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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 どこでもトイレプロジェクト > 建設現場のトイレ改善が災害時のトイレを変える

 

はじめに

今年は特に自然災害が連続した年だったのではないかと感じています。主なものとしては,島根県西部地震(4月:最大震度5強),長野県北部地震(5月:最大震度5強),大阪府北部地震(6月:最大震度6弱),平成30年7月豪雨(西日本豪雨),北海道胆振東部地震(9月:最大震度7)があげられます。
 
震災や水害により,日常生活を支えているインフラがダメージを受けると,ライフラインが途絶えてしまいます。私たちが使用している水洗トイレは,レバー一つで大小便を目の前から流し去ってくれる非常に便利なものです。この水洗トイレは便器単体で成り立つものではなくシステムとして理解する必要があります。給排水設備,電気設備,汚水処理施設,プライバシーを守る空間など,さまざまな機能を組み合わさなければ成立しません。そのため,自然災害によりインフラが被災すると,水洗トイレは使用できなくなります。また,中高層建築は電力を用いて給水しているので,停電と同時に断水します。
 
しかし,平常時も災害時も,人は生きていくために排泄を我慢することができません。水が流れないトイレはあっという間に不衛生になります。被災者はできるだけトイレに行かなくて済むようにと,水分摂取を控えてしまいます。水分を控えることは,体調を崩すことにつながり最悪の場合,死に至ることもあります。言い換えると,トイレ問題は命に関わるということです。
 
そこで,本稿では,過去の災害におけるトイレの実態を確認するとともに,災害時のトイレ環境改善に向けた仮設トイレとマンホールトイレの可能性について考えます。
 
 

1. 災害時のトイレ事情

繰り返しになりますが,中高層の集合住宅やオフィスビルは電力を用いて直結増圧することで給水している場合が多いため,停電とともに断水する可能性が高くなります。また,避難所となる小中学校の多くは屋上の高置水槽に一旦貯水するため,電気が止まるとそこまで水を運ぶことが出来なくなるため断水してしまいます。
 
しかし,私たちはあまりにも当たり前に水洗トイレを使っているため,被災時に水洗トイレが使えなくなるということをイメージしづらいようです。排泄してしまった後に水が出ないことに気づくのですが,それでは手遅れです。
 
大正大学の岡山朋子准教授が熊本地震の被災者に実施したアンケート調査によると「地震発生後,最初にトイレに行きたいと感じた時間はどのくらいですか。」という問いに対して,3時間以内と回答した人は39%,4~6時間は34%で,これらを合わせると6時間以内に73%もの人がトイレに行きたいと感じたことになります(図-1)。おそらくこの73%の人は,6時間以内に水も食事も摂っていないと思います。ここでわかることは,トイレが必要となるタイミングは,水や食料より早いということです。「トイレの水が出ない・水を流せない,でも排泄は止められない」という状況は,過去の災害で繰り返し起きており,深刻なトイレ問題となりました(写真-1~3)。「排泄」は,日々の生活とは切っても切れない存在でありながら,「くさい」「きたない」と蓋をされてきました。しかし災害時のトイレ問題は生死に関わるため,解決すべき重要な課題として認識しなければなりません。
 

図-1「避難生活におけるトイレに関するアンケート調査」(2016) 
岡山朋子准教授(大正大学人間学部人間環境学科)
協力:NPO法人日本トイレ研究所




 

 

写真-1 阪神淡路大震災のトイレ事情(1995年)

写真-2 東日本大震災のトイレ事情(2011年)

写真-3 平成30年7月豪雨のトイレ事情(2018年)



 
(災害をはじめ,育児や医療など,家族や社会を守る大人だからこそ知っておきたい「排泄」と「トイレ」にまつわる最新知識をまとめた『うんちはすごい』,11月発刊,もご参照ください。(株)イーストプレス刊)
 
 

2. 災害時のトイレ対応の基本的考え方

災害時のトイレ対応はどのようにすればよいのでしょうか。ポイントは2つあります。1つ目は建築設備の被災状況を確認する方法を把握すること,2つ目は時間経過と被災状況に合わせて複数の災害用トイレを利用することです。
 
 

2-1 建築設備の被災状況の把握

水洗トイレはシステムであるため,対象となる建物の給水,排水,処理,電気に関して,被災状況を確認する方法を事前に把握しておくことが必要です。高置水槽がある場合は,周辺が断水していたとしても貯水している水が出る可能性があります。この場合,高置水槽の水をどのように使うかが重要です。トイレの洗浄水のみで使い切ってしまっても良いのでしょうか。また,排水系統が壊れていることに気付かずにトイレの水を流してしまうと,1階のトイレや汚水ますから溢れることも考えられます。トイレ対応策を決める上で,建物の設備状況を把握することが必要なのです。業者はすぐに来られないため,自助としての点検方法を確立することが重要となります。
 
 

2-2 災害用トイレの使い方

防災基本計画にはトイレの備えとして,携帯トイレ,簡易トイレ,マンホールトイレ,仮設トイレの4タイプが位置付けられています。また,内閣府(防災担当)が作成した「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」には,災害用トイレの特徴一覧が掲載されています。さらには,当研究所のウェブサイト「災害用トイレガイド」(https://www.toilet.or.jp/toilet-guide/)には,具体的な製品や仕様がまとめてありますので,参考にしてください。
 
ここでは,これらの災害用トイレの組み合わせ方を紹介します(図-2)。
 

図-2 トイレの充足度のイメージ
出典:マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン




 
携帯トイレ・簡易トイレは,あらかじめ備蓄しておくことで,発災後すぐに利用可能です。マンホールトイレは,災害時にマンホールの蓋を開けて,その上に組み立て式の個室と便器を取り付けて使用するトイレですが,事前に整備することで災害時においても日常使用している水洗トイレに近い環境を迅速に確保できます。マンホールの下部構造にはさまざまなタイプがあり,下水道に接続するタイプもあれば,貯留するタイプもあります。ただし,マンホールトイレとして整備したマンホールのみトイレとして利用できます。仮設トイレは,平常時に建設現場やイベントなどで利用されているため,調達することができれば設置後すぐに使用できます。
 
それぞれのタイプの特性を踏まえ,時間経過と被災状況に応じて組み合わせ,避難所などにおいて良好なトイレ環境を切れ目なく確保するよう努める必要があります。
 
 

3. 快適トイレの誕生

仮設トイレは建設・建築現場用として開発されたものが多いため,避難所などに設置した場合,使い勝手に課題が残ります。例えば,入口に段差がある,トイレ室内が狭い・暗い,和式トイレは足腰が悪いと使えない,などが挙げられます。
 
そんな中,2014年に建設業界における職場環境の改善の一環として,建設現場のトイレを改善する動きが始まりました。国土交通省は建設現場のトイレを従来型の和式トイレから洋式,かつ臭気対策がなされたトイレを現場に導入することを発表したのです。国土交通省は男女ともに快適に使用できる仮設トイレのことを「快適トイレ」とし,快適トイレに求める機能を決定しました。主な機能としては,洋式トイレであることや水洗機能(簡易水洗含む)を有していること,できるだけ臭いがしない構造になっていること,照明機能が備わっていることなどがあります。
 
この取組みのおかげで国内の仮設トイレが変わりつつあります。この動きは社会における屋外トイレ環境の改善に向けた重要な一歩だと感じています。国土交通省と当研究所は,2015年に「どこでもトイレプロジェクト」という名称で仮設トイレの改善を推進する動きをスタートしました。どこでもトイレプロジェクトとは,仮設トイレの質的改善を推進することで,建設現場のトイレ環境を改善するとともに,河川公園,イベント,避難所などのトイレ環境の改善にもつなげることを目指した取り組みです。「どこでもトイレ」というネーミングは,必要な時,必要な場所に,必要なだけトイレを届けることができるという思いが込められています。仮設トイレを最も多く活用しているのは建設・建築現場であるため,建設・建築現場が仮設トイレに対して快適性を求めることで,多くの仮設トイレの改善が進むことが期待できます。建設現場のトイレ改善は,建設業界のCSR(企業の社会的責任)とも言えるのではないでしょうか。
 
 

4. 快適トイレの認定マーク

当研究所は,快適トイレの普及と質的向上を目的として,国土交通省が定める快適トイレの標準仕様(表-1)に則った仮設トイレに「快適トイレ」認定を行うとともに,「快適トイレ認定マーク(図-3)」を付与しています。国土交通省が快適トイレに求めている内容を視覚化するため,必ず備える項目を満たしているものを「快適トイレ(★)(注1)」とし,装備していればより快適になる項目を一定以上備えているものを「快適トイレ(★★)(注2)」としました。認定は随時受け付けていますので,快適トイレを製造している企業の方々にはぜひ申請いただきたいと考えています。
 

(8)および(10)で現場対応を選択した場合は,必ず現場で対応するという前提のもとに認定します。




 

図-3 快適トイレ認定マーク見本(無断転載・複製を禁ず)




 
また,当研究所のホームページ(http://www.toilet.or.jp/projects/projects_kaitekitoilet/)にて,快適トイレ認定マークを取得した仮設トイレを公開していますので,参考にしてください。
 


注1) 「快適トイレ(★)」…国土交通省が定める快適トイレの標準仕様の内,(1)~(7)がすべて標準装備であること。(8)~(11)は別途オプション対応でも可,なお(8)および(10)は現場対応でも構わない。
 
注2) 「快適トイレ(★★)」…注1)の条件に加え,(12)~(17)のうち(12)を含む3つ以上が標準装備であること。
 
 

5. 災害時のトイレ改善事例

災害時に屋外トイレとして機能するのが仮設トイレとマンホールトイレです。以下に,被災地における快適なトイレの設置と災害時に備えて平常時からマンホールトイレを活用している取組みを紹介します。
 
 

5-1 被災地での快適トイレの活用

平成30年7月豪雨の際に,岡山県倉敷市真備町にあるまび記念病院に設置されたのが,太陽光パネルにより稼働し,一度使用した洗浄水を浄化して再利用する水洗循環式のトイレです(写真-4)。
 

写真-4 真備町で使われた水洗循環式トイレ

提供:ニシム電子工業株式会社




 
約1か月間稼働し,延べ数860人が使用しました。愛媛県宇和島市に設置された仮設トイレは,洋式便器で簡易水洗,鏡や便座クリーナーも備わっています(写真-5)。最後は,熊本地震の際に益城町を中心に10か所以上,約500棟が供給された仮設トイレです(写真-6)。災害時は現地に必要な数のトイレを素早く備えることも必要です。
 
 

写真-5 宇和島市で使われた仮設トイレ内部
提供:株式会社ビー・エス・ケイ




 

写真-6 益城町で使われた仮設トイレ
提供:日野興業株式会社




 

5-2 マンホールトイレの平常時利用

東日本大震災や熊本地震では,マンホールトイレが実際に利用されました。宮城県東松島市は震災経験を踏まえ,マンホールトイレの改善に積極的に取り組んでいます。例えば,トイレ室パネルは男女別々の色,鍵はもちろんのことトイレ室の中には棚やフック,女性用には防犯ブザーとサニタリーボックスも備えており,トイレ内外に照明もあります。
 
さらに,東松島市はマンホールトイレを日常のお祭りなどで使っています(写真-7)。最近では,4つのお祭りで使用し,マンホールトイレ利用者に感想を聞いたところ約8割が「思ったより,良かった。」と回答しています。
 

写真-7 お祭りで使用したマンホールトイレ




 
お祭りに来た人に使ってもらうことで,マンホールトイレの存在だけでなく,使い方を共有することができます。また,使用や維持管理についての課題も明確になります。そうすることで,改善がより一層進みます。また,最近では運動会でマンホールトイレを活用した自治体もあります。日常でのさまざまなシーンでマンホールトイレが活用されるようになることを期待したいです。
 
 

6. 仮設トイレとマンホールトイレの連携

「仮設」という言葉をインターネットで調べてみると「ある期間だけ臨時に設置すること」「一時的に仮の設置や設定をすること」という説明が出てきます。また,仮設というと「仮」や「臨時」という意味合いが強いため,常設に比べて劣っている印象を受けます。そのため,「仮設のトイレは使い勝手が悪く,快適性が低い。」というイメージが付いてしまっていると思います。
 
ですが,仮設を移動式として捉えれば,必要なときに必要なだけ,必要なレベルで確保できるという利点が浮かび上がってきます。この場合,仮設トイレの快適性を上げることで,移動できる快適なトイレというポジションを獲得できるため,平常時に普及できる可能性があると思います。
 
例えば,今まで公園のトイレは常設が基本でしたが,快適性が高く移動もできるトイレがあれば,街中のトイレが移動式に置き換わる可能性があります。災害時には,公園トイレが移動して必要な場所に支援に向かうこともできます。
 
このときに重要になってくるのがマンホールトイレとの連携です。通常の仮設トイレは便槽に貯留しますが,マンホールトイレを接続する場所に仮設トイレも接続できるように設計しておけば,用途のバリエーションが広がります。病院や商業施設,スタジアムなど多くの人が集まる場所には,建物の周りにマンホールトイレの設備を必ず整備することとし,そこに快適トイレをジョイントできるようにするイメージです。これは災害時だけでなく,大型イベントなどでトイレの数を増やしたいときに活用できます。言い換えると,日頃からトイレを使いながら災害時の備えが出来る仕組みです。
 
 

おわりに

ニーズに応じて柔軟に対応できるトイレシステムは,災害時対応も含めたこれからの街づくりに必要な視点だと考えています。そういった意味で,仮設トイレとマンホールトイレとの連携は新たな選択肢の1つになります。当研究所としては,仮設トイレおよびマンホールトイレの快適化を推進するとともに,平常時と災害時の両方において安心できるトイレを確保する方策について検討していきたいと考えています。
 
 
 

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事 加藤 篤

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年12月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

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