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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 2017年制定 土木学会 コンクリート標準示方書について

 

はじめに

土木学会コンクリート標準示方書(以下,示方書)は,わが国の土木分野における中心的な学会である公益社団法人土木学会により刊行されているコンクリート構造物の技術規準です。技術の進展,コンクリートを取り巻く社会情勢の変化に対応するために,おおむね5年ごとに改訂が行われてきました。2018年3 月に示方書[設計編]と[施工編]が改訂され,それぞれ2017年制定土木学会コンクリート標準示方書[設計編],[施工編]として刊行されました(図-1)。本稿では,今回の改訂の概要を紹介するとともに,示方書の位置付けや役割について述べます。
 

図-1 2017年制定土木学会コンクリート標準示方書[設計編][施木学会コンクリート標準示方書[設計編][施工編][改訂資料]




 

1. 土木学会コンクリート標準示方書

1-1 示方書の特徴

示方書は,1931年に土木学会において制定された「鉄筋コンクリート標準示方書」を前身とする,歴史ある技術規準です。その誕生から現在に至るまで,行政府や事業者や民間団体ではなく,学会が制定してきたことが他の技術規準との大きな違いです。示方書の制定,改訂に携わるのは公益社団法人土木学会コンクリート委員会であり,大学,民間会社,事業者などの技術者,研究者により組織されています。すなわち,示方書は,それら様々な組織を母体とする人たちが協力して,社会の公益と技術の発展のために作成した技術文書であるといえます。それゆえ示方書は,コンクリート構造物の設計,施工,維持管理に適用されるのはもちろんのこと,研究や技術開発の道標ともなり,教育や人材育成にも影響を及ぼしています。
 
なお,示方書は,道路構造物,鉄道構造物,港湾構造物などに限定せず,土木分野における全てのコンクリート構造物を対象としていることも特徴です。現在では,道路,鉄道,港湾などそれぞれに規準が制定されていますが,それら構造物の設計,施工,維持管理においても土木学会示方書は広く活用されています。
 
 

1-2 示方書改訂の経緯

コンクリート構造物の設計,施工,維持管理に関する技術の進展に併せて,編の新設,分離,統合を行いながら改訂が重ねられてきました。図-2に現在の示方書と関連が深い1986年以降の示方書の変遷を示します。1986年には従来からの許容応力度設計法から限界状態設計法に設計の枠組みが刷新されました。1995年の阪神・淡路大震災の教訓を受けて1996年に耐震設計編が設けられましたが,現在は[設計編]に再統合されています。メンテナンスの時代といわれるように既存構造物の維持管理の重要性が増したことに伴い,2001年には[維持管理編]が新たに制定されました。21世紀になり,仕様を満足することで構造物の性能を確保するのではなく,構造物が求められる性能を有していることを直接照査することを旨とする性能照査型設計法の考え方が示方書全体に導入されました。その後2012年には,示方書全体に係わる基本の考え方や,[設計編],[施工編],[維持管理編]など示方書各編の役割と相互関係,技術者の責任と権限,環境に対する考え方を示した[基本原則編]が制定され現在に至っています。
 

図-2 1986年から現在までのコンクリート標準示方書の変遷




 
なお,今回は[設計編]と[施工編]がまず改訂され,2018年10月には[維持管理編]が改訂されます。[基本原則編]と[ダムコンクリート編]は今回改訂せず,現行版をそのまま適用します。これらの編により,2017年制定土木学会コンクリート標準示方書は構成されます。
 
 

2. 今回の示方書改訂のポイント

示方書改訂では,新しい技術に対応することはもちろんですが,全体を通じた目玉となる改訂方針が掲げられます。今回の改訂のポイントは以下です。
 
 

2-1 設計,施工,維持管理の連携

近年,それぞれの技術が高度化する一方で,各作業段階間の情報伝達や意思疎通が行われにくくなってきた面もあります。そこで今回の改訂では,設計,施工,維持管理の効果的な連携を図り,示方書の体系全体としての実効性を高めました。例えば,[設計編]ではコンクリートのスランプを配筋詳細に応じて設定することの重要性を明記しました。また,棒状振動機の挿入を確保するための具体的な水平あきを規定するとともに,配筋図を作成する場合に三次元CADや二次元の配筋詳細図を鉄筋の実寸法で図示することなどを規定しました。
 
 

2-2 災害,事故からの教訓の反映

これも示方書改訂の重要な使命です。2011年の東北地方太平洋沖地震による被害を踏まえ,レベル2地震動を「当該地点における最大級の強さを持つ地震動」と定義しました。また,構造物に作用する津波波力の算定方法と算定された津波波力に対する安全性照査事例を,[設計編]付属資料にとりまとめました。2012年の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を踏まえ,これまで示方書では取り扱われてこなかった付属物や付帯設備に関する記述を[施工編]に追加しました。
 
 

2-3 生産性向上への寄与

プレキャストコンクリート,機械式継手など,施工の合理化省力化に寄与し,生産性を向上させる技術の利用促進を図りました。[設計編][施工編]ともに,プレキャストコンクリートについて記述を充実させ,プレキャストコンクリート構造の有効性を明確にするとともに,橋梁だけでなくボックスカルバートや擁壁などの構造部材にも広く適用されることを促しました。また,従来禁止していた同一断面への継手の集中配置,塑性化を想定する部位への継手配置に関しても,部材が必要な性能を満足することで確認できる場合は許容することとしました。
 
 

2-4 用語の見直し

示方書全体を通じた概念,考え方,用語の整理・見直しを行い,できる限りの統一を図りました。「安全性」「使用性」「耐久性」「性能」「品質」「特性」などの概念を表す用語は設計,施工,維持管理における情報の受け渡しにおいて重要な役割を果たします。一方,示方書改訂を重ねるうちに使われ方や意味が変化してきた用語も散見されました。そこで今回の改訂では,表-1に示したように示方書の各編間で共通して用いる重要ないくつかの用語について,定義の見直し,修正を行いました。
 

表-1 2017年制定示方書におけるコンクリート構造物の主要な性能




 

3. [設計編]の改訂概要

3-1 考える設計の重要性の喚起

構造計画においては,構造物は要求性能を満足しなければならないことはもちろんのこと,その上で,想定を上回る事象に対しても構造物が壊滅的な状態とならないように,冗長性や頑健性を有するように構造種別,構造形式を選定しなければならないと明記しました。また,耐久性および耐震性に対しては,それぞれ「耐久設計」と「耐震設計」の節を設け,照査の前段としてエンジニアリングとしての知恵や創意工夫を設計に込め,構造全体系のシステムとして性能確保を考える重要性について,設計者に意識してもらうことを意図しました。
 
 

3-2 耐久性照査の深化

これまでの示方書では,コンクリート中の鋼材腐食を引き起こす要因として,コンクリートの中性化とコンクリート中への塩化物イオンの侵入を考慮してきました。しかし,実構造物を対象とした近年の調査研究によると,コンクリートの中性化が進んだとしても,水と酸素の供給が乏しい場合には鋼材腐食の進展が見られないこと,あるいは相当に進展が遅いことが報告されています。そこで,今回の改訂では,これまで行われてきた「中性化深さが設計耐用期間中に鋼材腐食発生限界深さに達しないこと」に加えて,「設計耐用期間中の中性化と水の浸透に伴う鋼材腐食深さが限界値以下であること」を確認することで,鋼材腐食に及ぼす水の影響を直接考慮することとしました。
 
 

3-3 高強度材料の利用拡大

近年,SD490を超える高強度鉄筋が実用されています。そこで,使用性に関する曲げひび割れや短期の変位・変形,安全性に関する耐力算定法などの鉄筋の強度に対する適用性を検討し,SD685の高強度鉄筋まで適用範囲を拡大しました。
 
 

4. [施工編]の改訂概要

4-1 [施工編:本編]の改訂点

示方書[施工編]が,本編,施工標準,検査標準,特殊コンクリートより構成されることは,従来を踏襲しています。
 
本編は,性能規定の原則にのっとった施工についての基本的な考え方を示しています。今回の改訂では,いかなる工事であっても,まずは,本編において設計図書どおりの構造物を構築できる施工方法を十分に検討し,綿密な施工計画を立案した上で,施工を実施することとしました。すなわち,本編でコンクリート工事全体をとらえ,使用するコンクリートや施工方法を十分に吟味し,不確かなものは試験等で確かめた上で施工を実施することを徹底しています。
 
 

4-2 [施工編:施工標準]の改訂点

施工標準は,本編の記載内容をベースとして施工計画を立案する際の標準的な施工方法等を検索する上で参照とするものと位置づけられます。
 
示方書[設計編]との連携により,コンクリートの施工性を確保するために必要とされるスランプの標準的な値を,8cmあるいは12cmのような一律の値ではなく,構造物の部材毎に[設計編]の付属資料に示しました。これに対して[施工編]では,打込みの最小スランプに基づく荷卸しのスランプの定め方を整理して示しました(図-3)。コンクリートの荷卸しのスランプは,場内運搬やポンプによる圧送の距離等,現場の施工条件によって決まるもので,必ずしも設計図書に記された荷卸しのスランプと一致するとは限りません。[設計編]の付属資料の荷卸しのスランプは,施工計画の段階で荷卸しのスランプの大きさに変更が生じ,設計変更や施工承諾等の手戻りが起きにくくするために示したもので,積算のための参考値です。施工に用いるコンクリートのスランプは,施工者が判断し,自らの責任において設定することを原則としたことが今回の大きな改訂点のひとつです。
 

図-3 各施工段階の設定スランプとスランプの経時変化の関係




 

おわりに

1956年の示方書には「示方書の適用について」として「標準示方書を適用する場合には字句にこだわりすぎてはならず,示方書の精神をよく理解し,必要があれば,これを適当に修正して利用しなければならない。」と述べられています。これは,示方書が単なる規則集やマニュアルではなく,技術力を駆使し,良質なコンクリート構造物を実現しようとする技術者を支援することを旨とした技術文書であることを示しています。示方書のこの精神は今も変わるところがありません。示方書がこれからも,信頼性のあるコンクリート構造物の設計,施工,維持管理に役立つことを願っています。
 
 
 

長岡技術科学大学 環境社会基盤工学専攻 教授 下村 匠

 
【出典】


積算資料公表価格版2018年08月号



 

最終更新日:2023-07-14

 

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