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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > 名城公園の魅力向上

 

はじめに

本市では,これまで,市内全域を対象に公園の配置計画を決定し,その整備と維持管理に努めてきましたが,厳しさを増す財政状況を考えると,新たな公園整備や維持管理の充実は,容易に実現しにくい状況となっています。また,人口減少や少子高齢化といった時代の大きな変化に伴い,ゆとりや心の豊かさの実感,都市のブランド力の向上,自然との共生といった成熟社会の実現が求められるようになりました。
 
こうした状況を受けて,公園のあり方と今後の利活用の可能性を考え,平成24年度に「名古屋市公園経営基本方針」(以下,基本方針という。)を,平成25年に「名古屋市公園経営事業展開プラン」(以下,事業展開プランという。)を策定しました。
 
これは,「公園から美しく魅力輝く名古屋を創造する〜利用者満足度の向上と名古屋の魅力アップ~」を基本理念として掲げ,公園を市民の皆さまの重要な資産としてとらえ,市民・事業者・行政のパートナーシップの元,経営的な手法で公園を最大限に利活用していく「公園経営」の考え方で,公園の利用者満足度の向上と名古屋の魅力アップを目指すこととしたものです。
 
以下に基本方針および事業展開プランに基づき,本市の一般の都市公園では初となる民間活力により収益施設を導入した「名城公園(北園)営業施設等事業提案」に関わる一連の事例(以下,「本事例」という。)を紹介します。
 
 

1. 基本方針と事業展開プラン

1-1 基本方針

基本方針は,平成23年3月に策定した「なごや緑の基本計画2020」の中で位置付けた「都市公園の利活用の推進」を実現するため,平成24年6月に公園経営の取り組みの発展につながるよう,前述の基本理念を掲げて基本的事項から体系的な整理を行ったものです(図-1)。
 

図-1 公園経営基本方針の体系図




 
上記のうち,本事例は主に以下の推進策に基づいて実施しました。
 
● 基本プロジェクト…民間活力導入プロジェクト
● 取り組みの指針…指針4
● 制度整備の方策…方策2
 
 

1-2 事業展開プラン

事業展開プランは,基本方針に基づく具体的な取り組みを効果的に推進するために,優先的に取り組むべき課題と戦略的展開をまとめたものです。事業展開プランにおいては,本市の公園経営の推進の現状を踏まえた4つの課題について,明確かつ合理的に取り組みを進めていくという考え方の元に戦略を立てています(図-2)。
 

図-2 事業展開プランにおける課題と戦略




 
戦略1の中で,基本方針の4つの基本プロジェクトを率先して行う「シンボル公園」を選定し,名城公園は「民間活力導入プロジェクト」を優先的に実施するシンボル公園としています。また,戦略3の細目において「3-1 多様な社会貢献・ビジネス機会の提供」を掲げ,基本方針の指針4に基づき「飲食を楽しめる場の提供」といった取り組みを進めることとしています。
 
 

2. 名城公園における事例紹介

2-1 名城公園(北園)の概要

名城公園(北園)は,名古屋城の北側一帯に広がる区域で面積は21.79ヘクタールです(図-3)。
 
花やスポーツを主体とした特色ある公園として整備されており,主な施設として指定管理施設である「名城公園フラワープラザ」の他,野球場,ジョギングコース,サイクリングコースなどがあり,多くの市民に利用されています。
 

図-3 名城公園(北園)と提案対象区域




 
提案対象とした区域は,東側は大通り(大津通)に面しており,また,地下鉄名城線「名城公園駅」2番出口より徒歩1分,という好立地にあります。
 
この提案対象区域において,民設民営のカフェやスポーツ施設等の便益施設を設置し,市民サービスや利用者の快適性,満足度の向上を図るとともに新たな歳入を確保することを目的に公募を実施しました。
 
 

2-2 公募に至る経緯と主な取り組み

①準備段階(平成23年度~平成25年度)
提案対象区域には名城公園の管理事務所として北土木事務所名城公園分所(以下,「分所」という。)が設置されていました。平成23年度に管理事務所機能が北土木事務所に統合されたことで,その跡地の利活用策として,基本方針および事業展開プランに基づき民間事業者の斬新なアイデアと優れた経営ノウハウにより,魅力あふれる新たな賑わいを創出し,公園の機能増進を目指して事業化を進めたものです。
 
平成24年度は,分所跡地の利活用を図るため,民間委託により市民ニーズ調査や民間事業者への事業性調査を実施しました。
 
市民ニーズ調査として現地でアンケート調査を実施したところ,名城公園の今後について期待する役割として,上位の回答は次のとおりでした。
 
散歩,ランニングの場:37%,美しい景色:30%,子供が快適に遊べる場所:22%,飲食を楽しめる場:17%,バーベキューができる場:14%。
 
また,事業性調査として,公園利用者のニーズに基づき本事業の候補となり得る業種・業態から複数社に対して名城公園(北園)へのヒアリングを行ったところ,飲食店や物販,スポーツ系の業界から参入意欲ありとする結果が得られました。
 
平成25年度は,引き続き民間事業者に対して公園の使用料や事業期間といった具体的な事業採算性ヒアリングを行うとともに東海財務局を始めとする関係公署等との調整を進めました。名城公園(北園)の土地は国が所有しており,本市が無償で貸付を受けて維持管理を行っているものです。そのような場所で民設民営の収益施設の公募を行うことについて,東海財務局の承諾が必要となりました。
 
 
②公募前の課題整理(平成26年度)
東海財務局との協議の結果,事業化が認められました。
 
これにより,公募に向けて具体的に動き出すこととなりましたが,提案対象区域は北土木事務所のバックヤードとして使用されていた箇所であり,その代替箇所の確保の問題がありました。また,その他にも公園敷地内の既存建築物の不適合の問題がありました。建築物については建築基準関係規定に適合しているかを審査されることとなっており,適合性を証明できない建築物について,撤去するか,建築士の確認により適合性を証明するか,いずれかの方法により是正を行いました。
 
 

2-3 公募から開業に至るまで

①公募(平成27年度)
諸条件について関係課との合意形成を図った後,有識者によって構成される評価委員会議での確認を経て,募集要項を策定し,平成28年1月12日より3月16日までの間,公募を行いました。
 
事業スキームとしては,都市公園法第5条に基づく設置許可に基づき公園施設を整備することとしました。工事については収益施設と公的施設(エントランス部分)の工事を一体的に施工し,公的施設部分は整備完了後,市が費用負担して取得(上限額21,500千円)するものとしました。また,管理運営については,事業者による収益施設の所有,維持管理および運営を行い,提案対象区域内は除草清掃等も含め事業者による一体管理を基本としました。
 
募集条件としては図-4のとおりです。
 

図-4 募集条件




 
アの①〜③は事業展開プランで策定したシンボル公園での取り組み概要として掲げた内容です。②③を任意条件とした理由は,平成24年度に行った事業性調査においてスポーツ利用サービス施設等は単体では収支が合わないといった結果が得られたためです。④は,本事業の実施に伴い廃止されることとなった北園駐車場の機能確保の為に,同程度の台数を確保することについても必須条件としました。
 
⑤は,公園へのメインとなる出入口部分について,本来は本市で整備するものではありますが,今回の収益施設の提案区域と隣接しているため,収益施設との取り合わせや空間の一体感,工事工程など事業者による工事が合理的であると判断し,事業者による整備後,本市が買い取ることとしました。
 
 
②事業者決定~開業(平成28年度~平成29年度)
公募の結果,3者からの提案が出され,各提案について評価委員会議による書類審査およびヒアリング審査を経て,現在の「トナリノ」となる提案をした事業者を最優秀提案者として平成28年4月25日に決定しました。本提案が評価された主なポイントは,「大津通からの景観に配慮されており,ウッドデッキの階段やテラスなど,公園の新しいランドマークとなることが期待できる。」「備蓄倉庫や太陽光発電による蓄電など,災害時における運営計画」という点などでした(図-5,6)。
 

図-5 全体鳥瞰図


 

図-6 平面図




 

本市と事業者は,開業に向けて綿密な調整を行い,同年5月25日に基本協定を,7月22日に実施協定および公的施設譲渡契約を締結しました。その後,事業者による準備工事を経て11月2日に本格着工し,平成29年4月27日に「トナリノ」として開業しました。
 
なお,本市の設置許可使用料の収入は年間約800万円であり,これは名城公園の維持管理費用に充当されています。トナリノは開業後半年で入館者数約29万人となり,情報番組でも取り上げられるなど市民の方の新たな話題のスポットとなっています。また,事業者としては本事業を契機として都市公園内における収益施設整備および運営といった新規事業に取り組んでおり,他の公園におけるビジネス機会に生かしています。これはまさに,基本方針で掲げた市民・事業者・行政がWin-Winの関係で進める公園経営に適合した形となっています。
 
 

2-4 トナリノの概要

施設名称のトナリノは,「KITTE」のネーミングなどの実績をもつ株式会社日本デザインセンターによって命名されました。市民が育む名城公園の新しい顔として「名古屋城のとなり」「豊かな緑のとなり」そして「市民のとなり」に寄り添い,新しい出会いや体験へと誘う交流と創造の施設といった意味が込められています。また,名誉館長には野口みずき氏(アテネ五輪女子マラソン金メダリスト)を迎えている他,名城公園の東側にキャンパスを構える愛知学院大学との間では,健康増進社会の実現に向けた産学連携活動を円滑に進めることを目的とした包括協定を締結しています。なお,施設景観等については以下のとおりです。
 
 
①施設景観
komorebi:週に1回以上事業者主催のイベントを実施。愛知学院大学の学生によって考案された候補の中から市民投票によって命名(図-7)。

図-7 komorebi




 
hinatano:トナリノ南側2階のテラス。名城公園(北園)の南側に位置する名古屋城の天守を望むことが可能(図-8)。

図-8 hinatano




 
soraeno:komorebiからhinatanoを繋ぐ階段。階段部分がゆるやかに設計されており,広場でのイベント時に観客席としての利用も可能(図-9)。

図-9 soraeno




 
石垣ゲート:名城公園(北園)のファサードを飾る名古屋城の石垣をモチーフに設置された銘板(図-10)。

図-10 石垣ゲート




 
②テナント等
● スターバックス コーヒー 名城公園店(カフェ)
● ガーブ カステッロ(イタリアンレストラン)
● ローソン S名城公園店(コンビニエンスストア)
● ニシオスポーツ hasiri-Ni(スポーツ用品店)
● さら名城(ランナー・サイクリストサポート施設)
● ディーン&デルーカ カフェ 名城公園(カフェ)
● 北園駐車場(駐車場)
 
 

おわりに

収益施設導入後に公園利用者へアンケート調査を行い,総合的な満足度として約7割の方に「満足」とする評価をいただきました。また,来園目的として3番目に「トナリノ利用」が上がっており,5割近くの方がトナリノをきっかけとして名城公園(北園)への来園頻度が増えたとしていることから,本施設が一つの目的地となってきています。
 
本事例の後,都市公園法が改正されたことを受けて,全国的にも都市公園における収益施設の導入に向けた動きが加速しており,本市としても次なる民間活力導入に向けて検討を進めているところです。
 
トナリノはまだスタートラインに立ったところであり,最長で平成49年までの間,収益施設としての役割を果たし続けていくことが求められています。事業終了までの間,無事故で健全な運営が継続され,皆さんから「行ってみたいな。」と思っていただける魅力ある公園施設であり続けられるようにしていきたいと考えています。
 
また,市民・事業者・行政のパートナーシップの下,経営的な手法で公園を最大限に利活用する公園経営を目指していきます。
 
 
 

 名古屋市 緑政土木局 緑地部 緑地利活用室

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年08月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

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