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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 文明とインフラ・ストラクチャー 第49回 世界水フォーラム・ブラジル −20数年間の進化− 

 

ブラジルでの第8回世界水フォーラム

ブラジルで第8回世界水フォーラムが「Sharing Water」(水の共有)を基本テーマに開催されました。3月19日,皇太子殿下の御臨席を賜り開会式が盛大に執り行われました。開会式で皇太子殿下は,世界の多くの人々の協力で世界水フォーラムが開催されることへのお祝いのお言葉を述べられました。
 
開会式の午後,「水と災害」ハイレベルパネルにおいて「繁栄・平和・幸福のための水」という題名で基調講演をなされました。タイトルで示されているように,水は平和の源であることを,日本の歴史を踏まえて講演され,世界中の多くの人々に深い感銘を与えられました。
 
翌20日の午前,日本パビリオンを視察の際には,各出展者の説明に熱心に耳を傾けられ,九州の遠賀川(おんががわ)から参加している学生たちと親しくお話をされるなど,遠くブラジルまで来た日本パビリオン出展者たちを励まされました(写真− 1)。
 

【写真−1 多くの人々でにぎわう日本パビリオン】




 
その日の午後も,ご関心のあるいくつかのテーマセッションに参加され,世界の水を巡る課題を熱心に聴講されておられました。
 
私はアジア太平洋地域の事務局として,日本パビリオン出展運営の責任者として,この世界水フォーラムに参加しました(写真−2)。
 

【写真−2 流域水管理におけるコミュニティーの役割(韓国NGO主催シンポジウム)】




 

20数年前のリオ・サミット

私のブラジル訪問は今回で2度目です。最初は20数年前の1992年,ブラジル・リオデジャネイロで開催された国連による地球環境サミットでした。世界中の首脳,政府,企業,研究者,NGOそして市民団体が集まり,地球環境をいかに守るかを議論する初めての大規模な国際会議でした。
 
当時,私は建設省河川局のダム建設の調整官でした。リオ出張の任務は,長良川河口堰事業の必要性を説明することでした。事業の説明という目的以外にも,任務がありました。
 
そのころ,開発に反対する世界の市民団体はかなり過激でした。国際会議の舞台を占拠するなど直接的な行動をとっていました。このリオ環境サミットにも,長良川河口堰の反対団体が出席することをマスコミ報道によって知りました。彼らが本会議場の舞台で長良川河口堰反対の直接行動をした場合,私たち事業者としても意見を表明する必要がありました。何が起こるか予測がつかないまま,リオ・サミットに向かいました。正直言って,私の頭の中は環境どころではなかったのです。
 
 

反対派テント内での討論

リオ・サミット会議場の周辺は,世界各国の環境保護派の人々の示威行為で騒然としていました。しかし,長良川河口堰反対派の人々が,国際会議場で示威行為をするようなことはありませんでした。何となく拍子抜けした覚えがあります。
 
世界の環境市民団体の人々は,独自の大きなテントを張って,その中で世界各地のさまざまな事業を取り上げ議論していました。チラシで「長良川河口堰反対」のシンポジウムの開催を知りました。当日は夕方6時頃からの開催でした。テントは大きくて薄暗いので,入っても見つかることはないだろう。様子が分かれば,すぐテントから出て帰ろう。そのような興味本位で市民テントに行くことにしました。
 
しかし,その考えは甘かったのでした。満員の市民テントにそっと入った時点で,当時の反対派リーダーの天野礼子さんと目が合ってしまいました。もうそっと帰る訳にはいきません。帰れば,竹村がちょっと来たけどすぐ逃げ帰った,と言われます。それが日本で広まれば,事業にとって大きなマイナスです。私は世界中の市民団体に囲まれた中で座り込んでいました。“飛んで火にいる夏の虫”状態になったのです。
 
やはり,嫌な予感は当たりました。議論が盛り上がってきたころ天野さんが私を指名して,「日本政府は私たちとディベート(debate)をするか?」と聞いてきました。私の「ディベート」のとらえ方は「論争」です。私は,「日本政府は,説明は十分する。しかし,市民団体とdebate(論争)はしない」と答えました。
 
その答えを巡り,「建設省の竹村は,世界中の市民団体の前で,市民団体と話し合いはしない,と言い放った」と国内で広まったのです。いまとなっては楽しい思い出です。
 
 

異様なフランス代表団

実は,私はこのリオ・サミットで,ある深い衝撃を受けていました。
 
世界各国は本格的な政府代表団を形成して,ブラジルのリオに乗り込んでいました。その中でフランス代表団には驚かされました。フランスは政府機関と市民団体が一緒に代表団を形成していたのです。
 
政府機関とNGOや市民団体が一緒のチームを組んでいるなんて,日本の私たちにとって,信じられない光景でした。なにしろ,日本では公共事業と環境団体は何かにつけ対峙していた時期だったのです。
 
日本は行政だけの政府代表団でした。外務省,環境庁,建設省,農林水産省,通産省などの構成です。代表団といっても,実態は,各省縦割りの寄せ集めチームです。各省は行動予定の連絡は取りますが,内容の連携はありません。ましてや,政府機関と民間団体が一緒の行動をとり,会議に向かって相談をして,対応策を練っていくなどありえなかったのです。
 
「フランスはなんて異様な国なんだ!」という思いが私の心の中に澱(よど)んでいったのです。
 
リオから帰国してからも,長良川河口堰は苦闘の中にいました。ボクシングでいうなら,リングのコーナーに追い詰められ,ダウン寸前だったのです。建設省内でも,河川局はダメになるのではないか,と心配されていたようです。そこまで追い込まれた日本の河川行政は,徐々に変身していったのです。
 
 

河川行政の進化

長良川河口堰では,技術資料や環境資料を新たに作成し,社会に公表していきました。テレビカメラに囲まれた完全公開の円卓会議も繰り返し行い,観測データの情報公開も行いました。
 
そして,1997年,河川法の大改正をしました。
 
第1条の目的に「環境保全」を追加したのです。
 
第1条の目的に入れたということは,「環境に配慮した河川工事をしよう」ということではないのです。「環境保全そのものをしよう」ということなのです。全国の河川管理の現場では,住民たちと一緒になった環境保全活動が活発に動き出しました。
 
河川法改正のもう一つの目玉は,河川の長期計画の立案時に「住民の意見を聞く」制度を入れたことです。それまで河川の計画策定は,河川管理者側だけの作業でした。これ以降,住民を含め多様な人々の意見を聞く場が法的に設けられたのです。
 
典型的な国内派だった河川行政は,国際的な動向にも敏感になっていきました。3年度ごとに開催される世界水フォーラムに参加していったのです。2000年のオランダの第2回世界水フォーラムに河川関係者を派遣しました。2003年には,京都で第3回世界水フォーラムも開催しました。2006年のメキシコでの第4回世界水フォーラムには,初めて日本館を出展しました。第5回トルコ,第6回フランス,第7回韓国,そして今回の第8回のブラジルと日本館を出展してきました。
 
メキシコで初めて出展した日本館には,各省,各企業そしてNGOも参加しました。しかし,各組織はコーナーを壁で仕切った長屋形式の展示出展でした。
 
そのメキシコの日本館を運営していた私の脳裏に,あのリオ・サミットのフランスの代表団の姿が浮かんできました。次のトルコからは,仕切りを取り外すことを提案しました。中央政府,地方自治体,大学,民間企業そしてNGOが混然一体となって日本館を構成したのです。そのスタイルが今回のブラジルまで続いてきたのです。
 
 

Stakeholders(関係者)

水の国際会議では必ず,「水問題は全てのStakeholdersが参加して解決に当たっていくべき」と主張されています。
 
このスローガンは美しいのですが,実態は大変難しい課題なのです。ライバル(Rival)の語源はリバー(River)です。水を巡る問題の関係者で仲が良い話など聞いたことがありません。仲が悪いから「水問題は全てのStakeholdersで解決」というスローガンが掲げられるのです。
 
この水分野で,世界水フォーラムの日本館は,「全ての水関係者の参加」を具体的に表現しているのです。
 
今回のブラジルのパビリオン館には,17カ国と87の組織が出展していましたが,日本館のような形式の館は見当たりませんでした。日本館は極めて特異な館でした。日本館が最も人気があった,という評判も聞きました。多様な機関が集まり,何となくざわついていたので活気がある,とみられたのでしょう。
 
日本では2014年に水循環基本法が成立しました。流域協議会のすべての水関係者によって,流域の水問題を解決していこうという動きがスタートしました。法制度による動きは,開始されたばかりです。しかし,形式の上では,世界水フォーラムの日本館が,その先を走っているのです。
 
名実ともに日本社会が,世界水フォーラムの日本館に追いつく日が,日本が世界の水のトップリーダーとして貢献していける時なのでしょう。
 
リオ・環境サミットから20数年,日本の水行政と水関係者の意識は,世界の最先端を走るところまで進化しました。私自身がそれを目撃し,体験したので断言できるのです。
 
 

竹村 公太郎(たけむら こうたろう)

非営利特定法人日本水フォーラム代表理事・事務局長,首都大学東京客員教授,東北大学客員教授 博士(工学)。神奈川県出身。1945年生まれ。東北大学工学部土木工学科1968年卒,1970年修士修了後,建設省に入省。宮ヶ瀬ダム工事事務所長,中部地方建設局河川部長,近畿地方建設局長を経て国土交通省河川局長。02年に退官後,04年より現職。著書に「日本文明の謎を解く」(清流出版2003年),「土地の文明」(PHP研究所2005年),「幸運な文明」(PHP研究所2007年),「本質を見抜く力(養老孟司氏対談)」(PHP新書2008年)「小水力エネルギー読本」(オーム社:共著),「日本史の謎は『地形』で解ける」(PHP研究所2013年),「水力発電が日本を救う」(東洋経済新報社2016年)
 
 


■ 世界水フォーラムとは・・・
世界水フォーラムは3年に1度,世界中の水関係者が一堂に会し,地球上の水問題解決に向けた議論や展示などが行われる世界最大級の国際会議。世界水会議(WWC=水分野の専門家や国際機関の主導のもと,1996年に設立された民間シンクタンク)とホスト国により共同で開催されている。
 
世界で深刻化する水問題,とりわけ飲料水,衛生問題における世界の関心を高め,水事業,水企業に従事する技術者,学者,NGO,国際連合機関などからの参加で世界の水政策について議論することを目的としている。
 
2003年には,第3回の世界水フォーラムが日本の琵琶湖・淀川流域で開催され,日本水フォーラムの設立につながった。
 
               【過去7回の開催国】



 
■ 水道水が飲める国は世界でもごくわずか・・・
出典資料はやや古くなるが,国土交通省がまとめた平成16年版「日本の水資源」(概要版)によれば,世界196カ国(日本が承認した国の数に日本を加えたもの=2018年3月現在)中,水道水が飲める国は極めて限られているといわれる。水道設備は普及していても飲み水としては使用せず,ミネラルウォーターを利用することが習慣化している国もある。とりわけ,欧米諸国はその傾向が強い。
 
国による硬水と軟水の違いや米国のように州政府によって異なる水質基準を設けている国も存在する。水資源に恵まれ,世界でもトップクラスの浄水技術を誇る日本は,北から南まで同一の水質基準を設定し,比較的安価な料金(欧米諸国のおよそ半分)で水道水が普及している世界でも稀有な存在。
 
             【世界の水道水の現状】



 
 

特定非営利活動法人 日本水フォーラム         
代表理事・事務局長 
竹村 公太郎

 
 
 
【出典】


積算資料2018年6月号



 

 

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