- 2019-07-03
- 建設ITガイド
はじめに
私自身、3D-CADソフトに関与したのが、平成15年でした。当時、Autodesk社の3D-CADソフトは、現在のCivil 3Dの前身で、Land Desktop 2004だったと記憶しています。この頃はまだ、基本的に道路計画用のコマンド中心で構成されていたので、河川砂防を専門とする私は、結構、悪戦苦闘しておりました。それでも、何とか河川業務に活用しようと工夫を重ね、浸水想定区域図作成等にも挑戦しました(図-1)。
成果を「Civil 3Dデザインコンテスト2007」に活用事例として応募してみたところ、地方コンサル技術者ながらも全国大手企業の技術者の中に食い込んで、銀賞を受賞できました。やはり、道路系3D-CADだった当時のCivil 3Dを河川系に活用したことが評価されたとのことでした。

図-1 Civil3Dを用いた浸水想定区域図
活用場面の拡大
以降、私が関与する業務では、多少なりともCivil 3Dを活用する場面が増えていきました。とはいえ、当時はまだi-ConもBIM/CIMも誕生する前の話で、辛うじて情報化施工が広まり始めていた頃でした。後のi-ConやBIM/CIMに通じる部分になりましたが、そうではないものも多かったです。それでも、現在の私の3D-CADに関する礎は、当時の苦労の積み重ねでできています。
平成24年の九州北部豪雨災害において、熊本県も広範囲にわたり大きな被害を受けました。地場コンサルとしては、当然、災害業務による繁忙期を迎えます。ですが、災害業務は、なかなか現場作業が捗らないことが多いです。私が手掛けました河川災害3.5kmの業務も測量成果が上がってくるまで3カ月近くを要する見込みでした。それでは、検討設計も行う期間が短くなってしまう状況にしかなりません。そこで、当該河川の特性を考慮して、活用可能性が高いと判断した数年前の河川LPデータを引っ張り出し、被災前の河川状況を3D地形で復元しました。その上で、縦横断断面を詳細に復元し、被災流量を与えて氾濫解析をしてみたところ、現地の被災水位とほぼ一致する結果を出せました(図-2)。そのまま、検討設計を進め、復旧計画の計画図まで作成したのですが、その期間は約1週間。要するに、測量成果を待っていたら3カ月以上経たないと、復旧計画を示せなかったものを、1週間で示すことができました。この時間短縮によって、発注者との協議や関係機関調整も先手を打つことにつながり、十分な検討計画期間として3カ月という時間を費やすことになりました(表-1)。当然、測量成果が上がってきた際には、再度、解析検証を行いましたが、計算水位差は数cmでしたので、計画高水位設定には影響しませんでした。
現在のBIM/CIMでは、生産性向上を目的としつつも、「見える化」を行うことが目的化してしまっている傾向も見受けます。私としては、「『見える化』だけがBIM/CIMじゃない!」と主張したいのは、この事例があってこそです。十分な検討・計画・設計に時間を費やすことで、設計の「質」が高まります。その点にこそ、生産性向上や設計品質向上というBIM/CIMの最大効用があると思うようになりました。

図-2 河川LPを用いた3D地形モデルより復元した河川縦断図と実測縦断の合成

表-1 業務遂行イメージ
社内での活用拡大
平成28年には、熊本地震という未曽有の大災害が発生しました。あまりにも広範囲な被害で、各地の通行止めなどにより、被災現場にさえたどり着けない状況でした。それでも、実施できる調査・測量を行いつつ、計画検討も同時遂行しなければなりません。私の部署でも河川と砂防の業務を大量に抱えることになりましたので、さまざまな検討を行うに当たって、私以外の人員にも3D-CADソフトの活用を分担させる必要が出てきました。
思い切って、入社1年目の女性事務員に最低限の教育を行い、砂防堰堤のモデル化をさせてみました。意外にも楽しかったようで、1日半で3基の透過型砂防堰堤を作ってくれました(図-3)。技術者として、平面・正面・側面図を連動させた図面を作成するのは当然なのですが、土木素人の事務職員にとっては、作成した3Dモデルが平面・正面・側面図と重なることが感動の連続だったようです。それだけではなく、副作用としても効果がありまして、技術者が作成した図面に一部で作図ミスがありました。そこを気付かせてくれたのは、3Dモデルでした。半日で砂防堰堤1基を作成できる3Dモデルが、設計ミスをチェックする設計照査として活用できたことになります。しかも、土木素人の新人事務職員の貢献によって、です。「担い手確保」と「人材育成」と「設計照査」と「見える化対応」の一石四鳥の達成となりました。こうなってくると、土木専門社員ではなくとも、3D-CADスキルを叩き込むことで、設計ミス防止もできますし、発注者への説明に効果の高い「見える化」への対応も図れることになります。
この事案が発生して以降、社内でも3D-CAD対応できる人材の育成・増員計画が発動されることとなり、平成29年度には、国のCIM試行業務の経験を重ね、30年度からは、iCon&BIM/CIMプロジェクトチームを発足させ(表-2)、UAV公共測量や地上レーザーその他のi-ConもBIM/CIMも組織的かつ体系的に社内教育を図っており、若手技術者も女性技術者も含めて、下記の例のように目標設定し、鋭意精進中です(表-3)。
これからの時代に求められている「設計も分かる3D測量士と測量も分かる3D設計技術者」の増員に向かって行っているところです。

図-3 入社1年目の女性事務職員(土木素人)が半日で作成した砂防堰堤モデル

表-2 社内プロジェクトチーム編成

表-3 UAV目標レベル設定
【出典】
建設ITガイド 2019
特集1「i-Construction×BIM/CIM」

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