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ホーム > 建設情報クリップ > 土木施工単価 > 水資源機構の新技術活用の取り組み~i-Construction & Management~

 

1. はじめに

現在,建設工事の現場では,建設労働者の不足や技術・ノウハウの継承といった多くの課題に直面しています。これを解決するための手段の一つとして,大きなイノベーションが起きつつあります。それが「i-Construction」と呼ばれる取り組みです。ドローン(遠隔操作,自律飛行が可能な無人航空機),ROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操作無人機),ICT(Information and CommunicationTechnology:情報通信技術),IoT(Internet ofThings:物のインターネット)をはじめとする革新的技術の工事現場への導入が進められています。i-Constructionの推進により,建設工事の生産性を高め,魅力的な建設現場を創出することが期待されています。他の機関と同じく,水資源機構においても,こうした技術的潮流の変化を的確にとらえ,i-Constructionを推進しています。
 
水資源機構は,これまで建設事業を主体とする組織でしたが,近年では管理業務が主体の組織へとシフトしつつあります。水資源機構の業務の軸足が移り行く中で,高度経済成長期に建設したダム,水路などは完成後半世紀以上が経過しようとしていて,老朽化への対応にも迫られています。
 
このような現状を踏まえ,管理業務における新技術導入の取り組みが重要と考え,前述したi-Construction に加えて,「i-Management」に力を注いでいます。例えば,管理操作のしやすい方法,操作ミスを抑止する方法,予防保全による機器のマネジメントなどについて調査・研究し,改善を図っていくことが重要と考えています。この独自の取り組みを「i-Construction &Management」と名付けて,積極的に展開しています。本稿では,特にi-Management に関する取り組みについて詳しく紹介します。
 
 

2. 新技術の活用事例

(1)ドローン,ROVの活用事例

①調査・点検へのドローンの活用
遠隔操作,自律飛行が可能な小型UAV(UnmannedAerial Vehicle:無人航空機)を「ドローン」と呼んでいます。飛行時の安定性に優れた機体技術の開発により,ここ数年で急速に普及しました。災害調査や土木分野のみならず,社会生活に関わる多方面で利用されています。
 
様々な方向,角度からの映像情報を安全に取得できるドローンは,道路のない場所や急傾斜地など人が容易に立ち入れない場合に有効です。貯水池全域など広範囲を対象とする場合には,搭載する電池容量の制約からやや不向きとも言えますが,水資源機構では容易に空中撮影できるという特徴を活かして,業務に活用しています。
 
<法面対策工の初期点検>
施工後20年以上経過した法面対策工(グラウンドアンカー工・法枠工)では,経年的な劣化が一部で進行しています。
 

【写真-1 点検対象の法面対策工】




 
既存の法面対策工の緊急対策や詳細な健全性調査の必要性を評価するための前段となる初期点検へのドローンの適用性を検討しました。試行の結果,アンカー頭部のコンクリートブロックや法枠の劣化状況の有無や程度などの把握に十分な画像を取得することができました。
 

【図-1 ドローンによる撮影画像】




 
また,調査の条件にもよりますが,従来方法と比べてコスト縮減に寄与することが期待できます。
 
<ロックフィルダム堤体表面部の現況調査>
一般に,ロックフィルダムの堤体表面を保護する岩石であるリップラップ材は,波浪浸食や堤体材料の風化を防止する表面保護材としての機能が求められます。岩屋ダムでは,ドローンによる撮影画像からリップラップ材の粒度分布を算定し,現況を評価したところ,堤体表面の保護材としての健全性が確認できました。調査結果の一例を示します。
 

【図-2 粒度分析結果】




 
<ダム貯水池周辺の調査>
ダム貯水池周辺の不安定化した斜面に関する現地踏査は,状況によっては多大な危険を伴います。徳山ダムでは,堤体から約11km上流にある不安定化した斜面において,ドローンによる概略調査を試みました。
 

【写真-2 不安定化した斜面状況】




 
その結果,遠方からの目視では確認できなかった広範囲で俯瞰的な情報や,危険で人が近づくことができなかった箇所の詳しい情報を得ることができました。ドローンによる概略調査と人による現地踏査を併用することにより,さらなる斜面の不安定化リスクがある範囲を高精度に見積もることができました。
 
また,徳山ダムでは,貯水池への土砂や濁水の流入抑制を目的として,ダム貯水池に沿って設置する樹林帯と呼ばれる帯状の湖畔林を整備しています。これをドローンにより空中から撮影し,撮影画像をもとに作成した樹林帯の植生図を用いて,今後の樹林帯の維持管理に活用したいと考えています。
 

【図-3 樹林帯の撮影画像】




 

【図-4 植生図】




 
②水中作業へのROVの活用
建設年代が古いものを中心に,修理用ゲートを有していないダムにおける利水放流設備(ゲート,バルブ等)の補修・更新が喫緊の課題となっています。このような場合,貯水池側から利水放流設備への水の流入を防ぐため,止水蓋を設置すること,あるいは貯水位を低下させることが必要となります。
 
水資源機構では,民間企業と共同で,利水放流設備の呑口(放流管,充水管)に止水蓋の設置・撤去作業をROVの遠隔操作で行える施工技術を開発し,平成28年8月に特許を取得しました。この技術開発により,貯水位の低下操作や潜水士による水中作業が不要となります。
 

【写真-3 止水蓋とともに推進するROV】




 

【図-5 従来工法とROVを用いた新工法の違い】




 

(2)ICTの活用

①HMDの活用
双方向通信やカメラ機能付きHMD(Head Mounted Display:頭部装着ディスプレイ)の活用も進んでいます。琵琶湖開発事業では,琵琶湖一円に点在する排水機場の故障・不具合が発生した場合に,遠隔地から現場の状況を把握した上で技術サポートを可能とするシステムを導入しています。これにより,例えば,技術的な専門知識を持たない職員であっても,最低限の不具合に対応できるようになりました。今後は,復旧作業の確実性,安全性,迅速性のさらなる向上を目指します。
 
なお,HMDのダムにおける防災業務への活用については,現在,徳山ダムにおいて検討を行っているところであり,平成29年度より試行運用しています。
 

【写真-4 HMDを用いた遠隔作業支援】




 
②AR を活用した操作手順のナビゲーション
排水機場の運転操作については手順が定型化されています。そこで,琵琶湖開発事業では,画像・音声を電子化し,AR(AugmentedReality:拡張現実)を利用して操作手順をナビゲートするシステムを導入しました。これは,設備を管理するために必要となる操作のノウハウを標準的な手順としてシナリオ化することにより,操作に慣れていない職員の支援を図るものです。具体的には,操作現場にあらかじめ貼り付けたARマーカーや操作盤の銘板など操作箇所の特徴点をタブレット端末のカメラ機能を使って読み込むと,シナリオ化した操作手順の画像・音声がタブレット端末に表示されます。
 

【写真-5 タブレット端末でARを認識させる様子】




 

【写真-6 ARによりタブレット端末に表示された操作手順】




 
操作記録は,タブレット端末に入力するとクラウドサーバに保存・管理されて自動的に帳票化することができます。これまでは,まず現場で操作記録を紙に記入し,事務所に戻ってからこれを電子データとして入力していたので,文字起こしの手間を省くことができるようになりました。また,設備の異常などにより決められた操作手順とは異なる操作結果が入力された場合には,不具合対応に移行するよう工夫をしています。
 
このシステムの導入により,管理所の全職員が,職種を問わず,安全に迅速かつ的確な運転操作をできるようになることを目指します。
 
③機械設備管理支援システム
早明浦ダム,池田ダム,新宮ダム,富郷ダムを総合管理する池田総合管理所では,機械設備の保全を効率化するとともに,経験の浅い職員に対するサポートを視野に入れて,機械設備管理支援システムを導入しました。
 
このシステムでは,遠隔地にあるダムの現場と総合管理所のタブレット端末同士で同時に次のことを行えることから,より迅速で,より正確な情報共有が可能となっています。
 
 
このシステムでは市販のWEBアプリを採用したことから,導入費用を低く抑えることができました。WEBアプリは,点検表などのエクセルで作成したデータをタブレット端末のインターネットブラウザ上で表示できるように変換する機能,プルダウンメニューから選択する機能や文字入力する機能などを有しています。
 

【表-1 機械設備管理支援システムの特徴】




 
タブレット端末から入力したデータは,入力がされ次第,他のタブレット端末からも閲覧ができ,即時に情報共有が図られます。山間部やダム堤体内のように電波が届かない場所では,データをタブレット端末に一時保存することにより,情報を入力し,電波が届く場所に戻ったら自動的に同期することができます。
 
なお,池田総合管理所を管轄する関西・吉野川支社吉野川本部では,平成29年度以降この取り組みを管内全域に展開する予定です。
 
 

(3)IoT関連の新たな試行

①水路関連施設の状態監視
房総導水路事業では,点検業務の省力化,状態監視の強化,将来的な施設の劣化診断への準備を目的に,センサーなどを利用して,常時稼働する横芝揚水機場のポンプ設備の状態(加速度,振幅等)のリアルタイム監視を試行します。
 
これにより期待される効果としては,設備故障の未然防止,異常対応の迅速化,巡視点検や定期点検業務における計測作業の省力化があります。将来的には劣化診断への展開も考えています。
 
これまでの取り組みとしては,点検項目の見直しを行い,センサーによる監視項目を選定しました。今後はポンプ設備の更新に合わせて,新たな監視システムを導入していく予定です。
 
②ロックフィルダム付帯設備の状態監視
現在建設中の小石原川ダムでは,取水設備・利水放流設備の開閉装置において,設備管理の指標となる温度,振動,電圧,電流などの値を自動で計測する状態監視に取り組んでいきます。
 
これにより,機器の状態を定量的に判断する機器の劣化診断,記録作業での人為的な記載誤り・読み値のばらつきを排除するなど維持管理の効率化,熟練作業者以外の職員に対する運転操作・故障復旧の支援を図っていく予定です。
 
 

3. おわりに

水資源機構は,従来からICTツールなどを試行的に取り入れながら,業務の一層の効率化に取り組んできました。
 
今般,そのような先進的な取り組みをi-Construction&Managementの中に改めて位置づけて,これまで一部の事務所でのみ試行していた取り組みの水平展開を図るなど,今後は全社的にその積極的な推進に努めていきます。
 
ここでご紹介した新しい技術の活用事例は取り組みのほんの一例であり,例えば,AI(Artifi cial Intelligence:人工知能)によるデータ分析などの最新技術の動向に目を向けて,良いものを積極的に取り入れながら,今後も業務のさらなる効率化を図ってまいります。
 
 

独立行政法人水資源機構

 
 
 
【出典】


土木施工単価2017秋号



 

最終更新日:2018-02-07

 

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