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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 青森県の橋梁アセットマネジメント 〜トータルマネジメントシステムによる橋梁維持管理〜

 

1. はじめに

青森県では長期的な視点から橋梁を効率的・効果的に管理し,維持更新コストの最小化・平準化を図る取り組みとして,平成16年度より全国に先駆けて橋梁アセットマネジメントシステムを構築し,平成18年3月には,5カ年のアクションプラン(平成18〜22年度)を策定し,現在は平成29年5月に策定した第三次青森県橋梁長寿命化修繕計画に基づき事業を実施しています。
 
本稿では平成18年度から現在まで継続してきた本県の橋梁アセットマネジメントの取り組みについて紹介させていただきます。
 
 

2. 取り組みの背景

①大量更新時代の到来
橋梁アセットマネジメント導入を検討した平成16年当時,本県では,720橋(橋長15m以上)の橋梁を管理しており,その多くが高度経済成長期後期に建設されたものであることから,将来的な大量更新時代の到来が予測されました(図- 1)。
 

【図- 1 橋長15m以上の橋梁供用年の分布】




 
②劣化を促進する厳しい気候
青森県は本州の最北端に位置し,中央には陸奥湾を抱き,北に津軽海峡,東に太平洋,西に日本海と三方を海に囲まれており,日本有数の豪雪地帯でもあります(図- 2)。
 

【図- 2 青森県の積雪地域と凍結地域】




 
冬期には,日本海側では冷たく湿った季節風が吹き,沿岸部では海から飛来する塩分によりコンクリート構造物の中に塩分が浸透して鋼材を腐食させる塩害が見られます。
 
また,奥羽山脈西側では積雪が多いことから凍結防止剤が散布され,その影響による塩害や,太平洋側では乾燥した冷たい空気が吹きつけてコンクリートの中の水分が凍って膨張し,コンクリートを破壊させる凍害を引き起こすなど,橋梁にとっては非常に厳しい環境にあります(図- 3)。
 

【図- 3 青森県の日本海側と太平洋側の気候】




 
③緊迫財政
一方で維持管理費は年間約5,000万円程度と,場当たり的な補修を余儀なくされており,平成14年度に策定された財政改革プランにより,投資的経費は平成20年度には平成15年度比の40%削減が見込まれ,維持管理費がさらに不足することが予想されました。
 
大量更新時代の到来,橋梁にとっての厳しい環境,緊迫した財政の中で,道路ネットワークを維持し,県民の安全・安心な生活を確保するためには,これまでの事後保全型の管理から予防保全型の管理へシフトし,維持管理費用を最小化・平準化する必要がありました。
 
 

3. 青森県のアセットマネジメントの特色

定期点検,ライフサイクルコスト算定(以下,LCC算定),中長期予算計画の策定などを支援するITシステムとして開発した「青森県橋梁アセットマネジメント支援システム(以下,BMS)」と,橋梁アセットマネジメントを運営するためのマニュアル類,マネジメントを運営する県職員の意識向上,点検や維持修繕を担う県内業者のスキルアップなど,「もの(ITシステム)」「ひと(人材育成)」「しくみ(マニュアル等)」からなるトータルマネジメントシステムとなっています(図-4)。
 

【図- 4 トータルマネジメントシステム】




 
 

4. もの(ITシステム)

橋梁は,架けられた年代や環境条件により,それぞれ現状が異なります。
 
BMSは,定期点検で収集したそれぞれの劣化・損傷のデータや道路ネットワークにおける役割(緊急輸送路指定等)などの現状を反映し,維持管理手法・維持管理水準を選定するとともに劣化予測に基づくLCC算定を行い,その最小化や平準化を図り,県全体の維持管理・更新コストの大幅な削減の実現をサポートするシステムです。
 
当時,このシステムは青森県橋梁アセットマネジメント支援システム(AMSS)として開発されたものですが,県独自のものとはせず,現在は汎用品(BMStar)として,マニュアル類も含め広く普及展開しており,青森県内の市町村のほか,他自治体やコンサルタントにおいても導入・運用されています。
 
①橋梁のグループ分け
ITシステムの内容の紹介の前に,本県では橋梁を二つのグループに分けて管理していることを説明させていただきます。
 
表- 1のように橋長2m以上の橋梁2,269橋については,構造区分によってA・Bの2グループに分類しています。
 

【表- 1 Aグループ橋梁とB グループ橋梁】




 
規模が大きく補修工事や更新のコストが大きくなるAグループ橋梁では,劣化予測に基づく劣化予測・LCC評価を行うなど,より高度な維持管理手法を適用してLCC最小化を目指します。
 
また,小規模・単純構造で維持管理・更新が比較的容易なBグループ橋梁では,定期点検や日常点検などによって把握した劣化・損傷に対して計画的に維持管理・更新を行うことを基本とします。
 
以下に②定期点検〜⑥予算シミュレーションまでのAグループ橋梁について紹介します。
 
②定期点検
定期点検においては,現地でタブレット型PCに直接,点検結果を入力することから,従来の現地で紙へ記録したものを事務所に戻り再度データとして入力する場合に比べて作業効率を大幅に向上させています(図- 5)。
 

【図- 5 点検支援システム】




 
また,写真については命名規則に従ったファイル名を付与することで,自動的に点検様式に貼り付けられる仕組みとなっており,点検様式への直接的な入力は発生しません。
 
点検・健全度の判定は要素単位(図- 6)で行っており,端支点部は伸縮装置部分からの漏水等の影響による劣化速度の違いにより,端支点部のみ対策するケースも想定されるため,端支点部1mを独立した要素として取り扱っております。
 

【図- 6 主桁の要素の例】




 
横構・対傾構で仕切られた部分を要素として,さらに桁端部から1mを要素として切り分けて番号に「e」を付して区別します。
 
健全度評価基準は,土木学会コンクリート標準示方書(維持管理編)の劣化過程を参考に,潜伏期,進展期,加速期前期,加速期後期,劣化期の5段階評価手法を採用し,部材および劣化の要因ごとに健全度の評価基準を設定しています(表-2)。
 

【表- 2 5段階の健全度評価(塩害によるRC部材の場合)】




 
現地では,タブレット型PCに内蔵された「橋梁点検ハンドブック」に掲載されている写真と健全度評価の例と橋梁を見比べながら診断します(図- 7)。
 

【図- 7 橋梁点検ハンドブック】




 
BMSにはマニュアルにより実施した5段階の診断を,法定点検の4段階(Ⅰ〜Ⅴ)へ置き換える機能や,法定点検の点検表記録様式の自動作成の機能もあります。
 
③劣化予測
劣化予測は,部材,材質,仕様,劣化機構,環境条件ごとに劣化予測モデル式を構築し,点検した結果,劣化の進行がモデル式どおりではない場合は,劣化予測モデル式を自動修正し,点検結果を反映させることで,劣化予測の精度を向上させています(図- 8)。
 

【図- 8 劣化予測式の自動修正】




 
④LCC 算定に必要なデータベース
LCC算定に必要な劣化予測モデル式は部材の種類・劣化機構ごとに全部で110種類設定しているほか,管理水準,劣化機構別に設定した201種類の対策工法・コスト,対策後の回復健全度をデータベースとして用意しています。
 
⑤維持管理シナリオ
維持管理シナリオとは,橋梁を構成する部材ごとに管理目標を達成するための管理水準を定めてパッケージ化したものです。道路ネットワーク管理上,橋梁の重要度を反映させることは重要であり,これを維持管理シナリオの選択により実現しています(図- 9)。
 

【図- 9 維持管理シナリオ】




 
長寿命化シナリオの種類は,「予防対策型」「早期対策型」「事後対策型」の三つに分類し,選定されたシナリオに従い,健全度が管理水準まで低下したら,あらかじめ選定された補修対策を実施するという形でLCCを算定します。
 
更新シナリオは主要部材の劣化・損傷が著しく進行している老朽橋梁や,日本海側に多く見られるような塩害の進行が著しい重度の劣化橋梁は,高価な補修工事を繰り返すよりも架け替える方が経済的となる場合があります。これらの条件に当てはまる橋梁については,LCC評価と詳細調査によって更新した方がコスト的に有利と判断される場合は,更新シナリオを選定します。「橋梁全体更新」「上部工更新」「床版更新」の三つに分類し,長寿命化シナリオとは別枠で更新費用を計画します。
 
シナリオ(A1),(A2)は予防保全主体の維持管理となり,管理水準を高いレベルに設定し,短いタイムスパンで軽微な補修工事を繰り返すことになります。
 
例えば渓谷をまたぐ橋梁は,仮橋の設置など架け替えが環境的・技術的に非常に困難であることから,永久架橋を目指す戦略的対策シナリオ(A1)を選定します。
 
また,大河川や大峡谷に架設されている超長大橋梁(橋長200m以上)についても,架け替えに際して莫大な費用が発生するために,永久架橋を目指す戦略的対策シナリオ(A1)を基本に選定します。
 
シナリオ(B1),(B2)は早期対策主体の維持管理となり,従前の「壊れてから直す」よりも高い管理水準を設定し,比較的規模の小さい補修工事を実施することになります。
 
シナリオ(C1),(C2)は従前の「壊れてから直す」事後対策の管理水準を設定し,長いタイムスパンで比較的大規模な補修工事を実施することになります。
 
シナリオと対策時期の関係は(表- 3)を例として挙げると,(A1)シナリオは健全度4という早い段階での対策を行い,(C2)シナリオは健全度1(法定点検での判定区分に置き換えるとⅣ)の段階で対策するものとなっています。
 

【表- 3 維持管理シナリオ別対策工法リストの例】




 
更新シナリオでは,構造安全性が確保できなくなった時点で更新を行い,更新後はそれ以降のLCCを最小とするために予防保全主体の維持管理(A2と同じ)を行うことになります。
 
⑥予算シミュレーション
橋梁ごとに維持管理シナリオを設定しますが,重要度が下位の橋梁に関しては,複数の維持管理シナリオを設定し,予算を平準化させるため,LCCの増加が少ない橋梁を選んでシナリオを変更して調整します(図- 10)。
 

【図- 10 平準化のイメージ】




 
 

5. ひと(人材育成)

①職員の技術力向上
橋梁アセットマネジメントを実践するためには,橋梁の状態を把握し,適切な工法による長寿命化が必要ですが,最終的な判断は現場の担当職員に委ねられます。
 
また,橋梁アセットマネジメントの取り組みを継続し続けていくためには,担当職員の橋梁アセットマネジメントへの理解が欠かすことのできない要素です。これらの技術・理解を習得するために,点検研修・設計研修など各種研修を年に5
回実施して職員の技術力向上を図っています。この研修は県だけではなく市町村の担当者にも参加いただいております(写真- 1)。
 

【写真- 1 橋梁設計研修】




 
②受注者の技術力向上
実際に点検・施工を担う建設コンサルタントや建設会社についても,橋梁アセットマネジメントや最新工法の理解など技術力の維持・向上が必要となることから,建設コンサルタントや建設会社を対象とした研修も実施しています。
 
橋梁の状態を正確に把握することがマネジメントを実践する上で必要不可欠となるため,橋梁定期点検を実施するコンサルタントに対し,その修了を点検受注の条件とする橋梁点検技術研修を実施しています(写真- 2)。
 

【写真- 2 橋梁点検技術研修】




 
また,適切な補修を計画しても,適正な施工が行われなければ,その効果を最大限発揮することはできないため,主に補修工事を受注する県内の建設会社に補修技術研修を行い,技術力の向上に取り組んでいます。
 
 

6. しくみ(マニュアル等)

①基本計画,マニュアルに基づく統一的な運用
橋梁アセットマネジメントは,県の関係する部局全体で統一的・継続的な取り組みを行う必要があります。
 
このため,橋梁アセットマネジメントの基本的な方針や手法を定めた「橋梁アセットマネジメント基本計画」や,具体的な運用や点検・対策方法等を定めた「橋梁アセットマネジメント運用マニュアル(案)」等を策定しています。
 
②点検と工事を包括発注
橋梁を健全な状態に保ち長寿命化を図るためには,日常の管理を充実させ,劣化や損傷の原因を早期に発見し早期に取り除くことが効果的です。
 
そこで,本県の橋梁アセットマネジメントでは,維持管理業務を「日常管理(日常点検・清掃・維持工事・緊急措置・小規模工事・追跡調査)」「計画管理(定期点検・対策工事)」「異常時管理(異常時点検・緊急措置)」として体系化し,早期発見・早期対策の効果が高い日常管理業務では,地域県民局単位で包括して発注する効率的な維持管理を実施しています(図-11)。
 

【図- 11 日常管理業務の包括発注】




 
 

7. 予防保全により見込まれる効果

計画的更新橋梁と長寿命化橋梁を区分し,予防保全型維持管理を中心とした効率的な修繕計画を継続的に実施することにより,従来の事後保全型維持管理と比較し,50年間でAグループ橋梁は1,860億円,B グループ橋梁は101億円,合計1,961億円のコスト縮減を図ることが可能であると試算しております(図- 12,13)。
 

【図- 12 Aグループ橋梁のコスト縮減効果】

【図- 13 Bグループ橋梁のコスト縮減効果】




 
 

8. おわりに

今回ご紹介させていただいた橋梁の維持管理システムは,これまでの実績が評価され,第1回「インフラメンテナンス大賞」(平成29年4月実施)の国土交通省案件で優秀賞を受賞いたしました。今後も,県民の安全・安心な生活の確保に向け,公共構造物の永続的な資産管理に取り組んでいく所存です。
 
 

青森県 県土整備部 道路課 主査 壬生 信一(みぶ しんいち)

 
 
 
【出典】


積算資料2017年10月号



 

最終更新日:2018-01-10

 

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