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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 新しいけれど懐かしい都市の風景をつくる─市街地木質化の可能性 秋田における市街地木質化事例(産学官での取り組み)について

 

はじめに

2000年の建築基準法の改正により法規的には素材による建築の制限は撤廃され,構造性能と耐火性能を確保さえすれば,どこにでもどんな建物でも木造で建てることができるようになった。そのことは今では世間に広く知れ渡ったようで,技術開発も進み,中大規模木造の実例も日本中で増えつつあるし,建築メディアではひっきりなしに木造特集が組まれるようになり,木造が建築の選択肢の一つになり得ると考える建築関係者が増えてきたようだ。基準法改正以降,「都市木造」というキーワードを掲げて,非住宅の木造建築の可能性を模索し,「新しいけれど懐かしい風景」という都市景観のイメージをヴィジョンとして社会に問うてきた〈team Timberize〉の活動が報われつつあるように,昨今の状況から感じている。さらに都市木造を今後普及していくためには,越えなければならないハードルがまだまだ存在しているのも事実である。設計,材料,構造,防耐火,工法,流通,コストなど,各方面のそれぞれの技術開発だけでなく,建築に関わる様々な問題を俯瞰し,総合的に整理し,いかに普及させていくか,多くの人に一般解として認知してもらえるようにするかが重要である。下馬の集合住宅(写真−1)など,耐火技術などにより法規をクリアして都市木造を実現し実例を社会に示していくことが,都市木造普及の第1段階だとすれば,都市木造の世界は第2段階のフェーズに入ったといえるだろう。
 

写真−1 下馬の集合住宅




 
一方,「新しいけれど懐かしい」都市の風景を実現する方法は都市木造だけではない。建築で木造が長い間制限されていたのと同じく,市街地での木材利用は,耐久性や防火性を理由に長い間避けられてきた。しかし,国内の森林資源の活用,木材需要拡大という視点で考えても,地域木材の需要を今まで利用されていなかった市街地に求めることは重要である。その際大切なのは,市民に木の良さを実感してもらえるような形で木材を使っていくことである。一見当たり前のことであるが,これまでの市街地での木材利用においては,地域木材を何m3使用したかなど,木材使用量を競いアピールするようなものが多かったように思う。重要なのは木材の量ではなく,そこに居る人々を含めた風景がどのように変わったかであろう。市街地で人が集まる場を木でつくること。そこにも「新しいけれど懐かしい」都市の風景が現れるのではないだろうか。
 
 

1. Timberize AKITA 〜 官学による実証研究プロジェクト

平成26年度に秋田県の研究助成を受けて「市街地木質化実証モデル事業」という,地域木材の将来的な利用促進を図るために,現状の木質・木造建築技術のレベルや,木材の可能性を広く一般市民に普及することを目的としたプロジェクトを行った。街の真のオーナーはその街の市民である。市街地の木質・木造化を実現するには,木造建築や木材についての正しい情報を専門家ではない一般の市民が持ち,そうした未来の街づくりに興味を持ってもらう必要がある。そうした社会の機運を高めることを目指して行ったプロジェクトは,以下の3つである。
 

1-1 秋田市街地木質化可能性調査

まず,屋内外の公共的なスペースの木質化のイメージを伝えるために,秋田の中心市街地をリサーチし,現在の技術で木質化可能な場所をピックアップした上で,その木質化案をCGモンタージュ等で具体的に示した(図−1 〜図−4)。
 






 
秋田市民が慣れ親しんだ風景が木質化でどのように変わるのかを具体的にヴィジュアルに示したことで,専門家以外の一般市民も市街地木質化の可能性をリアルに感じてもらうことができた。
 

1-2 「Timberize AKITA〜都市木造が秋田のまちの景観を変える」展(2014 年12 月)

NPO法人team Timberizeが主催した東京での展覧会を秋田地域向けにカスタマイズして,秋田県立美術館で開催した。都市木造の実例や都市木造の情報,都市木造がつくる近未来の街並みの提案などを模型や実物大のモックアップを使って分かりやすく展示した。また,東北地域で建築を学ぶ学生達に,未来の秋田にふさわしい都市木造を考えてもらいそれを図面と模型で提案してもらったり,都市木造の街並みを考える公開シンポジウムを開催するなど,市民に都市木造の情報を伝えるだけでなく,様々な立場の人たちに未来の街の姿を考える場を提供した展覧会になったと思う(写真−2,3)。
 

写真−2 Timberize AKITA展 会場風景

写真−3 Timberize AKITA展 実物大モックアップ




 

1-3 市街地木質化実証モデルの設置

市街地に実際の木質空間を設えて,市民に公共の木質空間を体験してもらい,その良さを直接感じることで,市街地木質化の意義とその効果を実証した。設置場所は秋田の中心市街地で1年間を通して最も人が利用する場所である,JR秋田駅東西自由通路の中央改札付近となった。設置した市街地木質化実証モデルは以下の3つである。
 
①天然秋田杉の1枚板を使ったハイカウンター(写真−4)
ハイカウンターは,樹齢250年以上に及ぶ天然秋田杉の厚板を使用。長さ4,000mm,幅600mm,厚さ70mmの一枚板は,木目の美しさだけでなく,杉の「香り」や「手ざわり」など人の五感に訴えかける圧倒的な存在感を放つ。ロの字の留め加工は「隠し蟻」という美しい組手が用いられた。若者たちが肩を寄せ合い,顔を突き合わせて語り合うスペースであり,あるいはビジネスマンがパソコンを使う束の間のワーキングデスクでもある。
 

写真−4 ハイカウンター




 
②自由通路に設置するフォリーベンチ(写真−5)
フォリーベンチは,75mmの正角材の柱と半割の梁で構成された木質空間である。長さ2,000mm未満の短い梁が相互に依存し4,500mm以上のスパンを覆う,木構造の可能性を示唆する空間。その空間に置かれた秋田杉合板を重ねたボリュームは,人が腰かけるベンチとして,また柱の基礎となる。人が行き交う街路に置かれた,集いと休憩のための東屋(Folly)である。
 

写真−5 フォリーベンチ




 
③準不燃加工秋田杉による駅改札回りの壁面木質化(写真−6)
JR秋田新幹線と在来線のホームから改札口へと合流する壁面部分を木質化する。使用する秋田杉は準不燃加工を施し,建築基準法の内装制限をクリアする。改札に向かう乗降客が集まる空間だけを徹底的に木質化し,限られた工事面積で最大限の効果を狙う。壁面デザインを見込み寸法の異なるリブ材を用いた縦ルーバー基調とすることにより,単位面積当たりの木の表面積が多い「木のひだ」に包まれた空間が生み出される。
 

写真−6 壁面木質化




 
これらの3つの実証モデルのうち,いわゆる建築的な内装木質化は?のみで,①,②はストリートファニチャー,いわゆる置き家具である。空間の変化をダイレクトに感じてもらうには,内装を木材できれいに整えるだけでは不十分であると感じたからである。東西自由通路は当時も利用者が多い場所ではあったが,市民は駅で分断された東西を行き来するためだけに利用していた。しかし,冬季にも雪の影響を受けずにそれなりに寒さがしのげる屋内の公共スペースを通路にしか使わないのはあまりにもったいないと感じ,その空間のポテンシャルを引き出す空間装置として,木製のジャイアントファニチャーをデザインした。人がただ通り過ぎていた街路空間が,人々が滞留して居心地良く過ごせる木質空間として,今までこの場所には見られなかったアクティビティーを誘発する場所を市街地木質化のデザインで生み出すことを目指した。結果,これらの実証モデルは,秋田駅に訪れる来訪者や多くの市民に受け入れられた。秋田を初めて訪れた旅行者は,駅の改札で秋田杉の壁面とその香りで迎えられたことに秋田らしさを感じてくれた。フォリーベンチでは年配の方々が楽しそう集い,ハイカウンターでは,出張前の男性が天板にPCを開く姿や,女子学生たちがお茶などしながらおしゃべりする光景が多くみられた。その和やかでほほえましい光景は,通り過ぎる人の目に留まり強く印象付けることとなり,多くの市民に市街地木質化の可能性をアピールできたようである。(この効果は,設置後1年間通して数回行ったアンケート調査等による検証結果からも明らかになっている。)
 
一概に市街地木質化といっても,建築の仕上げは建築基準法の内装制限に合致させる必要があるが,家具ではその制限を受けない。公共の場においては,構造上,防火上の安全性の確保は設計者として当然であるが,直接手に触れることができる家具は木材の魅力を最大限に引き出すツールであるので,積極的に利用するべきだろう。
 
そして,この官学によるTimberize AKITA の一連のプロジェクトの成果がきっかけとなり,翌年以降は民間企業であるJR東日本へと市街地木質化のプロジェクトは引き継がれることになる。
 
 

2. ノーザンステーションゲート秋田 〜 民間が継続する市街地木質化プロジェクト

秋田新幹線開業20周年を期に,JR秋田駅の諸施設を「木質化」をキーワードにしてリニューアルするプロジェクトである。市街地木質化実証モデルの成果をベースとしてさらに拡充し,周辺の市街地木質化を大きく推進しようというものである。それまでお世辞にも居心地が良いとは言えなかった待合室を,「木でつくる居心地の良い人の居場所」とすることを中心に,今まで管理者視点による機能性と管理のしやすさでつくられていた駅周辺を,利用客や市民ら街のユーザー側の視点で見直し,再構成しようという点が画期的であったと思う。そしてこの春に「ノーザンステーションゲート秋田」としてリニューアルオープンを迎える運びとなった,このプロジェクトを紹介したい。
 

2-1 おもてなしとくつろぎの空間,「アキタリビング」

駅はその土地の交通の拠点,いわば秋田の玄関として,期待と不安の入り混じる旅人を迎え入れ,送り出す,その土地の第一印象に大きく影響を及ぼす空間である。そこで,新しい待合ラウンジは「アキタリビング」というコンセプトのもと,秋田を訪れたお客様には秋田らしさを感じてもらうおもてなし空間として,秋田に暮らす市民にとっては居心地の良いくつろぎ空間となるようにデザインした(写真−7)。
 

写真−7 JR秋田駅待合いラウンジ




 
運営者も営業時間も異なるために改修前は別々の部屋で区切られていた観光案内所やお土産物屋といった機能を,うねりながら傾斜する木製の天井によって待合スペースと一体的にまとめた。その天井は,利用者の利便性と快適性を向上させつつ,自然光の入る南側の窓に向かって利用者の視線が向くようなルーバー配置となっている(写真−8)。
 

写真−8 JR秋田駅待合いラウンジ




 
その窓からは,自分がこれから乗るか,または乗ってきた,はたまた待ち人を連れてくる,美しい秋田新幹線を眺めることができる。この待合ラウンジは,技術革新で生まれた燃えにくい木材を使用することにより,防火的にも安全な,本物の木でつくられていて,ここに置かれている家具は,日本唯一の曲木技術を持つ秋田木工のロッキングチェアや,花塗りで有名な川連漆器天板のテーブル(写真−9),そして超絶長いブナ曲げ合板で構成されたティーチェアとラウンジチェア(写真−10)など,県産木材と秋田ならではの高度な技術のコラボレーションから生まれたものばかり。
 

写真−9 川連塗テーブル

写真−10 ティーチェア(左) ラウンジチェア(右)




 
JR利用客に限らず誰もが無料で使える改札外の待合いスペースとして,これほど贅沢な場所は日本全国どこを見回しても他には見当たらないだろう。まさに秋田オリジナルの空間となった。
 

2-2 全長80m を超える木の壁面

自由通路の壁面は,市街地木質化実証モデル事業で改札周りに施した壁面木質化のディテールを踏襲し,空間の連続性,拡張性を重視した。縦基調のリブのついた杉板の寸法をランダムに変えて不規則性を強調し,色や木目や節のありなしなどの自然素材特有の素材のバラツキをデザインしている。凸凹した「木のひだ」がつくる陰影は,新建材の無機質な表情とは違った雰囲気を生み出している。その木の壁面が都市的スケールで連続する景観はまさに市街地の木質化の都市景観そのものといえるだろう(写真−11)。
 

写真−11 連続木質壁面




 

3. 市街地木質化によって,人の居場所を街につくる

大規模な予算を要した開発が難しく,空き家や空き店舗等の既存ストックの活用による市街地の再生が求められている現代の地方都市では特に,できることから,できる範囲で始められるという点において,市街地木質化は大きな意味を持つのではないか。疲弊し空洞化している現代の地方市街地の多くは,管理者側の視点からメンテナンスフリーを謳った素材で作られてきている。そして管理された安全なまちづくりという名目のもと,市民が目的なく,自由に居続けられる気持ちの良い場所が,排除されてしまっていることに気付く。そんな街に人が寄り付かないのはある意味当然なのではないだろうか。
 
街に再び人を呼び寄せるには,誰もが自由に利用できる居心地の良い都市空間を街の中に増やしていくことこそ重要なのではないかと考えている。その空間をつくる時には,市街地では今まであまり使われていなかった木材を使うということが,一つのきっかけになり得るし,既存ストックをリノベーションする素材としても木材が加工性も良く使いやすい。街に人の居場所をつくる素材として,木はとても有効なのである。
 
もちろん,雨がかりなどの耐不朽性,耐候性の配慮や,法が定める防耐火性能に合致する技術は重要であるが,そうした技術論を超えて,「誰もが利用できる居心地の良い場所」を市街地に多く木でつくることが,「新しいけれど懐かしい都市の風景」を生み出す今後の街づくりのポイントになるように思えてならない。
 
 

秋田公立美術大学准教授,NPO法人 team Timberize 副理事長 小杉 栄次郎

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年11月号


 
 

 

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