• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 2018年度『設計業務等の品質確保対策』の取り組みについて

 

1.はじめに

調査・設計業務は,建設生産プロセスの上流に位置し,社会インフラの品質を確保する上で非常に重要な役割を担っています。一方,公共発注は単年度ごとの予算に従って実施することが基本となっていることから履行期限が第4四半期に集中する傾向にあり,受発注者ともに大きな負担となっているだけでなく,十分な照査期間が確保さ
れないなどの業務成果の品質への懸念があります。
 
また,我が国の建設投資額は,1992年度をピークに急激に減少しており,受注競争の激化や受注高の減少が進行しました。この間,新規採用人数を抑制してきたことで,従業員の構成バランスが崩れ,今後の技術力の維持への懸念や他の知的産業に比べ賃金水準が低いため,有能な技術者が集まりにくいといった懸念があります。
 
国土交通省では,これらの状況を踏まえ,毎年度,業務の履行状況や技術者給与実態調査等の各種調査を実施し,業務成果の品質確保や労働環境改善に資する取組を進めているところです。
 
本稿では,国土交通省における設計業務等の品質確保に向けた取組の一部について,紹介いたします。
 
 

2. 業務成果の適切な受け渡しと品質の現状

国土交通省では,工事目的物の品質確保を目的として,施工段階において発注者,設計者,施工者の三者による「三者会議」を実施し,設計思想の伝達及び情報共有を図っています。「三者会議」は,現場条件が特殊である,施工に要する技術が新規又は高度である等,設計時の設計意図を詳細に伝達する必要があると認められる工事で実施しています。
 
図-1は,平成25〜28年度の三者会議等において確認された設計成果の修正箇所の推移を示したものです。平成28年度は33.7%と年々減少していますが,引き続き,修正箇所を削減するための対策が必要と考えています。
 

図-1 三者会議における修正箇所の推移




 

3.「設計業務等の品質確保対策」重点方針について

国土交通省では,業務成果の品質確保に向けて,「設計業務等の品質確保対策」重点方針を定め,平成30年度は表-1の取組を総合的に進めています。
 
表-1 業務成果の品質確保に向けた取組



 

(1) 受注者による確実な照査の実施

設計成果品の品質を確保するためには,先ずは受注者自らが照査を確実に実施し品質を高めることが必要です。
 
このため,国土交通省では基本的事項の照査内容の統一を図った「詳細設計照査要領」を作成し,特記仕様書で義務付けることで成果品の品質確保を図っています。
 
また,照査を確実に実施できるよう,業務着手段階において,照査の実施時期,必要な期間を受発注者で協議の上,業務管理スケジュール表等に明示し,照査期間を確保する取組も進めています。成果品納入時に,照査技術者自身による照査報告書による報告を原則とすることで,受注者の照査に対する意識向上を図っています。
 
施工段階における修正箇所の主要因は,図面作成及びデータ入力時の不注意・確認不足です。照査にあたって,設計図,設計計算書,数量計算書等について,それぞれ及び相互の整合性を確認する上で,確認マークをするなどしてわかりやすく確認結果を示し,修正箇所の訂正を実施する,いわゆる「赤黄チェック」を平成28年度から本格導入しています。
 
実際に,「赤黄チェック」を実施した社へアンケートをした結果,当初効果を想定していた「図面の修正」等以外にも現場条件に関する修正(近接支障物の有無)等に関するチェック効果があることがわかり,実施した設計者の9割以上が効果を実感しています(図-2)。
 

図-2 赤黄チェックに対するアンケート結果




 

(2) BIM/CIMの推進

建設生産プロセスにおいてBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)を導入することにより,2次元図面から3次元モデルへの移行による業務変革やフロントローディングがもたらされ,合意形成の迅速化,業務の効率化,品質の向上,生産性の向上等の効果が期待されています。
 
このため,国土交通省では,「CIM導入ガイドライン(案)」を適用するとともに,発注者が受注者にCIMモデルの導入・活用に関する要求事項(リクワイヤメント)を設定し,事業を進めてきたところです。この要求事項に基づき,受発注者がそれぞれ知見やノウハウを出し合って3Dモデルを構築し,課題の抽出及び解決策の検討を図っています。
 
平成30年度は,大規模構造物の詳細設計において発注者指定型又は受注者希望型によるBIM/CIMの活用を原則対象とするとともに,原則すべての設計業務等において3Dモデル等を作成・更新した際の目的や考え方を記録し,次工程へ引継ぎする「事前協議・引継書シート」を活用していきます。また,新たに「契約図書化に向けたBIM/CIMモデルの構築」と,「関係者間での情報連携及びオンライン電子納品の試行」を加え,より効果的なBIM/CIMの活用を目指してまいります。
 
 

(3) 履行期限の平準化について

調査・設計業務等の履行期限は,第4四半期に集中する傾向にあり,受発注者ともに大きな負担となっています。また,業務が集中することにより,不具合の発生する可能性も高くなることから,業務実施時期を平準化させることにより,成果の品質確保や業務環境の改善を図る必要があります。
 
そこで国土交通省では,業務の発注に当たっては早期発注等により,履行期限が年度末に集中しないような発注に努めています。また,測量・地質調査・土木関係建設コンサルタント業務を対象(※)に,履行期限の設定について,当該月に履行期限を迎える業務件数の比率が,以下の数値になることを目標としています。
 
● 4〜12月 25% 以上(4〜12月の合計)
● 1〜2月 25% 以上(1〜2月の合計)
● 3月 50%以下
 
図-3に,上記目標に対する,平成23〜29年度までの実施状況を示します。
 
全業務でみると,履行期限「3月」の割合が約64%から約51%まで減少していますが,当面の目標値である50%以下を達成できていない状況にあります。当面の目標値を達成するため,引き続き以下の諸施策を講じてまいります。
 
● 繰越制度(翌債)の活用
● 適切な履行期限の延伸(繰越制度(明許)の活用)
● 適正な工期を確保するための早期発注や国債の活用


(※)発注者支援業務等および環境調査など1年間を通じて実施する業務については,対象外
 

図-3 履行期限の実施状況




 

(4) 適正な履行期間の設定

「設計業務等標準積算基準書(参考資料)」に基づき算定された履行期間と実際の履行期間を比較して,「履行期間を確保」している設計業務において発生した修正箇所の割合は24.4%,「履行期間が短い」業務では43.0%となっており,適正な履行期間を確保することが品質確保につながることが確認されています(図-4)。
 

図-4 履行期間と修正箇所の関係




 
このため国土交通省では,直轄の土木設計業務で適正な履行期間を確保するため,詳細設計業務を対象に,「契約金額」と「主な工種」を入力すると標準的な作業期間が表示される「履行期間設定支援ツール」を作成しました。発注時に本ツールにより履行期間を設定し,契約後は業務スケジュール管理表として活用する試行業務を実施しています。また,業務完了後は,業務スケジュール管理表を提出してもらい,実績データを確実に蓄積します。これを分析して標準期間を更新し,適正な履行期間の設定につなげていきます。

(5) 受発注者のコミュニケーションの円滑化

国土交通省では,効率的な業務等の実施に当たり,関係者間の円滑なコミュニケーションを図るため,以下の取組を実施しています。
 
1) 合同現地踏査について
設計品質の向上を図るためには,適切な設計方針等を選定し,関係者間で共有を図ることが必要不可欠です。そこで,国土交通省では設計条件や施工の留意点,設計に際し留意すべき現地の情報や状況など,現地の詳細状況や制約等を関係者間が一堂に会して共有し,設計成果に反映する取組を実施しています。
 
合同現地踏査は,重要構造物に関する詳細設計業務において原則実施としているほか,その他の設計業務においても積極的に活用しています。また,詳細状況の把握のため,受発注者協議により複数回実施することも可能としています。
 
 
2) 地質技術者等の参画による品質の確保
地質技術者等は,計画から設計,施工の各段階において地盤の評価を行うことが可能ですが,これまでは三者会議等のメンバーには含まれていませんでした。そこで,地質の不確実性が特に高い現場を対象に,地質調査業務を実施した地質技術者等を,建設生産プロセスの要所で参加していただく試行を実施しています。
 
具体的には,詳細設計時の合同現地踏査や工事着手前の三者会議において地質の課題やリスクの共有を図り,例えば,地下水質に起因するコンクリート基礎の腐食リスクに対する工法・材料選定の共有など地質技術者のノウハウを後工程に活用していきます。
 
 
3) ワンデーレスポンスの実施
円滑な業務の進捗を図るためには,遅滞のない応答が必要不可欠です。このため,国土交通省では,受注者から設計条件等に関する質疑・協議があった場合,可能な限りその日のうちに回答することとし,回答に検討期間を要する場合は,適切な時期に回答期限を設定し,確実な回答を行うワンデーレスポンスの取組に努めるよう,平成28年度から共通仕様書に明記しています。
 
 

(6) 条件明示の徹底

詳細設計の実施に当たり,設計条件の確定が遅延することは,履行期間の圧迫や作業の手戻りが発生し,業務成果品の品質低下の原因のひとつとなっています。
 
国土交通省では,詳細設計業務発注時において,受発注者が必要な設計条件等を確認するためのツールである「条件明示チェックシート」を活用し,適切な時期までに設計条件等を受注者に提示し,発注者としての責任を確実に履行するよう努めています。
 
また,確実な条件明示のため,必要に応じて「設計業務の条件明示検討会(仮称)」を開催し,明示すべき設計条件等が設計図書に確実に反映されているかを確認する取組も開始しています。
 
 

4. 低入札価格調査について

公共事業におけるいわゆるダンピング受注は,公正な取引を阻害するだけではなく,成果物の品質の低下,労働条件の悪化等につながるものであり,調査・設計業務等の健全な発展を阻害するものです。
 
このため,国土交通省では,業務について低入札価格調査制度を平成19年度より導入しており,業務を実施する上で必要な費用について実態を調査し,見直しを行っているところです。直近では平成28年4月及び平成29年4月に連続して改定しています。
 
地方公共団体については,地方自治法に基づき低入札調査基準価格や最低制限価格を設定されているところですが,国土交通省としては地域発注者協議会等を通じ,ダンピング対策の必要性や国の取組内容を周知することで,地方公共団体に対して低入札調査基準価格や最低制限価格の適切な設定を促してまいりたいと考えています。
 
 

5. おわりに

品確法にも示されているように,公共事業の品質確保や担い手の中長期的な育成及び確保は重要なテーマとなっています。国土交通省として,各種調査の結果を踏まえ,必要な取組を切れ目無く進めてまいりたいと考えています。
 
 
 

国土交通省大臣官房技術調査課 課長補佐 那須大輔

 
 
【出典】


積算資料2018年8月号



 

最終更新日:2018-11-19

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品