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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > プロピオン酸カルシウムによるアルカリ シリカ反応の抑制に関する研究

 

はじめに

アルカリシリカ反応(以下ASRと称す)は,1983年にわが国で社会問題となって以来,調査・研究が行われてきた。その後,1986年に抑制対策が当時の建設省から告示され,さらに2002年に改訂された1,2)。その抑制方法は,①コンクリート中のアルカリ総量の抑制,②抑制効果のある混合セメントなどの使用,③安全と認められる骨材の使用であり,現在もこれに沿って抑制対策がなされている。アルカリ総量の抑制は,コンクリート中の全アルカリ量を3kg/m³ 以下(AE 剤,AE減水剤などを用いる場合は2.5kg/m³以下)としているが,コンクリートの高強度化に伴う単位セメント量の増加や,外部から供給されるアルカリ(例えば海水中のNa)によって抑制することが難しい場合がある。さらにアルカリ量3kg/m³以下の抑制対策を施しても,ASRによるひび割れが発生している構造物がみられている。混合セメントの使用は,高炉セメントやフライアッシュセメントのB種またはC種を使用することが規定されている。近年,これらの混合セメントの使用が増加しているが,実際に混合セメントを用いる場合はコンクリートプラントには専用設備が必要であり,さらに施工においては型枠の取り外し時期などの制約があるため,抑制対策としては容易でない。これらのことから,無害骨材の使用を求める場合が多いが,使用実績のある良質な無害骨材は枯渇している。また無害骨材の石灰岩砕石は採取地が限られている。近年ではASRの抑制について,JR東日本ではJIS試験の判定基準値を独自に高めており,石川県では電力会社との協力でフライアッシュセメントを供給する体制を整えるなど,個々の対策が実施されるようになった。
 
このようなことから,現在においてもASRは重要な課題であり,骨材資源の有効利用とCO2排出を考慮した地産地消の観点から反応性骨材であっても利用できるような容易な抑制方法の開発が求められている。容易な抑制方法としては,膨張抑制効果を持つ化学物質などを少量添加する方法があげられる。本研究はアルカリを低下させる作用があるプロピオン酸カルシウムを用いた研究成果を紹介する3,4,5)。
 
 
 

1. プロピオン酸カルシウムのASRの抑制機構

ASRの反応には,骨材に含まれている不安定なシリカ(クリストバライト,トリディマイト,火山ガラス,潜晶質石英,玉髄,オパールなど),セメントなどから供給されるアルカリ(Na,K)および水との反応によって反応生成物(珪酸塩ゲル)が生成され,それが給水膨張することによる膨張圧でコンクリートにひび割れを発生させる現象である。そのため,反応要因の1つでも排除できれば発生しない。このことからアルカリ度を低下させる作用のあるプロピオン酸カルシウムを添加することによってASRを抑制させる。この化学反応は,式1,式2に示すとおりである。コンクリート中にプロピオン酸カルシウムを添加することによって式1のようにカルシウムと水酸化アルカリが反応して,水酸化イオン濃度(OH−)が低減する。これと同時に式2が進行しないことから時間が経過しても水酸化イオン濃度が上昇しないと考えられている。この現象は,薬品を用いた実験においても検証されており,水酸化イオン濃度の低下が長時間持続することが確認されている。
 



 

2. モルタル供試体を用いたプロピオン酸カルシウムのASR抑制効果に関する実験的検討

反応性骨材にチャートと粘板岩を用いたモルタルにプロピオン酸カルシウムを添加(外割)して作製した供試体を,貯蔵温度40℃,湿度95%以上で貯蔵したときの膨張率を図-1,図-2に示す。なお,このモルタルはJIS A1146モルタルバー法に準じて作製したものである。
 
結果では,チャート,粘板岩ともにセメント量の1.8%を添加すると貯蔵34か月においてもほとんど膨張していない。また高炉水砕スラグ微粉末をセメント質量の50%置換した場合よりも長期にわたって膨張が抑制されている。この供試体は,反応を促進するためにアルカリ量を1.2%(Na2O等価)に高めており,コンクリートの配合に換算するとセメント量は7.2kg/m³であることから,通常のコンクリートにおけるASRの抑制を想定するとプロピオン酸カルシウムの添加量はセメント質量の0.9%程度が考えられ,少量の添加量で抑制できることになる。
 

図-1 プロピオン酸カルシウムを添加したチャートを用いたモルタルの膨張率




図-2 プロピオン酸カルシウムを添加した粘板岩を用いたモルタルの膨張率




 

3. 屋外暴露したコンクリート供試体におけるプロピオン酸カルシウムのASR抑制効果

チャートの粗骨材を用いたコンクリートに(単位セメント量300kg/m³,反応を促進するためにアルカリ量を9kg/m³に調整)にプロピオン酸カルシウムをセメント質量の2.25%添加した大型供試体(直径300mm,高さ600mm)を屋外暴露した。この供試体の結果を図-3に示す。約5年間の結果であるが,プロピオン酸カルシウムを添加した供試体はほとんど膨張していないが,無添加の供試体は500日頃から膨張を開始している。この供試体の946日の目視観察では写真-1に示すようにASRによるひび割れが確認されており,添加した供試体にはひび割れは確認されなかった。また,図-4に示すようにコンクリートのアルカリ量が3kg/m³および6kg/m³の場合でもプロピオン酸カルシウムの添加によって膨張が抑制されている。これらのことからプロピオン酸カルシウムは屋外暴露環境においてもASRを抑制する効果があることがわかる。
 

図-3 プロピオン酸カルシウムを添加したコンクリートの屋外暴露環境下での膨張挙動




写真-1 屋外暴露した大型コンクリート供試体のひび割れ状況
(図−3の946日の観察)




図-4 屋外暴露したコンクリート供試体の1400日時点の膨張率




 

おわりに

これまでの研究で,プロピオン酸カルシウムはASRを抑制することが明らかになってきた。この薬品は一般的には食品添加物として使用されており,人体に無害であり化学合成によって大量に生産することで安価となることが期待される。また,有機物であるためセメントの水和反応やコンクリートのフレッシュ性状への影響が懸念されるが,添加量が少量のため大きな影響は及ぼさないと考えられる。
 
今後は試験施工などによって実績を増やすことによってさらなる検討を加え,実用化が進めば,ASRの予防剤として広く利用できると思われる。
 
 
 
 
参考文献
1) 建設省:アルカリ骨材反応抑制対策について,建設省技調発第370号(1983.7)
 
2) 国土交通省:アルカリ骨材反応抑制対策改正案,(2002.8)
 
3) 岩月栄治,森野奎二,多賀玄治:プロピオン酸カルシウムのASR抑制効果に関する基礎的研究,セメント ・コンクリート論文集No.61,pp.318-323(2008.3)
 
4) 岩月栄治,森野奎二,多賀玄治:各種骨材を用いたプロピオン酸カルシウムのASR抑制効果に関する研究,セメント協会,第62回セメント技術大会講演要旨,pp.84-85(2008.5)
 
5) 岩月栄治:プロピオン酸カルシウムによるアルカリシリカ反応の抑制に関する実験的検討,日本コンクリート工学会,コンクリート工学年次論文集,Vol.38,No.1,pp.1071-1076(2016.7)
 
 
 

愛知工業大学 工学部 土木工学科 教授 岩月 栄治

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2019年2月号



 

最終更新日:2023-07-14

 

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