• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 高速道路 > 全天候型路面標示の規格化について

 

はじめに

夜間降雨湿潤時でも良好な再帰反射輝度を保持し,視認性に優れる全天候型路面標示はいくつかの製品が存在し,東・中・西日本高速道路株式会社(以下,高速道路3会社という)でもごく一部ではあるが,安全対策として外側線や導流レーンマーク等に使用されている。しかし,高速道路3会社で通常使用される路面標示(以下,標準型路面標示という)は5年以上の品質を確保する材料規格を持つのに対し,全天候型路面標示には明確な材料規格がなかった。そこで,複数年にわたる室内実験や施工箇所の追跡調査を経て,平成29年7月,高速道路3会社のレーンマーク施工管理要領に全天候型路面標示の材料規格およびその試験方法を掲載した。本稿ではその内容について紹介する。
 
 

1. 全天候型路面標示とは

1-1 全天候型路面標示の概要

路面標示の表面にはガラスビーズがあり,照射されたヘッドライトの光を元の方向へ返すことで,夜間の視認性が確保される。しかし,降雨などによりガラスビーズの表面に水が付くと,光の屈折方向が変わり,視認性が大幅に低下する(図-1)。
 

図-1 乾燥時・湿潤時の反射の違い




 
これに対し,ある全天候型路面標示製品では,水に濡れると初めて正しい方向に光を返すように設計された特殊な反射エレメント(図-2)を,通常のガラスビーズと混合使用することで,乾燥時でも湿潤時でも優れた視認性を確保している。
 

図-2 特殊反射エレメント




 

1-2 突起型路面標示との比較

降雨湿潤時の視認性に優れる別の材料として,突起型路面標示がある(写真-1)。湿潤状態では突起の縁が反射を確保するが,それ以外の部分は水の影響や突起の影で視認性が低下してしまう。突起の部分を走行すると騒音・振動が発生することから,高速道路3会社では主に車線逸脱防止の目的で広く使用している。全天候型路面標示は騒音・振動が発生せず,全体がまんべんなく明るくなることから,車線境界線や導流レーンマーク,逆走防止矢印等に使用すると有効である(写真-2)。
 

写真-1 突起型路面標示の視認性比較




 

写真-2 全天候型路面標示の施工例(路面湿潤)




 

2. 規格の検討

2-1 適用試験規格の設定

高速道路3会社の現行の要領には,標準型路面標示に適用する試験規格が11項目あり,そのうち夜間視認性に関する項目は,初期再帰反射輝度と耐摩耗性の2つがある。初期再帰反射輝度は,供試体に路面標示を塗っただけの状態で,光の反射の割合を表す「再帰反射輝度」が,白150mcd/lx・㎡,黄色90mcd/lx・㎡以上であること,というものである。耐摩耗性は,路面標示を塗った供試体に,平均的な交通量の高速道路上で5年間に走行車両から与えられるタイヤ摩擦を室内試験機でかけた後,再帰反射輝度が65 mcd/lx・㎡以上であること,というものである。全天候型路面標示に対しては,現行の11項目に加えて,夜間視認性に関する上記2つの規格値を「降雨湿潤状態」でも満たすこと,とした。また,特殊反射エレメントに一部有機材料が使用されていることから,キセノンランプによる促進耐候性試験実施後,再帰反射輝度が65mcd/lx・㎡以上であること,という規格を追加で設定した(表-1)。
 

表-1 全天候型路面標示適用試験規格




 

2-2 降雨量の設定

上記の「降雨湿潤状態」のうち,降雨量については,50mm/hとした。その理由としては,
 
①今回試験方法立案の参考とした,後述の米国の団体規格では,降雨量を2インチ/h(≒50mm/h)としていること。
 
②高速道路3会社における組み合わせ降雨量通行止め基準での時間雨量が,大半で最高50mm/hまでとなっていること。つまり50mm/hを超える雨は,高速道路が通行止めになる可能性が高まるため,50mm/hまでを考慮する。
 
③気象庁が公開している予報用語で50mm/h以上80mm/h未満のランクは「非常に激しい雨」と定義され,その状態として「水しぶきで辺り一面が白っぽくなり,視界が悪くなる」「車の運転は危険」と説明されていること。つまり,50mm/hを超えると,全天候型路面標示がいくら光を再帰反射しても,水しぶきによる阻害が発生してしまい,またそもそも車の運転が危険で成り立たないことから,50mm/hまでを考慮する。
 
以上の3つである。
 
 

2-3 湿潤状態の設定

「降雨湿潤状態」のうち,供試体の湿潤状態をどのようにするかについて検討した。高速道路3会社の路面標示材料の試験では,上底215mm,下底320mm,高さ200mm,厚さ50mmの高機能舗装供試体を用いるが,ここに50mm/h相当の水を散布しても,供試体側面および下部からすぐに水が抜けてしまい,実際の降雨時の道路状況とかけ離れてしまう。そこで,図-3のように,横断勾配2.5%,縦断勾配0%の片側二車線直線区間を仮定し,そこに50mm/hの降雨があった時の高機能舗装表層の状態を推定した。
 

図-3 降雨時の高機能舗装内状態推定




 
高機能舗装表層の空隙率を20%,透水係数を0.27cm/sと仮定し,50mm/hの降雨に対する表層内部への保水および,水路への流出量を算出すると,降雨開始およそ10分後には表層内部が飽和することになったため,供試体の湿潤状態として「供試体内部を全て飽和させた状態」にすることとした。
 
 

3. 試験方法の検討

3-1 参考規格

前述の規格値を確認するための試験方法を検討するにあたり,米国の団体規格ASTM E2832での測定方法を参考とした(図-4)。
 

図-4 ASTM E2832測定法概観




 
この方法は,道路上に施工された路面標示の上に箱をかぶせ,内部に時間当たり2インチ(≒50mm)相当の水を散布し,箱の下部の穴にポータブルの再帰反射輝度測定器を差し込んで値を測定するものである。しかし高速道路3会社の要領では,道路上に施工する前の段階で供試体に対し試験を行うものなので,当該基準をそのまま使用することができず,箱構造の見直しを行い,可能な限り自然の雨に近い状態を再現できる散水方法を検討した。また,ポータブルの再帰反射輝度測定器は地面に置いて使用するもので,独立した供試体に対しては使用できないため,新たな輝度測定部を作製した。
 
 

3-2 箱構造の見直し

箱の寸法は米国団体規格のものを参考に,内部に供試体を無理なく設置できるよう,縦640mm×横540mm×高さ800mmとし,散水をスムーズに排水するためステンレスのパンチングメタル床板構造とした。なお,供試体については2-3で述べたように内部完全飽和とするため,写真-3のように設置床高さを微調節できるようにした硬質塩ビ製の没水容器を配置した。なお,ここに供試体をセットし,水を入れると表面張力で水面が約3mm持ち上がり,供試体表面の路面標示自体が完全に水没してしまうため,四隅にモルタル片を置くことでそれを除去した(写真-4)。
 

写真-3 供試体没水容器




 

写真-4 表面張力対策




 

3-3 散水方法の検討

50mm/hの散水方法については,水量調節が容易で自然の雨に近い大粒で勢いのある散水が可能,かつ容易に入手可能な流通品となるよう,数多くのノズルを試験し,実験に適していたSpraying Systems社の製品(型番:GG-W-SS-8W)を選定した(写真-5)。
 

写真-5 選定ノズルと散水パターン




 

3-4 輝度測定部の作製

既存のポータブルタイプに代わる新たな再帰反射輝度測定部も,容易に入手可能な部材構成で検討した。光源と受光カメラとの角度はわずか1.05°で,両者を並列配置にすると非常に長いスペースが必要になる。そこで,できるだけコンパクトになるようにビームスプリッタを使用し,光源と受光カメラを直角にすることで,効率良い配置とした(図-5,写真-6)。
 

図-5 光源と受光カメラの配置図




 

写真-6 光源と受光カメラ




 

3-5 降雨湿潤試験装置

上記までに検討した仕様に基づき製作した降雨湿潤試験装置を写真-7,8に示す。また,この試験装置を使用して,ある全天候型路面標示サンプルで試験をした結果を図-6に示す。供試体内が飽和すると再帰反射輝度がほぼ一定になり,この部分で,2-1で設定した試験規格合否を判定する測定を行う。
 

写真-7 降雨湿潤試験装置外観




 

写真-8 試験装置内部




 

図-6 降雨湿潤試験装置を使用した測定結果例




 

4. おわりに

複数年にわたる全天候型路面標示の室内試験・追跡調査等を経て,標準型路面標示と同等の視認性・耐久性を確保できる試験規格を設定し,それを確認するため降雨湿潤状態での試験方法の仕様を提案した。試験規格については,平成29年7月に,高速道路3会社のレーンマーク施工管理要領改定で参考資料として掲載し,試験方法については,同月の高速道路3会社試験方法改定で新規追加した。これに伴い,今後より多くのメーカーの参入を促し,低価格化・高品質化,また高速道路3会社での全天候型路面標示の使用促進で,夜間雨天時のさらなる安全性向上を期待したい。
 
 

株式会社 高速道路総合技術研究所 平田 恭介

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年4月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品