• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 どこでもトイレプロジェクト > マンホールトイレ整備・促進に向けた国の施策

 

はじめに

大規模な災害が発生すると家屋被害の状況などに注目が集まるが,その裏で問題となるのが「トイレ問題」である。国土交通省下水道部では,この災害時における「トイレ問題」の解決に向けて,避難所などにおけるマンホールトイレの整備を推進している。
 
国土交通省の調査(平成29年度末現在)では,マンホールトイレを管理している地方公共団体は455団体,管理基数は3万基を超えているが,中小規模の地方公共団体ではいまだ普及が進んでいる状況ではない。
 
本稿では,マンホールトイレのさらなる整備・促進に向けた国土交通省の取組みについて紹介する。
 
 

1. マンホールトイレの特徴

マンホールトイレは,マンホールや避難所等に整備した排水設備(小口径のマンホールと下水管につながる排水管)の上に,直接便器や仕切りを設置して使用するトイレであり(図-1),主な特徴は以下のとおりである。
 

図-1 マンホールトイレの概要




 
● すぐに使用可能
マンホールの上に便座や囲いを設置するだけで使用可能
 
● 段差なし
高齢者や車いすの方でも使いやすい
 
● 洋式トイレの設置が可能
使い慣れたトイレ空間を提供
 
● 汲取り不要
し尿は下水道へ流すため臭いも少なく衛生的
 
 

2. マンホールトイレの使用・普及事例

2-1 実際の災害時における使用

平成28年熊本地震では,熊本市内の4箇所の中学校でマンホールトイレが設置された(写真-1)。
 

写真-1 平成28年熊本地震時の使用事例




 
また,東日本大震災では,宮城県東松島市の2箇所の避難所で設置され,約900人の避難者が利用した(写真-2)。
 

写真-2 東日本大震災時の使用事例




 
実際に利用された方からは,「避難所ですぐに使えて良かった。」,「洋式トイレだったので子どもでも使いやすかった。」,「段差がなく安心して使えた。」などの声があり,災害時におけるマンホールトイレの有用性が確認された。
 
 

2-2 イベントなどにおける使用

発災時にマンホールトイレをスムーズに運用できるようにするためには,定期的な訓練や体験会を実施することが望ましい。また,実際に使用することで明らかとなる問題点や課題を改善していくことが重要である。
 
 
1) 岐阜県恵那市(平成30年度(第11回)国土交通大臣賞グランプリ)
地域のクロスカントリー大会や防災学習会に併せてマンホールトイレを設置し(写真-3),幅広い世代へ普及活動を実施している。また,利用者からのアンケートを通じて,トイレ環境のさらなる向上が図られ,利用者数も年々増加している。
 

写真-3 恵那市のクロスカントリー大会における使用事例




 

2)東京都墨田区
花見の時期におけるトイレ不足問題があったことから,トイレ不足の解消を図るため,期間限定でマンホールトイレを設置した。利用者からも「去年よりもトイレがきれいで,においもしなく良かった。」などと好評で,マンホールトイレの理解促進につながり,イベント自体の満足度向上に寄与できた。
 
 
3)愛知県豊川市
マンホールトイレが整備された小学校における授業の一環として,約100名の児童による「設置訓練」を実施している(写真-4)。
 

写真-4 豊川市の小学校における設置訓




 

3. マンホールトイレの整備促進に向けた国土交通省の取組み

3-1 マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン

国土交通省では,災害時のトイレの実態や被災者の健康を守るため,被災者が“使いたい”と思えるマンホールトイレを整備することを目的に,「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン-2018年版-」を策定している。
 
ガイドラインでは,①災害時のトイレの確保の基本的考え方,②マンホールトイレの必要数の算定方法,③快適なトイレ環境の確保に向けて配慮することが望ましい事項,④事前準備と訓練,⑤使用後の片づけ,⑥マンホールトイレの整備・運用における7箇条の6つのポイントがまとめられている。
 
 

3-2 マンホールトイレ整備への財政支援

国土交通省では,地域防災計画に位置付けられた敷地面積0.3ha以上の防災拠点または避難地に整備するマンホールトイレシステム(マンホールを含む下部構造物)を補助率1/2で支援しています。このような財政支援の制度を活用して,マンホールトイレの整備を検討していただきたい。
 
 

3-3 マンホールトイレの整備促進・理解醸成

マンホールトイレの整備を促進し,災害時における円滑な運用を図るためには,市民にマンホールトイレの存在を認知していただくとともに,自分にできることは何かを考えてもらうことが重要である。これらの観点から,国土交通省では3点の普及啓発コンテンツを作成し,国土交通省のHP(http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000411.html)で公開している。
 
 
1)リーフレット
マンホールトイレの必要性や有用性,全国の整備状況などを簡潔にまとめたリーフレット。
 

写真-5 「あって良かったマンホールトイレ」リーフレット




 
2)動画「災害時のトイレ,どうする?」
「災害発生直後の家庭のトイレ問題」,「避難所におけるトイレ問題」,「トイレをより快適に使うための取組み」の3部構成による動画を,「国交省政策チャンネル」から視聴が可能。動画は,地域の防災訓練や学校での防災教育,行政内部での防災会議等でも活用が可能。
 

写真-6 「災害時のトイレ,どうする?」動画の一場面

▲QRコードを読み取れば動画をご覧できます



 
3)漫画「災害時のトイレ,どうする?」
前述の動画の内容を手軽に把握できるよう,内容を漫画化。コラムとして,災害時のトイレ問題に関する調査事例やマンホールトイレの活用事例も収録。
 

図-2 「災害時のトイレ,どうする?」漫画の一ページ




 

おわりに

「何もしなければ,災害の記憶は風化してしまう。」とよくいわれるが,普段不自由なく利用しているトイレについては,尚更のことである。だからこそ,災害時のトイレ問題を意識してもらうことは,極めて重要である。
 
今後も,災害時におけるトイレ対策について検討・実施していただくとともに,国土交通省が作成したコンテンツも活用いただきながら,災害時トイレに関する普及啓発をお願いしたい。
 
 
 

国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 下水道企画課 企画調整係長 見正 大和

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年12月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品