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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 発注者から見たBIM活用-横浜市新市庁舎整備事業-

 

新市庁舎の整備

横浜市では新市庁舎の整備を進めているが、その中でBIM活用の取り組みが進められている。
 
整備される新市庁舎は平成32年1月の完成を目指し工事を進めており、免震と制振を組み合わせた国内最高レベルの耐震性能をはじめとする大規模災害時の業務継続への対策や、省エネ性能を示すBELSの最高ランクである★★★★★(ファイブスター)を取得する高い環境性能を備えた市庁舎となる。整備後は、現市庁舎および20を超える周辺民間ビルに分散している約6000人の職員が集約され、業務の効率化や各部署間の連携強化による市民の皆様へのサービス向上、危機管理機能の強化など、多くの期待、責務を背負っている。
 
新市庁舎の整備に当たっては、民間の優れた技術を取り入れることや、整備期間の短縮が期待できる設計施工一括方式とし、入札価格だけでなく技術提案を合わせて事業者を評価する高度技術提案型総合評価落札方式にて発注した。結果、優れた技術提案が評価され竹中・西松建設共同企業体(以下「事業者」という。)が事業者に決定した。技術提案の項目の一つとして「設計・施工のプロセス」を設定しており、その中で、事業者から「BIM活用による3次元での形状検討、関係者との合意形成促進、建築・設備の整合性確保」「竣工後BI Mデータを提供による保全・改修・更新の効率化を支援」などのBIMの活用が提案された。
 

新市庁舎パース




 

BIMの活用

プロジェクトは設計施工一括のため設計段階から事業者の施工チームも参加して設計打合せを行ってきた。技術提案にあったように、施工チームは設計情報を早くから入手して、BIMにより現場の納まりの検討を並行して進め、問題のある部分は設計にフィードバックするなど、設計をまとめる段階では施工チームによって設計内容における大方の納まりが確認されていた。われわれも早い段階でBIMにより可視化された形で確認できたことは安心感につながった。建築と設備の配置、整合を確認する総合図確認会を定例的に開催してきたが、特に平面図だけでは理解がしにくい複雑な構造になっている屋上や、設備が錯綜する免震層の干渉、点検ルートの確認、駐車場の高さ確保の確認などBIMモデルを用いて毎回説明がなされたことで格段に理解が深まり、確認業務の助けとなった。
 
現場写真                      BIMモデル機械室納まり
 



BIMモデル基準階            BIMモデル屋上納まり          BIMモデル機械室納まり2
  



 

課題

BIM活用を進める中では課題もある。建物の大半は事業者が設計施工一括の方式で進めているのでBIMの活用がスムーズに行われるが、内装や設備工事の一部などは別途で市が発注し契約している。別途工事の業者数は十数社に及ぶが、BIMへの理解、利用環境、活用意欲はバラつきがある。事業者からは、「市内企業へのBIM人材育成支援・講習会開催により、工事管理へのBIM活用や、横浜市内企業でBIMを活用できる人材育成を支援します」と技術提案されており、実際に講習会を開催していただいた。その後のアンケートでは、BIMが有効なツールであることは参加したほとんどの方が理解されたものの、積極的に「利用したい」との回答は3割にとどまり、「利用するか分からない」の回答が7割を占めた。理由としては教育やオペレーターの増員、使用環境が整わないことなどが挙がり、まだBIM活用が浸透していない実情が浮かんだ。BIMを使いこなすことへの負担感の解消が普及に大きく影響しそうである。
 
また、引き継がれるわれわれの施設管理側での課題も大きいものだと感じている。
 
新市庁舎の建設時にこれだけBIMに取り組まれていながら、引き継がれるわれわれにはそれを運用段階で使いこなす技術、環境が今は残念ながらない。BIMが有効に利用できれば管理において、例えば、現地確認しにくい天井内のスペースや予備スリーブ位置などを事前にBIMで確認できることで改修計画が立てやすくなるし、平面図ではなく3Dモデルから感覚的に設備情報が把握できるなど業務効率の改善が望めることは想像に難くない。ただ、これを継続して有効に使用し続けるためには、改修時の小まめな情報更新など絶え間ないメンテナンスが必須となる。竣工から間もなくは改修などによる情報の更新は少ないと思うが、数年後の情報更新の必要が発生したときに向け、担当の入れ替わりもある中で、今からどのように運用体制を整え、人材を育成するのか、手探り状態の中で明確な方向性を定められないのが実態である。
 
 

期待

将来に向けてはBIMへの期待もある。新市庁舎は100年使い続けることを想定して建設している。そのためには設備を長く使い続け、適切に管理していくことが極めて重要であり、維持管理性については環境や防災と並ぶ重要な項目に位置付け、事業者とその思いを共有して対策や改善をしてきた。その維持管理性の確保、向上に向けてBIMが重要な役割を果たすのではないかと感じている。特に「設計初期」での活用に期待したい。例えば、これまで設計者の経験などに頼っていた機械室やPSの大きさ、天井内の納まりなどが設計初期に、正確ではなくても物量や設備過密度などがBIMで確認できれば、経験の浅い担当者でも立体的情報から感覚的に維持管理に影響する問題を発見することができる。それを建築計画に反映させることができれば、施工から運用にかけて起こりうるトラブルを未然に防ぐことができる。施工段階では建築工事に影響しない設備納まりなどはこれまでも改善につなげてきているが、施工段階に気付いて変更が利かないことや、手戻りとなってしまうことも少なくなかっただけに、BIMによる可視化が、これまでカバーできなかった建築計画の変更が効く設計の初期段階で、建築と設備の担当者がお互いの事情を把握するツールとして機能することは意義が大きい。
 
建物を長く使い続けるには適切な管理が必要で、建設担当者としては施設管理者に適切に管理してもらえる施設、設備を引き継ぐことが重要である。建設現場における生産性の向上など成果が出始めている有効性を軸に、①設計段階から建築計画との整合が図られ、②施工で細部の納まり調整がなされ、③管理に有効に使えるデータが引き継がれ、④施設管理者もそのデータを維持管理に活用できる、一連の流れ、環境の確立がなされれば、建築物が施設管理者によって適切に管理され長く使い続けてもらえる。事業者からはBIMモデルに機器仕様などの情報を一元化し、BIMモデルからあらゆる情報を引き出せるシステム構築の提案もあった。分厚い完成図書から苦労して欲しい情報を得ている現状からすると、今後のBIMに寄せる期待は高い。BIMの活用に向けては、私自身の意識の改革が第一であると感じながら、BIMが建設、管理における有効なツールとなることを期待している。
 

総合図確認会におけるメンテナンススペースの確認




事業者の打合せ




総合図確認会におけるメンテナンススペースの確認




 
 

横浜市建築局 公共建築部 施設整備課 新市庁舎整備担当係長 飯塚 泰明

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 

最終更新日:2019-04-22

 

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