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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > プロジェクトマネジメントの薦め~ITプロジェクトを成功に導く~ 第2回:プロジェクトマネジメントの知識体系《後編》

 

株式会社 日立製作所 情報・通信システム社
プロジェクトマネジメント統括推進本部 本部主管:初田 賢司
公共システム事業部 公共プロジェクトマネジメント統括部 部長:花岡 明道

 

プロジェクトマネジメントの知識体系

図-1に、前月号で紹介した米国のPMI(Project Management Institute)が開発したプロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK ガイドⓇ」(A Guide to the Project Management Body Of Knowledge)[1]が提供する知識エリアを示しました。
 

図-1 プロジェクトマネジメントの知識エリア

図-1 プロジェクトマネジメントの知識エリア


 
PMBOK Guide 5th Editionでは、10の知識エリアが定義されています。
各知識エリアの概要を以下に示します。
 
①プロジェクト統合マネジメント
プロジェクトマネジメント活動全体を定義したり、統合や調整等を行うための作業や知識をまとめています。
つまり、プロジェクト計画を作成するなど、知識エリア全体に関わるような作業が該当します。
プロジェクト計画には、プロジェクトの目的から始まって、成果物の定義、スケジュール表、体制図、調達計画、
会議体などが記述されています。
最初にプロジェクトを定義するプロジェクト憲章を作成したり、最後にプロジェクト報告をまとめるのも、この知識エリアに入ります。
 
②プロジェクト・スコープ・マネジメント
プロジェクトの成功に必要な作業を過不足なく確保するために必要な作業や知識をまとめています。
スコープとは、「範囲」のことです。
プロジェクトの目標達成に必要な成果物とタスクをWBS(Work Breakdown Structure)という技法を使って定義します。
必要に応じてその定義を見直し、必要な成果物とタスクが完成されていることを保証します。
 
③プロジェクト・タイム・マネジメント
プロジェクトを所定の時期に完了させるために必要な作業や知識をまとめています。
スケジュール作成や進捗を把握する方法などを解説しています。
 
④プロジェクト・コスト・マネジメント
プロジェクトを承認された予算内で完了するために必要な作業や知識をまとめています。
コスト見積り、予算設定、コスト・コントロールの方法が取り上げられ、コスト・コントロールでは、プロジェクトのパフォーマンスや進捗状況の測定結果を統合的に表現できるアーンド・バリュー・マネジメント(EVM)の技法を解説しています。
 
⑤プロジェクト品質マネジメント
プロジェクトに要求される品質ニーズを満たすために必要な作業や知識をまとめています。
品質保証の技法や分析方法を示しています。
 
⑥プロジェクト人的資源マネジメント
プロジェクト・チームを組織化し、育成するために必要な作業や知識をまとめています。
計画技法として「責任分担マトリクス」などを示しています。
 
⑦プロジェクト・コミュニケーション・マネジメント
プロジェクト内で必要な情報の流通をタイムリーに、適切かつ確実に行うために必要な作業や知識をまとめています。
どういうタイミングで、誰から誰に対して、どういう情報を、どういう形態で渡すかを定義します。
この知識エリアで取り上げるのは公式なレポーティングの関係や会議体です。
「飲みニケーション」など非公式なものは含みません。
 
⑧プロジェクト・リスク・マネジメント
プロジェクトに関するリスクに対応するために必要な作業や知識をまとめています。
リスクとは、将来プロジェクト目標に影響を与えることになるかもしれない不確実な事象のことです。
リスクの洗い出し、分析、対応策の立案を行う方法を示しています。
 
⑨プロジェクト調達マネジメント
プロジェクトチームの外部から購入または取得するために必要な作業や知識をまとめています。
契約形態を中心に解説しています。
我が国では、準委任と請負契約が主流ですが、インセンティブ付き契約など、
プロジェクトのパフォーマンスを向上させるための様々な契約形態を紹介しています。
 
⑩プロジェクト・ステークホルダー・マネジメント
プロジェクトに関係する人やグループ組織を洗い出し、期待や影響を分析し、
よい関係を築きあげるために必要な作業や知識をまとめています。
ステークホルダーとは利害関係者のことです。
それぞれのステークホルダーの興味や影響力を分析し、ステークホルダーとの関係をマネジメントするための方法を紹介しています。
 
 
PMBOKガイドでは、知識エリアごとに、その知識エリアを実行するために必要な作業の流れ、作業のインプットとアウトプット、
作業を実施するのに必要なツールと技法が示されています。
 
図-1では、前述した10の知識エリアのうち、品質、コスト、タイムを内側の円の中に書いています。
プロジェクトマネジメントとして最終的に守りたいのは、この3つ、つまりQCD(Quality,Cost, Delivery)です。
プロジェクトマネジメントは、QCDを守って「しっかり作る」ために必要なものであると考えてください。
しかし、QCDを守るためには、QCDだけの範囲で考えるのではなく、関連する項目も含めてもっと広く考えた方がうまくいきます。
このために拡張されてきたのが、外側の円の中に示した知識エリアです。
PMBOK Guide 5th Editionでは、プロジェクト・ステークホルダー・マネジメントが、
プロジェクト・コミュニケーション・マネジメントから分離され、独立した知識エリアとなりました。
 
 

プロジェクトマネジメント作業の流れ

図-2にプロジェクトマネジメントとモノづくり作業の流れを示しました。
ITプロジェクトの場合、企画/予算化から引合/見積りといったプレ・プロジェクトの段階でプロジェクトの大枠が決まり、
どのような約束をするかがプロジェクトの成否に大きく影響しますので、大事な工程です。
引合/見積りの結果、発注するベンダーが決まり、この段階でベンダー側のプロジェクトマネージャが任命され、
プロジェクトのキックオフを行います。
以降、プロジェクトマネジメントとモノづくりを車の両輪としてプロジェクトを進めていきます。
 

図-2 プロジェクトマネジメントとモノづくり作業の流れ

図-2 プロジェクトマネジメントとモノづくり作業の流れ


 
立上げでは、「プロジェクト憲章」を作成します。
プロジェクト憲章は、組織としてプロジェクトを公式に認可する文書です。
プロジェクト憲章には、プロジェクトの目的や成功基準、要求事項やプロジェクトの概要を記述します。
呼び方は別にして、プロジェクトを開始するにあたっては、
プロジェクト憲章に記述するような内容を明確にする文書を作成するようにします。
 
図を見ると、計画と実行の間に両方向の矢印が入っていることがわかります。
プロジェクトの最初にプロジェクト計画を立てるのはもちろんですが、
プロジェクト全体を詳細な粒度で計画を立てられるわけではありません。
たとえば、基本設計でモジュール構成を決めますので、
基本設計の終盤にならないと詳細設計の細かな計画は立てられません。
遠くの作業は大まかにつかんでおき、近づいてきたら作業を細かく定義していきます。
これをローリングウェーブ計画法と呼びます。
波は沖では大きく、海岸近くになると砕けて細かくなるところからきた言葉ですが、
段階的詳細化と呼ばれることもあります。
このように計画と実行は行ったり来たりしながらプロジェクトは進みます。
 
また、ITプロジェクトは、他分野のプロジェクトに比べて、プロジェクトマネジメント自体の計画を綿密に立てる必要があります。
これは、ソフトウェアが目に見えないロジックの集合であることと、設計段階の成果物、プログラミング段階の成果物、
テスト段階の成果物、それぞれ形が変わることに起因します。
有形のモノであれば、見ればどこまでできているか進捗や品質を把握することができます。
マネジメントの計画は、モノづくりの計画を補足すような形で済みます。
ところがソフトウェアの場合、設計段階の成果物は、抽象的なモデルか文章による記述ですが、
プログラミングの段階では成果物の形ががらっと変わって、Javaなどのコンピュータ言語で書かれたソースコードになります。
テスト段階になって初めて実際に動作する形が見えてきます。
設計段階で起きているまずいことを見破ろうと思うとスキルや経験が必要になります。
これを補うためにプロジェクトマネジメント計画が必要になります。
計画と照らし合わせて、進捗や品質を把握し、計画から乖離していれば対応策を講じます。
 
終結では、プロジェクトの「振り返り」を行い、プロジェクトで得られた知見、教訓、ノウハウをまとめ、
次のプロジェクトにつなげていきます。
 
次回は、モダンPMを組織の中に展開し、活用するためにはどうすればよいかを解説します。
 

参考文献

[1] Project Management Institute: A Guide to the Project Management Body of Knowledge(PMBOK Guide) Fifth Edition, PMI, 2012
 
 
 

プロジェクトマネジメントの薦め~ITプロジェクトを成功に導く~

第1回:なぜプロジェクトマネジメントが大事なのか?《前編》
第1回:なぜプロジェクトマネジメントが大事なのか?《後編》
第2回:プロジェクトマネジメントの知識体系《前編》
第2回:プロジェクトマネジメントの知識体系《後編》
最終回:プロジェクトマネジメント・オフィス《前編》
最終回:プロジェクトマネジメント・オフィス《後編》
 
 
 
【出典】


月刊積算資料2013年11月号
月刊積算資料2013年11月号
 
 

最終更新日:2014-07-10

 

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