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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 土木施工単価 > 「インフラツーリズム」のその先へ 〜宮ヶ瀬ダムの取り組み〜

 
東京・横浜から日帰り圏内にある宮ヶ瀬湖は,神奈川県の重要な水源地であり,この地域を調和のとれた人々に親しまれる場として整備し振興していくことが,宮ヶ瀬ダム周辺の整備に課せられた重要な課題となっています。
 
宮ヶ瀬ダムでは「人と自然,都市と地域の交流・共存を目指す自然公園的機能を持った都市近郊リゾート地の形成」を基本理念とし,神奈川県,地元市町村と協力しながら周辺整備を行っています。
 
今号では,関東地方整備局 相模川水系広域ダム管理事務所に宮ヶ瀬ダムのインフラツーリズムについてご寄稿いただきました。
 
 

1 宮ヶ瀬ダムの特徴

宮ヶ瀬ダムは神奈川県の県央部を縦断する相模川の右支川中津川の上流にあり,都市部に近いこともあり,多くの人に来訪していただいている。
 
平成30年度には宮ヶ瀬ダム周辺3拠点(図−1)合計で約159万人の来訪者があった。これだけの来訪者がある理由は,都市部に近いという以外に次のような特徴によるものと考えている。
 

【図−1 宮ヶ瀬ダム周辺3拠点】



(1)定期観光放流の実施【写真−1】
4〜11月の第2水曜日,第2,第4金曜日,第2日曜日を基本として,その他ダム周辺のイベント開催日などに合わせて年間70日実施している。毎年3月に次年度の1年間の実施日を公表しており,計画的な来訪ができる。平成30年度の定期観光放流の見学者は年間約8万9千人であった。

【写真−1 定期観光放流】



(2)都市公園に隣接【写真−2】
ダム下流は都市公園である「県立あいかわ公園」に隣接している。あいかわ公園には遊具や芝生広場などが整備されており,家族連れが多く来園している。そして,約600台駐車可能な駐車場があり,宮ヶ瀬ダム来訪者の多くはあいかわ公園を利用している。この都市公園と一体となっていることで多くの来訪者を受け入れることができている。

【写真−2 宮ヶ瀬ダムと県立あいかわ公園(ダム下流の右側)】



(3)地域振興を専門とする財団法人
宮ヶ瀬ダム周辺3拠点の維持管理およびイベント等の開催を通じて宮ヶ瀬ダム周辺の地域振興を担うことを目的として公益財団法人宮ヶ瀬ダム周辺振興財団がダム建設時に設立されている。この財団により宮ヶ瀬ダム周辺3拠点は常に適切に維持管理され,また年間を通して魅力的なイベント等を開催している。
 
 

(4)建設時からダムを観光資源と考えた取り組み【写真−3】
宮ヶ瀬ダムでは建設時から完成後の地域振興を考えて造られてきた。先に述べた財団の設立や,ダム堤体内エレベータの一般開放(小学生等の社会科見学を考慮して46人乗りの大型エレベータ),そしてインクライン(ダム堤体建設時にコンクリートをダンプトラックで運搬する設備)の観光設備(ケーブルカー)としての転用など,ダムを地域の観光資源として利活用していこうという意識的な取り組みが実施されてきた。

【写真−3 インクライン】



(5)振り返ればヨコハマ【写真−4】
ダム天端から貯水池側には水源地である標高千m級の丹沢山地の山々を見ることができ,振り返れば水道供給先の一つである横浜市のランドマークタワーを中心とした横浜みなとみらい地区を望むことができる。ダムから水源地と水道供給先の街との両方を見ることができる全国でもまれなダムである。

【写真−4 天端から横浜方面を望む】



2 インフラツーリズムの取り組み

(1)定期観光放流(ナイト放流)
基本的に4〜11月の70日,1日2回,毎秒30㎥で各6分間定期観光放流を実施している。観光放流見学者数は平成27年度までは5万人前後で推移していたが,平成28年度から増加し,平成29年度には10万人を突破した(図−2)。先にも述べたが,定期的に実施することで来訪計画が立てやすい。特に平日は小学生の社会科見学として,神奈川県内の4割の公立小学校が宮ヶ瀬ダムに来訪しており,観光放流の見学と合わせてダムや水資源などについて学ぶとともに,ダムの魅力を肌で感じてもらっている。
 
また,定期観光放流の派生として平成29年度から地元愛川町主催で夜間にライトアップをして放流を行う「ナイト放流」を実施している(写真−5)。ナイト放流では愛川町のPRおよびイメージアップとして名産品の販売や地元住民によるダンスショーや太鼓演奏なども合わせて開催している。なお参加人数は会場などの都合により1,200人とし,応募抽選制で実施されている。令和元年度は約3,900人の応募があった。応募者数は第1回が900人,第2回が2,700人と年々増加しており,ライトアップされた幻想的なダムを見ることができるとあって大変好評である。

【図−2 観光放流の過去10カ年の見学者数】

【写真−5 ナイト放流】



(2)管理用階段開放【写真−6】
平成29年度から試行的にダム堤体脇にある管理用階段(498段,高低差125m)の開放を実施している。令和元年度は4〜11月の毎月第2,第4金曜日の定期観光放流と合わせて開放を実施した。主に社会科見学で訪れた小学生が利用するなどしている。堤体内に無料で利用できるエレベータおよびダム右岸脇には有料のインクライン(ケーブルカー)があるが,ダムの天端から下まで階段で歩くというのは小学生にとって特別な体験で大変好評であり,来年度以降も引き続き実施していきたい。

【写真−6 管理用階段開放】



(3)宮ヶ瀬ダムフェア(ダム内部見学会等)【写真−7】
毎年「森と湖に親しむ旬間」の期間である7月の最終日曜日に,宮ヶ瀬ダム関係事業者が各事業の理解を深めてもらうことを目的として「宮ヶ瀬ダムフェア」を開催している。実施内容は愛川第1発電所見学会(神奈川県企業庁),こどもお仕事体験(神奈川県内広域水道企業団),水辺の音楽会(公益財団法人宮ヶ瀬ダム周辺振興財団),ダム内部見学会(国土交通省)である。内部見学会は高位常用洪水吐ゲートやダム堤体内点検用モノレールなどを特別に一般公開している。

【写真−7 ダム内部見学会】



3 インフラツーリズムの課題

(1)来訪者の減少
宮ヶ瀬ダム周辺3拠点の近年の来訪者数は150〜160万人前後で推移している。10年ほど前は約200万人近い来訪者があった(図−3)。また近年の定期観光放流については平成29年度の約10万人をピークに減少しており,今年度は約7万人程度になる見込みである。また年間では冬期(12〜3月)の来訪者が少ない(図−4)。来訪者数を増やすためには,この期間における来訪者の増加をいかに図るかが今後のポイントである。

【図−3 宮ヶ瀬ダム3拠点の過去10カ年の来訪者数】


 

【図−4 平成30年度 宮ヶ瀬ダムサイト月別来訪者数】



(2)地域振興への効果が小さい
近年来訪者数が減少しているとはいえ,約150〜160万人程度の来訪者があるのは国内のダムでは最多であると思われる。しかしながら,地元地域振興に寄与しているかというと,一部の飲食店は効果があるものの多くは効果を享受できていないようである。実際アンケート結果(図−5)を見ても,宮ヶ瀬ダム周辺以外の立ち寄りはないという結果が大多数を占めている。ダムにおいて水源地域振興は重要なテーマであることから,ダム観光だけで終わらせるのではなくインフラツーリズムを通じて地域へいかに貢献していけるかを考えていかなければならない。

【図−5 平成30年度 宮ヶ瀬ダム周辺の立ち寄り地】



(3)ダムの事業の広報不足
インフラツーリズムの基本はその施設の役割や意義を理解していただくことである。ダムの役割などを知っていただくにはダム天端右岸にある広報施設「水とエネルギー館」がある。あいかわ公園からダムに来訪した場合は,ダム下で観光放流などを見て帰ってしまう方も多い。ダム下からダム内部の一般開放されているエレベータでダム天端へ上がれることを知らない人もいる。このためダム天端へ行けることを分かりやすく周知をしていくとともに,ダムサイト周辺にダムの運用方法や洪水時のダムの効果,そして渇水時のダムからの補給状況についてなどダムの役割が伝わるようにしていく必要がある。
 
 

4 インフラツーリズムの課題に対する取り組み

(1)来訪者減少対策 → 「宮ヶ瀬ダム探検ツアー」の実施
前述より冬季における来訪者の増加を図るため,試行的に「宮ヶ瀬ダム探検ツアー」を平成31年1〜2月に計4回実施した。実施内容は年1回行っている内部見学会の内容に今まで内部見学会などで公開していない選択取水設備や低位常用洪水吐(写真−8)などの見学を特別に取り入れた。さらに高位常用洪水吐でのゲート開閉作業を手動で体験していただいた(写真−9)。1回の参加人数は最大12人と少人数で行い,職員が2名ついて,各参加者からのいろいろな質問に対応するなど参加者とのコミュニケーションを図った。これにより,「職員の説明が良かった」との意見が多く(図−6),参加者からの満足度が非常に高く上々の評判であった。このため今年度も引き続き実施して,来訪者の増加に少しでもつなげていきたい。

【写真−8 低位常用洪水吐 見学】


 

【写真−9 高位常用洪水吐 手動ゲート操作体験】


 

【図−6 「職員の説明について」のアンケート】


 
 

(2)地域振興に向けて → 河川空間のオープン化
現在,全国のいくつかのダムで実施している日本酒などのダム監査路内での貯蔵を宮ヶ瀬ダムにおいても試行として今年の5月から開始し,10月に蔵出しを行った。現在,神奈川県内で「宮ヶ瀬ダム貯蔵酒」として販売中である。今後,お酒の貯蔵だけでなく,さまざまな用途で河川区域(ダム管理区域)を地域振興の一環として利用できるよう河川敷地占用許可準則による「都市・地域再生等利用区域の指定」いわゆる「河川空間のオープン化」制度を活用していく方向で,現在,地元市町村などと調整中である。この適用により,民間事業者による河川区域の利用が可能となり,民間事業者のアイディアや資金および活力をインフラツーリズムと合わせて宮ヶ瀬ダム周辺地域振興に役立てていきたいと考えている。
 
 

(3)ダム事業の理解促進 → 伝わるダム事業広報への取り組み
ダムの役割や意義などの理解促進として,洪水期に「洪水調節容量確保のために貯水位を下げて運用していること(写真−10)」などを天端の柵や,ダム堤体内のエレベータの目の付きやすいところに貼り出した。またエレベータの待合廊下に洪水時のダムの効果を掲示するなどしてダムの役割などの理解促進に努めている。さらに今年度中には「楽しみながら学べる」をテーマにダムの役割紹介アプリなどを制作し,ARなどを利用してビジュアルにより老若男女そして外国人にも分かりやすくダムの魅力や役割などを理解してもらえるようにしていく予定である。

【写真−10 ダム運用情報】




 

5 今後の取り組み方針

(1)観光資源としての宮ヶ瀬ダムのさらなる発展
先にも述べたように観光資源としてダムが地域振興に寄与するよう建設時からその当時では考えられないようなダムエレベータの開放などが実施されてきた。このような諸先輩方の思いを受け継ぎ,観光資源として整備された宮ヶ瀬ダムをインフラツーリズムを通じて地域の観光資源としてさらに発展させていきたい。
 
 

(2)地域振興へ連携した取り組み
宮ヶ瀬ダムは複数の市町村にまたがって所在している。今までは各市町村がそれぞれ独自に地域振興策を行ってきた。今後は宮ヶ瀬ダム周辺地域の各市町村が連携して一体となって取り組んでいくことが必要と考えている。その第一歩として先に述べた「河川空間のオープン化」を宮ヶ瀬ダム周辺市町村の連名により適用し,そして多様な民間事業者の利用を促進することにより,「市町村の枠」「官民の枠」「業種の枠」を越えて宮ヶ瀬ダム周辺地域振興を定常的かつ継続的に可能となる枠組みを作っていきたい。
 
 

(3)「ダムができて良かった」と思われる取り組み
本誌2019年夏号での湯田ダムの紹介記事で記述があった「移転した方々にダムができて良かった」と思われるように取り組んでいくことに同感である。宮ヶ瀬ダム建設により移転していただいた1,136名の方々に,そしてこのダム周辺地域住民の方々に宮ヶ瀬ダムがあることで地域が活性化され,みなさんが喜んでもらえることを第一に考えて,今後インフラツーリズムのその先にある地域振興の推進を目指して取り組んでいく所存である。
 
 
 

国土交通省 関東地方整備局 相模川水系広域ダム管理事務所

 
 
【出典】


土木施工単価2020冬号



 

 

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