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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 弾性波診断技術の現状と今後

 

はじめに

弾性波診断とは,弾性波(超音波や衝撃弾性波等)を利用した非破壊検査装置を使って,土中構造物などの検査や,既設構造物の形状把握,既設構造物の劣化度把握を行うことをいいます。
 
(一社)弾性波診断技術協会=EITAC(アイタック)は,高齢化するインフラを超音波などの弾性波を使用した技術によって,より安全に効率よく,また,低コストで点検・調査を可能にすべく,平成21年に設立された協会です。協会の主な目的は,測定装置の認定,測定技術者の養成および認定,技術・積算に関する調査研究および測定データの管理対策であり,本技術普及のため,研修・勉強会を開催し,広報・宣伝活動や会員募集を行っています。
 
 

1. 超音波による鋼製防護柵等根入れ長測定技術

EITACが発足当初から取り組んだのは,鋼製防護柵等の根入れ検査です。
 
施工管理方法について,平成17年以前は打設前の材料写真管理でしたが,同年に国土交通省の管轄で粗雑工事(工事目的物の引き渡し完了後に,契約条件を満たさない施工内容)が発覚しました。それにより,平成18年以降,打設状況をビデオ撮影して管理することが義務付けられました。
 
この方式は,施工業者の負担が増えたことに加え,発注者側も映像を確認しなければならないため,時間を費やす必要に駆られました。
 
国土交通省は検査の効率を上げるべく,公共工事コスト構造改善プログラムの一環として,通達「防護柵の施工における出来形確保対策について」(平成22年3月31日付け国官技第337号)を出しました。その後,「非破壊試験による鋼製防護柵の根入れ長測定要領(案)」が改定され,平成24年6月21日付け国官技第65号の通達が出されました。NEXCO東日本・中日本・西日本においても,高速自動車道の新設防護柵根入れ長測定は,平成28年8月より国土交通省に準じた仕様になりました。
 
この技術の測定原理は,まず超音波センサーから超音波を送信し,支柱端面で反射した超音波をセンサーで受信し,超音波の入射から反射までの時間により長さを測定するものです。
 



 



 
主な活用実績として,国土交通省(全国地方整備局・開発局)において10万本以上の測定実績があります。NEXCOでは,平成29年1月から2月に首都圏中央連絡自動車道の最終工区で2600本の測定を行いました。
 
 

2. 超音波による道路附属物腐食健全度スクリーニング(選別)技術

平成29年3月,国土交通省道路局は「小規模附属物点検要領」5‐1片持ち式の点検等の方法 の【補足】(2)において,「地中等への支柱埋込み部については,境界部における支柱の状態や滞水の有無,痕跡などを確認し,必要に応じて掘削調査を行うのがよい。また,掘削調査のスクリーニングとして非破壊検査の開発が進められており,活用の可能性を有しているため,開発動向の情報も収集し,有効であると判断される場合は採用するとよい。」と発表しています。
 
その経緯として,平成28年3月に,「附属物(標識,照明施設等)の支柱路面境界部以下の変状を非破壊で検出できる新技術」をテーマに国土交通省関東技術事務所で新技術の公募が開始されました。同年5月に超音波診断技術として5技術が公募選定され,6月に内閣府沖縄総合事務局直轄国道にて,照明柱の路面境界部腐食診断試行調査が実施されました。本島内約80本を対象としました。
 
同年12月に試掘結果と検査結果の正誤評価発表,平成29年1月に各公募技術について詳細ヒアリングが実施され,発表に至りました。
 
現地調査では,各技術にばらつきはあるものの,鋼管表面の錆・キズ等はおおむね確認可能でした。ただし,極小の錆やスポット減肉の変状も評価対象となった点と,接触媒質の管理方法(6月の沖縄県はかなり高温)も課題に上がり,かなり判定の難易度が高い調査となりました。
 



 

沖縄県での現地試行調査状況




 
ここで,従来の点検と新技術の比較として例を挙げて行います。対象は設置20年以上の鋼管柱です。
 
従来の点検では,目視により地際部に錆,舗装面(アスファルト/コンクリート/インターロッキング)にクラック,亀裂があれば,全本開削し,復旧(1日3〜4カ所程度)します。新技術では,非破壊検査による一次スクリーニングを実施し,判定結果が悪い対象物のみ試掘等協議を行うものです。
 
従来の点検では 100本点検の場合,30日以上かかりますが,新技術では15日程度で収まります。これは,健全なものを試掘対象から除くことが大きく作用します。また,新技術では,点検結果をデータベースとして構築することが可能です。
 

路面境界部 腐食劣化診断フロー図




 

現場検証例(超音波反射法 底面エコー評価による診断結果例)




 

3. 現状と今後

わが国は,少子高齢化という社会的背景を受けて,日本再興戦略では,「安全で強靭なインフラが低コストで実現されている社会」を目指しています。非破壊検査技術等の活用により,生活インフラ,公共インフラ,産業インフラといった様々なインフラの損傷度等をデータとして把握・蓄積・活用することにより,早期の異常検知で事故を未然に防ぎ,最適な時期に最小限のコストによる補修によってトータルライフサイクルコストが最小化されている社会を実現することが求められています。
 
そして,2030年の目標として「国内の重要インフラ・老朽化インフラは全てセンサー,ロボット,非破壊検査技術等を活用した高度で効率的な点検・補修が実施されている事」と掲げています。大規模な社会インフラの新規構築より,現在あるものを長期間使用していく方向への舵取りが進んでいます。
 
高度経済成長期に形成した社会インフラが確実に高齢化へ向かっています。併用年数の長い社会インフラは,予期しないときに損傷や破壊が起こる可能性が高くなり,国民の人命や財産に甚大な被害をもたらす恐れがあります。これを防ぐためには,点検,健全度評価,劣化予測を行い,適切な補修・補強などの対策を実施していくことが必要です。
 
これらの時代背景を受け,われわれEITACでは,防護柵の根入れ長測定技術を足掛かりに道路照明柱や標識柱など,小規模付属物等の点検に対応する新技術の取り込みや研鑚,また,道路やトンネルの背面などの空洞・空隙・埋設物の調査技術といったこれからの時代に必ず必要となる調査技術を研鑚してまいります。
 

既設防護柵根入れ長測定




 

鋼管柱腐食劣化調査




 
また,これからの調査技術の資格認定制度に取り組んでおり,技術講習会をはじめとする各支部での技術研修会を行い,教育制度も充実した協会として日々努めております。
 
 

一般社団法人 弾性波診断技術協会

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年11月号


 

 

最終更新日:2023-07-10

 

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