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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > i-Construction・BIM/CIM 最新事例 -コンストラクションデジタルへの加速-

 

コンストラクションデジタルへの流れ

CIMは2012年から、i-Constructionは2016年から始まり、既に7年が経過した。この間、3次元のモデルの取り組みという内容でさまざまな雑誌が取材を行い、それぞれの時代でトレンドが紹介されてきた。
 
BIMと違い、CIMという土木分野での3次元の取り組みは、属性情報の取り扱いについて多くの話題も提供した。3次元オブジェクトにNavis+というツールを活用し、Navisworks上で属性を自由に設定することができることに関して数多くの議論がもたらされた(図-1)。自由すぎる属性設定が建設サイクルの最終目的である維持管理への取り組み時に必要なものを求める状況を生み出した。

図-1 3Dへの属性設定事例




維持管理に必要な属性情報は何か。それを皮切りにそのために施工ではどのようにその必要な属性情報を収集もしくは整理するのか。さらに、施工で必要な属性情報を設計段階ではどのように入れるのか、入れるために3次元データをどのように分割して入れるのか、調査段階で得られるデータにはどのようなものがあり、それらを設計で生かすためにどのように整理するのか、など、効率化や生産性向上という言葉がかえってこれらの議論を不毛な流れにしてしまっている部分が否めない。
 
また、3次元形状にしても、詳細度という言葉が一人歩きしてしまい、形状だけに注目したLOD議論があちこちで行われている(図-2)。

図-2 JACIC社会基盤情報標準化委員会
特別委員会報告書より



本来LODのDは形状のみのDetailではなく3次元オブジェクトとして必要な情報を全て包含してDevelopmentとしての意味を持たせることが重要のはずだが、Detail部分に焦点が集まり、本来議論しなければならない中身を無視した表面的な議論に終始してしまっている。
 
このように見ると、この数年間の産官学を上げた日本での議論は、木を見て森を見ずの様相を呈していたようにも思われる。
 
そのような中で2016年にはi-Const-ructionという施策を国土交通省が打ち出し、3次元形状をベースとして、デジタルとフィジカルが連動して活用する流れを打ち出した。特に施工で利用した情報を元に、設計で作成されている3次元形状を重ね合わせることで、施工状況の確認や出来高・出来形確認・検査に利用する流れが出来上がり、3次元デジタルデータとして構築されたCIMが施工で現れるフィジカルデータと連携して活用する流れが一気に加速した。2018年12月に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)
 
Ver. 1.0」を提唱する流れもあり(図-3)、デジタル情報を作るだけではなくそれを活用して生産性を向上する仕組み作りが確立されたのである。
 
時を同じくしてデジタルツインという概念も現れ、建設業界はこの数年、コンストラクションデジタル化を一気に進める状況が産まれた。

図-3 経済産業省サイトより(2018年12月12日




 

「デジタル」という言葉から求めている事例は何か

建設業界はこの30年間、紙図面から2次元CADへと変化し、さらにこの10年は3次元CADへの取り組みが加速している。
 
「デジタル」化については、紙図面からCADになった時点でもデジタル化が行われている。しかし、今回のCAD化から3次元への取り組みについては、同じデジタルでも様相が違ってきている。CAD化は単に紙情報がデジタルという媒体に置き換わり、その情報を誰でもいつでもどこでも好きなところから修正できる環境が整ってきた。
 
3次元では、CAD化された情報から高さ情報を与えることで、実世界と同じものが出来上がる環境がパソコンの中でも構築できるようになったことが上げられる。
 
パソコン環境で、実際の構築物を作り上げることが可能になったのである。バーチャルの世界と現実の世界が融合し、一品受注生産を売り物にしてきた建設会社はパソコンの中でその生産プロセスを事前に確認することができるようになったのである。
 
単に2次元CADから3次元CADがすごいのではなく、そこにプロセスを組み込み、一品受注生産の場合に一度しか体験できなかった取り組みが仮想世界の中で実施できる状況がこの10年で実現してきたのである。
 
これを世間では「デジタルツイン」と呼んでいる。
 
デジタルツインに世界は単に形状を現実と合わせるだけではない。そこにはIoTセンサーや形状を瞬時に取得できる技術として、3DレーザースキャナーやSfM技術を活用するところから、計測データをIoTセンサーと連携して、現場の「今」が分かる技術がふんだんに盛り込まれている。
 
「建設のデジタル化」が叫ばれて久しいが、実データをこれほどまでにハンドリングしやすくできるツールと通信環境が整ってきた今こそ、まさに「デジタル」という言葉と建設事業を進めていく上での流れがマッチングした時代はない(図-4)。
 
いまわれわれはこのような良い環境の中で仕事をし、生産性向上を求められているのである。

図-4 大林組のBIMWillの取り組み




 

コンストラクションテックのトレンド

建設事業はその構築物の大きさや重要性などを鑑み、計画段階から設計段階、施工段階と経て供用物としての使命をスタートさせ、寿命を終えるまでの期間が長いため、設計段階や施工段階での技術としては、その施工方法や設計手法など、技術というよりも手法の開発、計画の手法などについて議論や開発の時間を費やしてきた。
 
ところが、デジタルデータの扱いやすさや、その周辺テクノロイジーが一気にわれわれが利用できる状況となり、設計段階や施工段階でのプロセスを表現できる状況になってきた。
 
例えば、設計段階では、一定の条件で、多くの設計内容を検討することができるような設計プロセスを短時間で多く検討できるようなツールができてきている。
 
施工では、設計データと施工状況を重ね合わせることでその出来高や出来形を管理するツールがある。一般的にそのような施工途中のデータを取得する方法としては、3Dレーザースキャナーなどの測量機器が用いられることが多いが、施工現場でこれらの施工管理の合間に活用するというプロセスは施工管理の職員にとっては負担が大きく、ツールがあっても利用しづらい状況がある。
 
そこで、これらの課題を解決するために、動画や写真撮影だけで、施工状況を点群化するという製品も登場している。
 
このように、施工の「今」が簡単に取得できるツールがこの数年で一気に増えてきた。しかし、手間をかければどんな情報でも取得することができるが、手間を「誰が」かけるのかというポイントを忘れがちである。
 
なので、この課題を解決する流れとして、誰でも簡単に利用できる「写真」や「動画」のみを活用した現場の「今」を表現するツールが求められている。
 
このようなことを最重要の課題として認識し、構築されたアプリケーションが多く存在することも分かってきた。「Reconstruct 」や「HoloBuilder」「StructionSite」など既に製品として使われているものが多い(図-5
 
残念ながらこれらの製品は全て海外製品であり、日本で作られている製品はない。
 
今後このようなコンストラクションテックが日本から発信され、日本のみならず世界での利用が進むことを期待している。そのためには設計や施工で今何が求められているのか、それを解決するためにはどのような技術を必要とするのか、その技術を「簡単」に使える様にするにはどうするのかという観点でツールを開発する姿勢が重要であろう。
 

StructionSite

HoloBuilder

Reconstruct


図-5 デジタルツインを可能にする各種製品の一覧


 

BIM/CIMがもたらす今後の業界

デジタルツインをどう表現していくのか。そのためのキーワードとしてはBIM/CIMという3次元データがあると考えている。
 
これらのデータを使って、データとIoTセンサーや形状を取得するための計測機器から取得される「今」の現状を表すAS-Buildデータを作成し、これらを統合管理することで、現場の「今」を表現することが可能である。
 
施工管理や設計監理を行うに当たり、現場に張り付いて行う仕事の「やりかた」は、今の時代、この仕事のやり方(Process)をそのまま行う必要があるのだろうか。
 
まったく行わないでも「良い」とは言わないが今までと同じProcessにて管理や監理を行う必要があるのかという疑問はあると思われる。
 
デジタルツインが実現すれば、これらの業務はどのように変化するのであろうか。従来であれば、施工出来形を確認管理する方法は、測量を行い、図化し数量化しその結果をもって出来高も出来形も表現する方法が通常である。しかし、このデジタルツイン技術を利用することで、今の状況を「今」知ることができるようになる。そうすると、出来高や出来形確認にかかる時間は一瞬で終わり、従来かかっていた時間短縮のみならず、その結果を元に、次の判断に生かすことができるようになる。プロジェクトを進めていく上で、「正しく」「判断を」「瞬時に」行うことが最も重要であるが、デジタル技術を使うことで、これらを実施することができるようになるのである。
 
この考え方を国土交通省では「施工履歴データによる土工の出来高算出要領(案)平成31年3月」という基準を出している(図-6)。
 

図-6 施工履歴データによる土工の出来高算出要領(案)



施工履歴データを使い、設計との差分や出来高の差分を出すことにより出来高清算業務を大幅に削減することを目的とした基準である。この基準を使うことで、出来高支払いが毎月可能になるものである。これこそまさに現場の「今」が形だけの活用ではなく、コストまで結びついた流れを作り出す重要なものだと認識しているが、この基準を運用して企業の資金繰りをよくしている会社はまだ私の知っている限りない。
 
BIM/CIMはまずはこのような身の回りで実感できる取り組みをもっと多く実施していくべきであろう。
 

この先の延長には、建物やインフラがそのままデジタル情報として活用することができるようになり、これらを使って建物であれば、建物がどのように運用されているのかがつぶさに分かり、それを元に建物そのものの価値だけではなく、建物の中にある「空間の価値」までも向上させることが可能となる。
 
インフラも維持管理のシステムは行政が管理している現存システムがあるが、これらのシステムでは特にBIM/CIMを活用した管理を行っていないため、現状の方法から新しいツールを使った活用への取り組みは積極的ではない。しかし、建設後50年以上経過する社会資本の割合は今後どんどん加速してくることが報告されており、2023年には3割から4割の社会インフラが老築化している現状になるため、単なる維持修繕ではなく大規模更新を行う時期が来る(図-7)。
 

図-7 建設後50年以上経過する社会資本の割合



全てが新築で実施するわけではなくても、これらの更新に合わせて、BIM/CIMを使ってその当時のその状況が分かるようになれば利用する価値があると考える。
 
昨今では点群にて現状を取得し、その点群に属性を与える製品も出てきている。BIM/CIMの取り組みとして属性の話題が多く挙がっているが、何かを決めてから行うのではなく、既存ツールなどを活用し、点群の塊に必要な情報を連携することから始めるのがよいのではないかと推察する。
 
BIM/CIMは決して3D形状ありきではないが、フィジカルな形状を簡単にデジタル表現するためのツールである点群を活用した新しいインフラ管理Processを構築することこそが、デジタルツインとしてのインフラ構造物への価値を見出すことになるのではないかと思われる。
 
 
 

2020年のキーワード

i-Constructionの2019年度のキーワードは「貫徹」であった。行政から発信されるデジタル変革はまさに、深化から貫徹へと進んできている。そのスピード感は従来われわれ建設業界に身を置くもの全員が初めての経験である。それ故、この動きに疑問を抱く人がまだまだ多く、この業界の動きを単なる「一過性のもの」としてしか捉えていない人がいることは理解しているが、決してそうではなく、いま建設業はこのデジタルツイン技術を活用し、変わろうとしているのである。
 
もう他人事ではなく自分「コト」として真剣に進めなければならないのである。
 
デジタルツイン・規制緩和・PRISM・i-Construction・BIM/CIMとわれわれ建設業界は大きな変革の波が来ている。この流れに乗り、農業・林業・建設業というデジタル変革が一番遅れていたといわれている業界が一気に変わろうとしている。
 
しかし、ここで気を付けなければならないこともある。デジタル革命を進めながら、Processは従来のアナログ時代の流れをそのままにしてデジタルを使おうとしている懸念があるところである。
 
デジタル変革とProcess変革は同時に行われなければならない。両輪が回らない限り車は前に進まず、その場をぐるぐる回っているだけになってしまう。動いているので、改革が進んでいるようにも勘違いするが、間違ってもその場を周り続けるようなことはしてはいけない。両輪回して前に進むのである。
 
「新しいツールを手に入れて仕事を行う」(=デジタル変革)のは「新しい仕事のやり方を行う」ことをセットにして、真のデジタル変革とProcess変革が成立する。この流れを私はイノベーション活動と理解しているが、従来のような改善だけによる生産性向上では本来のデジタルの力は活用できない。一気にイノベーション活動を通じて新しい世界に飛び出す必要がある(図-8)。
 

図-8 生産性向上の手法改善と革新の違い



その助走として、2016年から4年間のi-Construction活動が進められてきた。深化から貫徹へ、貫徹から「成長」へと向かう流れができつつあるのではないかと想像する。
 
「成長」するためには単にトレンドを追いかけても無理であることは皆さん周知の事実である。成長に向けて、デジタル変革とProcess変革を同時に確立し、単に目先のデジタル変革にとらわれることなく、新しい建設業の在り方を肌で感じながら突き進んでいってほしい。
 
今まで見たことがない新世界はそこまで来ている。
 
 
 

次の10年に向けて

2030年、われわれの世界はどうなっているのだろうか。
 
AIが人類を滅ぼすことを題材にした「ターミネータ」、チューリングテストがとてもリアルすぎて話題の「ExMachina」など、未来の世界と思われる映画が話題である。現実世界と乖離した世界であると思っている人が多いと思われるが、ここ10 年のデジタル変革で行われている世界は、過去50年間人類がなし得なかったことを軽々と超越してしまっているものが多い。
 
自動運転に始まり自律運転への流れ、単なる画像認識からそこに意味を持たせ理解し判断する処理技術、人間の「目」「手」「脳」がどんどんデジタルで補完されるような時代になってきた。あながち映画の世界が現実の世界と同調し始めてきている。
 
建設業はデジタルからいささか離れた存在で、フィジカルを追及してきた産業でもあるが、そろそろ、デジタルとフィジカルを融合させ新しい世界に突入する時代である。
 
10 年後がどうなっているのか、今のデジタル変革の時代に先がどうなるかをわれわれ自身も予測することは難しい。そうであるならば、未来を創りあげる方が楽しいはずである。
 
「未来を予測する最良の方法は未来を創り出すことである」とはアメリカの計算機科学者で、ゼロックスのパロアルト研究所の創設に加わり10年関わった後、1984年から97年までアップルコンピュータのフェローになったゼロックスのリサーチ部長、アラン・ケイの言葉であるが、10年後を待つのではなく「創り上げる」のもわれわれ建設業に身を置くものの使命でもある。
 
待つのではなく攻めることで新しい世界が生まれる。建設業は「請負業」として今まで保守的な業態であったが、真の建設業とは単なる請負業ではなく、世の中が持続的に進化できる社会となるための、未来を創り出す「創造業」としての立ち位置を確保しなければならないであろう。
 
そういう建設業への取り組みが今求められている。
 
10年後の創造業がますます盛んになっていて、日本とかアメリカとか中国とかドイツとか、国という枠を超えて、地球規模で関係者全員が連携して世界が変わることを願ってもいるし、それを作り上げていく礎を今この瞬間、われわれ関係者は意識高らかに進めていく必要があるのではないか。
 
宇宙船地球号と言われて久しいが今その時代が来たのかもしれない。決めるのは誰でもない、読者諸氏である。
 
この業界が世界で一番素晴らしい業界にならんことを祈り、本報告を終える。
 
 

※図の出典
図-1
http://www.engineering-eye.com/NAVISPLUS/
 
図-2
http://www.jacic.or.jp/hyojun/modelsyosaido_kaitei1.pdf
 
図-3
https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html
 
図-4
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/bimwill.html
 
図-5
StructionSite https://www.structionsite.com/casestudies/
HoloBuilder https://www.holobuilder.com/
Reconstruct https://www.reconstructinc.com/
 
図-6
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/constplan/sosei_constplan_tk_000031.html
 
図-7
https://www.mlit.go.jp/common/001179306.pdf

 


株式会社 大林組 経営基盤イノベーション推進部 杉浦 伸哉

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 
 
 

最終更新日:2023-08-02

 

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