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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 未来の地球環境を守る─ エコチューニングで建築物のライフサイクルコストを低減 ─

 

はじめに

「エコチューニング」は,公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会が,環境省からの委託事業として平成26年度より3年間にわたり受託してきた「エコチューニングビジネスモデル確立事業」の中で開発されてきた,省エネルギーを実現する手法です。
 
3年間に,全国の延べ348棟の建築物でエコチューニングの実践が試みられてきました。その実践の過程において技術が体系的に整理され,それらの技術を身につけたエコチューニング技術者資格の認定制度とエコチューニング事業者認定制度が動き出しました。それらエコチューニング認定制度を,環境省のガイドラインに基づき運営しているのが,エコチューニング推進センター(以下,推進センター)です。
 
今回は,「エコチューニング」とは何かということから,3年間の実践で明らかにされたCO2排出量削減の成果,建築物ライフサイクルにおける有効性などについて解説します。
 
 

エコチューニングとは何か

一般に,省エネ・節電というと,照明の間引きやこまめなスイッチのOn─Off,室内温度設定の緩和などが思い浮かびますが,エコチューニングでは,建築設備の専門知識や省エネ診断スキルを持った「エコチューニング技術者」が,設備機器・システムの使用状況を詳細に分析・診断し,建築物の快適性や生産性を損なうことなく,省エネルギーを実現することができます。施設利用者は,エコチューニングが行われていることに,まったく気づかないと思います。
 
環境省の委託事業の中で「エコチューニング」は,「低炭素社会の実現に向けて,業務用等の建築物から排出される温室効果ガスを削減するため,建築物の快適性や生産性を確保しつつ,設備機器・システムの適切な運用改善等を行うこと」そして,エコチューニングにおける「運用改善」については,「エネルギーの使用状況等を詳細に分析し,軽微な投資で可能となる削減対策も含め,設備機器・システムを適切に運用することにより温室効果ガスの排出削減を行うこと」と定義されています。
 
 

エコチューニングの事例

ここでは実際に実践されたエコチューニングの事例を紹介します。
 
紹介するのは,約3,000m2規模の病院で実施されたエコチューニングです。この病院の電気とガスの年間使用量は,それぞれ552万2,569kWhと17万8,108m3で,使用料金に換算すると,電力料金が1億1,420万8,700円,ガス使用料金は2,389万3,835円となっています。
 
エコチューニングを行うには,まず,建築物に設置されている設備機器とそのシステムについて,運用改善の可能性を診断し分析します。この建物には,外気処理空調機(以下,外調機)が34台設置されており,定格容量の合計値は126kWになります。外調機は,建物内への外気の取り入れ量と取り入れる外気の温度を調整する機能を備えています。
 
そこで,外気の取り入れ量の適否について,室内の二酸化炭素濃度がどのくらいの数値で推移しているか,過去の空気環境測定の結果から分析を行いました。その結果,1階から4階まで,各室の二酸化炭素濃度が恒常的に低いことが分かりました。これにより,外気の導入量を削減するために外調機の運転時間を見直すことができるとの判断にいたります。そしてこの仮説に基づき,実施したエコチューニングの方法は,外調機の間欠運転による電力使用量の削減でした。
 
図-1のように,エコチューニング実施前の運転スケジュールは,上段の実施前のスケジュールで,朝7時から2時間連続運転が行われ,その後,青く塗られた時間帯での運転が夜9時まで続いていました。
 

【図- 1 外調機の運転スケジュール変更】




 
エコチューニング対策として変更した運転スケジュールは,下段にある実施後のスケジュールで,これまで朝7時から運転されていた外調機を,7時45分からの運転開始とし,夜9時まで15分おきに運転するというものです。この運転スケジュールの変更によって,1日延べ9時間運転されていた外調機を,延べ6時間45分の運転時間に短縮できます。このように外調機の運転時間を25%削減したことによって,付属する電極式蒸気加湿器の運転時間も短縮され,1台の外調機で,1日あたり147.6kWhの電力量が削減されます。
 
しかし,前述したように,外調機の運転時間を短縮するということは,その分,外気の取り入れ量が25%減ることにもなります。
 
建築物衛生法の規定では,室内の二酸化炭素濃度は1,000ppm以下でなくてはなりません。もちろん,このエコチューニング対策を実施する前に,外気の取り入れ量が減少したときに,室内二酸化炭素濃度がどのように変化するか,試算をしています。
 
エコチューニングは,「建築物の快適性や生産性を損なわない」ことが大前提ですから,外調機の運転時間を短縮している期間中は,1週間に1度,室内の温度,湿度,二酸化炭素濃度を対象として簡易な空気環境測定が継続されました。その結果を,表- 1に示します。
 



 
これを見ると,外調機の運転時間を短縮することにより,外気の取り入れ量が減少しても,ほとんどの執務室で,二酸化炭素濃度は約500〜600ppmの幅に収まっており,建築物衛生法の環境基準を下回っていることが分かります。それと同時に分かることは,外気の導入量をさらに削減することが可能で,外調機の運転スケジュールをもう一段階,短縮できるということでもあります。
 
また夏場は,高温の外気を取り入れすぎると室内の冷房負荷が高まり,空気調和設備・システムへの負担が増加しますが,この外気取り入れ量の削減対策により負荷は低減されます。吸収式冷温水発生機から空調機に供給する冷水温度を7℃から9℃へ,2℃上げるなど,さまざまなエコチューニング対策を同時に実施することで,7月から翌年の1月までの7カ月間で,電力,ガス,水道の料金が約820万円削減され,CO2排出量に換算すると約190t-CO2の削減となりました。
 
 

エコチューニングによるCO2排出量・光熱水費削減の実績

それでは,建築物にエコチューニングを導入することにより,どれだけのCO2 排出量や光熱水費が削減できるのか,平成26年から平成28年の3年間にわたって,延べ348棟で実践された結果を表- 2 に示します。
 



 
これは,環境省の委託事業であった「エコチューニングビジネスモデル確立事業」の中で,全国ビルメンテナンス協会会員企業の協力を得て実践された結果です。
 
表- 2に示したエコチューニング実践期間は,どの年度も7月から翌年の1月までの7カ月間の実績で,削減量と削減額を求めるにあたっては各建築物の過去3カ年の同期間の平均値と比較しています。平成26年度は,全国194棟の建物で,CO2排出量にして約8,000t,光熱水費に換算すると約4億円が削減されました。
 
もう少し詳しく実践結果を確認いただくために,実施棟数の一番多かった平成26年度の実践建築物の内容を,建築物用途別に集計したものを表- 3に示します。
 



 
エコチューニングを試行した全建築物のCO2排出量の過去3年平均に対する削減率は7.1%で,その中でも建築物用途別棟数の一番多かった「事務所」の削減率は9.8%と,10%近く削減されています。また,実施棟数は少ないものの,「デパート・スーパー」「集会場」「教育・研究施設」では,10%を超える削減率となっていることが分かります。また,地方自治体が運営する公共施設などでもエコチューニングを導入することにより,CO2排出量の削減効果が表れています。
 
また,表- 4は,平成26年度の実践建築物の内容を,建物の規模別に集計したものです。
 



 
延べ床面積の規模別にみると,全建築物の過去3年平均の光熱水費に対する削減率は,8.3%で,実施棟数は延べ床面積25,000m2未満の建築物が多く,特に「5,000m2 〜10,000m2未満」の規模では,過去3年平均の光熱水費に対して12.7%の削減率になっています。このように,中小規模といわれる建築物における光熱水費の削減効果が大きいことが分かります。
 
これまで,CO2排出量・光熱水費削減の実績を見ていただきましたが,建築物の用途や規模にかかわらず,エコチューニングを導入することで,省エネルギー効果を実現できることがお分かりいただけたと思います。
 
 

エコチューニングの普及・促進のために

3年間にわたる環境省の「エコチューニングビジネスモデル確立事業」では,主に次のような事業に取り組んできました。
 



 
事業者が,エコチューニング業務を提供するには,第一種エコチューニング技術者を雇用し,エコチューニング事業者として認定される必要があります。図- 2に示すように,エコチューニング事業者に所属する「第一種エコチューニング技術者」は,エネルギー診断に基づき対策計画を策定し,ビル所有者とエコチューニングの実施にあたり調整を行います。
 

【図- 2 エコチューニング技術者の役割区分】




 
実施するビルには「第二種エコチューニング技術者」を配置することが望ましいのですが,既存の設備管理員を実践指導することでも実施は可能となります。
 
「エコチューニング技術者資格認定制度」と「エコチューニング事業者認定制度」は,環境省のガイドラインに基づき,(公社)全国ビルメンテナンス協会内に設置された推進センターが運営しています。推進センターの一番大切な役割は,お客様からの相談に応じて,エコチューニング業務委託契約を実現することにあり,そのために図- 3に示すような体系や枠組みが用意されています。
 

【図- 3 エコチューニングビジネスのスキーム】




 

エコチューニングと建築物ライフサイクル

建築物のライフサイクルは,図- 4のように企画・設計・施工・メンテナンス(日常管理)・修繕・解体というプロセスをたどります。
 

【図- 4 ビルのライフサイクルコストにおけるエコチューニング】




 
この中で一番コストがかかるのは,竣工後の運用段階だといわれています。日常のメンテナンス費用,建物機能を維持するためのエネルギーコスト,劣化や不具合を改善する修繕費,設備機器等の更新費用など,運用時のコストがライフサイクルの中で最大となります。
 
エコチューニングを導入するということは,竣工後の日常管理におけるエネルギーコストを削減することであり,設備機器の稼働時間を短縮することによる設備機器の長寿命化も期待できます。
 
建築物は,企画,設計に基づいて建設されます。建物に設置する設備機器の能力を決める設計時には,建築設備設計基準に基づいて選定された設備機器が導入されます。設計時は,竣工後の建築物諸室の詳細な使用条件を把握できないため,設備機器が過大能力で選定されてしまうケースは少なくありません。
 
そこで,図- 4のようにエコチューニングを継続することによって蓄積される設備機器の運転状況や消費エネルギーなどの日常管理データを集約し分析することによって,その建物にとってより適切な設備機器の能力を決めることができ,多くの場合,設備機器更新時のダウンサイジングが可能となります。
 
過大な設備を導入しないということは,機器更新時のイニシャルコストを抑えるだけでなく,機器更新後のエネルギー消費量も低減されることを意味します。
 
このように,エコチューニングは目先の光熱水費を削減するだけではなく,建築物のライフサイクルコストの低減にも影響を持つことになります。
 
 

エコチューニングを導入するには

所有もしくは運用する建築物にエコチューニングを導入するには,どのような契約方法があるのかを説明します。
 
表- 5は,エコチューニング業務に対する対価(報酬)の支払い方法の違いに対応した契約の形態を示したものです。
 
エコチューニングのビジネスモデルは,エコチューニングを実施することによって削減された光熱水費の一定割合を,エコチューニング事業者に支払う成果報酬型の契約の考え方を基本としています。
 
成果報酬型の契約であれば,業務依頼時に発注者側には契約に伴うリスクが発生することはなく,もしも光熱水費の削減が実現しなかった場合でも,費用負担が生じないからです。
 
ところが,エコチューニングを導入したいと考える地方自治体からは,光熱水費の削減額から報酬を支払う方式では業務委託時の発注額を確定できないことから,現行の予算制度にはそぐわないという意見がありました。そこで,業務発注時に発注額を確定できる「固定報酬型」と「固定+成果報酬型」の契約形態を用意し,地方自治体の皆様にもエコチューニングを導入しやすくしました。
 
「固定報酬型」と「固定+成果報酬型」の契約を実現するためには,図- 5にあるように,エコチューニングの導入を予定する対象建築物のエネルギー診断を行い,省エネルギーのための対策を洗い出し,建物諸室の利用実態から各対策の実現の可能性,実効性を評価して計画を決定する必要があります。
 

【図- 5  エコチューニング契約までのフロー(診断を先行させる場合)】




 
その計画に基づき,建築物管理に必要となる作業工数を算定し,建築物管理業務仕様書,作業基準書,エコチューニング計画書などと合わせて,業務委託費積算書が作成されることになります。
 
これを入札方式で実現するとなると,対象建築物のエネルギー診断を確実に行える事業者の適性を判断する必要が生じますが,入札対象事業者の入札参加要件に明記することで解決できます。それでも,入札の実現の可能性が望めない場合は,エコチューニング計画を含む建築物管理業務発注用仕様書の作成を単独の業務として外部に委託する方法も考えられます。
 
 

おわりに

地方自治体のように,多くの建築物を所有してユーザーサービスを提供する必要がある場合,建築物の維持管理コストは膨大な費用負担となっているはずです。エコチューニングを導入することは,建築物のライフサイクルコストの低減を実現する解決策となるでしょう。
 

お問い合わせ先

エコチューニング推進センター
〒116-0013 東京都荒川区西日暮里5-12-5
ビルメンテナンス会館5階
公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会内
TEL:03-6806-7311/FAX︓03-3805-7561
E-MAIL:eco-tuning@j-bma.or.jp
http://www.j-bma.or.jp/eco-tuning/
 



 

公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会                     
エコチューニング推進センター事務局  奥島 史朗(おくしま しろう)

 
 
 
【出典】


建築施工単価2018冬号



 

最終更新日:2018-05-14

 

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