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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 「北の鉄人」大漁旗が踊る復興スタジアム ─BEYOND 2019─

 

ラグビーの街,釜石の新たなる挑戦

釜石市は,岩手県の三陸復興国立公園の中ほどにあり,9割が山地のリアス式海岸の港町,自然に恵まれた魚の街,近代製鉄発祥の鉄の街,そしてラグビーの街である。
 
1960年代には10万人近い人口であったが,新日鐵(当時)の集約化などにより半減。さらに,東日本大震災を経過して減少が続き,2019年1月現在で,人口33,787人で4割が65歳以上である。面積441.4㎢は横浜市とほぼ同じだが,人口は100分の1だ。
 
1980年代に新日鐵釜石ラグビー部が前人未踏の7連覇を遂げて以来,釜石は「鉄と魚とラグビーの街」と呼ばれる。通称「北の鉄人」は東北・北海道の高卒無名選手で成り立つチームで,鍛え上げられた鉄人たちが都会のエリートチームを撃破する痛快さが人気を呼び,7連覇当時,日本選手権が行われる国立競技場は超満員で,大漁旗が何十本も振られた。「富来旗(ふらいき)」とも称される大漁旗応援は,今でも釜石ラグビーの名物応援スタイルである。
 
しかし7連覇後の戦績は低迷が続く。2001年,地域クラブの釜石シーウェイブスRFCとして再出発しトップリーグへの昇格を目指すが,ラグビーがプロ化していく中,地方のクラブチームには苦難の道が続いた。10年が経過し人々の記憶からラグビーが忘れ去られようとしていた矢先,2011年3月11日に東日本大震災による津波が釜石市を襲う。
 
釜石市内の死者行方不明者は1,000人を超え,30%の家屋が倒壊した。そのとき,絶望の淵で人々に希望を与えたのはラグビーだった。外国人を含む多くのラガーマンたちが復旧活動に励み,周りを明るくして,希望の灯を照らし続けた。多くの市民が,釜石はラグビーの街だったことを思い出した。そして,2009年に日本開催が決まっていたラグビーワールドカップ2019(以下「RWC2019」)の開催会場に,釜石を加えるため国内外のラグビー関係者による応援が始まった。
 
しかし,当時,誘致の主体となるべき市役所は避難所運営,仮設住宅への移転,復興計画の作成と着手に奔走している最中であり,市民感情にも考慮して,誘致活動を積極的に推進できない状況だった。さらに,もともと衰退する地方都市に大きな世界大会を持ってこようというのは分不相応で大それたことだという意識もあった。
 
それでも,市民の中で,ラグビーを愛する者や震災後に釜石に移り住んだ若者らが中心となり,2019を目標に掲げて,次の世代の希望をつくろうと,ラグビーワールドカップ開催都市誘致にチャレンジする者たちが現れた。誘致ロゴの旗を道路に掲げ,全小学生にパンフを配布し,プロモーションビデオを制作してホテルや銀行で上映した。
 
スタジアム予定地近くにプレハブの情報発信基地「ラグビーカフェ鵜住居(うのすまい)」を開店。海外の有名選手や著名人も大勢訪れ,それぞれが釜石誘致を応援した。釜石開催への期待はどんどん高まった。
 
かくして市民が中心の誘致活動が市役所を動かして大きなインパクトとなって全国に広がっていった。ついに大会運営本部は,震災復興という重要な意義と役割を担う開催地として2015年3月2日釜石開催を決定した。
 

【トライの大漁を! 熱気あふれる釜石の富来旗】


 

【釜石の歴史はラグビーと共に】


 
  
【選手たちの復旧支援はラグビースピリットの賜物】


 
【オープンした“ラグカフェ”の前で力強い記念撮影】  【タウンミーテングや動画配信による誘致活動】


 

釜石鵜住居復興スタジアム建設

開催決定後の2016年,2017年と続けて元オールブラックス・ニュージーランド代表のダン・カーター選手,リッチー・マコウ選手が会場予定地を訪れて,世界中で釜石を応援していることを話してくれた。そうした気運醸成イベントが継続して開催される中,スタジアム建設は進められた。
 
まずは5mのかさ上げを伴う基盤整備を行いつつ建物部分の設計を進め,2017年4月に着工。収容6,000席のスタジアムが2018年7月に竣工した。
 
整備の目的は,1)住民が集ってスポーツを楽しむ場所,2)音楽,芸術などで国際交流のできる場所,3)子どもからお年寄りまで元気に体力づくりができる場所,4)震災の記憶と防災の知恵を受け継ぐ場所,5)ラグビーのレガシーを繋げる場所,6)自然に親しむ場所となることであった。
 
また,スタジアムには強みとなる4つの特徴がある。
 
一つは,背景となる豊かな自然景観と調和した立地。二つ目は,地元の森林資源のフル活用。環境に配慮し地場産業を育成して,木の温もりで人々を迎える。三つ目は,日本では初のマイクログラスファイバーを芝床に利用するハイブリッド天然芝の導入。四つ目は,万一への備え。津波の際の緊急避難に備えて,裏山に避難場所と避難道を整備し,さらに,緊急ヘリポート,100tの耐震性貯水槽と120tの耐震性貯留槽を備え,自然災害時に避難所をバックアップ,また山林火災の消火活動にも活用する。
 

【釜石鵜住居運動公園・釜石鵜住居復興スタジアム 整備スケジュールと全景】



①「自然と調和した景観」(海と森に囲まれたスタジアム)
 

 
②「地元の森林資源をフル活用」
 

 
③「ハイパフォーマンスを可能にするフィールド」(ハイブリッド天然芝,日本初導入のAirFibr)
 

 
④「万一への備え」(耐震性貯水槽・貯留槽,スタジアム背後の避難道(赤で囲んだ部分))
 
【スタジアムの4つの特徴】


 

釜石鵜住居復興スタジアムは,震災の被害を受け移転を余儀なくされた鵜住居小学校・釜石東中学校の跡地に建設された。
 
震災時,鵜住居小学校・釜石東中学校の生徒は,手に手を取り合って迅速に避難ができた事で,世界的に注目を受けた。600人の小中学校の生徒全員が無事に避難できたことは悲劇の中の光明となり後の教訓となる。
 
釜石鵜住居復興スタジアムは,震災からの教訓を次の世代に受け継いでいく場所であり,スポーツやイベントを通じて地域を明るく元気にして,若者の希望を育む場所となるべく,運用・運営される予定である。
 
地元の人々の健康増進に利用してもらいながら,様々に賑わう交流イベントやビッグイベントを企画開催したり,誘致できたりするような運営方法が求められる。RWC2019開催以降,スポーツを通じた地域活性化,地域振興のチャンスを活かせる運営主体を主とした計画を作成中である。
 
RWC2019開催時には6,000の常設席に加え,仮設席を増設し1万6,000席のスタジアムとなる。試合直前にキャンプに入るチームの練習グラウンドも,スタジアムから600mほどの距離にある根浜海岸に新たに整備される。
 

 

  
【スタジアムは小中学校生徒600人が一緒に駆けて逃げたシンボリックな場所に建設】


 

釜石と世界を繋ぐスタジアムを目指して

RWC2019開催都市に立候補したとき,釜石市が主催者のワールドラグビー,ラグビーワールドカップリミテッドにアピールしたポイントは,ラグビーワールドカップが2019年に来ることによって,復興事業として行われている住宅や生活インフラ,そして交通インフラの整備が,確実にリミットを持って進み,世界のラグビーが被災地の復興を後押しすることになる,あらゆるインフラが整備され,2019年を迎えることによって,復興推進役となった世界のラグビーは素晴らしく評価され,その価値は断然高まるであろう,ということだった。
 
交通インフラ整備が完了すれば,スタジアムへのアクセスは飛躍的に向上する。三陸沿岸道路,東北横断道の完成により,新幹線の最寄り駅から1時間,仙台,八戸から2時間で到達可能となる。JR山田線も完全復旧され三陸鉄道として久慈から大船渡までを一本で結ぶ。そうなることでRWC2019開催時にも万全の輸送体制が築ける。RWC2019を誘致することで,大観衆の輸送にともなう難題がマッチポンプ的に自己解決で解消できるのだ。
 

【8年ぶりに開通した三陸鉄道】



そうして釜石開催は決定した。その後,世界大会標準の建築基準をクリアすることや,更なる資金調達といった何度かの難関を乗り越えて,いよいよスタジアムは竣工した。RWC2019のキャッチコピー「4年に一度じゃない,一生に一度だ。」にもあるように,スタジアムのこけら落としは「一生に一度」のイベントである。満員御礼にして,安全無事に観衆を運んで,釜石に来て,オープニングイベントに参加して良かったと言ってもらえるようになることが,大会関係者のみならず市民全員の望みだった。
 
ここまで来ればやるしかない,と市民がこぞって立ち上がり,チケットを自分たちで売りさばき,いよいよオープニングイベント実施に向けて地域の結束が生まれた。度々の記者会見とSNS,プレスリリース,メディア特別番組でのPRを促進。記念Tシャツ付チケット販売など戦略的PRが効いてチケットは早々に完売。
 
当日は天候にも恵まれ,6,530人の大観衆を集めた大盛況なイベント開催となった。スタンドの周囲でタッチ,ストリート,ウイルチェアなど各種ラグビーを楽しめるイベントや,三陸沿岸の魅力を堪能できるフードサービス。SDGs(持続的な開発目標)に参画するゴミステーションとゴミトライなどが繰り広げられた。
 

【ラグビーボールゴミ袋トライ】



復興を達成し,世界中の支援に感謝を表明しようという釜石市であればこそ,地元の人と外の人が交流する機会をたくさん持ちたい。そして,継続して交流の機会が持たれれば,地域の良さとラグビーの良さを分かち合うことが出来るたくさんの友人を世界中につくることが出来る。三陸の片田舎であっても,そうした世界との繋がりを誇りにできる。そのためのスポーツ交流の場が「釜石鵜住居復興スタジアム」なのである。
 
 




 




 
 
 

釜石市ワールドカップ2019推進本部事務局 増田 久士(ますだ ひさし)
 

 
 
【出典】


積算資料2019年8月号



 

 

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