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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > インフラの“ドボかわいい”を伝えたい

 

はじめに

地域の人たちやつくり手たちの思いがこもった土木構造物は愛おしい。ゼネコンの広報部を経てフリーライターになった私はいま,全国に残るそんなインフラ施設を“ドボかわいい”略して“ドボかわ”と呼び,「かわいい土木」と題する連載記事を書いている。
 
ここでは,私が建設の仕事に興味を持ったきっかけやこの企画の狙い,読者の皆さんにぜひ訪れてみてほしい,いくつかのドボかわ物件などを紹介したい。
 
 

超高層ビルの墨出しや沈埋函(ちんまいかん)工法に仰天

こんな巨大な構造物が“手づくり”なのだ──。大学卒業と同時にゼネコンに就職した私を最初に驚かせたのが,この当たり前の事実だった。ちょうど時代が昭和から平成へ変わる頃,OAフロアを備えたハイテクの「インテリジェントビル」の施工現場での出来事だ。社内報の取材で訪れたその超高層ビルの現場で,私はコンクリートのフロアに大工が墨出しをしているのを目撃した。
 
工芸品のように美しい「墨壺」からするすると糸を引き出し,位置を定めて指でピシッと弾く。硬質なコンクリートに引かれた黒々とした直線をいまも鮮明に覚えている。このとき私は「ああ,どんなに高くて,どんなに最先端のビルも,こうして多くの人たちが力を合わせて,人間の手でつくっているんだ」と実感した。
 
文系出身の私は,入社するまで建設業について何も知らなかった。編集の仕事をしたかったので,広報部で社内報の担当者になれてラッキー,という程度の思いしかなかった。それが,工事中の現場へ取材に行き,施工の一端をのぞかせてもらったことで,建設に対する興味がむくむくと湧いてきたのだ。
 
土木の現場でも,驚きの連続だった。特に強く印象に残っているのが,羽田空港近くの「川崎航路トンネル」だ。海底トンネルの現場だと聞いていたのに,着いたのは広大なグラウンドのような場所。海を閉め切って水を抜いた「ドライドック」だった。ここで鉄筋コンクリートの函体(かんたい)を製造していたのだ。
 
函体1基の大きさは,断面が幅40m×高さ10m,長さが130mもある。聞けば,これをいくつもつなげてトンネルにするという。すごいのは,「沈埋函工法」と呼ばれる,その施工方法だ。函体が完成したら,両端を鉄板でふさぎ,閉め切りを開放してドックに海水を入れる。すると,函体の中は空洞なので,浮かび上がる。これを設置場所まで船で曳(えい)航して鉄板をはずし,あらかじめ掘っておいた海底の溝に沈める──。こんな方法,いったい誰が考えたのだろう。
 
そんなふうにして建築や土木の現場を取材して歩くうち,私はすっかり建設ファンになっていた。
 
 

土木のイメージの対極にある「かわいい」を探す

土木構造物といえば,ダムや長大橋,港湾施設,高速道路,鉄道,上下水道施設など,いずれも重厚長大なイメージがある。人々の生活を災害から守り,衛生的で快適で便利な社会を下支えする重要なインフラだ。たしかに,自然と調和し,雄大な景観をつくり出す構造物は素晴らしい。
 
しかし,スケールの大きいもの以外にも,魅力的な土木構造物はたくさんある。特に,昭和の半ばぐらいまでにつくられたインフラ施設には,ヒューマンサイズでありながら,高度な技術でつくられていたり,凝った意匠が施されていたりするものが多い。これらは地元の人々の生活を劇的に豊かにしたことから,大切に維持管理され,中には現在も現役で使われているものもある。
 



 

土木のイメージを転換する「かわいい」の切り口

会社を辞め,フリーライターになって約20年。私はいま,こうした土木構造物を全国を巡って取材し,それがつくられた背景や現在の様子などを紹介する記事を書いている。連載のコーナー名に「かわいい」という言葉を組み合わせたのは,これまでの土木のイメージから最も遠い響きを持っているからだ。「かわいい」の視点で観察し,歴史をひもとくことで,眼の前にある構造物への愛着が湧いてくる。
 
現在,(一財)建設業振興基金の広報誌『しんこう』誌上で連載している「かわいい土木」は,すでに20回を数えた。過去記事がウェブサイトにも転載されているので,興味のある方はご一読いただければ嬉しい(https://www.shinko-web.jp/series/)。
 

 
   
 



 

「かわいい」をインフラへの興味の引き金に

「かわいい土木」の連載を読んでくださっているのは,主に建設関係の人たちだ。「毎号楽しみにしている」といった声をいただくのは大変ありがたく,嬉しい。だが実は,私はこの記事を建設業とは無縁の一般の人たちにこそ,読んでほしいと思っている。
 
多くの人々にとってインフラは,たとえそれがどんなに大きな施設であっても,見えていない。人は水がなければ生きていけないし,橋がなければ川を渡れず,道がなければどこへも行けない。災害が来れば,あっけなく生活や命が奪われてしまうことだってある。便利で快適で安全な生活はインフラによって実現されているにもかかわらず,誰もがそれを当たり前と思いがちだ。空気のような存在になっているから,目の前にあっても「見ようと思わない限り見えない」のである。
 
だからこそ,身近な土木施設を「かわいい」という切り口で伝えることで,一般の人に少しでも興味を持ってもらえないか──というのが,私の願いだ。記事を読み,「実物をちょっと見に行こうか」となれば,そこから他のインフラ施設にも目が向くかもしれない。かつて,ゼネコンの新入社員だった私が,現場を見て建設業の魅力にハマったときのように。
 
 

三上 美絵(みかみ みえ)

大成建設(株)広報部勤務の後にフリーライターとして独立。『日経コンストラクション』(日経BP社)などの建設系の雑誌を中心に取材・執筆。その他,土木学会土木広報戦略会議委員を務めるなど土木建設の魅力を伝えるべく日々精力的に活動している。『土木の広報~『対話』でよみがえる誇りとやりがい~』(共著,日経BP社)。
 
 

フリーライター 三上 美絵

 
 
 
【出典】


積算資料2019年6月号



 

最終更新日:2019-09-02

 

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