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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 旅客施設,車両等に関する「移動等円滑化基準」及び「バリアフリー整備ガイドライン」について

 

1. はじめに

我が国の公共交通機関における旅客施設及び車両等のバリアフリーに関する基準等については,新たに整備・導入等する際に義務基準として遵守しなければならない項目を定めた「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」(以下「移動等円滑化基準」)と,新たに整備・導入等する際の整備のあり方を具体的に示した「公共交通の(旅客施設・車両等)に関する移動等円滑化整備ガイドライン」(以下「バリアフリー整備ガイドライン」)
があげられます。
 
これまで「移動等円滑化基準」及び「バリアフリー整備ガイドライン」ともに何度かの改正・改訂を行っておりますが,
 
①改正前の「移動等円滑化基準」は施行から約10年が経過し,この間,高齢社会の進展,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催決定,障害者差別解消法の施行及び訪日外国人数の著しい増加など,バリアフリー・ユニバーサルデザインを取り巻く環境が大きく変化していること
 
②こうした中,「ユニバーサルデザイン2020中間とりまとめ」(平成28年8月2日 ユニバーサルデザイン2020関係府省等連絡会議決定)等において,「移動等円滑化基準」及び「バリアフリー整備ガイドライン」の改正内容を議論する検討会を設置し,平成28年度末を目処に結論を得て29年度中に改正することとされたこと
 
以上①②等の社会的変化等を受け,改正・改訂を行い,平成30年3月30日に公布・公表しました。
 
本稿では,今般改正・改訂した「移動等円滑化基準」及び「バリアフリー整備ガイドライン」の内容について説明します。
 
 

2.「移動等円滑化基準」及び「バリアフリー整備ガイドライン」の改正・改訂概要

(1)駅等における段差解消されたバリアフリールートの最短化・複数化について

バリアフリールートが高齢者,障害者等以外の旅客が利用する最も一般的なルートよりも長い場合,高齢者,障害者等は他の旅客に比して著しく長距離・長時間の移動を強いられることになります。また,鉄軌道駅では,線路や水路等を挟んだ各側に公共用通路に通じる出入口がある場合,バリアフリールートを一方の出入口にのみ整備しただけでは,他方の出入口を利用したい高齢者,障害者等は迂回(うかい)により著しく長距離・長時間の移動を強いられることとなります。
 
そのため,今回の「移動等円滑化基準」改正において,鉄軌道駅やバスターミナル等の旅客施設では,旅客の移動が最も一般的なルートとバリアフリールートの長さの差はできる限り小さくすることを新たに規定するとともに,上記のような鉄軌道駅においては,原則として,鉄軌道駅の各側の出入口に通ずるバリアフリールートをそれぞれ1ルート以上設けなければならない旨を規定しました。また,「バリアフリー整備ガイドライン」においては,旅客の移動が最も一般的なルートをバリアフリールートとすることを「標準的な整備内容」として明記しました。
 
 

(2)乗降場間の乗継ぎルートのバリアフリー化について

旅客施設内の乗継ぎルートについては,一般的な乗継ぎルートとは異なるルートのみがバリアフリー化されていることにより,高齢者,障害者等は乗継ぎの際,他の旅客に比して著しく長距離・長時間の移動を強いられるケースがあります。
 
そのため,旅客施設内においては,バリアフリー化された乗継ぎルートを乗降場ごとに1ルート以上設けなければならないこと,バリアフリー化された乗継ぎルートと一般的な乗継ぎルートとの長さの差をできる限り小さくすることを「移動等円滑化基準」に新たに規定しました。また,「バリアフリー整備ガイドライン」においては,各乗降場間を結ぶ乗継ぎルートのうち,旅客の移動が最も一般的なルートをバリアフリー化することを「標準的な整備内容」として位置付けるとともに,他事業者の旅客施設(他の交通モードを含む)との乗継ぎルートをバリアフリー化することを「望ましい整備内容」として明記しました。
 
 

(3)エレベーターかごの大きさ等について

旅客施設等のエレベーターでは,近年,ベビーカー使用者や訪日観光客をはじめとするスーツケース等の大型荷物を持って移動される方等が増えたことにより,エレベーターの利用に競合が生じ,高齢者,障害者等がエレベーターの前で長時間待たされるケースが発生しています。
 
そのため,今回の「移動等円滑化基準」改正において,事業者は高齢者,障害者等の利用状況を考慮してエレベーターのかごの大きさ及び台数を定めることを規定しました。また,「バリアフリー整備ガイドライン」では,表-1も参考にしつつ,設置するエレベーターのかごの大きさを選定すること等を「標準的な整備内容」として明記しました。
 



 

(4)トイレのバリアフリー化について

これまで,旅客施設にトイレを設ける場合は,そのうちの一つ以上のトイレは,車椅子使用者及びオストメイトの方が利用できる個室トイレを一つ以上設けたもの,またはトイレ全体が高齢者,障害者等が円滑に利用することができる構造のものと規定していました。
 
現在,多くの旅客施設には前記の車椅子使用者,オストメイトの他,乳幼児連れの方等も利用できる設備を一つの個室トイレに整備した,いわゆる多機能トイレが設置されています。多機能トイレは高齢者,障害者等以外の方の使用も可能ですが,他の個室トイレに比べて利用者が集中し,多機能トイレしか使えない方が利用したいときに利用できないケースが発生しています。
 
そのため,トイレの利便性の向上を図る観点から,今回の「移動等円滑化基準」改正において,車椅子使用者用及びオストメイト用の機能を一つの個室トイレに集中させることを求めず,トイレ全体でそれぞれの機能を有する個室トイレを一つずつ以上設置した場合でも基準適合とする旨に規定を変更しました。また,「バリアフリー整備ガイドライン」では,異性介助者の同伴に配慮し,男女共用の車椅子使用者用個室トイレを一つ以上設置することや,多くの高齢者,障害者等の利用が見込まれる施設では,機能分散の考え方を踏まえつつ,車椅子使用者,オストメイト,乳幼児連れ用の機能をそれぞれ,または,併せて有する個室トイレの設置数を増やすことを「標準的な整備内容」として明記しました。
 



 

(5)運行(運航)等に関する異常時の情報提供について

公共交通機関において事故・故障等の異常が発生した場合の運行(運航)に関する情報提供については,これまで「移動等円滑化基準」に規定はなく,視覚障害者,聴覚障害者,知的障害者,発達障害者,精神障害者等が必要とする車両等の運行(運航)に関する情報が伝わりにくいとの指摘がありました。
 
こうした状況を改善するため,「移動等円滑化基準」の運用を改め,利用者に提供されるべき情報の中に「車両等の行き先及び種別の変更に関する情報」を含めることとし,さらに,「バリアフリー整備ガイドライン」でその具体の情報を明記しました。例えば,運行(運航)の異常に関し,遅延状況・理由,運転再開予定時刻,振替輸送等,利用者が次の行動を判断できるような情報を提供することを「望ましい整備内容」から「標準的な整備内容」に変更するとともに,車両からの避難が必要となった際に,必要な情報を文字により提供することができる可変式情報表示装置を備えることを「望ましい整備内容」として新たに記載しました。
 



 

(6)駅のプラットホームからの転落防止について

「移動等円滑化基準」では,ホームドア,可動式ホーム柵,点状ブロック等の設置による,プラットホームからの旅客の転落防止対策について規定しています。また,「バリアフリー整備ガイドライン」ではプラットホームの点状ブロックや内方線付き点状ブロックの敷設パターンなどについても記載しているところです。
 
しかしながら,近年,視覚障害者の方がホームから転落する事故が相次ぎ,さらなる安全確保対策が喫緊の課題とされました。これまで内方線付き点状ブロックの敷設は義務化されていませんでしたが,視覚障害者の転落防止に効果的であるとの調査結果が出たこと,日本工業規格(JIS)化されたことなどを踏まえ,今回の「移動等円滑化基準」の改正により,プラットホーム上に設置する転落防止対策の点状ブロックは,内方線付き点状ブロックとする旨を規定しました。また,内方線付き点状ブロックは,線状ブロック,点状ブロックと同様,日本工業規格に適合するものでなければならない旨を併せて規定しました。
 
 

(7)プラットホームと鉄軌道車両床面の段差及び隙間の解消について

プラットホームと鉄軌道車両の間については,構造上,段差及び隙間が大きくなる箇所があり,車椅子使用者が乗降する際,駅員等の介助が必要となるケースが存在することから,車椅子使用者等が円滑に車両に乗降できるよう段差,隙間の解消が求められていました。
 
そのため,今回の「バリアフリー整備ガイドライン」改正において,軌道がコンクリート構造であり,車両が鉄輪式リニアモーター駆動方式である場合には,車椅子使用者が単独で乗降できるよう段差,隙間を解消することを「標準的な整備内容」として明記しました。
 
これに加え,段差,隙間の解消についてさらなる調査研究を実施しているところであり,その結果を踏まえ,改めて移動等円滑化基準及びバリアフリー整備ガイドラインの改正・改訂を検討することとしています。
 
 

(8)鉄軌道車両の車椅子スペースについて

これまで,鉄軌道車両の車椅子スペースは,1列車に1箇所以上設けることとし,併せて車椅子スペースの広さ,表示,手すりなどの必要な設備についても規定していました。
 
しかし,新幹線や特急車両などのデッキ付き車両では,車椅子スペースが満席で乗車できないケースや,同スペースが狭く利用しづらいといったケースがありました。また,通勤型車両では,車椅子使用者が乗り込んだ車両に車椅子スペースがないために,車椅子使用者がドア付近の通路上に乗車しなければならないといったケースが聞かれるところです。
 
こうした状況を踏まえ,今回の「移動等円滑化基準」の改正では,車椅子スペースを1編成につき,2箇所以上設置する旨に規定を変更しました(3両編成以下の列車については従来どおり1箇所以上)。また,「バリアフリー整備ガイドライン」では,通勤型車両については利用の状況に応じて1車両に1箇所以上の車椅子スペースを設けること,デッキ付き車両については利用の状況に応じて車椅子スペースを増設すること等を「標準的な整備内容」として明記しました。
 
 

3. おわりに

今回改正された「移動等円滑化基準」は,鉄軌道車両以外に関する規定は平成30年10月1日に,鉄軌道車両に関する規定は平成32年4月1日に施行されます。また,「バリアフリー整備ガイドライン」は実施時期を定めていませんが,「移動等円滑化基準」の改正に合わせた改訂内容であることを踏まえ,速やかに取り組んでいただきたいと考えております。
 
国土交通省としては,今回改正・改訂された「移動等円滑化基準」や「バリアフリー整備ガイドライン」等の円滑な施行・実施により,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした共生社会の実現を目指して,全国各地における高い水準のバリアフリー化に努めてまいります。
 
 
 

国土交通省 総合政策局 安心生活政策課 交通バリアフリー政策室

 
 
 
【出典】


建築施工単価2018秋号



 

最終更新日:2018-12-10

 

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