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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 都市のスポンジ化対策〜都市再生特別措置法等の一部を改正する法律の概要〜

 

1. はじめに

平成30年7月,都市のスポンジ化対策を柱とする「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」が施行された。昨年8月に社会資本整備審議会都市計画基本問題小委員会がとりまとめた「都市のスポンジ化への対応」の提言内容の制度的アウトプットと位置付けられるものである。
 
以下では,本法律に盛り込まれた都市のスポンジ化対策の趣旨・概要について紹介する。
 
 

2. 背景

人口増加社会では,都市計画は規制的手法を基軸とする開発コントロール等により,秩序ある市街地形成の促進を図ってきた。しかしながら,人口減少社会では,開発意欲が減退し,望ましい土地利用がなされないことが課題となる。実際,最近10年で空き地のうち個人が所有するものは,約681㎢から約981㎢へと1.4倍に,空き家(売却用,賃貸用等を除く狭義の空き家)については約212万戸から約318万戸へと約1.5倍にそれぞれ増加し,今後さらに,団塊世代が相続期を迎えるのに伴い,高齢者世帯が居住していた住宅やその敷地が大量に低未利用化することが見込まれる。
 
このような中,都市の拠点として都市機能や居住を誘導すべきエリアにおいても,小さな敷地単位で低未利用地が散発的に発生するスポンジ化が進行し,持続可能な都市構造への転換に向けた「コンパクト・プラス・ネットワーク」の取り組みを進める上で重大な障害になっている。スポンジ化の進行は
 
● 生活利便性の低下
● 治安・景観の悪化
 
を引き起こし
 
● 地域の魅力・価値が低下
● さらにスポンジ化が進行
 
という悪循環を生み出す。
 
このような負の連鎖を断ち切り,コンパクトでにぎわいのあるまちづくりの一層の推進を図るためには,従来の規制的な土地利用コントロールに加えて,低未利用地の利用促進や発生の抑制等に向けた適切な対策を講じることが必要となる。
 
なお,このような対策の必要性は,「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2017」「未来投資戦略2017」「新しい経済政策パッケージ」「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」などの政府の基本方針においても位置付けられている。
 
 

3. 要因と対策の方向性

都市のスポンジ化は,人口減少・高齢化による土地利用ニーズの低下を背景としつつ,主に,
 
● 地権者の利用動機が乏しい(土地等を相続したが,自身で使う予定もなく,「そのままでも困らない」ことから低未利用のまま放置するような場合)
● 低未利用地が,「小さく」「散在する」ため,使い勝手が悪い
 
といった要因によって,解消が図られないまま進行する。
 
このため,その対策には,
 
● 行政から土地所有者等に能動的に働きかけを行い,関係者間のコーディネートと土地等の集約により,利用促進を図る(所有と利用の分離)
● 地域コミュニティで考えて,身の回りの都市環境の改善等のために,公共空間を創出する(まずは使う)といった視点のほか,さらなるスポンジ化の発生を予防する観点等から,
● 官民連携で都市機能をマネジメントする
 
といった視点も求められる。
 
 

4. 改正の意図

今般の改正法は,まちづくりの現場にスポンジ化対策のための新たなツールを提供していると同時に,現行の都市計画手法の枠組を,人口減少社会により適応したものへとシフトさせることをも企図している。
 
現行の都市計画制度は,人口増加・都市拡大の時代背景の中で設計されたものであり,土地利用の面では,都市の無秩序な拡大の防止と市街地における用途純化とを主たる目的として,個々の開発・建築行為を捉え,計画や基準に照らして規制的にコントロールを及ぼすことにより,その実現を図ろうとするものである。そこでは,高い開発圧力の下,土地利用計画に従って個々の開発・建築が規律され,永続的な土地利用形態によって,都市の空間が埋まっていくことが想定・志向されている。
 
一方,人口減少・都市縮退の時代においては,土地の過小利用によりもたらされる都市の低密度化をいかにコントロールするかが重要な政策課題となる。構造的な対策として,拠点となるべきエリアに居住や都市機能の誘導・集約を図り,ネットワークでつなぐ,「コンパクト・プラス・ネットワーク」の形成促進が重要であるが,これに加え,個々の低未利用地がもたらす外部不経済を回避するとともにその有効利用を図り,拠点となるべきエリアの地域価値の維持・向上を図ることも重要となる。ここで,既存制度による規制的アプローチは,利用の放棄や不作為に対して有効に機能しないことから,スポンジ化対策のためには,個々の土地利用を積極的に促していく,そのための能動的な働きかけを行うといった,ポジティブ・プランニングの手法が必要となる。そこでは,旺盛な開発・建築需要を前提とするのではなく,小さな更新・リノベーションを促し,それが面に広がっていくことで,時間をかけて拠点となるべきエリアを再生していくというミクロな視点に立つことが必要となる。永続的な土地利用に期待・固執するのではなく,暫定的な土地利用形態を許容・積極評価する考え方も必要となる。
 
さらに,現行の都市計画が都市のあるべき姿の計画,いわば「大公共」を都市計画決定権者が実現しようとするものであるとするならば,人口減少社会においては,身の回りの都市環境の改善やコモンズ空間の創出など,受益範囲の狭い公共性,いわば「小公共」というべき住民目線の公益の実現を政策対象の中心に据えることが必要となる。
 
 

5. 改正事項の概要

今般の法律においては,上記のような考えの下,都市のスポンジ化対策のための新制度の創設・既存制度の改正を措置している。
 

5-1 コーディネート・土地の集約

○低未利用地の利用に向けた行政の能動的な働きかけ(「低未利用土地権利設定等促進計画」制度の創設)*1
従来,行政は,民間による開発・建築行為を待って,規制等により受動的に関与してきた。
 
これに対し,低未利用地の利用促進を図るため,地権者等と利用希望者とを行政が能動的にコーディネートし,所有権にこだわらず,複数の土地や建物に一括して利用権等を設定する計画を市町村が作成する利用権設定計画制度を創設する。計画の公告により,一括して権利の設定・移転が行われる。所有者探索のため,市町村が固定資産税課税情報等を利用することを可能とする。
 
なお,市町村のコーディネートに当たっては,都市再生推進法人・都市計画協力団体・不動産業者等の専門家(プロボノ)と連携してその知見を活用することが期待される。
 
【税制】計画に基づく土地・建物の取得等に係る流通税について,以下の税制特例を措置
● 登録免許税
計画に基づく土地・建物の取得等について税率を軽減地上権等の設定登記等(本則1%→0.5%),所有権の移転登記(本則2%→1%)
● 不動産取得税
計画に基づく一定の土地(道路,通路,広場,集会場,休憩施設,案内施設等の敷地であること等の要件を満たすもの)の取得について,課税標準の1/5を控除。
 

【図-1 低未利用地のコーディネート・土地の集約事例(福井市)】




 
 
○民間のまちづくりの担い手の活用*2
市町村長がまちづくりの担い手(まちづくり会社,NPO等)として指定する都市再生推進法人の業務に,低未利用地を一時的に保有し,利用希望者が現れた時に引き継ぐ(ランドバンク的機能)などの業務を追加する。
 
【税制】都市再生推進法人(公益社団法人等)への低未利用地の譲渡について課税を軽減
● 所得税(本則15%→ 10%),法人税(重課(長期5%)の適用除外),個人住民税(本則5%→4%)等
 
○土地区画整理事業の集約換地の特例*3
土地区画整理事業においては,照応の原則に基づき,従前の宅地の位置とほぼ等しい位置に換地を定めなければならないこととされているところ,例外的に従前の宅地の位置と離れた場所に換地できることとし,低未利用地の柔軟な集約により,地域に不可欠で,まちの顔となるような商業施設・医療施設等の敷地を確保する。
 
【予算(平成30年度)】社会資本整備総合交付金や都市開発資金貸付金の拡充
● 小規模な土地区画整理事業に対する補助の拡充(交付面積要件:2.0ha→0.5ha)
社会資本整備総合交付金(国費 8,886億円)の内数
● 都市開発資金の貸付けに関する法律の改正により貸付けの対象に追加
都市開発資金貸付金(土地区画整理事業資金融資)国費5.3億円
 

【図-2 集約換地による商業施設・医療施設等の敷地確保イメージ】




 
○低未利用地の利用と管理のための指針*2
市町村が立地適正化計画に低未利用地の有効活用と適正管理のための指針を定め,相談等の支援を行うことができることとする。
 
併せて,低未利用地が適切に管理されず,悪臭やごみの飛散など,商業施設・医療施設等や住宅の誘導に著しい支障があるときは,市町村長が地権者に勧告することができることとする。
 
【予算(平成30年度)】指針を含む立地適正化計画の作成支援
コンパクトシティ形成支援事業 国費4.7億円
 

5-2 身の回りの公共空間の創出

○公共空間(コモンズ)の共同管理*1(「立地誘導促進施設協定」制度の創設)
都市機能や居住を誘導すべき区域で,空き地や空き家を活用して,交流広場,コミュニティ施設,防犯灯など,地域コミュニティやまちづくり団体が共同で整備・管理する空間・施設(コモンズ)について,地権者合意により協定を締結(承継効付)。
 
権利設定等促進計画により集約された低未利用地を「コモンズ」として整備・管理することも想定。
 
市町村長が周辺地権者に参加を働きかけるよう,協定締結者が要請できる仕組みも導入。
 
地域の幅広いニーズに対応し,必要な施設を一体的に整備・管理するなど,地域コミュニティによる公共性の発揮を誘導(ソーシャルキャピタルの醸成にも寄与)。
 
【税制】本協定に基づき整備され,都市再生推進法人が管理する公共施設等について,固定資産税・都市計画税の軽減
● 協定に基づき整備・管理する公共施設等(道路・広場等)について,都市再生推進法人が管理する場合に課税標準を2/3に軽減(5年以上の協定の場合は3年間,10年以上の協定の場合は5年間)
 

【図-3 公共空間(コモンズ)の共同管理イメージ】




 
○住民参加のまちづくりの公的位置付け (「都市計画協力団体」制度の創設)
市町村長が住民団体,商店街組合等を「都市計画協力団体」として指定し,民間主体による住民の意向把握や啓発活動等を実施する。
 
指定団体は都市計画の提案を行うことができるとするが,これまでの提案制度の面積要件(0.5ha以上)を外すことで,良好な住環境を維持するための地区計画など,身の回りの小規模な計画提案も可能となる。
 

【図- 4 住民によるワークショップ】




 

5-3 都市機能のマネジメント

○官民連携による都市機能の確保(「都市施設等整備協定」制度の創設)
民間による都市施設,地区施設等の整備については,都市計画決定されても民間による整備がなされないなど,地域バリューの低下をもたらしスポンジ化の要因となるケースも認められる。そのため,都市計画決定権者と民間事業者が役割・費用の分担を定め,都市計画決定前に協定締結する仕組みを導入する。
 

【図-5 沿道の開発が計画どおりに進まず,地区施設が未整備のままとなっている事例】




 
○誘導すべき施設(商業施設,医療施設等)の適正配置(休廃止届出制度の創設)
現行の立地適正化計画制度では,都市機能誘導区域内に誘導すべきとされている商業施設,医療施設等を区域外に作ろうとする場合,市町村長への事前届出義務があり,市町村長は必要に応じて勧告を行う。
 
これに加え,今般,都市機能誘導区域内にある商業施設,医療施設等を休廃止しようとする場合,市町村長への事前届出,市町村長による助言・勧告(既存建物活用による商業機能の維持等のための措置)を行う仕組みを導入する。
 

【図-6 百貨店の撤退後,地元企業が転貸権・管理権を得て, 商業,レストラン等の運営を継続した事例(岩手県花巻市)】




 


*1 立地適正化計画で,都市機能誘導区域,居住誘導区域内に定められた区域内が対象
*2 都市機能誘導区域,居住誘導区域内が対象
*3 施行地区に都市機能誘導区域を含む場合が対象
 
 

6. おわりに

以上,都市再生特別措置法等の一部を改正する法律の概要を紹介した。
 
都市のスポンジ化対策に当たっては,行政による能動的なコーディネートや地域コミュニティによる主体的な公共空間創出など,従来型の「待ち」の姿勢からの転換が求められる。現場のさまざまな状況に柔軟に対応できるよう,新制度は,自由度の高い制度設計とした。各都市における低未利用地対策の先行的な取り組み等を参考にしながら,各都市・各プレイヤーにおいて,積極的にスポンジ化対策の実施に向けた検討を進めていただくことを期待したい。
 
 


●都市再生特別措置法等の一部を改正する法律 (平成30年4月25日交付、7月15日施行)



 
 

国土交通省 都市局 都市計画課

 
 
 
【出典】


建築施工単価2018秋号



 

最終更新日:2019-02-04

 

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