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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 文明とインフラ・ストラクチャー 第53回 ふたたびの文明の構造モデル ー見えない世界を可視化するー

 
本連載も50回を超えた。隔月なので開始したのは9年前になる。開始した時期の読者とでは現在の読者は,ほとんど世代が入れ替わっていることだろう。
 
スタートした時には,積算業務に携わる若い土木技術者たちへのメッセージという気持ちで始めた。しかし,回を重ねる中で自分の趣味に寄り道したり,なかなか本旨が貫けていないことに気が付く。
 
本連載の第1回を読み返してみた。この第1回の「文明の構造モデル」は,インフラの世界に身を投じた私自身にとっても,後輩たちにとっても大切だと改めて感じた。本稿は今の時点で書き直し,どのような考え方を基礎にして本連載を継続しているかを紹介する。
 
 

構造から機能へ

土木工学を専攻して以来,半世紀以上になる。土木技術者として前半の25年間は,先輩たちが計画した三つのダムを造ることに邁進した。心の迷いはなく,屈託のない時間であった。
 
人生の折り返しの時期,それまでのダム建設の現場から,当時社会をにぎわせていた長良川河口堰事業に投入された。構造物を造る世界から,インフラの必要性を説明する世界に入った。
 
インフラの説明は,構造物を説明するのではない。インフラの機能を説明することなのだ。その機能の説明がとても難しい。インフラの機能を説明する悪戦苦闘が,数年間に及ぶ長良川河口堰での経験だった。
 
機能の説明は難しい。例えば,2017年に施行された水循環基本法がある。この水循環の説明が難しい。
 
水循環のアナロジーとして,自分に身近な身体の血液循環を考えてもわかる。血管や血液組織の構造は調べてみればそれなりに理解できる。しかし,血液循環の機能を理解することは容易ではない。それと同じで,水循環の機能を説明せよとなるとハタと困ってしまう。
 
 

インフラ・ストラクチャーとは下部構造

長良川河口堰事業から3年後,私は今の近畿地方整備局,当時の近畿地方建設局にいた。任務は,河川だけではなく道路,公園,営繕,用地の幅広いインフラ整備の推進であった。スピーチの機会も多く,インフラ整備の重要性を何度も述べることとなった。
 
スピーチを繰り返しているうちに,ふと自分が使っている「インフラ」という言葉が気になった。あわてて英和辞書を引いてみた。そこには「下部の」という言葉があった。
 
改めて確認したが,インフラ(Infra)・ストラクチャー(Structure)とは「下部構造」であった。下部構造ということは,その上には何かがある。下部構造とは上にあるものを支えているからだ。
 
上にあるものとは,国民のさまざまな社会活動である。製造,商業,金融,法律,医療,教育,芸術,芸能,娯楽,スポーツ,環境活動などだ。つまり,人間が行うあらゆる社会活動となる。その「上部活動」を支えているのが,「下部構造」となる。
 
 

見えないもの

さらにインフラ(infra)の項を英和辞書で追っていった。「インフラ・レッド(Infra Red)」つまり「赤外線」があった。赤外線は光として存在しているが,人間の目には見えない長い波長の光線である。さらに,辞書を追った。「インフラ・ソニック(Infra Sonic)」があった。それは「不可聴音」という意味であった。音波としてはあるが人間には聞こえない低い波長の音を指していた。
 
私の目から鱗がポロリと落ちていった。
 
「インフラ」という言葉は「人には見えない,人には聞こえない」という意味があった。つまり「インフラ・ストラクチャー(Infra Structure)」は,「人々には見えない構造物」となる。
 
上部構造の舞台で活躍する人々は,舞台の下部を見ることはない。歌舞伎の役者は,奈落に入れば舞台の下の構造は見える。しかし,一般の観客には見えない。
 
一般の人々にとって,見えないインフラ・ストラクチャーを理解できないのは当然であった。
 
 

説明してこなかったこと

このことに気が付くと,次々と反省がよみがえってきた。
 
インフラの説明をする時に,その構造を説明し過ぎていたのではないか? 下部構造が上部を支えている機能を説明したのか? インフラと社会活動の密接な関係を説明してきたか?
 
人々があることを理解するのは,日々の暮らしや自分の歩んできた身の丈の歴史の中である。自分の人生が,足元の土台に支えられている。それを丁寧に説明しない限り,人々が下部構造を理解することはむずかしい。
 
インフラの説明とは,見えない土台の説明となる。見えないモノの説明は,高度な知的作業となる。
 
インフラに人生を投入して,その最終コーナーを曲がったところで,やっとそのことに気がついた。それ以降,私は見えないインフラの世界をいかに可視化するかにエネルギーを注いでいった。
 
その一つが「文明の構造モデル」であった。
 
 

文明のモデル化

「文明は人間が創造したもの」と定義する。
 
人間が創造した文明は,下部構造と上部構造で形成されている。下部構造は,自然から与えられた地形と気象の上に造られている。
 
地形と気象は自然条件であり,人間が創造したものではない。だから,地形と気象は文明ではない。地形と気象の上にある社会が,文明である。
 
図−1)でそれを表わした。

【図−1 文明全体のモデル】




 
(イ) 文明という人間社会は,下部構造と上部構造で構成されている。
 
(ロ) 下部構造は次の4 要素で構成されている。「安全」「食糧」「エネルギー」「交流」
 
(ハ) 文明の上部構造は,人間だけが行う活動で,産業,商業,金融,法律,医療,教育,文化,スポーツ等の人間活動の全てを指す。
 
(ニ) 下部構造は,自然が与えた条件「地形」と「気象」の上に存在し,下部構造の姿は,地形と気象によって左右される。
 
(ホ) 下部構造が衰退し崩壊すると,上部構造の人間社会活動も衰退し,崩壊していく。
 
 

文明のモデルの改良

最初,下部構造の4要素を梁のように重ねて表現した。それが(図−2)である。しかし,この図は失敗だった。なぜなら,梁の一つが傷つき破壊されても,下部構造と文明全体が崩壊するモデルになっていない。
 
次に,下部構造の4要素の「安全」「資源」「食糧」「交流」を,ジグゾーパズルのピースで表現してみた。(図−3)が,そのジグゾーパズルのピースモデルである。四つのジグゾーパズルのピースがかみ合って下部構造を形成している。

【図−2 下部構造版構造モデル】

【図−3 下部構造ジグソーパズルのピースモデル】

【図−4 ピース破壊による文明崩壊】




 
このモデルでは,一つのピースでも壊れたら,ピース全体の組み合わせが壊れ,下部構造は崩壊し,上部構造も崩壊していく。(図−4)で,その様子を表わした。
 
活発で健全な人間活動の上部構造は,しっかりしたインフラに支えられている。そして,このインフラは,各地の地形と気象に応じてしっかり構築されなければならない。
 
私たちインフラ関係者は,文明の下部構造のインフラ建設と維持管理,そして更新を請け負っている。
 
さらに,私たちはこのインフラの建設,維持,更新だけではなく,一般の人々からは見えないインフラを,人々に説明して理解してもらう責務も負っている。
 
21世紀の今の私たちは150年前の明治近代から整備されたインフラの上で文明を享受している。私たちインフラに携わる人間は,次世代,次々世代,さらに三世代の子孫たちが安全で安心な社会で生きていけるようにすることの責務を背負っているのだ。
 
 
 

竹村 公太郎(たけむら こうたろう)

非営利特定法人日本水フォーラム代表理事・事務局長,首都大学東京客員教授,東北大学客員教授 博士(工学)。神奈川県出身。1945年生まれ。東北大学工学部土木工学科1968年卒,1970年修士修了後,建設省に入省。宮ヶ瀬ダム工事事務所長,中部地方建設局河川部長,近畿地方建設局長を経て国土交通省河川局長。02年に退官後,04年より現職。土砂災害・水害対策の推進への多大な貢献から2017年土木学会功績賞に選定された。著書に「日本文明の謎を解く」(清流出版2003年),「本質を見抜く力(養老孟司氏対談)」(PHP新書2008年)「小水力エネルギー読本」(オーム社:共著),「日本史の謎は『地形』で解ける」(PHP研究所2013年),「水力発電が日本を救う」(東洋経済新報社2016年)など。
 
 
 

特定非営利活動法人 日本水フォーラム         
代表理事・事務局長 
竹村 公太郎

 
 
 
【出典】


積算資料2019年3月号



 

 

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