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ホーム > 建設情報クリップ > 土木施工単価 > 平成29年7月九州北部豪雨における 水資源機構の取り組み

 
平成29年7月九州北部豪雨で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに,被災地の一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます。
 
 
平成29年7月5日(水)の昼頃から夜にかけて,福岡県筑後北部から大分県西部に線状降水帯が形成され,猛烈な雨が降り続きました。この降雨により,同日17時51分に九州では初めてとなる大雨特別警報が福岡県に発表され,19時55分に大分県にも同警報が発表されました。
 
水資源機構の寺内ダム,江川ダムが所在する福岡県朝倉市では,昭和52年からの観測史上1位となる最大1時間雨量129.5mm,最大3時間雨量261.0mm,最大24時間雨量545.5mmを記録しました。
 
本稿では,九州北部豪雨における水資源機構の取り組みを振り返ります。
 
 

1 防災態勢状況

水資源機構は,本社はじめ各関係支社局,淀川本部,吉野川本部,事務所も通常の業務から防災態勢に移行し,風水害の最小化に取り組みました。防災業務は施設周辺地域や施設下流域の被害を最小化するための最も重要かつ優先する業務です。
 

【写真-1 本社防災本部状況】







 

2 被災状況

記録的な豪雨により,大量の水が山に浸透して斜面を崩壊させ,それによって発生した土砂や木を巻き込んだ洪水が川を下り,人々の居住区へ流れ込んでいき,甚大な被害を発生させました。
 
福岡県,大分県で死者40人,行方不明者2人,住宅被害3,141棟の被害が発生しました(平成30年6月時点福岡県及び大分県ホームページ)。また,河川のはん濫,道路等被災など甚大な被害が多数発生し,平成29年8月8日に激甚災害に指定されました。被害額は,福岡県で1,941億円(平成29年8月20日時点福岡県ホームページ),大分県で288億円(平成30年6月30日時点大分県ホームページ)と見積もられました。
 

【写真-2 朝倉市内被災状況(洪水によって流れ込んだ土砂,流木による被害)】




 

3 佐田川の状況と寺内ダムの防災操作,小石原川における江川ダムの貯留

【図表-1 寺内ダム及び下流基準地点(金丸橋地点)】




 
筑後川水系佐田川の寺内ダムは,平成29年7月5日(水)の昼頃から線状降水帯による猛烈な降雨により,昭和53年の管理開始から39年間で最大となる,毎秒約888㎥のダム流入量を記録しました。寺内ダムは防災操作を実施し,最大毎秒約888㎥のダム流入量を記録した時点で,その約99%に相当する毎秒878㎥の水を貯留し洪水の影響を小さくしました。以降,降雨予測,降雨予測に基づく流出計算,下流河川の流況等を勘案し,状況判断を適時に行い,貯水位が異常洪水時防災操作開始水位(129.80m)を超えながらも,ダム貯水池に入ってくる水の量と貯水池の空容量を見極め,ダムに入ってくる水量よりも少ない水量の毎秒約120㎥の放流を続けて,ダム下流域の洪水による被害を回避しました。寺内ダムが無かった場合には,堤防から大きく越水し佐田川周辺の浸水や堤防決壊の可能性があったと考えられます(堤防から洪水が越水しないものと仮定した場合,金丸橋地点において,最大約3.38m水位が高かったと推定されます)。
 

【図表-2 寺内ダム洪水調節効果(金丸橋地点を代表地点として)】




 
さらに寺内ダムは,大量の流木を貯水池にとどめました。寺内ダムがなければ,洪水と大量の土砂,流木が佐田川から溢れ出して,大きな被害をもたらしていた可能性があります。
 

【写真-3 寺内ダム流木状況】




 
一方,隣の小石原川においても,利水ダムである江川ダム貯水池で最大毎秒326㎥の流入量を記録した時点でほぼ全量貯留しました(貯留量毎秒約325㎥)。
 
また,平成29年6月までは,水源地,受益地とも少雨で渇水傾向にあり,河川の水が減り,私たちの生活や良好な河川環境を維持していく上で必要になる水が不足する恐れがありました。これを回避するため寺内ダムは,貯水池から川に水を放流して補給し,人々の暮らしを支え,河川環境を維持していました。その結果,ダムの貯水量が減少し,貯水池に通常より大きな約1,200万㎥の空容量がある状態であったこともあって,ダム建設時に想定していた規模を超える大洪水を貯め込むことができました。
 

【図表-3 寺内ダム洪水貯留のイメージ】




 

【図表-4 寺内ダムハイドログラフ,ハイエトグラフ】




 

【図表-5 江川ダムハイドログラフ,ハイエトグラフ】




 

4 水資源機構の被災地支援の取り組み

甚大な被害が出た福岡県朝倉市,福岡県東峰村からの要請を受け,水資源機構は,平成29年7月6日17時に緊急災害対策支援本部を設置しました。水資源機構から朝倉市,東峰村にリエゾン※を派遣して支援に必要な情報収集を行いました。この情報を基に水資源機構が支援する内容と支援者について,緊急災害対策支援本部会議によって決定し,職員を2市町村に派遣し,復旧を支援しました。
 


※自衛隊のLiaison Officerの通称。軍事用語としては連絡将校であり連絡員のこと。災害時には主に被災地自治体等へ送り込まれる外部機関の連絡員を指す。
 



 

【写真-4 河川等の被災状況調査】




 

5 極端化する気象と水資源開発施設の操作,維持管理

雨が降ると雨水はおおむね地形に沿って集まってきます。やがてこの水は,川に集まって流水となり海へ流れていきます。普段,私たちは,この川の水を利用して生活しています。雨が降らなければ,川の水が減り,私たちの使える水が不足します。今般の洪水が発生するまで,5月,6月は,全国的に少雨傾向にあり,渇水対策を始めていました。
 
水は私たちの生活に必要不可欠である一方で,豪雨によって流水の規模が大きくなると,流水は巨大なエネルギーを持った洪水になります。さらに川の容量を超える規模になると川から水が溢れ,堤防を破壊して私たちの住む領域を襲ってきます。もともと我が国は,急峻な地形である上,雨が梅雨と台風時期に集中して降るため,川の水は,いつも安定した量で流れているわけではなく,川の水の増減が激しい傾向があります。
 
さらに今後は,以前よりも渇水になるような少雨や,大洪水になるような大雨が発生する頻度が上がり,気象の状態が極端化していく可能性が高いことが学術界において報告されています。少雨と大雨の幅が大きくなると,河川の水量の増減の幅が大きくなります。この振れ幅が極端になればなるほど私たちの暮らしに与える影響は大きくなります。このような気象が極端化していくと見込まれる状況において,洪水の影響を小さくする洪水貯留等の防災操作と,また貯留した水を河川に補給し,受益地域に良質な水を安定してお届けする役割を担っている水資源開発施設を適切に維持し,的確な操作を行っていくことの重要性が従前よりも高まってきていると考えています。
 
水資源機構は,今後も,皆様が安全に,安心して日々暮らしていけるよう,安定して水をお届けするとともに,少雨で渇水の時は,人々の生活や環境の維持のために不足する水をダム等の貯水池から河川に補給し,洪水が発生するような豪雨時は,防災操作によってダム等の貯水池に入ってくる洪水を貯留して,その規模を小さくしながら放流し,下流域の被害を回避,軽減してまいります。
 
 
 

独立行政法人水資源機構

 
 
【出典】


土木施工単価2018秋号



 

最終更新日:2018-12-10

 

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