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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 建設ITガイド > モーションキャプチャを活用した没入型安全教育システムの開発

 

はじめに

建設産業の労働災害は、業界の懸命な努力により死傷者数、死亡者数とも長期的視点では減少傾向を示しているものの、2016 年も1年間で15,000名超の死傷者が発生している。これら労働災害の原因要素分析を行うと、労働災害は、複数の原因が重なり合って発生している傾向にあり、その原因には必ず当該作業関係者の不安全行動が含まれている。この不安全行動を防止するため、建設現場では「人間がエラーすることを前提とした対策」、「人間のエラー発生を抑止する対策」などさまざまを講じるものの、さらなる「対策の不備」や「想定外のエラー」の発生は否めない。これらに対し、当該作業関係者の「作業に潜む危険」への「気づき」があれば、「対策の不備」や「想定外のエラー」を補完でき、労働災害を大幅に減少させることができる。この「気づき」は、知識や体験から生まれるものであり、その根源は、現場における「ヒヤリハット」である場合も多い。この「ヒヤリハット」を安全にかつ数多く体験し、「気づく能力」を身に着ける仕組みとして「モーションキャプチャを活用した没入型安全教育システム」を開発した。本稿では、この安全教育システムについて報告する。
 
 

没入型安全教育システムという新しい試み

従来より労働災害を防止するため、安全教育が実施されてきた。この安全教育は、定期開催に加えて、雇い入れ時、送り出し時、新規入場時などさまざまな局面で実施されている。一般には、講師による当該現場に相応する過去の災害事例や映像を用いた一方通行型教育が主流である。一方通行型教育の特徴として、同時に多数の受講者に教育を実施できるが、その理解度は受講に臨む個人の意欲や能力差の影響を受ける。また教育による理解度を測り、学習効果の検証を実施していないのが一般的である。一方、グループ学習などで写真や図面を見ながら安全上問題となる点などをグループで意見交換を行う相互通行型教育も実施されている。しかしグループ学習では、グループ内の誰かが解答すれば他の参加者は何もすることなく済む場合が多く、結果として限られた参加者のみが学習しているにすぎない。これらの現象の背景には、教材として用いる災害事例への受講者の「当事者感の欠落」や受講者のモチベーションを向上させない「教育方法の恒常化」などが考えられる。これらに対し、いかに受講者の集中力を高め、学習効果を得るかが重要である。本開発は、安全教育の教材にバーチャルリアリティ(VR)に関する技術を導入し、安全教育受講者に労働災害の当事者として体験させることで従来型安全教育の課題を解決することを目的としている。
 
 

モーションキャプチャの導入

1 没入体験により集中力を向上させる
 
モーションキャプチャとは、現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録する技術である。このモーションキャプチャを活用することで、VR被験者の行動を仮想空間内で瞬時に再現できるようになる(図-1)。
 

図-1 安全教育システム「リアルハット」の体験状況




 
これにより人間の脳は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で展開される仮想空間内の出来事を現実として捉え、VR被験者自身がその仮想空間内にあるように錯覚する。その際、VR被験者は仮想空間内で再現される映像や音に集中し、その世界に浸った感覚となっている(図-2)。
 

図-2 思わず避けるVR被験者




 
この体験を「没入体験」という。この「没入体験」を伴う「新しい教育方法」により、VR被験者すなわち安全教育受講者の集中力を高め、学習教材に取り組む環境を整えることができた。
 
 
2「気づき」を引き出す
 
「気づき」は、自分を取り囲む環境内でそれまで意識しなかった事柄に注意が向き、その事柄を問題として認識することである。人間は、この「気づき」を得た後、認識した問題(気づいた事柄)に自分なりの価値観を設定(評価)し、その価値観に基づく行動を起こす。よって、教育には「気づき」を引き出すことが重要であり、より多くの「気づき」を引き出せる安全教育システムを構築できれば、不安全行動の抑止に大いに貢献できる。そこで、本安全教育システムの開発と履修に当たっては、効果的に「気づき」が得られるよう内省・洞察できる仕掛け(イベント)を盛り込んでいる。またVRは、画像と言語や文章によるあいまいな説明を受けるよりも直感的に理解できる特徴がある。さまざまな視点から何度でも繰り返し体験することで「気づく力」を鍛え、その結果、作業に携わる関係者の自主的、自発的な安全行動を誘発できる。
 
 

「モーションキャプチャを活用した没入型安全教育システム」の概要

1「気づき」を引き出すためには
 
本システムは、VR被験者が仮想空間で労働災害を体験することで自然に「気づき」が得られる仕組みではあるが、効果的な安全教育を実施するためにシラバス作成とそのシラバスに適合したVRシナリオ作成を行っている(図- 3)。
 

図-3 安全教育システム「リアルハット」のコンテンツ




 
バックホウ編では、労働災害が発生する前に講師がVR被験者に対し「ここを安全に通行するには何をしたらよいか?」と声をかける(図-4)。
 

図-4 講師による声掛け




 
するとVR被験者は、さまざまな行動を試し被災を繰り返しながらも、最終的に「安全に通行する」ために必ずしなければいけない事柄に気づく。仮想空間の中で「気づき」を実践することで労働災害を回避し、終了する仕組みとした(図-5)。
 

図-5 バックホウ編のスタート画面




 
一方、クレーン編では、労働災害の概要説明を行った後、VR被験者に対し「被災者のあなたは、周囲を見て労働災害が発生した理由に気づかないか?」などの問いを与える(図-6)。
 

図-6 「気づき」の指導




 
これに対しVR被験者は、キョロキョロと周囲を見渡したり(図-7)、自らが仮想空間の中を移動して「死角の存在」「合図員の立哨位置」など複数の労働災害発生要因に気づく(図- 8)。
 

図-7 被災場所から望む




 

図-8 関係者の立場で被災場所を望む




 
さらに講師は「では、どうすれば回避できただろうか?」とさらに声をかけ、VR被験者に具体的な対策を考えさせ、深い「気づき」に至らせる。
 
本システムでは、仮想空間の中でVR被験者が労働災害の被災者となって労働災害を体験できることに加えて、労働災害発生時の関係者に立場を変えて被災状況を第三者的に見ることもできる機能を持たせた。被災者から関係者へと立場を変えて複数回体験することで、VR被験者は、労働災害の発生状況を俯瞰的に感じつつ、「被災者の私は、相手側にこう見えるのであれば、こう配慮しよう」「関係者の私は、このようなところにも気をつけながら作業の進捗を監視しよう」などと多くの「気づき」を得ることができる。
 
シラバスと適合したVRシナリオによりVR被験者の「気づき」を容易に引き出すことが可能となった一方で、被災体験の反復による精神的外傷の発生が懸念された。このため、被災時の映像表現は、過度にならぬよう配慮した。また、本システムで構築した仮想空間は、実際に発生した災害事例を再現している。これは労働災害の発生状況にリアリティを持たせ、多くの「気づき」を誘発させるためである。この試みにより、風化させたくない労働災害を新鮮な形で記録するという副産物も生み出した。
 
 
2「気づき」「学び」「成長」のスパイラル方式
 
VR体験は、VR被験者にとって最初の体験が最も新鮮かつ衝撃的である。同VRシナリオを繰り返し体験することで、その新鮮さや衝撃度は急速に失われ、「気づき」を得ることは難しくなる。こうしたシステムでは、頻繁なVRシナリオの更新や追加が必要とされるため、開発費が膨大に膨らむことが予想され、長く使用できる教材としての価値を失うこととなる。そこで、これらの課題に対し、VRシナリオに階層性を設けた「スパイラル方式」を導入している(図-9)。
 

図-9 スパイラル方式の概念




 
「スパイラル方式」は、①作業員を対象とした「危険を基本的に理解できるレベル」、②現場管理者を対象とした「安全の法規を含めて理解できるレベル」、③事業者を対象とした「総合的な安全対策を理解できるレベル」の複数段階に設定している。ひとつのVRシナリオにおいて作業員個人が安全対策を行える、職長クラスが安全対策を指導できる、元請会社が安全パトロールできる状況に対応させている。
 
足場点検編では、仮想空間に設置された足場をVR被験者が点検するシチュエーションとなっている。点検する足場には異なる難易度のイベント(安全対策違反)が多数設定されており、VR被験者は実際の安全点検と同様に仮想空間内をウロウロしながら、隠されたイベントを探す(図-10、11)。
 

図-10 仮想空間内で足場点検




 

図-11 仮想空間で寸法計測




 
VRシナリオの中に、異なる難易度のイベントを構築することにより、VR被験者の能力に応じた「気づき」を得ることができる上に、反復体験することで新たなる「気づき」を得、「学び」「成長」へとスパイラルアップすることができる。特に難易度の異なるイベントは、階層ごとに解答集としてまとめているため、学習効果の確認も容易にできる。さらに、足場点検編では、体験型教材も製作した。この体験型教材は、安全帯(胴ベルト・ハーネス)で宙づりになったという設定で、救助者が到着するまでの間、自分でできるレスキュー訓練を行うものである(図-12)。
 

図-12 体験型教材「レスキュー体験」




 
不幸にも宙づりとなってしまった場合、宙づり時間が長くなると安全帯によって締め付けられた体は、呼吸困難、血栓障害等を発症する。これら体の異常を緩和するためのレスキュー動作を、体験することができる。
 
 
3 使用するシステム機器の構成 
 
本システムでは、立体映像処理と3次元インターフェース等を用いることで、従来よりもリアル感を体験できるVRを実現するシステムを構築している。
 
(1)ワークステーションの構築
ワークステーションは、下記の仕様によるシステムで構築している。通常のPCでは動作性が乏しくなるため、最低限以下のスペックが必要となる(表- 1)。
 



 
(2)ヘッドマウントセットの選定
現在、ヘッドマウントセットは数種類販売されているが、プログラム映像への没入感や仮想空間における自由度を重視し、「HTC VIVE(以下、「VIVE」)」を選定した。
 
VIVEは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)・コントローラー・ベースステーションにより構成されている(図- 13)。
 

図-13 ヘッドマウントセットの構成




 
①HMD
VIVEのHMDは非透過型であり、外部の視覚情報を遮断し、HMD特有の高解像度グラフィックスで見ることで、一瞬にして“没入する体験”が可能である。タイムレスかつ自分の意思で360度周囲を見渡すことができる。
 
②コントローラー
コントローラーはワイヤレスであり、VR用に特別に設計されていることから、リアルな触覚フィードバックが可能となる。
 
③ベースステーション
2つのベースステーションを設置することにより、体験者を360度動作追跡し、優れた没入感が得られる。また、ベースステーションの設置範囲を設定することで、シャペロンガイダンスシステム(プレイエリア外に出そうになると警告される)により、設定された
範囲内で安全に教育を受講することができる。
 
 

VR技術の活用時における課題と今後の方向

今回、「モーションキャプチャを活用した没入型安全教育」の開発をおこなったことで、従来型安全教育の課題を解決できたと考える。しかしその一方で、VR技術を採用するがゆえの課題が明確となった。安全教育を実施する場合、一般的には工事現場の作業を一時中断させて教育会場に大人数を集めて実施する。これは、コストや工事工程を理由としたものであり、これらの実施方法にも対応する必要がある。しかし、現在のVR技術では、複数の被験者による同時体験は難しい。VR技術を活用した教育手法の学習効果がいかに高くとも、大人数の受講者を効率よくさばくことができなければ、その価値は高まらない。よって今後は、複数の被験者が同時に仮想空間の中で労働災害を体験できるソフトやデータの開発が必要である。また、土木建築工事において多く発生しやすい労働災害をモデルとした教材や専門工事向けの教材の作成も必要である。さらに、本システムでは、「気づき」を引き出す講師の存在が極めて重要である。この「気づき」を引き出す講師育成を行うため、 シラバスの充実、運用DVDの作成などを実施しなければならない。
 
 

西武建設株式会社

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集3「建設ITの最新動向」



 

 

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