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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 文明とインフラ・ストラクチャー 第58回 地形と人類の誕生(後編) ー上部構造を支える下部構造ー

地形が生んだ人類

前回(2019年11月号)に引き続き,“異端の説”と呼ばれたアクア説に基づき私なりの人類の起源を紐解いていきたい。
 
約1,000万年前から700万年前にかけて,大地溝帯(グレート・リフト・バレー)は海水と雨水が溜まり,膨大な水域の地形となった。
 
この水域に霊長類のサルが閉じ込められると,数百万年間の時間をかけてヒトへとゆっくり進化を遂げることとなった。
 
水辺での半水中生活では,自然と直立の姿勢をとるようになった。直立二足歩行で容易に呼吸ができる。
 
また,水の中では浮力により身体に重力はかからない。水中では流産の危険が少なく,胎児は母親の胎内で安全に育った。
 
水中では体毛は断熱材としても,保温材としても全く役に立たない。水域では,体毛を脱ぎ捨て,皮下脂肪を発達させた。
 
やがて湖の水が蒸発し水辺が縮小されていく。
 
ヒトの祖先は,やむなく陸地に戻っていった。裸のヒトは二本の足で,とぼとぼと歩き出していった。
 
ここで次の疑問が湧いてくる。
 
半水中生活で直立二足歩行していたヒトは「何故,陸に上がったとき四足歩行に戻らなかったか?」である。
 
この謎は,私の中で長い間澱(よど)んでいた。
 
 
 

ゴリラの頭部

20年前の1999年の秋,東京上野の国立科学博物館で「大顔展(だいかおてん)」という「顔」をテーマにした展覧会があった。内容は大学の学園祭と,浅草のお化け屋敷をごちゃ混ぜにしたキワ物の展覧会と記憶している。
 
笑いながら見て回っていたが,あるコーナーで私の足は止まってしまった。ゴリラの頭部の解剖模型であった。ゴリラの頭部の解剖など見るのは初めてだった。
 
視線が釘付けになったのが,ゴリラの頭部の筋肉であった。ゴリラの頭部の筋肉は,頭頂から肩まで張り付くように発達していた。まるで,おかっぱ頭の少女の髪が肩まで広がっているような筋肉であった。
 
このゴリラの発達した頭部の筋肉を見ていて謎が解けていった。なぜ,ヒトが陸上で,四足歩行に戻らず,二足歩行し続けたのかという謎であった。
 
ゴリラは前かがみの四足歩行である。ゴリラの歩行は,基本的には手を前につくナックル・ウォークである。そのため頭部は前に突き出している。土木構造物で例えると「片持ち梁」である。(写真−1)がゴリラの歩行である。
 
そのため,前に突き出ている頭部を支えるため,強力な反力をとる筋肉が必要となる。それが頭部に発達した筋肉であった。ゴリラの太い首の筋肉をみていると,人間の首の筋肉など,悲しいほど細い。
 
「大顔展」のゴリラ頭部の解剖模型は,ゴリラ頭部の発達は限度いっぱいということを示していた。前かがみのゴリラにとって,頭部を支える筋肉の力学的な制約で,頭蓋骨の発達の余地はない。
 
そのことが一瞬にして分かった。
 

【写真−1 アフリカのニシゴリラ】        出典:wikipedianisi




 

四足歩行に戻らなかったヒト

ヒトは水辺暮らしを始めた時,鼻に水を入れないよう姿勢を立たせた直立歩行をとった。何百万年もの間,大地溝帯で直立歩行をしたことで,ヒトの重い頭蓋骨を背骨の真上で支えることとなった。首の筋肉の力で維持するのではなく,S字の背骨の上に頭蓋骨を載せ,頭部の重量を背骨全体でバランスよく受け止める進化を遂げた。
 
頭部が背骨で支えられると,頭部を締めつけていた首の筋肉は不必要となり退化していった。首の筋肉が退化すると,頭蓋骨に筋肉の締めつけがなくなった。筋肉の締めつけがなくなった結果,頭蓋骨は一気に膨張に向かった。背骨の真上に乗ったヒトの頭部は,他の哺乳動物に例がないほど,異常な大きさに発達してしまった。
 
大地溝帯の湖の水が縮小し,ヒトは再び陸に上がらざるを得なくなった。しかし,ゴリラやチンパンジーのように手を前に出し,四足歩行をする前傾姿勢をとらなかった。いや前傾姿勢をとれなかった。四足歩行の前傾姿勢をとるには,ヒトの頭部は重過ぎてしまった。頭部を異常な大きさに進化させてしまったヒトは,前傾姿勢をとるほどの強靱な首の筋肉を失っていた。
 
結局,ヒトは水中から陸の上に戻っても,直立二足歩行をせざるを得なかった(図−1)。
 
陸に戻った人類は,より直立二足歩行へと進化していった。この直立二足歩行は,さらに頭蓋骨の発達をもたらした。直立二足歩行と頭蓋骨は,螺旋(らせん)を描くように影響し合って発達していった。
 
ヒトが他の生物と大きく異なる点は,巨大な頭蓋骨にある。
 
図−2)はヒトとゴリラの骨格である。ヒトの頭蓋骨が背骨の真上にあり,身体全体でその重量を受け止めている。
 

【図−1 直立二足歩行】

【図−2 ヒトとゴリラの全身骨格】
『ヒトはいかにして生まれたか』ゲノムから考える5 尾本恵市 岩波書店



 

下半身からの進化

ヒトの進化については,謎が多く残されている。しかし,多くの研究者の意見で一致することがある。
 
それは「ヒトは直立二足歩行を行った。その下半身の進化の結果,脳は発達した」ということである。
 
決して「脳の進化が先にあって,直立二足歩行をした」のではない。
 
500万年前,アフリカ大地溝帯の水域で,ヒトの祖先は二本足で生活し始めた。四足歩行の前かがみの首を保つ筋肉の制約から解放されたヒトの頭蓋骨は,異常といえるほど巨大化した。
 
現世人のホモ・サピエンスが誕生してから20万年経った。その20万年の間も,ヒトの頭蓋骨の内部の脳も肥大化し続けた。現在のヒトの脳は,サルの5倍,チンパンジーの3倍までも発達した。
 
現在の肥大化したヒトの脳はまだフルに働いておらず,ヒトの脳の機能はまだ進化する余裕があるらしい。
 
20万年後の,未来人類の子孫の脳は,我々が想像できないほどのレベルに到達しているかもしれない。
 
 

下部構造が支える上部構造,下部構造が支える文明

人類の脳の発達を支配したのは,身体の下半身の直立二足歩行にあった。
 
このヒトの脳の進化は,文明社会のアナロジーとなる。
 
人間社会の上部活動である経済・法律・教育・医学・芸術等の知的活動は,文明社会の下部構造に依存している。文明社会の上部構造と下部構造(インフラ・ストラクチャー)を(図−3)で示す。
 
文明の下部構造は,上部構造を支えている。その下部構造は,その土地の地形と気象に適応して造られていく。
 
下部構造のインフラ・ストラクチャーが整い,維持されてはじめて,知的で文化度の高い上部構造が発展していく。文明社会の下部構造のインフラが崩壊していけば,上部構造も衰退し崩壊していく(図−4)。
 
人類起源の物語は,21世紀の文明社会のアナロジーにたどり着く。文明は人間が創った。その文明はヒトの脳の進化と完全にシンクロするようだ。
 

【図−3 下部構造ジグソーパズルのピースモデル】


 

【図−4 ピース破壊による文明崩壊】
作図:リバーフロント整備センター 竹村・沼田


 




 

 
 
 

竹村 公太郎(たけむら こうたろう)

非営利特定法人日本水フォーラム代表理事・事務局長,首都大学東京客員教授,東北大学客員教授 博士(工学)。神奈川県出身。1945年生まれ。東北大学工学部土木工学科1968年卒,1970年修士修了後,建設省に入省。宮ヶ瀬ダム工事事務所長,中部地方建設局河川部長,近畿地方建設局長を経て国土交通省河川局長。02年に退官後,04年より現職。土砂災害・水害対策の推進への多大な貢献から2017年土木学会功績賞に選定された。著書に「日本文明の謎を解く」(清流出版2003年),「本質を見抜く力(養老孟司氏対談)」(PHP新書2008年)「小水力エネルギー読本」(オーム社:共著),「日本史の謎は『地形』で解ける」(PHP研究所2013年),「水力発電が日本を救う」(東洋経済新報社2016年)など。
 
 
 

特定非営利活動法人 日本水フォーラム         
代表理事・事務局長 
竹村 公太郎

 
 
【出典】


積算資料2019年12月号



 

 

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