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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > 天然芝の耐久性を高め,良質なピッチを維持するハイブリッド芝

 

ハイブリッド芝とは

芝と言えば天然芝しか存在しなかった時代に,化学繊維を用いた人工芝が生まれた。その斬新さは当初,話題を集めたが,一方で衝撃を吸収しにくいため選手の脚部への負担が増すという問題点も指摘された。こうした問題点を解決して誕生したのが「ハイブリッド芝」である。「ハイブリッド(異種の交配)」と冠されているが,一般に「天然芝に5%の人工芝を組み合わせた芝」と定義される通り,天然芝を人工繊維による人工芝で補強した芝と言う方が的確だ(図-1)。しかし,天然芝と比較して特に管理面に優れた特長があり,サッカーやラグビーの国際大会をはじめ,欧州サッカーリーグで使用されるスタジアムおよび付属のトレーニングセンター等で使用される機会が拡がっている。
 



図-1 概要図




 

ハイブリッド芝のメリット

ハイブリッド芝がもたらす優れた特長は,人工繊維で天然芝の根元を補強することで実現される高耐久性や排水性の向上など多岐にわたる。人工繊維に天然芝の根が絡みつくことでその根が成長し,深くなるが,こうして根がしっかりと生育すると,地上の芝の部分も丈夫になるため,天然芝が剥がれたり,削れたりしにくくなる。ゴールエリアなど,動きが激しい場所の傷みを抑えるには特に効果的だ。
 
このように人工繊維を組み込むことで,天然芝が強くなりベストコンディションを長く維持できることは,それだけ練習時間も長く設定でき,トータルで選手のトレーニング環境も向上させることができる。また,天然芝の耐久性の向上は,張り替え回数の削減にもつながるため,コストダウンも図ることができる。競技面では,ピッチ(競技エリア)全体でボールのイレギュラーが少なくなり,また,同じ転がり方をするので,パスサッカーに適した高品質の芝を維持できる。さらに,人工繊維により道筋ができるため水はけや通気性も向上し,天然芝の育成を両面から助けてくれる。水はけの良さは,雨天のピッチコンディションにも好影響を与えてくれる。これらに加え,見た目も天然芝と変わらぬイメージで,観客席から眺める際の景観面でも遜色ない。
 
これまで述べたようなメリットと世界的な使用拡大の潮流を受け,Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)は,「スタジアム検査要綱〔2018年度用〕」において,ピッチについて「天然芝もしくはJリーグが認めたハイブリッド芝(ピッチ全体が天然芝と5%以下の人工芝とを組合わせたもの)」と明記し,リーグ創設以来続いていた“天然芝のみ”というピッチ基準の見直しを行った。
 
この変革を契機に,ハイブリッド芝の導入を実現したのが開閉式の屋根を持つ全天候型の「ノエビアスタジアム神戸」(神戸市兵庫区)である。日本でも屋根付きスタジアムが増加しているが,光や風が欠かせない天然芝を良質な状態に保つためにどこも芝の管理に苦心している。“ハイブリッド”とはいえ,基本的には天然芝同様にメンテナンス面での工夫が必要とされる。そのため,本格的なハイブリッド芝の普及には,日本の気候風土に適した独自の管理手法の確立が求められている。ハイブリッド芝の仕組みやメリットが理解されるにつれ,同スタジアムの管理手法に対し関心が高まっている。
 
 

ノエビアスタジアム神戸が日本初導入

(写真-1)
国内スタジアムでは初めてハイブリッド芝が導入された「ノエビアスタジアム神戸」も,ドーム型の屋根付きスタジアムとして同型のスタジアムと同じ苦労を味わっていた。サッカーJリーグ1部のヴィッセル神戸の本拠地でもあり,芝の品質改善を考えた担当者は,ハイブリッド芝が既に導入されている名門サッカーリーグ「プレミアリーグ」のあるイングランドに渡った。そこで,イングランドサッカー協会などの仲介によって出会ったのが「スティッチング方式」のハイブリッド「SISGrass(以下,シスグラス)」である。ハイブリッド芝の特色の一つである根の伸長促進作用など,入念な品質のチェックを行い,まだ日本で導入実績のなかった「シスグラス」の採用に踏み切ったのである。
 
同スタジアムでは,既に今季のJリーグの試合からピッチにこの「シスグラス」が使われているが,「状況は見るからに良い」という好感触を得ている。以前は,Jリーグの試合が行われると,芝生がめくれ上がるような状態だった。この場合,「ヘキサゴンプラガー」と呼ばれる六角形の道具で新しい芝を運んで補修するのだが,これまでは,この補修用の芝の数が1試合当たり約200個も使われていたという。それが現在は,ピッチは少し傷つく程度で補修の必要は殆どなくなった。また,人工繊維に柔軟性があるため,ヴィッセル神戸の選手たちが練習時に裸足で走るようになったと言う。もちろん,これまでそんな姿を見かけることはなかった。
 

写真-1 ノエビアスタジアム神戸




 

地道なメンテナンスが生む良質の芝

しかし,「ノエビアスタジアム神戸」におけるピッチコンディションの良化は,単に「シスグラス」を導入しただけで生まれた訳ではない。その背景には,芝を育成するためのきめ細かなメンテナンスが欠かせない。
 
英国に本社のあるSIS Pitches社製品ということから,メンテナンスの方法はヨーロッパ仕様になっていた。もちろん同スタジアムの芝の種類も,ヨーロッパと同じ寒冷地型である。そこで同スタジアムを運営する楽天ヴィッセル神戸株式会社では,天然芝の品質基準を定めている英国スポーツターフ研究所(STRI)に確認しつつ,試行錯誤しながら日本の環境に合った
育成方法を探っていった。
 
屋根付きスタジアムで日差しが通常の33%程度しか当たらないため,植物育成効果のある「グローライト」による照明で補い,風を巨大扇風機にて起こし,空気の停滞を防ぎ地上の表面温度を下げている。さらに「地温コントロールシステム」による地下根茎部の温度コントロールや,「インフィールドスプリンクラー」を使って1秒単位のきめ細かな散水調整を行う水分管理など,徹底して寒冷地型の芝に合った環境を目指した(写真-2)。また,芝刈り作業時には,枯れた葉などの有機残渣を吸い上げ,地表面が高くなって人工繊維が埋もれないよう配慮し,天然芝の栄養を生み出す光合成を促した。さらに,芝の高さをベストに保つために,地表の人工繊維は高さ2cmを守って整備を続けた。
 

写真-2 グローライト




 
こうしたメンテナンス作業の他に,地中には水が浸透しやすく,人工繊維も入りやすい丸みを帯びた砂を入れた。人工繊維を打ち込む作業を行うと,土が締まり過ぎて,摩擦によって人工繊維が溶ける可能性が生じるためである。時期にもよるが通常は8〜9cm程度で止まる天然根の成長が,約18cmにまで達したのは,さまざまなメンテナンス作業の成果であると言える(写真-3)。
 

写真-3 根長




 
同スタジアムにおける芝生管理の成功は,このように人工繊維を核とするハードとしての効果と,緻密なメンテナンスによるソフト面のフォローによって成し遂げられたと言ってよい。天然芝も含めて,導入時は芝の美しさにのみ関心が集まりがちだが,ハイブリッド芝も,放置しておいて勝手に芝が育つ訳ではない。あくまで天然芝の補助材として機能する存在のため,天然芝を良好な状態で維持・管理するための作業を欠かすことはできない。
 
 

導入のメリットと可能性

「ノエビアスタジアム神戸」では日伊ラグビー代表親善試合直後のピッチ状態も良く,関係者から高い評価を得たようだ(写真-4)。ハイブリッド芝の導入は,日本でも拡大が期待できる。芝のコンディションを長期に良好に保てるメリットはもちろん魅力的だが,スタジアムを運営する官公庁や企業・団体にとっては予算的な優位性も注目に値する。導入コストはかかるものの,芝の張り替え回数が大幅に減るため,長期的に見たランニングコストは大幅に削減される。また,ピッチの使用回数が高まりスタジアムの増収益につながることが期待できる。これまで述べた通り,コンディション維持のためのメンテナンスへの対応は不可欠だが,ハイブリッド芝の普及・拡大の可能性はますます高まっている。
 

写真-4 ラグビー試合直後のピッチ状態
右上の写真は以前のピッチ状態




 
【出典】


積算資料公表価格版2018年08月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

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