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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > i-Constructionによる建設現場の生産性革命

 

はじめに

わが国は、現在、人口減少社会を迎えていますが、潜在的な成長力を高めるとともに、新たな需要を掘り起こしていくため、働き手の減少を上回る生産性の向上等が求められています。また、産業の中長期的な担い手の確保・育成等に向けて、働き方改革を進めることも重要であり、この点からも生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、2016年より、建設現場においてICTの活用や施工時期の平準化等を進める「i-Construction」を推進しております(図-1)。
 
さらに本年度通常国会において、新・担い手三法が改正され、生産性向上への取り組みや働き方改革の推進が位置付けられました(図-2)。i-Constructionの取り組みの一層の加速が求められています。
 
本稿では、これまでの取組状況と課題を整理するとともに、今後の推進方策について紹介させていただきます。
 


  • 図-1 i-Construction ~建設現場の生産性向上~


  • 図-2 品確法と建設業法・入契法(新担い手3法)



 
 

これまでの取り組みと今後の方向性について

これまで国土交通省が取り組んできたi-Constructionの取り組みについて、「ICTの全面的な活用」、「全体最適の導入」、「施工時期の平準化」、「3次元データの利活用」の 項目に分類してこれまでの成果ならびに今後の方向性について紹介します。また、推進体制である「i-Construction推進コンソーシアム」について紹介します。
 
 
(1) ICTの全面的な活用
調査・測量、設計、施工、検査等のあらゆる建設生産プロセスにおいてICTを全面的に活用する取り組みであり、必要な積算や技術基準等の整備を進めてきました。本年も、ICT活用工種を、地盤改良工、法面工、付帯構造物設置工へ拡大するため新たな基準類を策定するとともに、小規模土工(掘削)において、現行の施工土量50,000㎥、10,000㎥ による区分に加え、新たに5,000㎥ 未満の積算区分を設定しました。
 
 
ICT施工を行った結果、起工測量から電子納品までの延べ作業時間について、土工では約3割の縮減効果が出ております。
 
これまでの取り組みの結果、平成30年度は、直轄工事におけるICT活用工事の公告件数1,948件のうち57%に当たる1,105件で実施しております。一方、都道府県・政令市における平成30年度のICT土工は公告件数2,428件のうち523件と、22%にとどまっております。
 
一方、工事単位に着目すると、直轄土木工事区分の約7割で生産性向上の取り組みに着手しておりますが、維持修繕分野については点検業務へのドローン等の活用は進んでいる一方、工事におけるICT活用は進んでいません。
 
 
こうした結果を踏まえ、今後は地方公共団体の取組拡大を図るとともに、小規模な工事の多い維持修繕系工事への適用拡大を図っていきます。
 
 

(2)全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)
設計、発注、調達、加工、組立等の一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化が図られるよう、流動性を高めたコンクリートやプレキャスト製品の活用、プレハブ鉄筋などの工場製作化を進めるため、必要なガイドライン等の策定に取り組んできました。
 
これまでの取り組みの結果、プレキャスト製品は、現場打ちに比べ2~5倍の効率性があることが判明しております。しかしながら、セメント量のうちプレキャストに使われたセメント量は平成30年度で全販売量の約14%にとどまり、これまでのほぼ横ばいの傾向となっています。
 
生産性向上につなげるため、今後はプレキャスト(ハーフ・サイト・大型化)の進化を目指していきます。
 
 
(3)施工時期の平準化
公共工事においては第1四半期(4~6月)に工事量が少なく、工事稼働時期の偏りが激しかったため、人材・資機材の効率的な配置や、休暇の確保、収入の安定などが図られてきませんでした。この点を踏まえ、国庫債務負担行為の積極的な活用や地域単位での発注見通しの統合・公表の拡大、地方公共団体への取組要請を行ってきた結果、施工時期の平準化の取り組みは浸透しつつあります。
 
他方、平成30年度の平準化率(年度の平均と4~6月期の工事の平均の稼働状況の比率)は、国が0.85であることに対し、市町村は0.55にとどまっています。
 
こうした状況を踏まえ、地域発注者協議会を通じて平準化率の目標を設定し地方公共団体に働きかけるなど、地方公共団体の平準化率向上を目指し取り組みを進めることとしています。
 
 

(4)3次元データ等の利活用
3次元設計(BIM/CIM)を導入することで、建設生産・管理システム全体を見通した施工計画、管理などのコンカレントエンジニアリング、フロントローディングの考え方を実施していくことが可能となります。
 
平成24年度から橋梁やダム等を対象に導入し、昨年度からは、原則大規模構造物における詳細設計について、BIM/CIMの活用を導入することとしています。
 
実施件数は着実に伸びており、平成30年度は業務147件、工事65件で適用していますが、今年度は400件への拡大を目指すなど、引き続きBIM/CIM等の活用拡大を図っていきます。
 
 
(5)i-Construction推進に向けた取り組み
i-Constructionの推進に向け、非建設分野の関連企業を含むさまざまな分野の産学官が連携して、IoTやAI等の革新的技術の現場導入や3次元データの活用などを進めるため、「i-Construction推進コンソーシアム」を平成29年1月30日に設置しました。
 
現在は1000者を超える会員が参加していただいており、新技術の開発・導入に向けた現場ニーズと技術シーズのマッチングイベントの実施や、3次元データ利活用に向けた意見交換等を行っております(図-3)。
 

図-3 i-Construction推進コンソーシアム



 

今後の推進に向けて

建設現場の生産性向上に向け、今後は前章(これまでの取り組みと今後の方向性について)で述べたそれぞれの取り組みを引き続き推進していく(図-4)とともに、中小企業や地方公共団体等へのさらなる普及や、BIM/CIM等三次元データや新技術の活用促進、またデータ連携を促進するための基盤整備を進めていく必要があります。
 

図-4 生産性向上に向けた取組の現状と方向性




 

(1)中小企業や地方公共団体への普及展開
i-Constructionのさらなる普及展開に向けては、中小企業等が取り組みやすい環境を整えるとともに、先進事例を横展開し、今後は中小企業や地方公共団体等にその効果を体感してもらうことが重要です。
 
このため、前章で述べた積算基準の見直しとともに、今年度より全国53の河川国道事務所等を「i-Constructionサポート事務所」と設定し、中小企業、地方公共団体等のサポートを実施しております。また、中国地方整備局において、ICT施工の要件を緩和した「中国Light ICT」を試行的に導入する等、ICT施工に取り組みやすい環境整備に努めます。
 
加えて、地域ごとに「トップランナーの取り組みを周知する場」を設置し、ICT活用経験の少ない企業に先進的取組を周知しICT活用のメリットを訴求する取り組みを進めます(図-5)。
 
さらに、今年度のi-Construction大賞においては、先進的な取り組みを行っている地方公共団体自身を表彰できるよう制度を見直しました(図-6)。
 
こうした普及促進の取り組みを通じ、i-Constructionの裾野拡大に取り組んでまいります。
 


  • 図-5 ICT活用のトップランナーの取組に関する情報共有


  • 図-6 令和元年度i-Construction大賞



 

(2)新技術の活用促進
公共工事において、生産性を向上させる新技術の現場実装が促進されるよう、i-Construction推進コンソーシアムを活用し、新技術の発掘や企業間連携を促進するとともに、新技術の導入を促進する発注等に取り組んでおります。
 
さらに、建設現場からデジタルデータをリアルタイムに取得し、これを活用したIoT・AIをはじめとする新技術を試行することで、建設現場の生産性を向上するプロジェクトの公募を平成30年度より行っております。「データを活用して施工の労働生産性の向上を図る技術」と「データを活用して品質管理の高度化等を図る技術」について、本年度は計25件選定しており、例えば、ステレオカメラ撮影画像を活用した配筋測定の開発により現行の手作業による複数人で測定を省力化・省人化するなどの取り組みが行われております(図7~9)。
 
こうした取り組みを通じて、新技術の現場実装を阻害する規制等が存在する場合は、その見直しも含め新技術の積極活用に取り組んで参ります。
 

図-7 建設現場の生産性を飛躍的に向上するための
   革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト(PRISM)


 


  • 図-8 建設現場の生産性を飛躍的に向上するための
      革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト


  • 図-9 ステレオカメラ等の画像を用いた配筋測定技術の例



 

(3)データ連携による生産性の更なる向上
さらに現在、国土交通省において、地盤や構造物等の国土に関するデータに、経済活動や気象等の自然現象に関するデータを連携させた統合的なプラットフォーム(国土交通データプラットフォーム(仮称))構築に取り組んでおります。
 
具体的には、BIM/CIMやICT施工により作成される3次元データをはじめとしたi-Constructionの取り組みにより得られるデータや、地盤情報、民間建築物等の国土に関する情報をサイバー空間上に再現するインフラ・データプラットフォームの構築を進めております。また将来的には、官民が保有する公共交通や物流・商流等の経済活動に関するデータや気象等の自然現象に関するデータを連携させ、国土交通データプラットフォーム(仮称)の構築を目指します(図-10)。
 
これらのデータを用いてサイバー空間上でシミュレーションを実施することで、例えば災害時の避難シミュレーションや、都市における最適なヒートアイランド対策の実現が可能になるなど、さまざまな課題解決に活用することが期待できますが、プラットフォームの利活用を促進し施策の高度化やイノベーションの創出につなげていくためには、構築の段階から産学官の連携が重要です。
 
このため、令和元年10月31日に「国土交通データ協議会」を設置し、プラットフォームの利活用やデータ提供等の活動をしていただける方々の公募を開始しました。加えて、国土交通データプラットフォームのプロトタイプ版を構築し、国土交通データ協議会の会員の方々に公開することで、プラットフォームの改善提案についても意見を求めているところです(図-11、12)。さらに、データ連携に関する課題解決に資する研究成果を実装するため、研究機関とも連携を図ります(図-13)。
 
今後も、国土交通データ協議会会員との意見交換や、研究機関等との連携を図ることで、課題の解決を図り、国土交通データプラットフォームの構築に取り組みます。
 


  • 図-10 i-Constructionの推進と
        国土交通データプラットフォームの構築


  • 図-11 産学官の連携強化に向けた協議会の設置


  • 図-12 国土交通データプラットフォーム・プロトタイプ版の公開


  • 図-13 研究機関等との連携を加速



 

おわりに

近年、全国各地で災害が発生しています。i-Constructionは、建設現場の生産性向上を目指して取り組みを進めてきましたが、今年の台風災害でも、ドローンを活用して被災状況を効率的に把握する取り組みや、急傾斜地での無人化施工を行い作業員の安全確保に寄与する等、i-Constructionは防災・減災面でも効果があることが確認されています。安全・安心という観点からも、i-Constructionを推進していく必要があります。
 
また、i-Constructionの活用により、建設現場に必要な技術の習得に要する時間の短縮が期待されています。そして、生産性向上により安定した休暇の取得が可能になることで、建設現場において若者や女性などの多様な方々の活躍が期待されています。
 
こうした取り組みにより魅力ある建設現場を作り出すことで、「きつい、危険、給料が安い、休暇が取れない」と表現されることもある現状を改善し、新たな「給与が良い、休暇がとれる、希望がもてる」建設現場の実現を目指していきます。

 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐 中西 健一郎

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 

最終更新日:2020-05-11

 

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