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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 建設現場の快適トイレが, 日常と非日常をつなぐ

 

はじめに

最近起こる自然災害の多くは,「これまでに経験したことのない」「最大級の」「数百年に一度の」などと言われるように,私たちの想定を上回る規模で被害をもたらします。台風や豪雨,地震など,災害の種類は異なりますが,これら自然災害への備えとして最優先すべきことは命を守る対策です。その次にすべきことは,助かった命をつなぐための備え,つまり心身の健康を維持するために必要な生活を考えることです。
 
このとき,多くの人が考えることは,水と食料の確保です。もちろん,これらは必要ですが,必ずと言っていいほど抜け落ちてしまうのが「トイレ」です。被災地で発災直後に対応する人も,全国から支援する人も,どちらもトイレに関しては後手になりがちです。私たちの健康を維持するためには,食べることと出すことの両方が必要です。安心して排泄できる場がなければ,水分や食事の摂取を控えてしまいがちになることは,これまでの被災経験から分かっていることです。
 
しかし,災害時のトイレといえば,被災者にとって使い勝手の良くない仮設トイレを応急的に配備することで精一杯でした。そのため,避難所ではトイレに対する課題が山積しているのが現状です。そもそも仮設トイレの多くは建設現場で使用することを主目的に開発されているため,被災者にとって必ずしも使いやすいものにはなっていません。このギャップを埋めることが大きな課題となっています。
 
そうした中,平成26(2014)年に国土交通省は建設業界の職場環境の改善を目的として,建設現場のトイレ環境の改善に取組み始めました。日常的に仮設トイレを活用しているのは建設現場であるため,建設現場の仮設トイレを快適に変える動きが進めば,避難所に設置されるトイレのレベルが向上することが期待できます。
 
本稿では,国土交通省が推進する建設現場のトイレ環境改善の取組みと避難所等への波及効果を紹介します。
 
 

1. どこでもトイレプロジェクトとは

「どこでもトイレプロジェクト」とは平成27(2015)年に国土交通省大臣官房技術調査課と特定非営利活動法人日本トイレ研究所が始めた取組みです。これは建設現場におけるトイレ環境改善を推進することを通して,避難所やイベント等で使用されるトイレ環境の改善につなげることを目指した活動で,フォーラムや研究会を開催しています。「どこでもトイレ」というネーミングには,必要なとき,必要な場所に,必要なだけトイレを届けるという思いが込められています。
 
そして,平成28(2016)年8月,国土交通省大臣官房技術調査課は,建設現場のトイレ環境の改善を本格的に推進するため「快適トイレ」の標準仕様を決定しました。快適トイレの仕様は,「1.トイレに求める機能」「2.付属品として備えるもの」「3.推奨する仕様,付属品」の3つに分類されています。「1」と「2」の項目は必ず備えるもの,「3」の項目は,装備していればより快適になるものとなっています。避難所だけでなく,イベントなども含めて,臨時に必要な場におけるトイレ環境をよりよく変えていく可能性を秘めています。
 
そこで,当研究所は,快適トイレの普及を推進すると同時に,仮設トイレのさらなる質的向上を目的として,国土交通省が定める快適トイレの標準仕様に則った仮設トイレに「快適トイレ」認定を行うとともに,「快適トイレ認定マーク(図−1)」を付与することにしました。国土交通省が快適トイレに求めている内容を「見える化」するため,必ず備える項目を満たしているものを「快適トイレ(★)」とし,装備していればより快適になる項目を一定以上備えているものを「快適トイレ(★★)」としました。当研究所のホームページにて,快適トイレ認定マークを取得した仮設トイレを公開していますので,参考にしてください(https://www.toilet.or.jp/projects/projects_kaitekitoilet/
 

図−1 「快適トイレ認定マーク」見本




 

2. 災害時における仮設トイレ事情

2-1 平成28年熊本地震における仮設トイレ事情

熊本地震は,平成28(2016)年4月14日と16日に最大震度7を2度もたらした地震です。被災者を対象に実施したアンケートによると,74%の人が仮設トイレを使用したと回答しています(図−2)。災害時,給排水設備の損傷により水洗トイレが使用できなくなると,仮設トイレに頼らざるを得ない状況になることが分かります。一刻も早く仮設トイレを設置する必要があるということです。熊本県によると,国のプッシュ型支援設置も含め,最大 1,494基(うち県手配設置:307基,市町村独自設置:727基,国手配設置:460基)の仮設トイレを設置したと報告されています。
 
大正大学人間学部人間環境学科教授の岡山朋子氏によると,熊本県と熊本県環境事業団体連合会が取り決めた災害支援協定に基づき,熊本県環境整備事業共同組合が仮設トイレの手配,し尿の汲み取りを実施しため,東日本大震災に比べて,被災地への仮設トイレ等の手配依頼から設置されるまでの時間は早かったようです。国と被災自治体,そして関連団体が連携し,仮設トイレを素早く配備できたことは非常に重要であり,学ぶところが大きいと考えます。
 
その一方で仮設トイレの設備面での課題もあります(図−3)。最も多い意見が「狭い(51%)」で,続いて「照明がなく暗い(44%)」,「屋外で遠い(40%)」と続きます。仮設トイレが早く届くことはとても重要ではありますが,安心して使える状態にするための改善が必要です。
 

図−2 避難時に使用した災害用トイレの種類
調査:避難生活におけるトイレに関するアンケート(平成28年)

岡山朋子氏(大正大学人間学部人間環境学科)

図−3:仮設トイレ使用時に気づいた点
調査:避難生活におけるトイレに関するアンケート(平成28年)

岡山朋子氏(大正大学人間学部人間環境学科)




 

2-2 平成30年7月豪雨での仮設トイレ事情

平成30(2018)年6月末から7月,西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨が続いた平成30年7月豪雨の際には,仮設トイレ対応に関して注目すべきポイントが2つありました。
 
1つ目のポイントは,倉敷市による仮設トイレの設置と維持管理の取組みです。倉敷市でトイレ対策を担ったのは下水道部でした。7月9日に仮設トイレの対応方針を決め,8日の夕方には仮設トイレが到着し始め,7月18日までに169基(43個所)の設置を済ませています。震災と水害では,仮設トイレの設置に関して異なることがあります。震災であれば仮設トイレの設置場所の多くは避難所になります。しかし,水害の場合は,水が引くと同時に一斉に泥かき等の作業が始まるため,地域ごとに仮設トイレを配備しなければなりません。仮設トイレを設置する場所を確保することと,設置した仮設トイレを衛生的に管理することはとても重要な課題です。
 
この課題に対して倉敷市は,まず公共用地をピックアップして所管部署へ連絡をとり,現場確認後に設置可能なら現場搬入という作業を進めました。公共用地だけではカバーしきれない部分については,民営地の所有者と直接交渉して対応しました。また「災害時だからこそ安心して使用できるトイレが必要」という考えのもと,仮設トイレの維持管理を業者に依頼し,高圧洗浄車を使用した巡回作業により,汲み取り,掃除,トイレットペーパーの補充,水補給等を行いました。街なかに設置された仮設トイレは不衛生になりがちですが,このような対応により衛生的に保たれていました。仮設トイレは被災者だけでなく,ボランティア等も使用することを想定して,このような対策をとることが重要だと考えます。
 
2つ目のポイントは,国土交通省が推進する快適トイレ(緊急対応のため,快適トイレに必要な付属品等が不足しているものも含まれます)が被災地に設置され始めたことです。洋式便器で室内面積が広めのタイプ,照明やフック,鏡を備えたタイプ,また洗浄水を循環再利用するタイプなど,様々なトイレが活用されました。まだ数は少ないものの,このような動きが目に見える形になってきたことは大きな成果だと感じています(写真−1〜4)。
 

写真−1 愛媛県宇和島市

写真−2 岡山県倉敷市


写真−3 岡山県倉敷市まび記念病院

写真−4 岡山県倉敷市・まびいきいきプラザ


 

3. どこでもトイレプロジェクトの可能性

建設現場でのトイレ改善が進むことが,災害時におけるトイレ環境の改善につながることは前述の通りです。「快適トイレ」は,建設業界のための職場改善だけでなく,災害関連死を防ぐための重要なアイテムです。建設業界の方々にはこのことをご理解いただき,地域の防災力向上に資する取組みとして「快適トイレ」を導入して頂きたいです。
 
最近は,経済分野などで,Volatility(変動性・不安定さ),Uncertainty(不確実性・不確定さ),Complexity(複雑性),Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字をとって「VUCAの時代」という言葉を目にすることがありますが,これは街づくりも同様ではないでしょうか。私たちの街は人口や経済活動等によって常に変化します。加えて,オリンピック・パラリンピックやお祭りなどのイベント時には,短期間に多くの人を受け入れる準備をすることが求められます。そのため私たちの街は,その時々の多様なニーズに応じて変わらなければなりません。そして変化のスピードは増しているように感じます。
 
このように変化の激しい時代においては,街なかの公共トイレが自由に移動できることが必要ではないかと考えています。イベントや災害があれば,そこに移動する。街の計画が変わればそれに応じて移動する。そんなトイレシステムが出来たら効果的だと思います。これこそが「どこでもトイレプロジェクト」の発展形です。
 
常設トイレは,一度建設したら数十年にわたって維持することが必要になり,新設の状態が最も良い状態で,年月が経つにつれ劣化することになります。このような課題を改善するためにも公共トイレのレンタル・リースなどを検討することも意味があります。
 
来年は,オリンピック・パラリンピックが開催されます。新国立競技場の屋外トイレがどのようになっているのか気になります。競技場周辺には多くの人が集まるため,臨時の飲食ゾーンが出現するかもしれませんし,パブリックビューイングのようなものが準備されることも考えられます。その時のトイレはどのように計画しているのでしょうか。例えば,競技場の屋外スペースに,国土交通省下水道部が推進するマンホールトイレの下部構造を準備しておき,イベント時のみ仮設でトイレを設置し,下水道に接続することができたらよいと思いませんか。このような仕組みがあれば,災害時も同様の運用を行うことが出来ます。つまり,イベントでのトイレ運用が大規模な防災訓練になるわけです。
 
札幌でのYOSAKOIソーラン祭りでは,快適トイレを下水道に仮設配管で接続しています(写真−5)。また,以前にイタリアの防災対策に関して調査に行った際,トイレに関しては,発災後の最初の1週間程度は,コンテナ型のトイレに貯留したし尿をトラックに移し替えて搬送するが,1週間後には仮設配管により通常の水洗トイレシステムとして利用するという話を伺いました(写真−6)。
 
くり返しになりますが,建設現場のトイレが変わることで,災害時のトイレが変わります。さらには,快適トイレのレベルが上がることで,いずれは街なかのトイレも移動式へと変化するのではないかと考えています。
 
当研究所は行政や建設・建築業界,トイレ関連企業等と連携しながら快適トイレの普及推進にこれからも一層努めていく所存です。
 

写真−5 YOSAKOIソーラン祭りのトイレの外観・札幌市大通公園


 

写真−6 イタリアのコンテナ型トイレ(提供:水谷嘉浩氏・Jパックス株式会社)




 
 
 

特定非営利活動法人 日本トイレ研究所 代表理事 加藤 篤

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2019年12月号



 
 

 

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