• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 農業土木 > 農業農村整備新技術の活用促進〜農業農村整備民間技術情報データベース(NNTD)の紹介〜

 

はじめに

一般社団法人 農業農村整備情報総合センター(以下「ARIC」という)では,民間企業等が開発した農業農村整備の推進に資する技術情報を広く一般に提供し,国,都道府県等事業実施団体への普及を促進することで,技術水準の向上を図り,もって農業農村整備事業の円滑な施行の確保と発展に寄与するため,「農業農村整備民間技術情報データベース」(以下「NNTD(NougyouNousonseibi Technical-information Databaseの略)」という)を運営している。
 
NNTDは,民間企業等が開発した「農業農村整備に資する技術」の情報を登録し,ウェブサイト(http://www.nn-techinfo.jp/)上で公開するもので,ARICのホームページからも接続することができる。平成29年7月現在,登録技術件数401件,ウェブサイトには平成24年2月に運営を開始してから9万7千回を超えるアクセスをいただいている。
 



図-1 当センターのHPからNNTDへのリンク(http://www.aric.or.jp
 
 

1. NNTDの位置付け

農林水産省は,土地改良法に基づき,新たな農政の方向に即し土地改良事業が計画的に実施されるよう5年を一期として「土地改良長期計画」を立て,土地改良事業の実施の目標および事業量を定めることとしている。また,土地改良長期計画の政策目標の達成に資する土地改良事業等を効果的・効率的に推進すべく,技術の開発と普及を一層促進していく観点から5年間を計画期間として「農業農村整備に関する技術開発計画」を定めている。
 
NNTDは,この技術開発計画の中で技術開発の推進に向けた取組方針の一つとしてあげられている“開発技術の活用”に資するツールとして位置づけられており,平成28年2月29日に農林水産省で開催された「食料・農業・農村政策審議会農業農村振興整備部会技術小委員会(平成27年度第1回)」配布資料においても,NNTDが掲載されている(http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/nousin/gizyutu/h27_1/pdf/siryou4.pdf)。
 
また,農林水産省が発注する設計業務の特別仕様書記載例には,設計作業の留意点として「コスト縮減に関して新技術や新工法等の選定にあたっては,NNTD等を積極的に活用しなければならない」と記載されており,設計をする際には,NNTDに登録されている技術を発注者や設計者が吟味することになっている(例:http://www.maff.go.jp/j/nousin/seko/kyotu_siyosyo/k_tokubetu/pdf/3-4.pdf)。
 
農業農村整備事業は,大規模開発から整備された財産を効率的に最大限利用していく保全事業,更新事業へと事業の範囲を拡大している。これに伴い,更新整備や補修,補強等による施設の長寿命化など,多様な新しい技術が求められている。NNTDには,工事,設計それぞれの新技術について豊富な情報を掲載するとともに,農業農村整備事業等で採用された事業地区名等を掲載しており,現場の技術者等にとって,ウェブサイト上で手軽に見ることができる有用な情報源として,重要な役割を担っている。
 
 

2. NNTDの登録技術情報の特徴

NNTD を運営するARIC は,公平・中立な立場から民間企業等が開発した技術情報をできる限り収集し,有益な形で農業農村整備事業の現場等に情報提供を行うこととしている。
 
NNTDに登録する情報は,民間企業等が開発した農業農村整備の推進に資する技術とし,技術の信頼性を確保するため,採用実績を有する技術を原則としている。なお,登録対象は新技術に限定せず,開発年を記入することとしている。
 
登録する技術分野として,土木工事,建築,機械設備,電気通信設備,調査・測量・設計のほか,施設の長寿命化対策(機能診断,補修・補強工法等),環境配慮対策,施設の維持管理,自然エネルギーの活用など,農業農村整備事業の分野全体を網羅するカテゴリーを用意している。
 
登録した技術は,素早く閲覧できるよう,ダム,ため池,頭首工,水路工,農道等の施設別の分類や,土工,コンクリート工,基礎工,地盤改良工,仮設工といった工種別に分類するなどして掲載している。また,技術情報の検索は分野別検索のほかに,フリーワード検索,条件検索(技術の目的・効果,技術区分,採用実績,特許・認証等)の3つの方法を採用し,簡単な操作で目的の技術を参照できるようになっている。検索条件に合致した技術は一覧表で画面に表示され,技術の内容(要約),登録会社名,採用実績件数,開発年などを俯瞰できるため,同種・類似の技術を比較して確認することができる。
 
登録した技術は短期間に改良されたり,新たな技術として更新されたりする場合が多い。技術情報の管理上,登録した情報の有効期間(掲載期間)は2年間としており,更新手続きを行うことにより,現場での採用実績の増加,新たな情報の追加等が適切に反映される仕組みとなっている。
 
NNTDには新着情報の新規登録や更新がなされた場合に,トップページの新着情報から速やかに内容が確認できる。また,ウェブサイトからメールマガジンの登録をすることによって,誰でも新着情報をいち早くメールで受信できるシステムを導入している(http://www.aric.or.jp/mailmagazine/index.htm)。
 
 

3. NNTDに掲載する技術資料

NNTDには,統一様式の技術概要書と添付資料を登録している。
 
技術概要書には,開発年,開発者,技術の特徴,適用範囲,積算参考情報,特許情報,連絡先,サポート体制,図表・写真,採用実績,技術情報が閲覧できるURLなど,行政機関側が求める情報をできるだけ網羅して掲載している。統一様式のため,データベース内に同種・類似の技術がある場合,内容の比較がし易くなっている。また,採用実績には,発注者,施工年度,施工場所(都道府県名),工事件名,実績報文の有無などが示されている。
 
添付資料には,登録企業等が独自に作成したカタログ,パンフレット,動画,機関誌等へ投稿した文献,単価,歩掛,設計・施工マニュアル等の掲載も可能となっている。NNTDでは,これらの資料が,自由に閲覧できるので,農業農村整備事業に携わる技術者が現場で直接目にすることができる。また,登録企業等にとっては,自信のある技術のPRがNNTDを通じて容易にすることができる。
 

図-2 技術概要書




 
 

4. 技術登録の流れ

開発された技術をNNTDに登録いただく手順は以下のとおりである。
 
①NNTDトップページの「技術情報の登録をご検討の方」をクリック。
 
②「登録要領」を熟読し,必要な様式をダウンロードして記入する。また,登録技術に関するカタログ,パンフレット,論文,紹介動画,単価,歩掛,設計施工マニュアルなどの添付資料を併せて掲載したい場合は,それらの資料を電子データで準備する。
 
● 登録申請書【必須】(更新の場合は更新申請書)
● 技術概要書【必須】
● 採用実績一覧表【必須】
● 添付資料一覧表【必須】
● 添付資料【任意】(PDFファイル。動画の添付をご希望の際は,個別に相談)
 
③上記②で記載した資料一式を,ARIC担当あてにメールで送信またはCD等で郵送する。
(記載方法が不明な場合は,同ページにある記載要領を参照するか,ARIC担当者まで問い合わせする)
 
④送信または郵送していただいた資料をARIC 担当者が確認する(確認後,ARICより返信のメールまたは電話を差し上げる。確認内容は記載様式に関することが中心)。
 
⑤通常,申請から2週間程度でNNTDに登録が完了する(記載様式の不備等があった場合は,修正をお願いすることがある)。
 
⑥登録もしくは更新された技術は,多くの方の目に触れるよう,ARICウェブサイトのトップページの「新着情報」で速やかに情報共有する。また,ARICメールマガジンに登録されている方々に新技術として紹介メールが送信される。
 
 

5. NNTDの活用状況と今後の展開

NNTDの登録技術件数は,平成24年2月の運用開始時に約220件であったものが,毎年20〜50件程度のペースで増加し,平成29年7月現在の登録件数は401件となっている。また,ウェブサイトへのアクセス数は毎年1.5万〜2万回程度のアクセスをいただいている。
 

図-3 ウェブサイトへのアクセス数




 
 
NNTDに登録されている技術は,土木工事に関係する技術が最も多く,土木工事(施設別)の内訳としては,水路工226件,農道99件,ため池44件,海岸・河川,干拓40件,頭首工38件,ダム34件(重複有り)の順に登録件数が多い。
 

図-4 土木工事(施設別)の技術登録状況




 
 
また,工種別に登録されている土木技術について,その内訳を見ると法面工・擁壁工75件,コンクリート工30件,石・ブロック積(張)工27件(重複有り)の順に登録件数が多い。
 

図-5 土木工事(工種別)の技術登録状況




 
 
技術分野としては,環境配慮対策(生態系保全,景観保全,水質保全等)に関係する技術が86件,施設の長寿命化対策(コンクリート補修工法)に関係する技術が84件と登録件数が多い。これは,農業農村整備事業を取り巻く環境として,
 
①平成13年度の土地改良法改正により,環境との調和への配慮が事業実施の原則として位置付けられたことを受け,自然と共生する環境創造型事業への転換を図るためのさまざまな取組が行われていること
 
②基幹的農業水利施設の多くは戦後の食糧増産時代から高度経済成長期にかけて整備されており,標準耐用年数を迎える施設が急速に増加してきていることから,限られた財源で効率的に施設機能を維持していくため,施設の有効活用や長寿命化を図り,ライフサイクルコストの低減を図る必要があること
 
などが挙げられ,これらの課題(ニーズ)に対応した技術開発が民間企業等において進められ,NNTDに登録されている結果を示していると考えられる。
 
このように,NNTDは行政と民間企業等の情報交流の場として重要な役割を担っており,今後,人口減少,少子高齢化の進行等,農業・農村を取り巻く更なる情勢の変化,情報通信技術(ICT)の急速な発展や気候変動等に伴う災害リスクの健在化といったことを踏まえると,農業農村整備事業において更にさまざまな技術が必要とされ,官民の情報交流のツールとしてNNTDの重要性が増していくと考えられる。
 
 

おわりに

現在,耐用年数を超える基幹的農業水利施設の数がピークに達しようとするなかで,高齢化の進行等に伴い農業の担い手不足が一層深刻化しており,農業水利施設の機能保全対策のみならず,農業の効率化を促進する担い手への農地の集積や集団化,農業経営の規模拡大などの取組が急務であり,農業農村整備事業に多様な技術を効率的に運用できる仕組みが求められる。
 
ARIC では,NNTD への農業農村整備事業に有用な技術の登録を充実させるとともに,NNTDが農業農村整備事業に関わる多くの技術者にとって分かりやすく,必要不可欠なツールとなるよう更なる改善や普及啓発に努めてまいりたい。
 
 

一般社団法人 農業農村整備情報総合センター 研究第1 部
島尾 武文,中司 昇吾,河野 研市,衣袋 武郎

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年09月号


 
 

最終更新日:2023-07-10

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品