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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > i-Constructionによる建設生産性革命

 

はじめに

わが国の人口は2008 年の約1億2,800万人をピークに減少に転じ、高齢化が進んでいます。
 
この中で、持続的な経済成長を遂げていくためには、働き手の減少を上回る生産性の向上や、新たな需要の掘り起こしを図っていく必要があります。
 
近い将来、多くの業界で人手不足が生じることが懸念される中、少ない人手でも従来と同じ量の仕事ができるように、それぞれの産業の力をつけていただくためにも生産性の向上が不可欠です。
 
また、生産性の向上を図ることは、各産業の働き方改革にもつながり、将来の担い手を確保する観点からも非常に重要です。
 
そのため、国土交通省では、2016年を「生産性革命元年」と位置付け、同年3月に「国土交通省生産性革命本部」を設置し、これまでに20の「生産性革命プロジェクト」を選定しました。
 
「i-Constructionの推進」は、生産性革命プロジェクトの主要施策の一つです。
 
2017年は、生産性革命「前進の年」として、これらのプロジェクトをさらに進めているところです。
 
 

i-Constructionの推進

国土交通省では、建設現場の生産性を向上させるため、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでICTなどを活用する「i-Construction」を推進し、建設現場の生産性を、2025年度までに2割向上させることを目指しています(図-1)。
 
2016年度は、まずはじめにトップランナー施策として、以下の3つについての取り組みを開始しました。
 
(1)ICTの全面的な活用(ICT土工)
(2)全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化など)
(3)施工時期の平準化
 

図-1 生産性向上のイメージ




 
土工やコンクリート工を対象としたのは、直轄の土木工事におけるこれらの割合が約4 割を占めることに加え、建設現場で多く用いられている土工や場所打ちコンクリート工の生産性が30年前とほとんど変わっておらず、改善の余地が大きいからです。
 
 
(1)ICTの全面的な活用(ICT土工)
 
ICT土工は、切土、盛土といった土工について、ドローンなどを使った3次元測量を行い、3次元設計データなどによりICT建設機械を自動制御して施工し、再びドローンなどを使って3次元で出来形を検査するといった、各建設プロセスにおいてICTを全面的に活用する工事です。2016 年度は、全国で584件の工事でICT土工を実施しました。
 
2016年度にICT土工を実施した181件の工事を調査したところ、従来手法で平均123人日かかるところを、ICT施工では平均約89人日と、平均28%の削減効果が確認されました。
 
また、3次元起工測量やICT施工、出来形管理について、半数以上の施工者が期待していた以上の効果が得られたと評価しています。
 
さらに、ICT建機は施工図面に合わせて操作を制御してくれるため、施工精度が向上するといった効果や、建機まわりの作業が不要になることから、接触事故の危険がなくなり安全性が向上するといった効果も報告されました。
 
一方で、ICT導入コスト(ソフト、ICT建機、外注経費)が必要になる、規模の小さい工事では採算が取れない、3次元設計データの作成が負担といった課題も明らかになりました。
 
そのため、ICT建機の使用割合や日当たり施工量などの実態調査と分析を進め、施工規模によらずに適正な価格により施工ができるよう適宜積算基準等の見直しを行うとともに、地方整備局の技術事務所などによるサポート体制の充実や、ニーズに沿った3次元データの提供などの支援策を順次展開していきます。
 
また、土工が建設事業の多くを占める地方公共団体工事にICT施工を広めるため、地方公共団体をフィールドとした現場支援型モデル事業を実施しています。
 
モデル事業では、地方公共団体が設置する支援協議体の下で、工程計画立案支援やICT運用時のマネジメント指導などの支援を行っています。これにより、地方公共団体の発注者のICT活用工事への不安を取り除き、発注者自身のメリットも体感できるようにすることで、ICT活用工事の地方公共団体での一層の普及につながることを期待しています。
 
 
(2)全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化など)
 
コンクリート構造物は、現場ごとの一品生産、部分別最適設計であり、工期や品質面で優位な技術を採用することが難しいといった課題があります。
 
全体最適は、設計、発注、材料の調達、加工、組立などの一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化を図るものです。
 
2016年度は、機械式鉄筋定着工法などのガイドラインを策定しました。また、コンクリート打設の効率化を図るため、個々の構造物に適したコンクリートを利用できるよう、コンクリートの流動性に関する発注者の規定を見直しました。
 
今年度も引き続き、橋梁部材などのプレキャスト化やプレハブ鉄筋、埋設型枠などのガイドラインの策定を進め、これらを構造物設計に活用していく予定です。
 
 
(3)施工時期の平準化
 
公共工事は、単年度会計を基本としていることから、年度当初予算の工事発注手続きを行っている第1四半期(4~6月)に工事量が少なく、年度後半に工事が集中するといった特徴があります。施工時期の平準化は、限られた人材を効率的に活用するため、計画的な発注などにより、年間を通して工事量を安定化させるものです(図-2)。
 

図-2 施工時期の平準化




 
具体的には、これまで単年度で実施していたような工事について、発注時期などを踏まえると年度をまたぐことが適切な工事については、2カ年国債などを活用して平準化を図っています。
 
2016年度は、2015年度の3倍超になる約700億円の2 カ年国債を活用しましたが、今年度は、さらに2カ年国債を2倍超の約1,500億円に拡大し、加えて約1,400億円のゼロ国債※を当初予算において初めて設定しました(※ゼロ国債とは、初年度の国費の支出がゼロの国債。国費の支出は翌年度だが、年度内に工事契約を行う)。
 
また、公共工事の約7割の工事量を有する地方公共団体に対しても、総務省とも連携し、平準化の推進について要請しています。
 
 

新たな取り組み

今年度は、生産性革命「前進の年」として、新たに以下の取り組みを進めています。
 
(1) ICT工種の拡大
(2) CIMの導入
(3) 普及・促進施策の充実
(4) 産学官民の連携強化
 
 
(1)ICT工種の拡大
 
今年度は、ICT土工に加えて、以下のように舗装工、浚渫工、橋梁分野にもICTの導入を進めています。
 
さらに、今後は維持管理分野や建築分野(官庁営繕工事)にも対象を拡大すべく検討を進めています。
 
①ICT舗装工
 
さらなる生産性向上を目指して、3次元設計データを活用し整地を自動制御するMC(マシンコントロール)グレーダの活用など、舗装工にICTを全面的に導入する「ICT舗装工」を2017年4月以降の工事に適用しています。
 

図-3 ICT舗装工




 
②ICT浚渫工
 
港湾工事の生産性向上を目指して、浚渫工に3次元データによる施工箇所の可視化などのICTを全面的に導入する「ICT浚渫」を2017年4月以降の工事に適用しています。
 
③i-Bridge
 
橋梁事業における調査・測量から設計、施工、検査、維持管理までのあらゆるプロセスにおいてICTを活用し、生産性・安全性を向上させる取り組みです。今年度は、ECI(Early Contractor Involvement)方式を活用した3次元設計・施工や、維持管理分野におけるICTの導入を試行しています。
 
具体的には、設計の段階から3次元モデルを活用し、3次元モデルによる詳細確認や施工計画など、最適設計を図っています。また、高度な補修・補強を行った場合に、センサー技術を活用し、その補修・補強が目的どおりの効果を発揮しているかをモニタリングすることにより、補修・補強の信頼性を向上させています(図-4)。
 

図-4 3次元データでの設計




 
 ④維持管理分野
 
法面工や舗装などの修繕工事において、事前測量から施工・検査の各プロセスで3次元データを活用して省力化を図るべく、平成31年までに技術基準を整備します。
 
また、点検・測量・巡視巡回において先進的なインフラ点検支援技術の利用を検討しており、将来的にはAIによる変状検知機能を組み合わせた効率的な公物管理の実現を目指します。
 
⑤建築分野(官庁営繕工事)
民間工事が中心の建築分野において先導的な役割を果たすため、官庁営繕工事において施工合理化技術の導入などを行います。併せてICTなどの活用による遅滞ない合意形成や工程管理の改善、工事関係書類の簡素化などを検討しています。
 
 
(2)CIMの導入
 
CIM(Construction Information Modeling/Management)は、社会資本の調査・測量・設計段階から地形データ・詳細設計などに3次元モデルを導入し、その後の施工、維持管理の各段階においても、施工情報や点検・補修履歴などの情報を充実させながらこれを活用するものです。
 
併せて、事業全体にわたる関係者間で情報を共有することにより、一連の建設生産システムにおける受発注者双方の業務の効率化・高度化を図ります。
 
2016年度は、これまでのCIM試行業務・工事における知見を集約し、CIMモデルの作成方法(作成指針、留意点など)や活用事例を記載したCIM導入ガイドラインを策定しました。
 
2017年度は、CIM試行業務・工事において検討する項目を定め、CIMモデルの本格導入に必要となる課題の抽出と解決方策の検討を行っています。
 
 
(3)普及・促進施策の充実
 
今年度より、各地方整備局などに地方公共団体に対する相談窓口を設置しています。
 
また、i-Constructionに係る優れた取り組みを表彰する「i-Construction大賞」を創設し、12月に初めての受賞者となる計12団体(国土交通大臣賞2団体、優秀賞10団体)を決定しました。
 
さらに、i-Constructionのロゴマークを作成するなどし、i-Constructionを広く普及させていきます。
 
 

i-Construction推進コンソーシアム

i-Construction推進コンソーシアム(以下、「コンソーシアム」という)は、さまざまな分野の産学官が連携して、革新的な技術の現場導入や3次元データの利活用などを進めることで、生産性が高く魅力的な新しい建設現場を創出することを目的として、2017年1月30日に設立しました。
 
コンソーシアムの会長は、小宮山 宏(株)三菱総合研究所理事長、副会長は宮本 洋一( 一社)日本建設業連合会副会長兼土木本部長が務めています。
 
また、12月1日現在、コンソーシアムの会員は817者にのぼっています。(法人会員736者、行政会員59者、有識者会員22者。なお設立時の会員は458者)コンソーシアムには、全体のマネジメントを実施する企画委員会と、3つのワーキンググループを設置しています(図-5)。
 

図-5 i-Construction推進コンソーシアム




 
 
(1)企画委員会
 
第1回の企画委員会は、2017年3月31日に開催されました。国土交通省から前述した平成28年度の取り組み状況と今年度以降の取り組み方針について報告するとともに、i-Construction推進に向けたロードマップが決定されました。
 
ロードマップには、ICT活用に向けた取り組みなどについて、平成37年(2025年)までの取り組みとKPIを設定しました(図- 6)。
 

図-6 i-Construction推進に向けたロードマップ




 
 
(2)ワーキンググループ(WG)
 
①技術開発・導入WG
 
技術開発・導入WGでは、最新技術の現場導入のための新技術発掘や企業間連携を促進することとしています。
 
2017年2月には、会員や国土交通省内を対象に建設現場の生産性向上に資する行政ニーズや現場ニーズ、および技術シーズについてアンケート調査を実施し、3月末までに1,700を超えるニーズと200を超えるシーズが寄せられました。
 
これらのニーズとシーズのマッチングを目指して、4月にアンケート調査の中から代表的な29件のニーズについて説明会を実施し、5月にそれらのニーズなどに対して提案があった13件のシーズについて説明会を実施しました。
 
その後、ニーズ側とシーズ側の個別相談会などを実施し、10月のマッチング決定会議において、以下の5件の技術のマッチングが成立しました(写真-1)。
 

写真-1 マッチング決定会議の様子




 
・コンクリート打音検査にAEセンサを用い、誰でも品質評価ができることを目指す技術
・高精度レーザースキャナーを用い、これまで把握が難しかった構造物の変状を迅速に発見することを目指す技術
・建設現場と事務所等をカメラ画像やデータなどを組み合わせてリアルタイムに共有することで、一度に複数の建設現場を管理することを目指す技術
・スマートフォンやバイタルセンサなどを用い、建設現場の作業員の位置や健康状態を把握し、建設現場の事故ゼロを目指す技術
・工事の施工データや発注業務データの解析にAIを用い、工事や業務の効率化・円滑化を目指す技術
 
マッチングが成立した技術は、各現場での試行を行うとともに、引き続き第2回のマッチングに向けて取り組んでいます。
 
②3次元データ流通・利活用WG
 
3次元データ流通・利活用WGでは、3次元データの流通のためのデータ標準やオープンデータ化により、シームレスな3 次元データ利活用環境整備や新たなビジネス創出を目指しています。
 
本WGにおいても、WG会員を対象としてデータ流通に関する現状と課題、データ利活用に関するデータの保有状況やニーズを把握するためのアンケート調査を実施し、2017年3月に、調査結果などを踏まえて第1回の意見交換会を開催しました。
 
その後もWG会員の意見を聴取しながら、11月に「3 次元データ利活用方針」をとりまとめました。
 
③海外標準WG
 
海外標準WGでは、上記2つのWGでの検討結果などを踏まえつつ、技術基準、制度などのパッケージ化を行い、i-Constructionの海外展開を図ることとしています。
 
 

おわりに

i-Constructionの導入により、建設現場に必要な技術の習得に要する時間が短縮されるとともに、危険の伴う作業や厳しい環境で行う作業も減少することが期待されています。また、生産性向上により安定した休暇の取得が可能になることで、建設現場において若者や女性などの多様な人材の活躍が期待されます。
 
i-Constructionの取り組みを通し、魅力ある建設現場を作り出すことで、「きつい、危険、給料が安い、休暇が取れない」と表現されることもある現状を改善し、新たな「給与が良い、休暇がとれる、希望がもてる」建設現場の実現と、Society5.0を支えるインフラマネジメントシステムの構築を目指していきます。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐 橋本 亮

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集1「i-Construction×CIM」



 

最終更新日:2019-01-17

 

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