• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 国土交通省におけるBIM/CIMの普及・促進の取り組み

 

はじめに

BIM/CIMの導入には、設計品質の確保や効率的な施工計画に基づく人材・資材の最適配置、最新技術の導入による監督・検査の効率化等が期待されています。また、建設全体を見通した施工計画、管理などコンカレントエンジニアリング、フロントローディングの考え方を実践していくことが可能となり、一連の建設生産・管理システムの品質確保並びに生産性の向上が可能となります。
 
このため国土交通省では、BIM/CIMの普及・定着、効果の把握やルール作りに向けて、2012年度より試行を進めてまいりました。
 
本稿では、BIM/CIMに関する基準・要領等の整備状況と、適用拡大に向けた今後の取り組みについて紹介します。
 
 

BIM/CIMの実施状況

国土交通省では、業務については2012年度から、工事については2013年度からBIM/CIMの試行を進めており、これまで、設計業務で291件、工事で339件の合計630件で実施しています(表-1)。
 
特に2018年度は、大規模構造物詳細設計においてBIM/CIMを原則適用することとし、200件を目標にBIM/CIMの積極的な活用を推進した結果、設計業務で147件、工事で65件の合計212件でBIM/CIMの活用がなされています。
 

表-1 BIM/CIM活用業務・工事の実施状況等



 

基準要領等の整備

国土交通省では、BIM/CIMの効率的かつ効果的な活用に向け、基準・要領等の整備を進めています(表-2)。
 

表-2 国土交通省におけるBIM/CIMに関する基準/要領等の整備状況



(1)CIM導入ガイドライン(案)
国土交通省では、これまでのBIM/CIM活用モデル事業で得られた知見やソフトウェアの機能水準を踏まえ、公共事業に携わる関係者(発注者、受注者等)がBIM/CIMを円滑に導入できることを目的に、現時点でBIM/CIMの活用が可能な項目を中心に、受発注者の役割、基本的な作業手順や留意点とともに、BIM/CIMモデルの作成指針(目安)、活用方法(事例)を参考として記載した「CIM導入ガイドライン(案)」を作成しています。
 
ガイドラインは、共通編と構造物ごとの各分野編で構成しており、各編を組み合わせて使用することを想定しています。2019年度版には、新たに、下水道編、地すべり編を追加し、BIM/CIMの適用範囲の拡大を図っているところです。
 
一方で、現行のガイドラインは内容が重複している部分があるなど課題もあることから、2019年度は共通編を全面的に見直しすとともに、発注者がBIM/CIMを活用する観点から実施すべき事項を別途マニュアルとして整理するなど、より分かりやすいガイドラインとなるよう改定し、BIM/CIMの効果的な活用が図られるよう検討を進めています。
 
 
(2)3次元モデル表記標準(案)
建設生産・管理システムで一貫したCIMモデルを流通・利活用し、各プロセスで発生した情報を連携していくことで、より一層の生産性向上が見込まれます。このため、契約図書におけるCIMモデルを契約図書に位置付けることを企図した「3次元モデル表記標準(案)」を整備しています。
 
設計図書として活用するBIM/CIMモデルの寸法や注記および管理情報の表記・表示の方法を定めたものであり、2次元図面からBIM/CIMモデルへの円滑な移行を補助するため、3Dモデルから切り出した2次元図面に従来のCAD製図を踏襲した方法で詳細な寸法・注記を加える方法も記載しています。
 
従来の2次元図面によらない、契約図書としてBIM/CIMモデルを活用する際の規定であることから、一般的なBIM/CIM活用業務では作成する必要はありませんが、本標準をBIM/CIM活用事業に適用し、実践して得られた課題に対応するとともに、関連する基準類の整備と連携しながら、本標準を継続的に改善・拡充していくこととしています。
 
BIM/CIMモデルでは構造物の寸法や注記をモデル内から取得可能であることから、改善・拡充に当たっては従来の2次元での製図法にとらわれない、より効率的な表記・表示の方法を検討し、建設生産・管理システムの効率化に向けて制を進めています。
 
 
(3) 土木工事数量算出要領(案)
国土交通省では、CADソフト等による体積の算出結果等の自動算出された数量をそのまま積算に活用できるよう「土木工事数量算出要領」に反映しています。
 
2018年度末の改定で、土木工事数量算出要領の全ての工種において3次元モデルから自動算出される数量を活用することが可能となりましたが、一部不明確な部分があったことから、2019年度は内容の精査を実施するとともに、モデル作成に当たっての留意事項や具体的な算出手順を整理し、効率的な積算が可能となるよう手引きを整備する予定です。
 
 
(4)BIM/CIM成果品の検査要領(案)
建設生産・管理システム全体を通じてBIM/CIMを活用していくためには、成果品として引き継ぐBIM/CIMモデルが適切に作成されていることが必要です。
 
そこで、まずは橋梁分野の詳細設計を対象に発注者による検査に必要な事項を整理し、受注者が実施すべき照査に必要な事項を「BIM/CIM設計照査シート」として取りまとめ、BIM/CIMモデルの品質確保を図ることとしました(図-1)。
 
2019年度は、対象工種を拡大し適切な照査・検査が実施できる環境を整備するとともに、ソフトウェアを活用した自動チェック機能などの拡充により、効率的な照査が可能となるよう、さらなる検討を進めているところです。
 
また、実務において想定される課題に対応するため、BIM/CIMを活用した設計照査の実施手順などを取りまとめた手引きを整備する予定です。
 

図-1 BIM・CIM設計照査シートの適用範囲



(5)BIM/CIM活用における「段階モデル確認書」作成マニュアル【試行版】(案)
BIM/CIMを活用したフロントローディングを実現するためには、手戻りを防止するため、事業の各段階で発注者が確認する時期と求めるBIM/CIMモデルの達成度を明確にすることが重要であることから、「段階モデル確認書」を作成するための「BIM/CIM活用における「段階モデル確認書」作成マニュアル【試行版】(案)」を整備しています。
 
段階モデル確認書は、業務・工事を実施する際の一連のプロセスにおいて、データ連携のプロセス(データ連携の場面)と確認すべき情報やその要件を示したものであり、「プロセスマップ」および「情報確認要件」で構成されるものです。
 
入札公告時にあらかじめ段階モデル確認書を提示し、業務・工事の開始時に受発注者で共有・確認することにより、CIMモデルの活用目的を明確化し、受発注者双方の作業負担を軽減することが期待されます(図-2)。
 

図-2 段階モデル確認書の活用イメージ



(6) 要求事項(リクワイヤメント)
国土交通省では、2018年度から発注者が受注者にBIM/CIMモデルの導入・活用に関する要求事項(リクワイヤメント)を設定し、事業を実施しています。
 
この要求事項に基づき、受発注者がそれぞれ知見やノウハウを出し合い、課題の抽出および解決策を検討することで更なるBIM/CIMの効果的な活用に向けた環境整備を進めているところです。
 
2019 年度は、これら要求事項について必須項目と選択項目に分けて見直すとともに、選択項目の実施にあっては課題抽出および解決策の検討が主たる目的であることを明確化しました。
 
2019年度に設定した要求事項は表-3の通りです。基準・要領等を定めたことにより実施が可能となったBIM/CIM活用項目を選択項目として設定し、BIM/CIM活用業務・工事で試行および検証を実施することで今後の基準・要領等の改定に向けた課題解決に活用を図る予定です。
 
今後、BIM/CIMの活用項目について必須項目を充実させることで、後工程で活用可能なBIM/CIMモデルの標準化が図られることから、引き続き、選択項目として実施する要求事項の課題解決を図り、必須項目の拡充に向けて検討を進めてまいります。
 

表-3 2019年度のリクワイヤメント一覧



BIM/CIMを取り巻く環境の整備

BIM/CIMをより効率的、効果的に活用していくためには、基準・要領等の整備を進めるだけでなく、それらを活用する環境についても整備していく必要があります。国土交通省では、BIM/CIM活用のための基準要領等だけでなく、データ交換等の環境整備も推進しています。
 
 
(1)BIM/CIMポータルサイト
BIM/CIMを効率的に活用するためには、必要な情報へのアクセシビリティを高める必要があります。特に、BIM/CIMに関連する基準・要領等について作成者ごとに公開されており、「何が、どこにあるのか」を整理し、共有することが急務となっています。
 
そこで、まずは国土交通省が公開しているBIM/CIMに関連する情報を取りまとめ、BIM/CIMポータルサイト【試行版】として公開しました(図-3)。
 
今後、関連する団体の情報等について充実させ、BIM/CIMに関する情報へのアクセシビリティを確保できる環境整備を進めてまいります。
 

図-3 BIM/CIMポータルサイト【試行版】
URL:http://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimindex.html



(2)ソフトウェア確認要件
BIM/CIMモデルを建設生産・管理システムで一貫して活用していくためには、異なるソフトウェア間でも支障なく情報交換が可能となるよう互換性を確保することが重要です。特に、BIM/CIMの共通フォーマットであるIFC形式およびJ-LandXML形式について、個々のBIM/CIMソフトウェアで問題なく作成・表示が可能であるかについてあらかじめ確認できることは、BIM/CIMを継続的に活用するうえで非常に重要となっています。
 
そこで、国土交通省では、前述の基準要領等において国内で独自に定めた要件を含め、国土交通省としてBIM/CIMソフトウェアに求める機能を機能要件として公開することしました。
 
ソフトウェア検定は、building-SMART JAPANやOCF等の民間団体において実施されていますが、2019年度以後これらの機能要件を満足しているかについて検定を実施され、国内のBIM/CIM基準等に合致するソフトウェアが活用されるよう環境整備を進めてまいります(図-4)。
 

図-4 ソフトウェア検定のイメージ



(3)情報共有システム機能要件
BIM/CIMをより効率的に活用するためには、同一のデータに関係者が同時にアクセス可能となる環境が必要です。このため、国土交通省では情報共有システムを活用することで3次元データを確認できるよう機能要件を見直し、2018年度に「工事施工中における受発注者間の情報共有システム機能要件Rev5.0」として改定するとともに、業務における機能要件を整備しています。
 
2019年版では、3次元モデルの表示等の一部機能について必須機能から外すとともに、外部システムを活用することが可能となるよう解説編を新たに公開しています。また、機能要件の整備とあわせ、ISO19650に準じた共有データ環境(CDE)に対応するよう「土木工事の情報共有システム活用ガイドライン」も改定しています。
 
今後、これら機能を満足する情報共有システムを活用することで、BIM/CIMの効率的な活用が可能となることが期待されます。
 
 
(4)「オンライン電子納品」の実装
BIM/CIMに限った課題ではありませんが、複雑化・大容量化する電子成果品の納品に当たり、現行の電子納品要領ではCD等の電子媒体に格納することを必須としています。しかしながら、複数枚の電子媒体に分割して提出する場合など、電子成果品の作成には少なからず受注者の負担となっている部分があるとともに、成果品が正しく格納されていないなどのミスが発生する要因ともなっていました。
 
そこで、国土交通省では情報共有システムを活用したオンライン電子納品について検討し、2020年度中の運用開始に向けて、シームレスな情報の共有・交換が可能となるよう環境整備を進めています(図-5)。
 

図-5 オンライン電子納品のイメージ



今後の取り組みについて

国土交通省では、i-Constructionの普及拡大により、2025年までに建設現場の生産性2割向上を目指しています。特に、BIM/CIMを生産性革命のエンジンと位置付け、2017年に「3次元データ利活用方針」を策定し、建設生産・管理システム全体における3次元データの利活用に向けた取り組みを進めてきました。
 
今後、さらなるi-Constructionの普及拡大を図るためには、3次元データの原則活用が可能となる環境を整備していく必要があることから、2019年度中に3次元データの利活用に関する新たなロードマップを作成することとしました。
 
新たなロードマップについては、これまでの「いつまでに何をするのか」という表現から、「いつ何が可能となるとなるのか(どのような効果が期待されるのか)」という表現に改め、国土交通省の役割だけでなく、業界団体の果たすべき役割についても記載し、誰が何をすべきなのかを明確にしたいと考えています。
 
 
(1)規格・技術の一元化
BIM/CIMの共通フォーマットであるIFCの規格化については、ソフトウェア確認要件として公開したところですが、作成するBIM/CIMモデルの標準化については作成者の判断に委ねられている部分が多いのが実情です。また、関連する基準要領等やガイドライン等についても整理されておらず、全体像を把握することが困難となっています。
 
今後、BIM/CIMをより効果的に活用していくためには、国際規格であるISOを導入するだけでなく、BIM/CIMに関する国内における規格・技術の一元化を目指すことが必要です。
 
そこで、2019年度は、まずは国内におけるBIM/CIM関連の用語を整理し国内の共通認識を深めるとともに、BIM/CIMに関連する基準・要領・ガイドライン等の文書について、誰でも容易にアクセスが可能となるよう、ポータルサイトの拡充を図る予定です。
 
 
(2)BIM/CIM適用事業の拡大
国土交通省では、2018 年度から大規模構造物詳細設計において原則適用を打ち出すとともに、目標を200件と定めてBIM/CIMの適用拡大を図っています。2019 年度は、詳細設計のBIM/CIM成果品がある工事についても原則適用するとともに、概略・予備設計においてもBIM/CIMの導入を積極的に推進することで、年間400件のBIM/CIM事業の実施を目指します。
 
今後、全事業でBIM/CIMの原則適用を目指すためには、CIM導入ガイドラインの各編を拡充するだけでなく、これまで対象としてこなかった工種(地下埋設物等)についても対応が可能となるよう、ガイドライン等のさらなる拡充について検討を進めます。
 
 
(3)BIM/CIMの高度利活用の推進
BIM/CIMを活用することで、建設生産・管理システムにおける情報の集約化・可視化が可能となります。また、クラウドコンピューティング等の新技術を導入することにより、業務等の効率化・高度化につながります。さらに、これらのデータは建設生産・管理システムの外でも活用されることが期待されています。
 
2019 年度は、i-Constructionモデル事務所において後工程で利用することを前提としたBIM/CIMモデルの構築について検討するとともに、BIM/CIM技術者による発注者支援についても検討し、さらなる高度利活用に向けた検討を進めてまいります。
 
 
(4)BIM/CIMの普及促進
BIM/CIMを建設産業全体で活用していくためには、大企業における先導的な取り組みを進めるだけでなく、中小企業を含めた全建設産業で3次元データを活用できる環境整備が必要です。
 
国土交通省では、2018年度から発注者に対するBIM/CIM研修を開始しましたが、BIM/CIMのさらなる普及・啓蒙が図られるよう、体制構築を進めてまいります。
 
また、モデル作成にかかる作業負担を軽減するため、数字を入力することで必要最低限のオブジェクトを作成可能なパラメトリックモデルの作成ルールや、プレキャスト製品等の汎用品ついてはメーカーに依存しないジェネリックオブジェクトの供給方法等についても検討してまいります。

表-4 BIM/CIMロードマップ案



おわりに

建設現場の生産性向上を図るためには、3次元データ等の導入を国の直轄工事以外にも拡大していくことが必要です。このため、 i-Constructionサポート事務所を各都道府県に1事務所以上決定し、地方公共団体や地域企業における取組をサポートするための相談窓口を設置しました。
 
また、発注関係者の集まる発注者協議会や土木部長会議等の場において、国土交通省における取り組みについて周知を図りつつ、発注者間で連携して取組みを進めてまいりたいと考えています。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐 那須 大輔

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 

最終更新日:2020-06-08

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品