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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 観光立国を支える道路施策への取り組み 〜訪日外国人にも分かりやすい道案内を目指して〜

 

1 はじめに

近年,我が国では高速道路などのネットワークの充実により,多様なルート選択が可能となりつつある。加えて,2016年(平成28年)の訪日外国人旅行者数は,過去最高であった2015年(平成27年)の1,974 万人をさらに上回り,2,404万人(対前年比21.8%増)となり,4年連続で過去最高を更新した。こうした訪日外国人旅行者の急増に伴い,レンタカーの利用者も3年で約3倍の伸びを示すなど,多様な道路利用者が行き交う状況に変化しつつあり,好調なインバウンドを地方に波及させるため,分かりやすい道案内は大変重要となっている。
 
こうしたことから,平成28年3月に,内閣総理大臣を議長とする明日の日本を支える観光ビジョン構想会議においてとりまとめられた「明日の日本を支える観光ビジョン」(以下,観光ビジョン)の中で,外国人にも分かりやすい道案内の取り組みとして,道路の「案内標識の英語表記改善」,「交差点名標識への観光地名称の表示」,「高速道路ナンバリングの導入」も位置づけられたところである。本稿では,今後,本格化するこれらの取り組みについて紹介する。
 
 

2 案内標識の英語表記改善

訪日外国人旅行者の受け入れ環境の改善や,国際化への対応の必要性が急激に高まりつつある中で,案内標識についても,ローマ字を併記した案内標識の整備が進められてきた。
 
しかし,「道路標識,区画線及び道路標示に関する命令」(以下,標識令)上のローマ字併記における表記とは,いわゆる「ローマ字」表記であるという認識や,一部に普通名詞が使われていても全体を固有名詞とみなすべきという認識のもとに標識の整備が進められた。その結果として,「ローマ字」による表記と英語表記が混在する問題が生じていた。例えば,「郵便局」という日本語に対して「Yuubinkyoku」と「Post Office」が,「公園」という日本語に対して「Koen」や「Park」といった表記が混在しているケースが見受けられる。
 
案内標識が訪日外国人旅行者に対して分かりやすいものとなるためには,これらの普通名詞を表す日本語に対しては「Yuubinkyoku」や「Koen」といった表音表記を行うよりも,「Post Office」や「Park」といった英語表記をすることによって,その施設が何かを伝えることが望ましいと考えられる。
 
平成26年の標識令改正では,案内標識の表記は,日本語と英語によって行われるものであることを明確化することとした。また,具体的な表記方法は,別途,「道路の案内標識の英語による表示に関する告示」(表- 1)において定めることとした。
 

【表- 1 道路の案内標識の英語による告示(抜粋)】




 
英語表記の改善は,平成25年8月から国会議事堂周辺で試行的に実施した後,翌9月から,「外国人旅行者の受入環境整備事業」における戦略拠点および地方拠点である全国49拠点において先行的に取り組みを進めることとし,現在すべての拠点において標識の点検または工事が進められている。これらの先行実施箇所においては,道路管理者により構成される道路標識適正化委員会への観光部局の参画を図った上で,案内標識の外国人留学生などとの合同点検や,現地のニーズを踏まえながら実施している。
 
また,この取り組みと並行して,同年10月から観光庁に設置された「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のための検討会」において,英語を母国語とする外国人委員も参加し,日本語以外での案内に関する検討が進められてきた。前述の告示の対訳表は,これらを踏まえて決定したものであるが,今後も引き続き,訪日外国人旅行者の目線で標識の改善を行い,対訳表を充実していくことが必要である。
 
案内標識の表記内容等については,各道路管理者間で一定程度整合のとれた表記内容となっているべきであり,前述の告示において,同一の施設に対して同一の英語表記を行うこととし,道路標識適正化委員会における議論により案内の連続性の確保を図ることとしている。加えて,道路利用者の利便性を高めるためには,案内標識間での整合性のみならず,外国語で記載された地図,パンフレットや当該施設管理者が開設しているウェブサイト等,他の媒体における英語表記と整合(図- 1)を図ることも重要である。
 

【図- 1 案内標識の英語表記の改善と他の媒体との整合】




 
 
特に,2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることから,東京都をはじめ重点整備エリア等で,案内標識の英語表記改善・路線番号・ピクトグラム・反転文字の活用や通称名表記等,訪日外国人旅行者にとって,さらに標識が分かりやすいものとなるよう,改善を推進している(図- 2)。
 

【図- 2 2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会ックに向けた道路標識改善の取り組み】




 
 

3 交差点名標識への観光地名称の表示

現在,車両のカーナビゲーションシステムの普及と活用が進んでおり,カーナビゲーションシステムによる案内と現地の標識による案内の整合が重要となるとともに,それぞれの役割分担を勘案し,特に,標識により現位置の正確な確認,交差点,分流部等のドライバーの判断が必要な箇所等の正確な確認が行えるようにすることが重要となると考えられる。
 
そこで,国土交通省の取り組みの一つとして,交差点名標識(交差点で地点名を表示する標識)に観光地の名称を表示することにより,観光地への分かりやすい案内となるよう,交差点名標識の改善の取り組みを推進している。
 
対象箇所については,直轄国道において,観光地等に隣接するまたは観光地等へのアクセス道路の入口となる交差点名標識を対象とし,名称を表示する観光地等は,著名な観光地,名所,文化施設とした。なお,標識による名称の表示は,道路標識適正化委員会にて決定している。
 
一例として,直轄国道では平成27年7月に「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産に登録された「旧集成館」(鹿児島市)に隣接する交差点の交差点名標識を,同年11月「磯交番前」から「旧集成館前」の表示に変更した(図- 3)。
 

【図- 3 交差点名標識への観光地名称の表示】




 
また,これまでに計67箇所で,取り組みを推進している。今後,各地の道路標識適正化委員会にて,地域の意向を踏まえ,さらに対象箇所を増やしていき観光地案内の拡充を図っていくことが重要である。
 
 

4 高速道路ナンバリングについて

世界各国の高速道路に目を転じれば,それぞれの地域固有の言語に依存せず,だれにでも分かるユニバーサルコードとして,路線番号を用いた「ナンバリング」による案内が一般的となっており,地図,ルート検索,観光施設への案内,カーナビゲーション,事故や渋滞の交通情報等,さまざまな分野で活用されている。そこで,我が国の高速道路においても,ナンバリングを導入し,分かりやすい道案内(以下,高速道路ナンバリング)を実現することは極めて重要である。
 
このような状況の中,国土交通省では,平成28年4月に「高速道路ナンバリング検討委員会」を設置し,同年10月に「高速道路ナンバリングの実現に向けた提言」(以下,提言)をとりまとめ,「高速道路ナンバリングの導入について」(平成29年2月14日付国土交通省道路局長通知)等,高速道路ナンバリングに関連する通知を道路管理者に通知した。
 
提言においては,全国の高速道路を分かりやすく案内するためには,可能な限り,「連続して利用することが想定される多くの路線」を対象に付番することが望ましいことから,高速道路ネットワークの骨格である高規格幹線道路(計画延長約14,000km)については,すべての路線を高速道路ナンバリングの対象路線とした。また,高規格幹線道路以外の路線についても,「高規格幹線道路網を補完して地域のネットワークを形成しており,利用者にシームレスに案内されるべき路線」や「高規格幹線道路から主要な空港・港湾,観光地へのアクセスにおいて,利用者にシームレスに案内されるべき路線」については,高速道路ナンバリングの対象路線に加えた。
 
平成29年2月26日の圏央道(境古河IC〜つくば中央IC間)開通に合わせ,我が国で初めて高速道路の路線番号を表示する標識(図- 4)を設置した。
 

【図- 4 高速道路の路線番号を表示する標識レイアウト】




 
その開通式において,石井啓一国土交通大臣から,「今回の開通を契機に,この高速道路ナンバリングによる案内を全国に広げていく」旨の挨拶をいただいた。
 
その後,同年3月11日の南九州西回り自動車道(高尾野北IC〜野田IC),同月18日の京奈和自動車道(岩出根来IC〜和歌山JCT)等の開通区間においても,高速道路の路線番号を表示する標識を設置するなど,2020年(平成32年)概成に向け,全国の高速道路や接続する一般道路において,関係者の協力を得ながら,官民一体となった高速道路ナンバリングの整備を展開しているところである。
 
今後,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を目途とし,この時間制約の中で優先順位を付け,道路管理者間で連携して標識整備を行っていくべきであり,高速道路の案内を行う地図会社やカーナビゲーションメーカー等,さまざまな関係者の協力を得ながら,官民一体となって,高速道路ナンバリングの普及を進めることが望ましい。
 
 

5 おわりに

観光ビジョンは,訪日外国人旅行者数を平成32年に4,000万人,さらに平成42年には6,000万人とすること等を目標とし,観光は真に我が国の成長戦略と地方創生の大きな柱であるとの認識の下,「観光資源の魅力を極め地方創生の礎に」,「観光産業を革新し国際競争力を高め我が国の基幹産業に」,「全ての旅行者がストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」の三つの視点を柱として,観光先進国の実現を目指すものである。
 
その中で今後,本格化していく本稿で紹介した取り組みにおいては,種々の標識,地図,カーナビゲーション,関係者によるさまざまな案内等が有機的に結び付くことにより,実現されるものである。これらの取り組みを推進するにあたっては,高速道路,インターチェンジ,観光施設までの経路を意識しつつ,時代のニーズに対応し,さらに分かりやすい道案内への充実を図っていきたいと考えている。
 
 

国土交通省 道路局 企画課

 
 
 
【出典】


積算資料2017年07月号



 

最終更新日:2017-11-20

 

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