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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 道路の安全・安心 > 未来への投資 新たな価値・文化 空間としての「みち」の創出 〜道路空間委員会 提言とりまとめ〜

 

はじめに

社会情勢の変化に伴って道路の利用形態,利用方法についても多様化してきています。近年では,地域活性化,環境に配慮した交通体系の構築が重視されており,各交通モードの基盤である道路においても,これらの視点に配慮した政策を立案していく必要があります。
 
道路は交通機能,空間機能を通じて都市や地域の形成に影響を及ぼすことも踏まえ,自動車や歩行者,自転車,沿道を隔てなく考える道路空間を構築する際に考えられる課題についても対応していく必要があります。
 
以上のような背景から,(一財)国土技術研究センター(以下,「JICE」という)では,有識者による「道路空間委員会」(以下,「委員会」という)を設置し,道路空間をテーマとしたさまざまな課題について取り上げ,そのあり方や改善方策の提案につなげていくための議論を行ってきました。このたび,この成果としてこれまでの議論を4つの提言としてとりまとめましたので,紹介いたします。
 
 

1. 提言とりまとめまでの経緯

1-1 委員会での主な議論事項

委員会では,道路交通や都市・地域形成などに関わる幅広い見識を持つ有識者にお集まりいただき(表-1),各回の委員からのプレゼンテーションをもとにしたディスカッションを中心に,多くの先進事例の紹介や問題提起などがなされました。これらを主な論点として集約すると,a)車中心から人中心へのみちづくりの必要性,b)道路における空間活用の多様性,時間帯での道路の使い方の考慮,c)社会的な合意形成と地域との関わりの重要性,d)道路空間の活用,維持管理に関する規定などの必要性,といった4つのカテゴリーに分けられました。
 

表-1 道路空間委員会 委員名簿



1-2 4つの提言へのとりまとめ

1.1で述べた主な議論事項それぞれに対応する形で,4つの提言としてとりまとめました。
 
a)車中心から人中心へのみちづくりの必要性は,『提言1 生活道路は「人」を優先に』として,道路の新たな価値観への対応も含めて提言としました。b)道路における空間活用の多様性,時間帯での道路の使い方の考慮は,『提言2「みち」の持つ多様な機能を活かす』として,空間・時間の多様性に加え平常時・災害時にも言及しました。
 
また,c)社会的な合意形成と地域との関わりの重要性は,『提言3 地域と「みち」の関わりを強固に』として,合意形成をコーディネートする技術の必要性などについて提言し,d)道路空間の活用,維持管理に関する規定などの必要性は,『提言4 道路空間の利用と負担を明確に』として費用負担やエリアマネジメント,制度について提言しました。
 
 

2. 委員会の提言

2-1 生活道路は「人」を優先に(提言1)

ここでは,車から人への考え方を,生活道路に取り入れていくことに着目し,変化してきた道路の横断面,時代の変化に対応した道路の新たな価値観,スローな交通に配慮した空間づくりの3点を挙げました。以下に提言内容を示します。
 
(1)変化してきた道路の横断面
かつて車のない時代は,道はフラットで,人中心の歩行,たまり,あそびなどの機能を備えていた。自動車社会になり,歩道を設置し道路を分割し,段差を設けるようになってきた。
 
現在の日本の道路は,車道と歩道が分かれ,自動車標準の考え方の下での横断構成となっているのではないかと考える。
 
 
(2)時代の変化に対応した道路の新たな価値観“車から人へ”
海外では人と車が共存する形の“シェアード・スペース”の整備が進められているところがある。(写真-1,写真-2)。このような取組みは,安全を確保する上での課題などはあるものの,人中心のみちづくりの1つの姿として,今後日本でも積極的な導入を考えていくことが必要と考える。
 

写真-1 シェアード・スペース(ドイツ・ボームテ)

写真-2 シェアード・スペース(オランダ・ハーレン)



(3)スローな交通に配慮した空間づくり
従来は,最大交通量を達成する速度を保障するために,渋滞対策など様々な手立てを打ってきた。これは,交通自体を“人”中心ではなく,“モノ”中心にみていたともいえる。新たな交通量の概念として,“健康度”“コミュニケーション(ふれあい)度”などといった,速度に比例しない概念を考え,低速モビリティなどのスローな交通に配慮した空間づくりを考えていく必要もある。
 
 

2-2 「みち」の持つ多様な機能を活かす(提言2)

提言2では,道路の空間多様性と時間多様性を考慮することが必要であるとしました。空間多様性としては,例えば郊外と市街地では,道路の使われ方は異なると考えられますが,道路空間を構成する要素は,異なる利用に応じた多様性に配慮できていないのではないかといったことや,道路の使われ方に応じて,道路の構成(歩道,植栽,中央分離帯など)を切り替えることがあっても良いのではないか,という議論をもとに提言としました。
 
時間多様性としては,例えば日中と夜間では道路の使われ方が異なるが,十分に道路の運用に組み込まれていないのではないか,という観点から問題提起を行いました。
 
さらに,有事の場合の滑走路,災害時の避難場所などの機能の多様化にも言及しました。
 
 
(1)交通という特定の機能に限定しない空間の活用
道路を交通という特定の機能に限定せず,公的空間として,イベント,遊戯,憩いの場,工作物設置等の需要を,道路外の空間と分担していく必要がある。場所によっては,防災や景観等の配慮が必要となる。
 

写真-3 道路中央部分を広場化し憩いの場所とした事例(アメリカ・ニューヨーク)



(2)時間分割を考慮した空間のシェア
時間を区切って道路空間の活用方法を変えることにより歩行者中心の賑わい向上と,それを下支えする物資の輸送(物流・配送)を両立させている事例は海外にあり(写真-4),都市の重要な装置としての道路空間を最大限に活かしていくことは,大変有効な取り組みと考えられる。
 

写真-4 日中を歩行者専用,深夜早朝を貨物車進入可能とし道路空間を時間でシェアしいる事例(ドイツ・ハーファー中心部)



(3)平常時だけでなく災害時の空間活用を考慮
平常時には想定していない活用の仕方として,災害時の避難空間,滞留空間やガレキの置場など,一時的に空間が必要となることがあり,この空間があるかないかで,道路の迅速な啓開に影響を及ぼすことがある。
 
平常時に必要な空間だけでなく,様々な場合を想定した空間活用を担うことが求められることを,再認識すべきである。
 
 

2-3 地域と「みち」の関わりを強固に(提言3)

提言3では,地域との関わり方に着目しました。過去の空間に対する記憶と,これからの空間の整備とが連続性があるのかどうかというのは,地域に住んでいる人が空間整備に賛同するかどうかの重要な条件になり得るのではないか,という点から,道路空間づくりの重要性を提起しました。さらに,合意形成を図る際のコーディネート技術の必要性に言及しました。提言内容は以下の通りです。
 
 
(1)地域のアイデンティティ・地域の愛着が空間をつくる
人が自分の関わっている場所に愛着を持っており,人が心を豊かにしていくことは,どのように道路を整備するかに関わってくる。地域の方々に積極的に参加いただいて,まちづくり,みちづくりに,自分たちも関わったという喜びを持っていただくプロセスを組み込むことが重要である。
 
 
(2)住民協働のみちづくりをコーディネートする技術
様々な関係者との合意形成を図る際に,これをコーディネートする技術が必要である。この技術の向上が住民協働のみちづくりを実現するカギとなる。
 
 
(3)「みち」を通じて,地域と人との関わりを強化
道路空間の再配分については,シミュレーションや社会実験等を通じて地元協議を丁寧に積み重ねていくことが必要である。鳥取市では,強力なリーダーのもと,地域主導・民間の協力により旧市街地を,時間をかけて歩行者優先の街づくりを行っている事例がある(写真-5)。このような積み重ねを道路空間利活用の知的ストックとして,“地域道路戦略研究センター”のようなものを各地に作り,利活用の仕組みを根付かせることも有効ではないか。
 

写真-5 歩行者優先のまちづくりへの取り組み(鳥取市鹿野町)



3-4 道路空間の利用と負担を明確に(提言4)

最後に,道路空間を整備,管理していく際の手法について着目し,受益者に道路空間を維持管理する費用を負担する事例を紹介しつつ,費用負担の関係等について言及したほか,道路整備とまちづくりや沿道利用との調整は断片的であり,道路網整備の考え方,配慮事項,道路利用のあり方等を盛り込んだ法律が必要ではないか,ということを提言しました。提言内容を以下に示します。
 
 
(1)道路空間の整備・管理と費用負担の関係
バンクーバーでは,都市計画により建物の高さから樹木の保存に至るまで,細かい規制がなされており,受益者負担,道路維持管理への参加により,住宅地の環境を保全し,同時に土地の資産価値を向上させている(写真-6)。
 
受益者負担による快適な道路空間の整備・管理について,都市計画制度や開発規制等との関連も含め,検討を進めていく必要があると考える。
 

写真-6 受益者負担の空間整備(カナダ・バンクーバー)



(2)エリアマネジメントによるまちづくり
海外の中心市街地では,税金を付加して,清掃の充実や,時間帯を区切った歩行者専用化,イベントを実施するなどして,エリアの価値向上,賑わい創出といった取り組みをエリアマネジメントとして行っている事例がある。
 
日本でも地下の道路空間等で広告収入による取り組みが行われているが,エリアマネジメントの観点からの検討も必要ではないか。
 
 
(3)道路の活用に関する規定が必要
道路法では,まず道路網を整備し,交通の発達をさせて,公共の福祉の増進に寄与するという目的を規定している。しかし,活用や計画に関する規定はされていないのが現状である。
 
これまで述べたような「みち」の多様な活用を図るために,生活道路は人中心とすること等を含めた道路空間のあり方について規定する“道路空間活用基本法(仮)”が必要なのではないか。
 
 

おわりに

提言(冊子版)はJICEのホームページ(http://www.jice.or.jp/reports/committee/roads)からダウンロードできます。是非ご覧ください。
 
JICEでは本提言を受け,「人」を優先にした道路空間整備など,新たな価値・文化空間としての「みち」の創出に向けた取組みについて引き続き調査・研究を進めて参る所存です。
 
最後に,委員会にて活発なご議論をいただくとともに,事例や話題の提供など,ご協力いただいた石田東生座長および各委員の皆様に,心より感謝申し上げます。
 
 
 

一般財団法人国土技術研究センター 道路政策グループ 首席研究員 野平 勝

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2019年3月号 特集 道路の安全・安心



 

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    最終更新日:2023-07-10

     

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