用いるとかするべきでした。
 
補強土という工法の中で,盛土補強土工法は盛土材や転圧作業など,実際に目で確認しながらの施工が可能です。これに対して切土補強土工法は,削孔した孔の状態,グラウトの状態,補強材の状態が見えない工法であり,常に造成された補強鉄筋がどのような状態になっているかを考えることができる技術者の経験が大きくものをいう工法と言えるでしょう。
 
一方で計算ソフトなどの普及で,入力さえすれば誰でもが設計計算できるベースもあります。それが故に,余計に現場での本質的な判断ができるための経験やノウハウが技術者には求められるのです。
 
 

6-6 粘性土に対するもう一つの懸念

地山補強土は,軟弱な土を補強する工法です。その安定化の機構は,鉄筋と地山の摩擦力と鉄筋の強度のうちより弱い値を設計耐力としています。ただ,ここで特筆すべきことは,”鉄筋と地山の摩擦力”それをグラウトと地山の間で破壊することを前提としていることです。設計に使われているτはあくまでもグラウトと地山の周面摩擦抵抗値なのです。
 
ここで地山補強土は軟弱な土を補強する工法であるということを意識すると,鉄筋と地山の付着切れが,グラウトと地山の間ではなく,地山の中で起こってしまうこともあるのです。無論τはこの事象も考慮して参考表などは作成されていますが,設計する側の技術者もこのことはよく考慮しておくべき話です。
 

図-14




 
 

7. 設計時の問題解決ノウハウ

7-1 問題①:吹付枠工のすべり止めアンカーの規格について

主アンカー,補助アンカーについては,規格が厳格に決まっているものではないですが,よく使われるものとして2つ資料があります。
 
○新版フリーフレーム工法
タイプ 主鉄筋 補助鉄筋
F150 D16,L=500 D10,L=300
F200 D16,L=750 D10,L=400
F300 D19,L=800 D13,L=500
 
○国土交通省標準設計図
F150 なし
F200 D16,L=400 D10,L=200〜400
F300 D19,L=400〜600 D13,L=300〜500
 
また計算で決めるというスタンスであるのは,「道路設計要領」(北海道開発局)で,主アンカーはフレーム自重および枠内客土重量のせん断で計算するとしています。
 
 

7-2 問題②:補強材のあるところは主アンカーがいらない?

完成時で考えれば,補強材の位置には補強材と主アンカーがダブって配置されます。したがって「無駄ではないか」という指摘をよく受けます。
 
タイムスケールを入れて考えます。ほとんどの場合,まず法枠工を設置します。この時の主アンカー,補助アンカーの役割は,鉄筋,型枠を支えるのが補助アンカー,吹付後の枠重量を支えるのが主アンカーです。
 
この後,補強材が設置されます。想定された斜面のすべり土塊を支えるのが補強材の役割です。
 
このように,それぞれが全く異なった役割を持っていますので,たとえ設置位置が同じであっても,補強材と主アンカーはダブって配置する必要があるのです。
 
 

7-3 問題③:プレート背面のストッパーシースはいるのか?

これについては規定がありませんが,以下のように考えるのが合理的です。
 
1) ストッパーシースはもともとアンカーの頭部が腐食しやすいことからアンカー製品に先ず導入されました。これは道路公団などの腐食の調査や指摘に対して,「H.2グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説」(地盤工学会)からアンカーの二重防錆,特にプレート背面の防錆が文書化されたため,メーカーは永久アンカーとしてストッパーシースなどを配置しました。
 
2) 地山補強土工も同じ地中構造物であるので,メーカーは独自の考えで,同じ構造(キャップ,防錆油は必須,ストッパーシースは推奨)としました。しかし,アンカーとは構造が異なり,根拠となる指針もありませんでした。
 
3) その後会計検査で,地山補強土工はアンカー工と抑止構造が異なり,頭部のキャップ,防錆油は不要ではないかという指摘を受けました。補強鉄筋工の場合は頭部が錆びても良いという考えです。これを受け,景観上必要という理由がある場合には頭部のキャップ,防錆油をつけても良い,それがなければ付けない,というのが現状の指導とされています。
 
4) ストッパーシースの区間は鉄筋の付着長が取れません。アンカー工の場合は自由長部であり,問題はありませんが,地山補強土工の場合は移動土塊側の摩擦力が減ります。設計モデルにもよりますが,安全性が低下することもあります。その点のチェックは必要となります。
 
会計検査での指摘と現在の指導は,前記3)のとおりのようです。また4)は安定上の問題で無視できません。初期コストと長期の維持・耐久性を含んだ評価で判断する必要性があります。
 
 

7-4 問題④:円形プレートと角形プレートでは何が違うか?

円形プレートは座金の背面空洞を発泡ウレタンで二次注入して,長期にわたる座金背面からの水や空気の侵入とキャップのグリース漏れを防止しています。
 
一方,前段で説明のとおり角型プレートでは,ストッパーシースを配置しない限り座金背面から侵入する水や空気は芯材に到達し,簡単に蒸発せず,背面にこもって芯材の腐食を促進します。
 
発注書によっては図- 15のようにグリース入りキャップは装着せずに,背面にストッパーシースのみを配置した仕様も見受けますが,長期耐久性と維持管理について慎重な選択が必要と思います。
 

図-15




 
 

8. 施工時の問題解決ノウハウ

施工時にはいろいろな問題がでます。ここでは現場での解決事例を集めました。
 

8-1 問題①:補強材の打設位置を変えたら,長さが5m を超えた。基準違反でNG なのか?

補強材の長さは一般的には2.0〜5.0mとしていますが,その根拠も基準書には書いてあり,「補強材の長さに上限を設ける工学的な根拠は無いとされており,現実的にはドリルタイプの削孔機で削孔可能な長さが補強材の最大長となっている。そのため削孔方法や材料の強度などを考慮すると2.0m〜5.0mで考えるのが一般である。」とされています。
 
しかし,これらが定められたのはもう15年も前の話で,最近では高性能ドリフタや長いガイドセルを使うことで7m程度の長尺削孔も可能となってきています。安定上問題がないのですから,施工できる場合は,5mを超える鉄筋を検討から外すことがむしろ詳細な検討をしていないと指摘を受けるようになってきています。
 
 

8-2 問題②:すべり面に届かない補強材があるとNG か?

極限平衡法による地山補強土の設計では,無数の円弧滑りに対して安全に設計されています。たまたま1つの円弧に対してすべり面に届かない鉄筋があっても,その円弧に対してはFs >1.2です。またその届いていない鉄筋は他の円弧では届いていて有効に働いているのです。
 
安全か否かの判定は,円弧に届くかどうかではなく,安全率を確保できるか否かによるので,全ての円弧に対して安全性は確認していますので大丈夫です。
 
 

8-3 問題③:逆巻きで設計してあるので1段1段定着してから次の施工をしなければならないか?

いくら逆巻きといえども,地山補強土を1段1段定着しつつ施工する・・というのは非現実的なことで,時間がかかるだけ実質的な安全性も低下します。かといって「そんなの非常識!」だけでは発注者側としても納得できません。名目でも首を縦に振る,資料が必要なのです。
 
1) 解決例1(正統派)
 
上部の鉄筋を強くすると逆巻き上の安全率は上がります。全体の最終形状に問題がなければ,鉄筋長を含めて検討をやり直します。どうしてもNGな場合で吹付枠工などの表面工を独立版系の表面工に変える必要があります。
 
2) 解決例2(かわし派)
 
「ブロック施工しますから・・」という建前とします。現実施工としては注意深く監視しつつ施工し,施工してしまえば,もともと施工途中の安全性のみの話なので,最終引渡しには問題はありません。ただし逆巻きを前提とした特別積算となっている場合は,会計検査上写真などの資料は必要となります。
 
 

8-4 問題④:地山の補強計画でも逆巻きしなければならないか?

アンカー工や地山補強土工は逆巻き施工!と信じている設計者や発注者の方もおられます。逆巻の意味合いをきちんと説明すれば解決できます。
 
地山の補強計画の場合は,どの鉄筋を打つ場合でもFsは1.0以上あり,安全率の上昇は鉄筋を上から打っても,下から打ってもいっしょです。したがって逆巻きに意味はありません。
 

図-16




 

8-5 問題⑤:市場単価の設計で,孔壁が崩壊しやすい地盤だったら変更できるか,その理由は?

まず長さなどが正規に市場単価か否かチェックします。市場単価の場合はいろいろな状況を説明するしかありません。いくつかご紹介します。
 
1) 基本的に調査ボーリングがされています。その柱状図において鉄筋の位置付近の深度の削孔状況でケーシングの有無を見てください。大概の場合ケーシングは挿入されていますので,「縦孔でも崩れるのに横孔では孔壁が維持できません。このような場合は市場単価方式では無理です。
 
2) 仮に補強材を挿入できたとしても孔壁が維持できないと設計の力を負担できませんし,安全率も確保できません。例えば地山補強土が計算どおり機能しなかった現場(本稿第6章で述べた現場トラブル例を参照)も報告されています。
 
 

8-6 問題⑥:施工に入り設計時の展開図から形状・配置が変わったが配置方針は?

設計の段階の配置計画は,実際に切っていないので,あくまでも切土前の配置方針として工事業者から鉄筋の配置を求められた時の一般的な指示です。これがないと工事が進まないことからとりあえずの設定です。それらは絶対的な安定度からいっているわけではありません。
 
一方,私どもが行ったのは実際に面を確認してからの変更であり,実際の土質状況を反映した配置としています。今回の場合,切ってみたら想定していたより悪かったという判断でやや多めの方向の設定にしています。
 
 

8-7 問題⑦:高さ100m以上となる現場で吹付枠+地山補強土を設計されていたが?

長距離・高揚程型高強度コンクリート吹付けシステム(ポンプ併用空気圧送方式)では,水平660m,直高150mまで圧送できます。このような特殊工法を使うしかありません。
 
 

いさぼうネット事務局 佐藤 裕司

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年06月号


 

最終更新日:2023-07-10

 

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