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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > どこでもトイレプロジェクト〜建設現場・災害現場におけるトイレ環境の改善〜

 

はじめに

大きな地震の際に,必ずと言っていいほど被災者が直面してきた問題があります。それは「トイレ問題」です。多くの人は,災害時に困ることとして,飲み水や食料のことはイメージできるのですが,トイレについてはなかなか思い至りません。そのため,大きな地震のたびにトイレ問題を引き起してきました。トイレ問題というのは,水洗トイレが使用できなくなることで,被災者が身体的・精神的にダメージを受けることを指します。
 
トイレ問題を引き起こす要因の1つとして,避難所等に届けられる仮設トイレの使い勝手が挙げられます。仮設トイレのほとんどは建設現場で使用することを目的として開発されているため,堅牢性や搬送性などが重視されていますが,快適性については注力されてきませんでした。よって,仮設トイレは被災者にとって使いづらいトイレとなっていました。仮設トイレの使い勝手を改善するためには,平常時に仮設トイレを活用している建設業界が改善を求めることが必要です。そんな中,建設業界では職場環境の改善を目指し,トイレ環境の改善に取り組む動きが始まりました。これは就業者の高齢化に伴い若年者や女性を中心にした入職者を確保することが求められていたことが背景にあります。
 
この動きと連動し,特定非営利活動法人日本トイレ研究所は,国土交通省大臣官房技術調査課と連携してスタートしたのが「どこでもトイレプロジェクト」です。「どこでもトイレプロジェクト」は,仮設トイレの質的改善を推進することで,建設現場のトイレ環境を改善するとともに,河川公園,イベント,そして災害時のトイレ環境の改善につなげることを目指した取り組みです。本稿では,災害時のトイレ問題について説明するとともに,建設現場でのトイレ改善を推進することによる波及効果を考えます。
 
 

1. 災害時のトイレ問題

1-1 水洗トイレは使えない

水洗トイレは,給電設備,給排水設備,汚水処理設備のすべてが機能してこそ成り立つシステムです。そのため,地震等による被災でいずれか1つでも機能を喪失すると,水洗トイレは使えなくなります。排水設備が被災すると水があったとしてもトイレから汚水を流すことができません。無理に流してしまうと下階に漏水するかもしれませんし,汚水ます等から溢水する可能性もあります。また,停電することで水を上層階に圧送できなくなります。
 
しかし,便器自体は床に固定されているため比較的壊れにくく,大きな地震のあとでもいつもと変わらず使用できるように見えます。多くの場合は,排泄したあとに洗浄レバーをひねってはじめて,水が出ないことに気付くのです。ですが,その時は手遅れです。水がないため,排泄物はそのままとなります。地震直後にもトイレはたくさんの人が使用するため,あっという間に便器は大小便や使用したトイレットペーパーで一杯になります(写真−1)。
 

写真−1 大小便等で一杯になってしまったトイレ(左:阪神淡路大震災,写真:日本トイレ研究所)(右:東日本大震災,写真:石巻圏合同救護チーム)




 
東日本大震災の被災地である気仙沼市の小学校の保護者に「発災から何時間でトイレに行きたくなりましたか?」と聞いたところ,3時間以内に31%,6時間以内では67%の人がトイレに行きたくなっていることが分かりました(図−1)。
 

図−1 発災後にトイレに行きたくなった時間(回答:36人)(調査:日本トイレ研究所)




 
阪神・淡路大震災の聞き取り調査でも3時間以内に55%がトイレに行きたくなったというデータがあります。災害時は極度のストレス状態のため,体調を崩して下痢やおう吐することも少なくないと思います。このようなことから,トイレ対応は発災直後から必要になることが分かります。
 

1-2 仮設トイレの課題

①仮設トイレの調達と配備
断水等により水洗トイレが使用できない場合の対応策の1つとして,仮設トイレを設置することが考えられます。一般的に仮設トイレは,発災後に調達する場合がほとんどです。仮設トイレはトラックに積んで輸送するため,道路事情に影響を受けます。災害時の道路は,建物の倒壊や火災により通れないことや渋滞などが想定されます。
 
名古屋大学エコトピア科学研究所の岡山朋子氏と当研究所は,岩手県,宮城県,福島県の特定被災地方公共団体に対し,東日本大震災で「仮設トイレが行き渡るのに要した日数」についてアンケート調査を実施しました(図−2)。
 

図−2 仮設トイレが行き渡るのに要した日数(回答:29自治体)(調査:名古屋大学エコトピア科学研究所の岡山朋子,協力:日本トイレ研究所)




 
その結果,発災から3日以内と回答した自治体は34%で,4日〜14日間を要した自治体は全体の45%,また1ヶ月以上要した自治体は14%となりました。津波被害により道路ががれきで埋め尽くされてしまったことも大きく影響したと考えられます。仮設トイレを道路事情に配慮しながら広域から効率的に調達する方法と現場のニーズに合わせて配備する仕組みを検討することが必要です。
 
この点については,新潟県中越地震での取り組みが参考になります。新潟県中越地震の発災翌日,新潟県は市町村に対して県が仮設トイレを斡旋する旨を通知し,市町村からの要請に基づき各避難所に仮設トイレを直接配送しました。また,し尿の受け入れ体制や汲み取りに要するバキューム車の広域応援体制についても発災翌日に確立しています。避難所のトイレニーズの把握,車両の侵入経路の情報提供,仮設トイレの配備,し尿のくみ取り・処理対応という一連の流れを統括的に実施した好例です。さらに,新潟県は仮設トイレの配備だけでなく,被災者にトイレが利用されているかどうかを確認し,利便性を確保することについても取り組みました。
 
②仮設トイレの利便性
東日本大震災の避難所において実施したヒアリング(図−3)では,建物内のトイレの改善要望として,多い順に「汚い」「洋式がない」「くさい」が上位を占めました。
 

図−3 トイレに対する改善要望(計86人)(左:建物内トイレ,右:仮設トイレ)(調査:日本トイレ研究所)




 
一方で,仮設トイレは「くさい」「暗い」「汚い」が同数で最も多く,続いて「洋式がない」「寒い」でした。また,避難者から得られた具体的な意見を以下に紹介します。
 
● 混んでいるので使いたくない。外の草むらでしている。便はたまに友人の家に遊びに行った時にトイレを借りている(10歳未満・男)
● ドンドン叩く怖い,混んでいる,我慢している(10歳未満・女)
● 雨の日は行きたくない。照明がない。プールの水を持ってきて流すが,水が重い(60歳代・女)
● トイレの場所が遠い。つかむところが欲しい。ひざが悪いので立ち上がれない。洋式が一つしかないので男女一緒に活用している(70歳代・女)
 
以上のように,仮設トイレは照明がないため女性や子どもは夜に行くのが怖い,高齢者にとっては段差があり(写真−2),ほとんどが和式なので使いづらい,余震で揺れると便槽のし尿が混ざるので臭いなど,多くの課題を抱えています。
 

写真−2 避難所に設置された仮設トイレ(東日本大震災)



1-3 災害時のトイレ問題がもたらす悪影響

トイレに求める快適性や利便性は人それぞれ異なりますが,トイレを安心して使えない,もしくはトイレが使いづらい状況下に置かれると,私たちはトイレになるべく行かないように意識的にも無意識的にも水分を摂ることを控えてしまいます。水分摂取を控えることは,とても危険です。水分を摂らなければ脱水症になるかもしれませんし,血圧上昇や免疫力低下,尿路感染症なども危惧されます。トイレに行くという移動もしなくなるのでエコノミークラス症候群になる可能性もあります。体調を崩し,死に至ることもあるのです。
 
また,手洗いや歯磨きなどが出来ない状況で,劣悪な衛生状態となったトイレを使用し続けることは胃腸炎等の感染症に罹患するリスクも高まります。このように水洗トイレが使用できなくなることで引き起こされるトイレ問題は,一人ひとりの健康確保と集団における衛生確保を妨げることになるのです(図−4)。
 

図−4 トイレ問題がもたらす健康への影響




 

2. どこでもトイレプロジェクトによる取り組み

河川の高水敷にトイレを設ける場合は,地表部分を可搬式にしなければならないため,快適で移動可能な仮設トイレが開発されれば,全国の河川での活用が期待されます。また,マラソン大会や花火大会,花見,お祭りなど,短期間に多くの人が集まる場所にも快適で移動可能な仮設トイレが必要です。いずれも,子どもからお年寄りまで,様々な人が安心して使用できるトイレ環境が必要です。河川公園,イベント,避難所は,それぞれ異なるシチュエーションではありますが,そこに求められるトイレの要素は似ているのです。
 
その一方で建設現場では,仮設トイレに対して,泥や埃,揺れ,衝撃に強いこと,また工事作業の邪魔にならないように省スペースであることを重視していたため,使い勝手や快適性は後回しになっていました。しかし,時代の変化とともに,建設現場でトイレの快適性を求め始めたのです。その理由は,就業者の高齢化に伴い若年者や女性を中心にした入職者を建設業界に確保することが必要になったからです。平成26年度,国土交通省は建設業界の職場環境の改善を目的として,建設現場に洋式かつ臭気対策のされたトイレを導入するモデル工事を実施しました。
 
この動きと連動して,平成27年にスタートしたのが「どこでもトイレプロジェクト」(図−5)です。
 

図−5 どこでもトイレプロジェクトの概説




 
「どこでもトイレプロジェクト」とは,仮設トイレの質的改善を推進することで,建設現場のトイレ環境を改善するとともに,前述の河川公園,イベント,避難所等のトイレ環境の改善につなげることを目指した取り組みです。「どこでもトイレ」というネーミングは,必要なとき,必要な場所に,必要なだけトイレを届けることができるという思いが込められています。仮設トイレを最も多く活用しているのは建設現場であるため,建設現場が仮設トイレに対して快適性を求めることで,仮設トイレの改善が進むことが期待できます。建設現場におけるトイレ環境改善の主な取組みを表−1 に示します。
 

表−1 建設現場におけるトイレ環境改善の主な取り組み




 

3. 快適トイレの標準仕様と認定マーク

平成28年8月,国土交通省大臣官房技術調査課は,建設現場に設置する「快適トイレ」の標準仕様を決定しました(表−2)。
 

表−2 快適トイレの標準仕様




 
快適トイレの仕様は,「1.トイレに求める機能」「2.付属品として備えるもの」「3.推奨する仕様,付属品」の3つに分類されています。「1」と「2」の項目は必ず備えるもの,「3」の項目は,装備していればより快適になるものとなっています。
 
日本トイレ研究所は,快適トイレの普及を推進すると同時に,仮設トイレのさらなる質的向上を目的として,国土交通省が定める快適トイレの標準仕様に則った仮設トイレに「快適トイレ」認定を行うとともに,「快適トイレ認定マーク(図−6)」を付与することにいたしました。
 

図−6 「快適トイレ認定マーク」見本




 
国土交通省が快適トイレに求めている内容を視覚化するため,必ず備える項目を満たしているものを「快適トイレ(★)」とし,装備していればより快適になる項目を一定以上備えているものを「快適トイレ(★★)」としました。平成29年8月1日より随時受け付けていますので,快適トイレを製造している企業の方々にはぜひ申請いただきたいと考えています。また,9月末に日本トイレ研究所のホームページにて,快適トイレ認定マークを取得した仮設トイレを公開(第1次)しますので,参考にしてください。
 
(快適トイレ認定マークの申請について:https://www.toilet.or.jp/comfort/comfortable_toilet_mark.html
 
「快適トイレ(★)」・・・・(1)〜(7)がすべて標準装備であること。(8)〜(11)は別途オプション対応でも可,なお(8)および(10)は現場対応でも構わない。(8)および(10)で現場対応を選択した場合は,必ず現場で対応するという前提のもとに認定する。
 
「快適トイレ(★★)」・・・上記条件に加え,(12)〜(17)のうち(12)を含む3つ以上が標準装備であること。
 
 

4. マンホールトイレの可能性

仮設トイレの多くはくみ取りですが,下水道が整備されている区域の建設現場では上下水道に仮設配管し,水洗トイレとして使用する場合もあります。大きなイベントを開催する公園やマラソン大会のスタート地点,災害時の避難拠点などに仮設トイレを接続するための排水口を事前に整備しておくことで,必要なときのみトイレをつくることができます。
 
必要なときのみインフラに接続して使用するトイレの1つにマンホールトイレがあります。本来,マンホールトイレは災害時の避難所における災害用トイレとして開発されました。避難所となる小中学校の校庭や防災公園等に下部構造を整備し,地表部にはトイレ専用のマンホールを設置します。震災時にはこのマンホールの蓋を開けてその上に仮設でトイレをつくります。トイレの上屋はテントもしくはパネルのいずれかで組み立てます。
 
マンホールトイレの下部構造は,下水道に接続するタイプと便槽に貯留してくみ取るタイプに分類でき(表−3),このうち下水道に接続するタイプの中には3つの形式があります。
 

表−3 マンホールトイレの分類(「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン,国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部,平成28年3月」をもとに作成)




 
①「本管直結型」:下水道管路からマンホールトイレ用のバイパス管を敷地内に引き込み,上流から流れてくる下水を利用してし尿を流す。
 
②「流下型」:下水道管路に接続する排水管の上部にトイレを設置する。
 
③「貯留型」:下水道管路に接続する排水管の上部にトイレを設置し,マンホールまたは汚水ます内に貯留弁等を設け,排水管を貯留槽とした構造や,排水管の下流側に貯留槽を別途設けた構造がある。
 
このマンホールトイレを日常使いする動きが出始めています。東松島市では肉フェス等の地域イベント,墨田区は桜まつり,恵那市はクロスカントリー大会,北九州市は北九州マラソンなどです。いずれも参加者のための公共トイレとして設置され,好評を得ています。
 
マンホールトイレの日常使いは,マンホールトイレが整備されていることをアピールするとともに,使用方法や維持管理方法を周知徹底することで,災害時にスムーズに設営・利用する訓練にもなります。この考え方を発展させ,災害時だけでなくイベントでの利用も想定してマンホールトイレを設計し,日常使いを前提として整備・運用することが期待されます。
 

5. 今後の展開

2015年5月,有村治子・元女性活躍担当大臣の下で開催された「暮らしの質」向上検討会において提言が発表されました。この提言では,「排泄」は人間の尊厳にも関わる行為であり,個々人の暮らしの質に強く影響を与える重大事であると位置付けています。また,トイレの清潔性,快適性,安全性を向上させることが重要であることに加え,外交,成長戦略,防災,地方創生の観点からも重視し,快適なトイレを増やすために「ジャパン・トイレ・チャレンジ」(表−4)という6つの施策が示されています。
 

表−4 ジャパン・トイレ・チャレンジの概要




 
「どこでもトイレプロジェクト」に取り組むことは,「ジャパン・トイレ・チャレンジ」を具現化することにもつながります。まず,建設現場のトイレ環境改善は「女性の職域拡大」に貢献します。つぎに,河川等の公園トイレ環境の改善は,「公衆トイレの安全性の向上」になります。花火大会やマラソン大会,お祭りなどのイベント時のトイレ環境の改善は,「地方創生」や「訪日外国人向け魅力発信」をサポートし,2020年オリンピック・パラリンピックへの展開も期待できます。そして,避難所等におけるトイレ環境の改善は,「避難所のトイレの改善」そのものです。
 
以上のように,建設現場のトイレ改善から始まる「どこでもトイレプロジェクト」は,国内の他分野への波及効果だけでなく,国際的なアピールにつながります。これからのトイレは,多様性社会の実現に向けて,障がい者,高齢者,子連れ,外国人,セクシャルマイノリティなど,様々なニーズに応えていくことが必要です。そのためには,恒久的・固定的なトイレだけでなく,テンポラリーかつムーバブルなトイレで,多様なニーズに応える柔軟性が必要になると考えています。日本トイレ研究所は,今後も行政,建設業界,トイレ関連企業等との連携を強化しながら,「どこでもトイレプロジェクト」を推進していきたいと考えています。
 
 

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事 加藤 篤

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年11月号


 
 

 

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