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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 土木インフラの維持管理 > 土木研究所版 「コンクリート構造物の 補修対策施工マニュアル(案)」

 

はじめに

コンクリート構造物の耐久性に関しては1970年代に塩害やアルカリ骨材反応による早期劣化が顕在化した。旧建設省では建設省総合技術開発プロジェクト「コンクリートの耐久性向上技術の開発」に取り組み,その成果は塩害を受けた土木構造物の補修指針(案)やアルカリ骨材反応被害構造物(土木)の補修・補強指針(案)として整理されている。
 
以来,それらの指針(案)は永く使われてきたが,30年が経過し,その間の技術の進歩に追随するために新たな指針類の作成が必要となった。土木研究所では2011〜2015年にプロジェクト研究「コンクリート構造物の長寿命化に向けた補修対策技術の確立」を実施し,その成果として「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル(案)」をその試案として作成した。
 
このマニュアル(案)では,図- 1に示すように,適切な補修を行うための標準的な考え方(補修方針の設定,各種補修工法の選定方法など)を,共通編としてとりまとめた。
 

図-1 コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル(案)の構成




 
 
また,表面被覆・表面含浸工法,断面修復工法,ひび割れ修復工法について,補修材の品質確認方法や,施工上の留意点を整理した。さらに,補修後の再劣化等の不具合事例と,その推定される原因が示されている。
 
ここではまず不具合事例を紹介し,それを防ぐために取りまとめた共通編を中心にその概要を紹介する。
 
 

1. 不具合事例に基づく検討

1.1 不具合事例の類型化

コンクリート構造物の補修は,劣化を抑制し,耐久性等の性能を回復・向上させることを目的に施工されるが,期待した効果が発揮されていない事例も見られる。そこで,不具合が生じた事例を収集し,その要因を検討した。
 
その結果,不具合事例には,補修前の調査における劣化状況判断が不適切だった場合,補修設計時の工法・材料選定が不適当だった場合,および施工時の現場管理が不適切だった場合,およびこれらが複合した場合があった。
 

1.2 代表的な事例

図- 2は,海岸付近にある橋梁の損傷部を断面修復工法で補修し,塗装系の表面被覆を行ったが,数年後に表面被覆の浮きやさび汁等が発生し,その後,被覆材が大きく剥がれ落ちた事例である。鉄筋腐食の原因であるコンクリート中の塩分を十分に除去しないまま表面を覆ったためと考えられ,劣化状況の判断が不適切な事例である。
 

図-2 道路橋コンクリート床版の不具合事例




 
 
図- 3は寒冷地域の堰堤で,劣化したコンクリート表面を除去した後,モルタル吹付けにより補修したが,補修後にモルタル面に多数のひび割れとモルタルの土砂化が見られた事例である。補修前後の劣化ともに,凍結融解作用の繰返しが劣化の原因と推定される。補修に使用した材料の,耐凍害性が不十分であったと考えられ,補修材料の選定が不適切な事例である。
 



図-3 河川コンクリート堰堤の不具合事例




(上)モルタル面のひび割れ
(下)モルタルの土砂化


 
図-4は寒冷地の樋門で,凍害劣化部を除去して断面修復し,表面被覆を実施したが,補修2年後に被覆表面にひび割れが確認され,その後,ひび割れの拡大やエフロレッセンスの析出が確認された事例である。断面修復を実施した際,接着面にプライマー処理をせず,さらに十分な養生日数を経ずに脱型したことなどが原因で補修部と既設部が十分に一体化しておらず,劣化の起点となったと考えられた。現場の施工管理が不適切な事例である。
 



図-4 河川コンクリート樋門の不具合事例




(上) ひび割れとエフロレッセンス
(下)沈下ひび割れ

1.3 不具合を防ぐために

これらの分析結果に基づき,調査や補修設計,施工時における一般的な留意点について共通編に示した。また,具体的な補修材料の選定や施工における品質管理・検査項目は,使用する材料・工法によって注意すべき点が異なるので,工法別の編に示した。
 
 
 

2. 共通編

2.1 補修方針の設定

ISO 16311 (コンクリート構造物の維持管理と補修)では,構造物に求める要求性能,劣化の状態,劣化要因などを踏まえて補修方針を設定し,それに応じた補修の設計を行うこととしている。
 
本マニュアルでもこの方針を踏襲することとした。表- 1 に,ISO 16311に示されている補修方針の分類を示す。
 

2.2 劣化要因ごとの補修方法の選定方法

補修工法を具体的に検討するにあたっては,補修対象となる構造物の劣化原因や劣化程度を考慮して,表- 1の補修方針から具体的な補修方法の選定に結びつけていく必要がある。
 

表-1 ISOでの補修方針と補修方法




 
そこで,比較的報告例の多い劣化要因(塩害,凍害,アルカリ骨材反応,温度・乾燥ひび割れ)ごとに,その劣化程度に対応した補修方針と具体的な補修方法の関連付けを行った。このうち,海からの飛来塩分などの影響を受けてコンクリート中の鉄筋が腐食する塩害について整理したものを表- 2に示す。
 

表-2 劣化要因と劣化段階に応じた補修方法選定例(塩害の場合)




 
 
このように,劣化の状態,補修方針と補修方法を関連づけることで,誤った補修工法選定のリスクを軽減できるものと考えられる。
 
表- 2中の水処理とは,排水溝の清掃や水切りの設置等である。多くの劣化要因に対処できる最も基本的,かつ重要な予防対策であり,管理者の技術レベルによらず,実施することを基本とした。
 
劣化の進行に応じて補修方針が変化し,それに応じた補修工法を選定する。劣化が進行した段階での補修方法の選定については,専門的な知識が必要であり,その留意点についても整理した。
 

2.3 施工における留意点

施工においては,施工前調査の重要性を強調した。補修設計における調査では全ての補修予定箇所が調査されていない場合があり,また,設計から施工までの時間の経過にともなって劣化が進行している場合もある。このため,補修の直前に施工範囲の妥当性を確認する必要がある。調査結果によっては契約変更も必要となりうる。
 
施工後の初期点検時の時期に関しては,不具合事例からも施工条件等が悪い場合に施工後1年以内に変状が出た事例が多いことから,1年以内に初期点検を行うことを提案した。
 
 
 

3. 表面被覆・含浸工法編

表面被覆工法および表面含浸工法については,要求された性能を満たす補修工法(材料)であっても,不適切な作業環境で施工がなされた場合,設計時に設定された補修材料の性能を保持する期間が短くなり,早期再劣化が生じる場合もある。作業環境に関しては,気象条件や下地コンクリートの含水状態の管理が特に重要であるため,これらに関する管理項目を提案した。下地コンクリート表面の結露を防止するため,気象条件の湿度については湿度が高くなり易い箇所で測定して管理すること,下地コンクリートの表面温度を測定し,露点温度と比較して管理すること,コンクリートの含水状態は表面含水率で管理すること等を示した。
 
表面被覆工法の品質管理においては,施工完了後,プルオフ法による付着性試験を実際の施工箇所で行い,屋外暴露試験等の結果に基づいて決定した判定基準と比較することで,付着性を確認する方法を示した。
 
 

4. 断面修復工法編

断面修復材は,ポリマーセメントモルタル等の配合で市販されているプレミックス品と,高流動コンクリートに大別される。
 
高流動コンクリートは,レディーミクストコンクリート工場で配合設計が行われることを想定し,使用材料がJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)に規定されている品質規格を満足していることを前提として,耐久性に関わる多くの品質の確認を,水セメント比(W/C)で評価してよいこととした。
 
これに対してプレミックス品は,使用材料や配合の詳細が開示されていないものが多い。このため強度や耐久性は品質試験を行って確認することを基本とし,各種の品質評価方法を提案した。
 
また,付着界面の品質が重要であることから,付着強度や付着の耐久性に関わる促進試験方法を提案した。さらに,施工上の留意点として,養生の重要性等を示した。
 
 

5. ひび割れ修復工法編

ひび割れ修復工法の補修設計においては,ひび割れの状態に応じた最適な工法と材料を選定するために必要な項目として,表面ひび割れ幅,ひび割れの規模や状態,漏水や析出物の有無,施工時の環境,さらには,修復材の性能(種類等)を考慮した選定例を示した。
 
ひび割れ修復工法の施工管理では,特に冬季施工において,気温はもちろんのこと,躯体コンクリートの温度管理も加え,また,低温により補修材の流動時間や硬化時間が遅延することを考慮した作業工程を組むこと等を示した。
 
さらに,析出物のあるひび割れへの対処方法について,図- 5に示すように,ひび割れに直交した切り込み(クロスカット)を入れ,それを注入口とする方法を提案した。
 

図-5 析出物のあるひび割れへの注入工法による対処方法




 
 

おわりに

本マニュアル案は,下記のホームページからダウンロードすることができる。
http://www.pwri.go.jp/team/imarrc/activity/tech-info/tech4343.pdf
 
今後,補修工事への適用により,より確実な補修が行われることを期待したい。また,補修補強に関する技術は日進月歩であり,本マニュアルもそれに対応すべく,今後も,新たな研究成果や現場の意見を反映し,更新されていく必要があろう。
 
 

国立研究開発法人 土木研究所 先端材料資源研究センター 総括主任研究員 片平  博
上席研究員 古賀 裕久
主任研究員 佐々木 厳
研究員 櫻庭 浩樹
寒地土木研究所 耐寒材料チーム 主任研究員 内藤  勲

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年1月号



 

最終更新日:2023-08-07

 

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