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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 軟弱地盤・液状化対策 > 埼玉県久喜市における液状化対策

 

1. はじめに

東日本大震災では,未曾有の被害をもたらしました。中でも液状化被害は,過去最大規模で発生し,震源から遠く離れた関東地方などの広範囲において甚大な被害をもたらしました。
 
埼玉県の東北部に位置する本市の南栗橋地区においても液状化が発生し,住宅の傾きなどの被害を受けました。(図-1)
 

位置図

図-1 被害の見られた箇所




 
 

2. 土地概要および被害状況

この南栗橋地区は,東武日光線南栗橋駅を中心とした豊田土地区画整理事業により誕生した面積141.5ha,人口約7,000人のまちです。
 

豊田土地区画整理事業概要




 
東日本大震災による被害面積は,全体で約9.9ha,このうち南栗橋駅の西側に位置する南栗橋4丁目から12丁目の住宅地約2.6haにおいて液状化被害が発生しました。
 
なかでも,住宅では,全壊11件,大規模半壊41件,半壊54件,一部破損71件の被害を受け,ライフラインでは,道路21路線,延長1,470mにわたり隆起や道路側溝の破損,上下水道では約130戸から140戸が断水し,上下水道管の一部破損などの被害を受けました。
 
 

3. 久喜市液状化対策の検討

被害を受け,市では,当該地区における液状化の発生原因を究明するため,震災直後から,地質調査等の調査を開始しました。
 
<被害の様子>
 

電柱が傾き亀裂から墳砂した道路

電柱や住宅の傾きが多く見られた地域




 

住宅が沈下して斜めになった濡れ縁

墳砂した様子(公園内)




 

大量の墳砂により沈み込んだブロック塀

墳砂した様子




 
その後,平成24年5月から建築や土木などの大学教授ら専門家により構成する久喜市液状化対策検討委員会(以下,検討委員会という)を設置し,地盤の液状化発生原因の究明や再液状化防止に有効な工法について検討しました。
 
地質調査の結果によると,当該地区では,造成に用いた砂(Bs層)が約3mから約5m程度堆積し,砂の性質を調査したところ,液状化の起きやすい砂の性質と似ており,加えて,地下水位が高く(地表面から0.65m〜1.65m下の位置),液状化しやすい砂層が地下水位より下にあることが分かりました。(図-2)
 

図-2 地質調査結果




 
さらに,検討委員会では,このような地質調査などにより判明した当該地区の特徴にあった再液状化の防止に有効な工法の検討を行いました。
 
検討にあたっては,当該地区の特徴の一つでもある住宅が建ち並んでいる中で施工可能であること,液状化対策工事に要する費用が少ないことなどを選定条件として工法を検討いたしました。
 
その結果,当該地区の再液状化の防止に有効な工法は,「地下水位低下工法」が有効であることが判明しました。
 

◆地下水位低下工法のイメージ図




 
そもそも,液状化の発生原因は,地下水位以下に砂の層があり,そこへ強くて長い揺れが加わることにより液状化が発生するとされており,地下水が高いほど液状化のリスクは高まります。
 
この地下水位低下工法は,道路に埋設した穴のあいたパイプ(排水構)へ地下水を流れ込ませて,河川や水路などに排出し,地区全体の水位を下げ,液状化しない層を増やすことで液状化による被害を抑制する工法です。
 

◆標準的な排水溝の断面図




 
この工法のメリットは,道路などの公共施設と住宅の建ち並ぶ宅地部分で一体的に対策を行うことができ,工事費や維持管理費など費用を抑制することができるものです。
 
しかし,一方では,地下水位が低下したことにより地盤の圧密沈下が懸念されます。
 
このため,工法の地区への適用性や安全性を確認するため,実証実験を実施しました。
 
 

3-1 地下水位低下工法の実証実験

地下水位低下工法の適用性や安全性を確認するため,南栗橋スポーツ広場内において,実証実験を行いました。
 
この実験では,「排水構工法エリア」と「井戸工法エリア」に分けて,次の内容を確認しました。「排水構工法エリア」…排水構(図-3)を設置したことにより,どの範囲でどの程度の地下水位を下げられるかを確認。
 
「井戸工法エリア」…小口径の井戸(図-4)を設置し,水位を低下させたことによって,どの程度沈下するのかを確認。
 

実証実験概要




 
実験の結果,地表面から3mの位置の排水溝で地下水位を抜いた場合,約20mの位置で約1m地下水位が低下することが確認できました。
 
このことにより,約40m間隔で排水構を設置すれば効果が得られ,当該地域においては,道路部分に排水構を設置することで,地下水位低下が期待できるものとなりました。
 
一方,懸念される地盤沈下については,地下水が低下し,地盤の浮力が減少したことによる荷重の増大から沈下が計測されましたが,家屋の使用に影響を及ぼすような傾斜が生じないことを確認することができました。
 
 

4. 液状化対策区域の決定

地質調査等の調査結果や,実証実験結果などを踏まえ,「地下水位低下工法」による液状化対策を実施することとしました。
 
対策区域については,土地造成の経緯,被害状況,地質調査等の調査結果,市街地液状化対策推進ガイダンスに基づく液状化判定に基づき決定しました。
 
その結果,南栗橋4丁目から12丁目までの一部,約36.6haとしました。(図-5)
 

図-5 対策区域図




 
 

5. 現状と今後

対策区域内において,関係権利者の皆様から同意を得られたことから,平成27年9月に工事を発注し,平成29年9月末に工事が完了しました。
 
工事は,対象区域内のほとんどの道路に排水管を埋設しており,その延長は,約12kmに及びます。
 
工事の方法といたしましては,道路面から約3m下の位置に,地下水位を低下させるための排水管を埋設しております。
 
また,この排水管に集まった地下水を近くの水路に排水するためにポンプを設置しました。
 
今後は,国の市街地液状化対策推進ガイダンスに基づき,地下水位低下の状況や地盤沈下の状況についてモニタリングを実施し,対策の効果および対策を行ったことによる影響について検証してまいります。
 
今後も久喜市では,被災を受けられた皆様がかつての活気を取り戻し,1日でも早く安心して住み続けられますよう,取り組んでまいります。
 
 

埼玉県久喜市 建設部都市整備課

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年10月号


 
 

最終更新日:2023-07-10

 

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