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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 平成28年度決算検査報告における公共工事関係の指摘事例

会計検査院は,日本国憲法及び会計検査院法に基づき,国や国が出資している独立行政法人等の法人,国が補助金等を交付している地方公共団体等の会計を検査しています。
 
このたび,その検査の結果を平成28年度決算検査報告として取りまとめて,29年11月8日に内閣に送付しました。平成28年度決算検査報告に掲記された総件数は423件であり,このうち指摘事項は409件,指摘金額は計874億4130万円となっています。
 
なお,「指摘事項」には,「不当事項」,「意見表示・処置要求事項」,「処置済事項」及び「特記事項」が含まれ.以下,①「不当事項」は,検査の結果,法律,政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項を,②「意見表示・処置要求事項」は,会計検査院法第34条又は第36条の規定により関係大臣等に対して会計経理や制度,行政等について意見を表示し又は処置を要求した事項を,③「処置済事項」は,検査において指摘したところ当局において改善の処置を講じた事項を,④「特記事項」は,検査の結果,特に検査報告に掲記して問題を提起することが必要であると認めた事項をそれぞれ意味します。
 
検査に先立ち28年9月に策定した平成29年次会計検査の基本方針では,重点的な検査項目の一つとして公共事業を挙げるとともに,東日本大震災からの復興に向けた各種の施策について,検査に当たっては被災地域における社会経済の再生等に資するものとなっているかなどに留意するなどとしていました。そして,検査の結果,検査報告に掲記されたものには,国の財政及び検査対象機関の財務に関するもの,東日本大震災からの復興に向けた施策等に関するもの,国民生活の安全性の確保に関するもの,予算の適正な執行,会計経理の適正な処理等に関するもの,行政経費の効率化に関するものなどが含まれています。
 
指摘事項には,府省等別,事項別,観点別など様々な分類があり,公共工事関係の指摘として一意に選別や分類ができるわけではありませんが,本稿では45件を選別し(表-1参照),このうち30件について簡単に紹介いたします。なお,選別,分類,説明等の内容については筆者の個人的見解であり,会計検査院の公式見解を示すものではないことをお断りいたします。
 

表-1 平成28 年度決算検査報告における公共工事関係の指摘事項件数・金額




 
また,金額は断りのない限り指摘金額であり,国庫補助事業に係る事案の指摘金額・背景金額は国庫補助金ベースで示しています。
 
 

1 計画に関するもの

これらは,実施設計業務の前提となるものについての検討が十分でなかったものや,計画に基づき事業が着実に行われて効果が十分に発現しているかなどに着眼して検査したところ,特に検査報告に掲記して問題を提起することが必要であると認めたものです。
 
【不当事項】
<農林水産省>
・国営かんがい排水事業における吐水槽等の建設工事のための実施設計業務に当たり,事業所における設計容量の算定の検討が十分でなかったため,実施設計業務の成果物が工事に使用されておらず,契約の目的を達していなかった(2058万円)。
 
【特記事項】
・河川整備計画等により堤防等を整備することとしている区間において,一部未整備の箇所又は改築が必要な橋りょうが残存していて,整備済みの堤防等の整備効果を十分に発現させる方策を講ずる必要がある事態について
 
国土交通省が直轄事業及び補助事業により実施している堤防等の整備や整備により必要となる橋りょうの改築等の河川改修事業について検査したところ,①堤防高が計画高水位より低い位置にあって流下能力が整備計画流量を下回るなどしていて,当該区間からの越水等により地形上広範囲に浸水が及び住宅等への被害のおそれがある整備未済区間が残存している箇所や ②橋りょうの架設箇所の流下能力が整備計画流量を下回っていたり桁下高が計画高潮位よりも低い位置にあったりしていて,架設箇所からの越水等により地形上広範囲に浸水が及び住宅等への被害のおそれがあり改築を要する橋りょうが見受けられ,これらが治水安全上のぜい弱部となっており,その存在により,その上下流の整備済みの堤防等の整備効果が十分に発現していない事態が見受けられた(背景金額412億0869万円:一部未整備の箇所又は改築が必要な橋りょうが残存している河川に係る河川改修事業費)。
 
 

2 設計に関するもの

これらは,構造物に求められる所要の安全度が確保されていない状態になっていた事態や,経済的な設計を行っていなかった事態です。所要の安全度が確保されていない状態になっていた事態の中には,設計業者の成果品に誤りがあるのに,発注者が看過したことが原因となっているものが多く見受けられます。
 
【不当事項】
<国土交通省>
・防災・安全交付金事業における道路事業の実施に当たり,橋台の胸壁の設計において,落橋防止構造の位置を上方へ移動したのに,この移動を踏まえた胸壁の応力計算を行っておらず,設計が適切でなかったため,胸壁等の所要の安全度が確保されていない状態になっていた(1億4165万円)。
 
・社会資本整備総合交付金事業における下水道事業の実施に当たり,汚水処理槽の新設工事において,基礎杭と汚水処理槽く体との結合部の鉄筋による補強の照査を指針に基づいて行っておらず,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されていない状態になっていた(3862万円)。
 
・河川等災害復旧事業の実施に当たり,復旧した護岸の基礎を保護するために敷設する根固工において,根固ブロックの敷設幅が護岸の基礎前面に洗掘を生じさせないために必要な敷設幅に対して不足していて,設計が適切でなかったため,護岸の基礎を保護できない構造となっていて,工事の目的を達していなかった(1533万円)。
 
・河川等災害復旧事業の実施に当たり,被災した法面を復旧するために実施した受圧板工,アンカー工等において,アンカーの固定位置から受圧板の上端部までの背面側の長さについて,設計計算書により応力計算上安全としていた長さよりも設計図面では長い形状としてこれにより施工していて,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されていない状態になっていた(350万円)。
 
・社会資本整備総合交付金事業における道路事業の実施に当たり,支柱を土中に埋め込む構造のガードレールについて,支柱の支持力についての検討を行うことなく支柱をU型水路の側壁に近接した位置に設置していたことから,支柱が所要の支持力を得られていないなどしていて,設計が適切でなかったため,ガードレール,U型水路等の所要の安全度が確保されていない状態になっていた(214万円)。
 
<農林水産省>
・農山漁村地域整備交付金事業の実施に当たり,揚水機場に設置した高圧受変電設備及び補機計装盤等を固定するアンカーボルトの設計が適切でなかったため,地震時における機能の維持が確保されていない状態となっていて,補助の目的を達していなかった(2105万円)。
 
・農業用施設災害復旧事業の実施に当たり,水路の設計が適切でなかったため,田の湛水時において所要の安全度が確保されていない状況となっていて,補助の目的を達していなかった(505万円)。
 
<環境省>
・防止柵設置工事の実施に当たり,風荷重による転倒に対する安定計算が行われておらず,設計が適切でなかったため,防止柵が転倒するおそれがある状態になっていて,工事の目的を達していなかった(7418万円)。
 
【処置済事項】
<国土交通省>
・トンネル工事における濁水処理設備の規格の選定について
 
トンネル工事における濁水処理設備の規格の選定に当たり,設計濁水量に応じた適切な処理能力の規格を選定していなかったり,トンネルの掘削が進捗するのに伴い設備を段階的に入れ替えるなどしていなかったりしていたため,経済的な設計となっておらず,濁水処理費の積算額が過大となっていた(1億7581万円)。
 
<独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構,北海道旅客鉄道株式会社,四国旅客鉄道株式会社>
・現場吹付法枠工の枠内排水や法枠本体の設計について
 
現場吹付法枠工の実施に当たり,中詰工に水抜きパイプが詰まる可能性が低いモルタルが用いられていたのに枠内排水に水切り方式を選択していたり,法枠の景観を重視する場合に当たるとは認められないのに法枠本体の表面仕上げを行ったりしていて,経済的な設計となっていなかった(3件 計5510万円)。
 

3 積算に関するもの

これらは,積算額が過大となっていて契約額が割高となっていたり交付金が過大に交付されていたりしていたものや,工事の仕様から物価資料に市場価格として掲載されている単価を用いて経済的な積算を行うことが可能な場合においてもこれを用いることなく積算を行っていたものです。
 
【不当事項】
<国土交通省>
・既設橋りょうの維持管理工事の実施に当たり,工事費の積算において,請負人が購入した材料を管理しない場合は,当該材料の購入費を間接工事費の対象額に含めないことにしているのに,これを含めて積算していたため,契約額が割高となっていた(1840万円)。
 
・防災・安全交付金事業における下水道事業の実施に当たり,通信線路等の移設に係る補償費の算定において,通信線路等を建設するために必要な費用から控除する減価相当額について,通信線路の材料費,設置費等からなる費用に基づいて算定すべきであったのに誤って材料費のみに基づき算定するなどしていたため,交付金が過大に交付されていた(556万円)。
 
【意見表示・処置要求事項】
<国土交通省>
・公営住宅等整備事業等における二重床下地に係る工事費の積算について
 
国土交通省は,公営住宅等を整備する地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して,社会資本整備総合交付金等を交付している。事業主体は,公営住宅等の建設,改善等における工事費の積算については,材料費と労務費等を合計した施工費等の単価(以下「施工単価」という。)に設計数量を乗ずるなどして予定価格の積算を行っており,積算に用いる施工単価について,原則として,事業主体が市場調査を行うなどして毎年度制定する単価表に記載されていればその単価を,単価表に記載されていないもので物価資料に市場価格として記載されている単価(以下「物価資料掲載単価」という。)があればその単価を,単価表にも物価資料にも市場価格が記載されていないものは製造業者等からの見積価格や公表価格を査定するなどして決定する単価(以下「見積りなどを基礎とした単価」という。)を用いることにして,積算を行い,予定価格を定めている。しかし,事業主体において,公営住宅等の内装工事の一環として施工する二重床下地(床仕上げ材の下地となる支持脚の付いた床パネルで,コンクリートスラブの上に設置されるもの)に係る工事費の積算に当たり,工事の仕様から物価資料掲載単価を用いて経済的な積算を行うことが可能な場合においてもこれを用いることなく見積りなどを基礎とした単価により積算を行っている事態が見受けられた(1億6385万円)。
 
 

4 施工に関するもの

これらは,工事の施工が設計と相違していたため,工事の目的を達していなかったものです。原因は,請負人の粗雑な施工や設計図書等に対する理解不足,発注者の監督・検査が十分でなかったことなどです。
 
【不当事項】
<国土交通省>
・防災・安全交付金事業における道路事業の実施に当たり,地盤改良工,カルバート工の施工において,支持層の上に軟弱層が残った状態となっていたり,モルタルの厚さが不足していたりなどしていて,施工が設計と相違して粗雑なものとなっていたため,不同沈下による鉄筋の露出等が生じており,ボックスカルバートとしての耐久性が著しく低い状態となっていて,工事の目的を達していなかった(606万円)。
 
<農林水産省>
・農業用施設災害復旧事業の実施に当たり,水路背面の盛土工の施工が適切でなかったため,水路背面の盛土の崩壊の一因である周辺地山からの湧水等を速やかに排除できない状態となっており,工事の目的を達していなかった(147万円)。
 
 

5 経理に関するもの

これらは,工事に係る契約や補助金の交付対象事業費の算定等の経理が適切でなかったものなどです。
 
【不当事項】
<国土交通省>
・サービス付き高齢者向け住宅整備事業及び先導的事業の実施に当たり,虚偽の内容の領収書の写しを添付して支払っていない工事費を補助対象事業費に含めて実績報告書を提出していたり,値引きを受けて実績報告書において報告した事業費よりも低額で事業を実施していたりしていたため,補助金が過大に交付されていた(3件 計3086万円)。
 
<環境省>
・循環型社会形成推進交付金事業の実施に当たり,交付の対象とされていない灰出し設備等の設置に必要な建築物の整備に要した費用を交付対象事業費に含めていたため,交付金が過大に交付されていた(4件 計9445万円)。
 
【処置済事項】
<国土交通省>
・コンテナクレーン整備事業に係る貸付けなどの対象となる費用について
 
コンテナクレーン整備事業について,コンテナクレーンのしゅん工後に行う維持管理において使用されることとなる予備品等の購入費を貸付けの対象に含めて貸付金が貸し付けられたり,補助の対象に含めて補助金が交付されたりしていた(3億0855万円)。
 
・総合評価落札方式による入札における落札者の決定について
 
社会資本整備総合交付金等の交付を受けて地方公共団体が実施する公共工事に係る総合評価落札方式による入札において,誤って設定した最低制限価格により価格その他の条件が最も有利な者を失格として排除していた(269億8739万円)。
 
 

6 維持管理等に関するもの

これらは,施設等の維持管理が十分でないなどの事態で,事業の目的に照らして適切ではなかったり,事業効果が十分発現していなかったりしていたものです。
 
【処置済事項】
<農林水産省>
・広域農道等における橋りょう等の保全対策について
 
広域農道等における橋りょう等の保全対策に当たり,点検診断の実施割合が低調となっていて,建設後1回も点検診断が実施されていないものが過半を占めていたり,緊急輸送道路等に該当する橋りょう等について,建設後1回も点検診断が実施されていないものが4割を超えていたり,点検診断を実施した施設であっても,そのうち8割以上において保全対策計画等が策定されておらず,点検診断の結果が十分に活用されていなかったりしていた(背景金額11億7905万円:橋りょう等の点検診断に係る業務委託契約に対する国庫補助金等交付額)。
 
・農村地域防災減災事業等による橋りょう等の耐震性点検の実施について
 
農村地域防災減災事業等の実施に当たり,農道の耐震性点検として実施すべき内容が要綱等に明確に示されていなかったなどのため,耐震性点検として実施した委託業務において,橋りょう等の耐震性能を評価せず,劣化・損傷等の現況調査のみを実施していて,防災・減災対策を実施するという事業の目的に沿うものとなっていなかった(4億5230万円)。
 
 
以上に紹介した事例を含め,会計検査院の指摘事項等については,全文を会計検査院のホームページ(http://www.jbaudit.go.jp/)に掲載しています。過去の検査報告についても,データベースで検索できますので,是非御活用ください。
 
今後とも,検査活動に対する皆様の御理解を深めていただくため,検査の結果をできる限りわかりやすく公表するとともに,事態の再発防止のため説明会等の機会をとらえて検査結果について説明してまいります。
 
最後になりましたが,国や地方公共団体,国の出資法人等の職員の皆様及び公共工事に携わる関係者の皆様には,これらの検査報告事例を参考にしていただければ幸いです。
 
 

会計検査院 事務総長官房総務課 渉外広報室長 篠﨑 智宏(しのざき ともひろ)

 
 
 
【出典】


 
積算資料2018年2月号


最終更新日:2018-06-07

 

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