• お問い合わせ
  • プライバシーポリシー
  • サイトマップ

建築資材、土木資材をはじめとした建設資材、機材、設備、工法等の
データを収録し、スピーディな検索を実現した建設総合ポータルサイト

建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 文明とインフラ・ストラクチャー 第55回 未来の日本のエネルギー ー水力発電の復権ー

文明とエネルギー

21世紀の現在,日本のエネルギー自給率は6%である。世界各国のエネルギー自給率が(図−1)で経産省のホームページに掲載されている。エネルギー自給率6%(2014年自給率)の文明が存続するわけがない。未来に向かって,日本は真剣にエネルギーを確保していかなければならない。
 

【図−1 2014年世界のエネルギー自給率】




 
人類の文明史はエネルギー史である。メソポタミア文明は豊かなレバノン杉で誕生し,人々はその杉を伐採し尽くし,文明は衰退していった。中国の黄河文明も同様である。土壌の専門家の調査によると,3,000年前の黄河文明が盛んなころの森林率は80%もあったが,1,500年前には15%となり,現在は5%の土漠地帯※1となってしまった。
 
日本文明も同様であった。全周を森林エネルギーに囲まれた奈良盆地で,日本文明は誕生した。200年経つと森林は枯渇し,奈良盆地は禿山に囲まれてしまった。森林を失った山から,土砂が流れ下り,奈良盆地の河川と湖を埋め,人々の排泄する汚水で淀み,疫病が蔓延(まんえん)する悲惨な盆地となった。
 
荒廃した奈良盆地を後にして,桓武天皇は淀川水系の京都に遷都した。
 
京都を中心とする関西で,平安,室町そして戦国時代の400年が経過した。その関西は森林を失い,禿山が連なる悲惨な土地となってしまった。
 
1603年,徳川家康は,森林がない荒廃した関西を嫌い,箱根を越え,緑が目に染みる関東の江戸を本拠地にした。250年間の江戸時代,人口が一気に3,000万人に増加したことで,日本列島の山々で木々が伐採され,禿山の列島となってしまった。
 
日本近代の号砲はペリー提督の蒸気機関であった。蒸気船は石炭の存在を教えてくれた。当時,日本は北海道,磐城そして九州に有り余る石炭を保有していた。日本はその石炭を武器に,近代に突入し世界最後の帝国国家に滑り込んでいった。
 
第一次世界大戦で戦車と飛行機が登場し,エネルギーの主役は石炭から石油に変わった。帝国たちはエネルギーを巡り確執を繰り返した結果,石油を巡る第二次大戦で日本は敗けた。
 
戦後,日本は無尽蔵の中東の石油で最先端の経済国家となった。
 
しかし,21世紀の今,人類は地球規模の環境悪化と化石エネルギーの逼迫(ひっぱく)という状況に向かい合うこととなった。
 


※土漠地帯:土の荒野。中国の黄土高原など。
 
 

化石エネルギーから太陽エネルギーへ

経産省ホームページによると,石炭の可採年数は153年,石油は51年となっている。つまり,今生まれた赤ちゃんが50歳になるころには,石油は消えていて,石炭の価格は暴騰して手が出ない貴重なエネルギーになっている。
 
社会を維持していくには,エネルギーが不可欠である。石炭・石油は,地球が長い時間をかけて貯めた太陽エネルギーの缶詰である。その化石エネルギーは,今世紀の後半には舞台から退場していく。未来の文明を支えるエネルギーは,過去に貯まった太陽エネルギーではなく,現在,今この地球を巡っている太陽エネルギーとなる。
 
太陽エネルギーの総量は十分すぎるほど膨大であるが,このエネルギーは時間の変動幅が大きいという欠点を持っている。しかし,それ以上に太陽エネルギーの決定的な弱点は「単位面積当たりのエネルギー量が薄い」という点である。太陽エネルギーには,太陽光・風力・波力がある。このうちどれも天候による時間変動幅が激しく,単位面積当たり薄いエネルギーである。
 
しかし,この太陽エネルギーの欠点を克服するエネルギーがある。それは水力エネルギーである。
 
 

日本列島はエネルギー列島

太陽に温められた海の水は,蒸発して上空に行く。上空で冷やされた水蒸気は,雨や雪となり,再び地上に降りてくる。太陽と海がある限り,水は無限に海と陸の間を循環する。
 
ただし,雨も単位面積当たりのエネルギー量は薄い。しかし,この薄いエネルギーの雨水は,自然の力で集積され濃いエネルギーとなっていく。雨水を集積し濃くするのは日本列島の地形である。日本列島はモンスーン気候帯に位置している。
 
その日本には,春から秋には太平洋から雨が運ばれ,冬には日本海から雪として運ばれてくる。雨は地上に降ると,地形のひだに集まり,せせらぎとなる。小さなせせらぎは沢となり,沢が集まり渓谷となり,渓谷が集まり川となる。
 
単位面積当たりのエネルギーが薄い雨粒が,地形と重力によって次第に集積され,濃い水流エネルギーとなっていく。日本国土の約7割は山地である。つまり,日本列島という国土は,薄いエネルギーの雨を濃いエネルギーにする装置となっている。
 
さらに,日本列島の中心には,北海道から九州まで脊梁(せきりょう)山脈が走っている。その脊梁山脈からは無数の川が日本海側と太平洋側に流れ下っている。日本で川を持っていない自治体などない。水力エネルギーは,すべての自治体が平等に保有している地域固有の財産である。
 
無限で,膨大で,完全クリーンな水力エネルギーが,日本列島の全国各地にくまなく配置されている。日本列島は水力エネルギー列島である。
 
この水力エネルギーは,ポスト近代の未来のエネルギーのあり方を示している。
 
 

集中から分散へ

過去150年間の近代化においては,効率性が最優先された。
 
効率性は,人の効率性,時間の効率性,場所の効率性で構成される。人の効率性は,マニュアルの画一性で成し遂げた。時間の効率性は,エネルギーを使ったスピードで成し遂げた。場所の効率性は,都市へ集中することで成し遂げた。近代のエネルギーシステムも,効率の良い画一性と,スピードと,場所の集中で成し遂げられた。
 
50年先を見通した未来社会では,化石エネルギーは期待できない。文明存続のため未来のエネルギーは,多様で,分散したエネルギーシステムに移行していかざるを得ない。
 
特に,水力発電は分散化への先頭を走っていくこととなる。全国各地に流れる川の水は,画一ではない。全国の水を,一カ所に集中させることもできない。水力エネルギーの宿命は,各々の多様な地域における,分散型のエネルギーとなっていく。
 
20億年の生物の進化は,集中ではなく,分散化であった。生物多様性は「Bio Diversity」である。直訳すれば「生物の分岐」である。生物は分岐し,分散する進化によって環境の激変に対応して生き延びた。過去の近代エネルギーは効率性を目指して集中したが,未来のエネルギーは分散化し,地球環境の激変に適応するよう進化していかざるを得ない。生き残り作戦の原則はどの分野でも同じなのだ。
 
しかし,この水力発電も弱点を持っている。
 
 

既存ダムの最大活用

水力発電は,太陽エネルギーと同じ弱点を持っている。それは,時間の変動幅が大きいという欠点である。日本の雨は短時間に集中して降る。さらに日本の河川は急峻である。川の流水は一気に集まり,一気に海に流れ去ってしまう。(図−2)は世界各国の河川と日本の河川の勾配を示した。
 



 
水力エネルギーは人にとって使い勝手が悪い。この変動の大きい使い勝手の悪い水力を,変動を小さくして使い勝手の良いエネルギーにするのがダムである。
 
ダムは一気に流れてくる水を貯め,時間をかけてダムから都合よく放流していく。近代に入り日本は巨大なダムを次々建設して,数多くの水力エネルギーの貯蔵庫を造っていった。未来において水力発電が必要と言っても,巨大ダムを次々と建設していく社会的状況にない。
 
そのため既存ダムを最大に活用する知恵が求められる。特に,発電を主目的にしてこなかった国土交通省,農林水産省,都道府県などのダムの再利用計画が有効となる。
 
具体的には次の施策によって膨大な水力発電の増加が見込まれる
 
①すべてのダムに発電機を設置する
②ダムの運用見直しによりエネルギーを生み出す
③既存ダムの嵩上げによって貯水容量を増加させ,発電能力を増大させる
④既存の本ダム下流に調整小ダムを設け,本ダムでのピーク発電を行う
 
特にダムの嵩上げは有効である。ダム湖の上部は面積が広い。100mのダムを10m嵩上げすれば,100mの新しいダムを建設するのと同等の価値がある。(図−3)で,上部標高が広がっていることを示した。
 



 



 

小水力で国土保全を

エネルギー分散化の極端な事例として小水力発電がある。地域単位,村落単位,土地改良区単位で,地元の人々が力を合わせ,小水力発電を実施していく。その規模は限りなく小さい。しかし,その小水力発電によっても収入は確保される。
 
その資金で山村の森林整備,環境整備そして農業用水路維持等への支援が可能となる。山村の森林荒廃,農村の耕作地放棄は,国土の崩壊を意味する。
 
小水力発電は規模としては小さいが,山村地域,農村地域にとっては貴重な自己財源となる。過疎地域の自主的な小水力発電事業は国土の保全そのものを意味していく。
 
近代化において,都市は山村地域のダムで支えられた。電気を受け取り,飲み水を受けとり,洪水も防いでもらった。今,その山村地域が過疎で苦しんでいる。この山村地域が小水力発電を行おうとしても,人材,資金そして知識に欠けている。
 
将来社会では,都市が過疎で苦しむ山村地域を支援する番となった。小水力発電のための「知識」「技術」「資金」に関して,都市は山村地域を支援していく体制をとっていく必要がある。
 
都市と山村が連携して日本国土を守っていくことが,未来の日本の姿とならなければならない。
 
 
 
 

竹村 公太郎(たけむら こうたろう)

非営利特定法人日本水フォーラム代表理事・事務局長,首都大学東京客員教授,東北大学客員教授 博士(工学)。神奈川県出身。1945年生まれ。東北大学工学部土木工学科1968年卒,1970年修士修了後,建設省に入省。宮ヶ瀬ダム工事事務所長,中部地方建設局河川部長,近畿地方建設局長を経て国土交通省河川局長。02年に退官後,04年より現職。土砂災害・水害対策の推進への多大な貢献から2017年土木学会功績賞に選定された。著書に「日本文明の謎を解く」(清流出版2003年),「本質を見抜く力(養老孟司氏対談)」(PHP新書2008年)「小水力エネルギー読本」(オーム社:共著),「日本史の謎は『地形』で解ける」(PHP研究所2013年),「水力発電が日本を救う」(東洋経済新報社2016年)など。
 
 
 

特定非営利活動法人 日本水フォーラム         
代表理事・事務局長 
竹村 公太郎

 
 
【出典】


積算資料2019年7月号



 

 

同じカテゴリの新着記事

メルマガ登録

最新の記事5件

カテゴリ一覧

バックナンバー

話題の新商品