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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 命を守る避難情報はどうあるべきか〜繰り返される人的災害を憂う〜

 
今年も犠牲者が出てしまう豪雨災害の発生,また台風が複数上陸し猛威を振るいました。さらに人的災害を発生させた地震も起きるなど,まさに日本は災害列島です。これらの災害を振り返り,今後の災害において犠牲者をゼロにする取り組みを模索したいと思います。
 
 

1. 水災害

①平成30年7月豪雨(西日本豪雨)

気象庁は今回の西日本豪雨で,11府県(福岡県,佐賀県,長崎県,広島県,岡山県,京都府など)に大雨の特別警報を発令しました。総降水量は,高知県の馬路村で1,852.5mm,本山町で1,694mm,高知県香美市で1,389.5mm, 岐阜県郡上市で1,214.5mmなど軒なみ1,000mmを超えました。いずれも平年で一年分の雨が一度に降ったようなものです。レーダー解析でいずれの地域でも1時間降水量が110〜120mm,24時間降水量が高知県安芸市,土佐市で約800mm,それ以外でも山梨県,静岡県,鹿児島県,徳島県などで600〜700mmを記録。48時間降水量では123カ所が,72時間降水量では119カ所がこれまでの史上最大の記録を観測しました。これまでに誰も経験したことのない豪雨でした。まさに未曾有とはこのような時に使う言葉です。10月9日現在,死者・行方不明者は12府県で232人となってしまいました。
 

【西日本を中心に甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨】
写真提供:アジア航測株式会社




 

②台風21号

9月4日徳島県に上陸した猛烈な台風で,瞬間風速が関西空港で58.1m/s,和歌山県和歌山市で57.4m/s,高知県室戸岬で55.4m/sを観測しました。主な波浪最高値は静岡県石廊崎で8.0m,GPS波浪計では徳島県海陽沖で14.5m,高潮に見舞われた大阪湾の最高潮位は3.3mに達し,関西空港の連絡橋に風で流されたタンカーが衝突,多くの方々が空港に閉じ込められることになってしまいました。犠牲者は
10月2日現在,死者14名を数えています。
 
 

③台風24号

9月30日には非常に強い勢力を保ったまま,和歌山県に上陸。その後,東日本から北日本を縦断して被害を広げてしまいました。1時間降水量が宮城県高鍋町で96mm,24時間降水量は高知県仁淀川町で444mmを記録。広い範囲で暴風,大雨,高波,高潮となり,特に西日本,東日本の太平洋側を中心に各地で記録を更新する猛烈な風が吹き,紀伊半島などで高潮により最高潮位を更新しました。実は私の家は千葉県松戸市ですが,この時の風雨で屋根の一部が飛び,雨樋の大半が飛散,ガレージのシャッターが引きちぎれる被害を受けてしまいました。まさに災害は何処でも起こることを実感しました。
 
 

2. 地震災害

地震災害では6月18日大阪府北部でマグニチュード6.1の地震が発生,1人の女児が倒れた学校のブロック塀の下敷きになり死亡しました。この地震による犠牲者は4名です。
 
9月6日には北海道厚真町を中心にマグニチュード6.7の地震が発生,10月5日現在死者41名を数えています。札幌市内でも液状化現象により多くの家屋に被害が発生。特筆すべきは本州と北海道をつなぐ電力の相互融通システムに齟齬(そご)が生じ全道停電という,これまでにない被害が発生したことです。
 
 

3. 犠牲者ゼロを目指して

洪水や土砂崩れにより犠牲者が発生すると,これまで必ず「避難指示・避難勧告」の発令のタイミングが「早い」「遅い」という議論が繰り返されてきました。住民の命が,全てこの「避難勧告・避難指示」に委ねられているように議論されてきたのです。これまでも避難情報のあり方には多くの課題を抱えてきました。
 
平成21年の兵庫県佐用町で20名の犠牲者のうち避難途中で8名が犠牲になりました。平成25年の伊豆大島では39名の犠牲者が発生した大規模土砂災害の際には,避難勧告等が発令されませんでした。平成26年の広島市でも74名の犠牲者を数えた土砂災害において避難勧告等が発令されず,平成27年9月鬼怒川決壊の時にも常総市で避難指示の発令が躊躇されてしまったのです。平成28年台風第10号による水害では,死者・行方不明者27人が発生するなど,東北・北海道の各地で甚大な被害が発生。とりわけ,岩手県岩泉町でグループホームが被災し,避難準備情報が発令されていたにもかかわらず,入所者9名全員が犠牲になりました。
 
この事例から内閣府は,避難勧告等に関するガイドラインを改定(平成29年1月)し,特に「避難準備情報」の名称について,岩手県岩泉町の水害で高齢者施設において,適切な避難行動がとられなかったことから,高齢者等が避難を開始する段階であるということを明確にするため,「避難準備情報」を「避難準備・高齢者等避難開始」に,同時に「避難指示」を 「避難指示(緊急)」と名称変更(平成28年12月に公表)しました。
 
 

4. 避難情報の発令時期が遅すぎる

線状降水帯が特定の場所にとどまり続け,大量の雨を降らせるというような気象現象が今後も頻発することを考えると,避難指示・避難勧告のあり方も根本的に考え直さなければならなくなってきたと思います。
 
気象庁と国土交通省が連携を取りながら洪水情報を発令する「洪水予報河川」の現在の避難勧告等の発令基準の設定例をみると,この情報は「氾濫注意情報」から始まり「氾濫警戒情報」「氾濫危険情報」「氾濫発生情報」の段階を追って発令されています。この判断基準になっているのが「河川水位」です。つまり,大きな降雨により水が流れ込んで河川水位上昇が発生してくる現象を基準にしているのです。「避難準備情報」も「避難勧告」も雨が降り始めてから発令されているのです。「避難指示」に至っては大きな雨が降っている最中に発令されているというのが実態です。発令基準の設定例を抜粋してみると以下のようになっています。
 
これら避難に関する各情報は発令する側からの判断基準として作成されており,各段階が河川水位を発令基準にしています。すなわち雨が降り始めてから一定時間が経過し河川に雨水が集まり始めてから,判断を始めるという手順になっているのです。逆に考えると雨が降らない限り,台風が近づいてきても,前線性の豪雨が迫っていても,ゲリラ豪雨が迫っていても避難に関する情報は発令されないのです。雨が降り始めない限り避難情報が発令されないということは,情報を受け取る住民が「どのような時にどのような段階でどのような指示が出れば命を犠牲にすることなく,逃げきれるか」という視点が全く考慮されていないのではないでしょうか。雨が降り始めてからの避難情報では遅すぎると思うのです。
 
今年の西日本豪雨の際にも同じ過ちを犯してしまいました。岡山県を流れる小田川が支流を含め5カ所で決壊したのですが,その際,小田川が流れる倉敷市真備町の南側地区には深夜11時30分に避難指示が発令され,さらに北側地区には2時間後の午前1時30分に避難指示が発令されたのです。
 
この時発令する側の防災担当者達は,避難指示が住民一人ひとりにきちんと伝わることを期待していたのでしょうか。すでに強い雨が降り始めてから時間が経過し,どの家庭も雨戸を閉め切っていることが予想できなかったのでしょうか。特別警報が出ている状況で防災行政無線が届くような概況だと思ったのでしょうか。深夜の11時〜0時という時間帯に怖くて眠れないので住民が起きているとでも思ったのでしょうか。老人や子供,体の不自由な人が逃げてくれると期待したのでしょうか。この時の「避難指示」には地域住民の命を大切に思う心遣いが感じられません。なぜ,もっと早く,明るいうちに,雨が降り出す前に,地域住民同士が声を掛けられる時間に避難指示を出そうとは思わなかったのでしょうか。いわば「避難指示を発令した」というアリバイ作りに思えてなりません。この真備町地区での犠牲者は50人を超えてしまいました。
 

【各避難状況の発令基準の設定例(一部抜粋)】
参考:避難勧告等に関するガイドライン②(発令基準・防災体制編) 内閣府(防災担当) 平成29年1月




 

【岡山県倉敷市真備町(平成30年7月)】
筆者撮影




 

5. 自己判断で早く行動する

情報を発令する側の判断基準はますます精緻にマニュアル化が進んでいますが,実際に避難をする住民の側の視点からの判断に関する支援はどうなっているのでしょうか。この点に関しては,全く支援体制がないというのが現実です。建物のサッシが高性能になった昨今は防災行政無線もほとんど聞こえません。避難指示が発令されても住民一人ひとりには届いていないのです。
 
昔は地域レベルでの危険情報,安全情報は人から人へ,親から子へ,子から孫へと引き継がれてきたものなのです。そのような言い伝えの中には「雨が降っていなくともあそこは危ない!」「どこどこは土砂崩れが起こる!」「雨が降り始めたらあそこは近づくな!」など,行政の避難情報を待つまでもなく,地域における自主判断基準が継承されていたのです。このような大切な地域危険情報を生かす柔軟性がないと,本当に一人ひとりが生き延びられる自助力は身につかないのです。
 
雨が降っている最中で一体何分間,避難行動が継続できるでしょうか。高齢者になったら体力の消耗もあり,長距離長時間の避難は難しい。家族の中に小さな子供がいれば,体力の一番弱い子供に合わせて避難行動を決めざるを得ないのです。
 
このようなことを考えると,雨が降り始めてからの避難情報は非常に危険な状況で出されていると認識すべきです。また夜間における避難は,降雨の中で街灯も消えて通信手段も途絶えた暗闇の中で,道を探しながら歩く場面も想定しなければなりません。まさに台風の接近や降雨が始まってからの避難は自殺行為であると言わざるを得ません。私はこれまで幾度となく雨の中でさまざまな作業を経験しましたが,雨の降り方の強さを表す降雨強度が50mmを超える時はとんでもない雨で,本当に生きた心地がしません。もちろん雨合羽などは何の役にも立たず,肌着まで全身ずぶ濡れになってしまいます。降ってくる雨水は時々刻々と体温を奪い,5分もすると悪寒が始まり,10分と体力を維持できないのです。滝に打たれているような水音は同行者との会話も全く聞き取れず,大声で怒鳴っている顔は見えるけれども,声が聞こえないという状況です。危機管理を担う者は,降雨が始まってからや夜間における避難指示は,近距離における垂直避難に限定して誘導すべきだと考えます。
 
 

6. 正常化バイアスが避難情報を改悪している

232人の犠牲者を出した西日本豪雨のあと多くの住民アンケートが実施されました。その結果判明したのは,「ハザードマップは知っていたが,まさか本当に河川が決壊するとは考えなかった」「避難情報が出ていたのは知っていたが実際には逃げなかった」という人が約80%を超えていたことです。「たぶん大丈夫だろう」と考える正常化バイアスに陥っている国民がなんと多いことか。しかしこのことを受けて,それにも増した大問題が発生しています。それは,行政による避難情報判断の改悪です。
 

【改悪された例】




 
ある自治体では「これまで避難情報を発令する目安としていた河川水位は,実際に水があふれ出すまでには相当の余裕がありました。そのため切迫性の認識が薄れ,皆さんの避難行動に結びついていないという課題を抱えていました。そこで,今後はより切迫した段階で避難情報を発令しますので,いち早く安全に避難するようお願いします!!!」と,とんでもない間違いをしたのです。しかも一つの自治体だけではなくいくつもの自治体が同じような発令時期の改悪を犯してしまっているのです。河川が「決壊」というデッドラインに向かってどんどん水位を上げていく最中に「危険リスクがより高まらなければ,避難情報を発令しない!」という行政の判断です。これは住民を危険にさらしても「自治体は避難情報を発令した! 住民は避難行動を起こした!」という「避難率の向上」だけを求め,高齢者や要支援者など実際に避難する住民の安全を全く考慮せず,行政内部の論理だけが勝ってしまった結果だといえます。この自治体が目指した「危険が差し迫まるまで待って,住民を危険状態にさらした上で避難行動を促した方が,避難行動率が上がる」という,いわば住民の命より行政内部の成果達成という本末転倒の決定をしてしまったのです。
 
避難情報は住民一人ひとりが安全に確実に避難できるように誘導することが,本来の目的です。十分な避難時間を確保し,災害時弱者を含めて脱落者を1人も出さないようにしなければ,避難情報を発令する意味がありません。まさに手段を目的化してしまった例だと思います。このような自治体はすぐに考え直して欲しいものです。
 
 

〜東京都江東5区の事前・広域避難情報〜

何よりも地域住民の命を守ることを目指した避難行動を求める素晴らしい取り組みの好例を紹介します。
 
今年8月,東京都の江東区,墨田区,江戸川区,葛飾区,足立区は共同の取り組みとして,地域住民に事前に広域避難を求めるハザードマップを公表しました。想定される最大の浸水被害に対して,この地域はゼロメートル地帯であることから,それぞれの行政区域内に避難が可能な水没しない高さの地盤や建物が絶対的に不足しているという,大変悲惨な地域です。いわゆる「命山」が足りないのです。そこで「24時間前にこのゼロメートル地域の外へあらかじめ脱出する」という避難計画を作成したのです。地域の地形的な弱点を住民にきちんと知らせ,それに事前に備えることを求めること,この姿勢こそが自治体が地域住民の命を守ろうとする覚悟の表れではないでしょうか。
 



 

土屋 信行(つちや のぶゆき)

1950年埼玉県生まれ。博士(工学),技術士(建設部門・総合技術監理部門),土地区画整理士。公益財団法人リバーフロント研究所技術参与,一般財団法人全日本土地区画整理士会理事,土木学会首都圏低平地災害防災検討会座長。1975年東京都入都。下水道局,建設局を経て建設局区画整理部移転工事課長,建設局道路建設部街路課長をはじめ,江戸川区土木部長,危機管理監などを歴任。2011年公益財団法人えどがわ環境財団理事長。2012年公益財団法人リバーフロント研究所理事。各自治体の復興まちづくり検討の学識経験者委員をはじめ,幅広く災害対策に取り組んでいる。
 

 
 

リバーフロント研究所 技術参与      
水害BCP 推進協議会 事務局長
 土屋信行

 
 
 
【出典】


積算資料2018年12月号



 

 

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