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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > IT技術を活用した働き方改革への取り組み-「ICT-Full活用工事」の推進-

 

はじめに

清水建設では、平成28年の第1回未来投資会議で示された建設業の生産性を2025年までに20%向上させる方針を受け、各種取り組みを行っている。その中で、国土交通省で推進しているi-constructionやICTの建設現場への導入、さらにCIMモデルによる効率的な計画・検討を、さらにはICTツールの導入を進めている。
 
本稿では、大規模土工工事の現場におけるICTツールを活用した働き方改革の事例を紹介する。
 
 

大規模土工現場でCIMを活用

中日本高速道路株式会社発注の新東名川西工事は、総延長2.6kmの高速道路の新設工事で、大規模盛土、スマートインター整備、トンネル構築を行う塩沢工区と、長大のり面切土、橋梁下部工を構築する向原工区の2工区からなり、ICTを積極的に活用し、生産性の向上を目指している。本工事のICT土工では、3次元データを全面的に活用し、起工測量、設計図面、設計数量、ICT建機による施工、出来形検査、そして納品を全て3次元で行っており、これらを一気通貫で連動して管理することで、効率化を図っている。ICT土工に関してはICT建機を全面的に導入し、マシンガイダンスによる施工を実施している。施工履歴情報として点群データ上に50cm×50cm×50cmのVOXEL(ボクセル)を規定し、その中に施工実績情報を格納し管理を行っている。施工実績情報として、材料種別、層厚、規定転圧回数、実転圧回数や含水比を格納しており、VOXELごとに履歴を確認することはもちろん、材料種別を指定することで現場内のどの位置に施工されているかなどの検索を行うことも可能である(図-1~4)
 

  • 図-1 新東名川西工事完成予想図

  • 図-2 ICT工事の流れ

  • 図-3 測量方法と点群データ

  • 図-4 施工履歴情報のCIM化(VOXEL)



 

VR/ARを活用した設計・施工検討

作成したCIMモデルは、各自のPCや打合せ時の大型モニターでの利用に留めず、タブレット端末を用いて現場へ持ち出すことで、現位置での状況の確認や打合せに利用して業務の効率化、不具合の防止、さらには協議時間の短縮、合意形成の迅速化にも役立てている。タブレット端末では、CIMモデルを現位置で確認するだけではなく、ARシステムを導入している。ARシステムを利用することで、現位置の風景と工事対象物を重ねて可視化することができるため、さらに具体的な施工イメージを関係者間で共有することができる。本工事は一般の方の見学が非常に多いため、ARシステムを用いて現地の当日の状況と完成形モデルを重ね合わせて表示することで、初めて現場を訪れた方でも容易に完成する高速道路の形状を認識することができる。
 
さらに、作成したCIMモデルはVRシステムに取り込み、詳細な取合い箇所の確認や施工イメージの共有化に活用している。VRシステムを活用することで、より具体的な情報の共有が可能となり、設計照査や施工計画の策定に加え、実施工時の安全面の検討にも活用することができる。実際の作業時の状況を事前に確認することで、危険作業を可視化して安全性の向上を図り、さらに危険作業をVRで体験することで具体的な危険作業を認識し、実施工時の不安全行動の抑制に役立てている(次頁、図-5)
 



 

VRでの遠隔会議

CIMモデルの作成・更新には、専門的な知識や技量が求められるため、東京の本社を中心に行っている。これまでは、下記の手順で建設所と本社の連携を図っていた。
 
1.建設所での設計変更情報を本社に連絡
2.本社でCIMモデルを修正・更新
3.VRシステム用に変換し建設所の送付
4.建設所のVRシステムで確認
5.必要に応じ建設所から本社に修正箇所を連絡
6.本社でCIMモデルを修正・更新
7.建設所でCIMモデルの最終確認
 
または、3~5については本社スタッフが建設所を訪問して打合せを行い、確認を行うことも実施していた。この手順では合意形成に時間がかかること、またスタッフの移動時間が必要であることから、遠隔地間で同時にVR空間に没入できるようにVRシステムの更新を行った。こうすることで、建設所と本社間の移動時間をなくすことができ、さらに同時にVR空間に没入することで、モデルの状況や修正箇所を即時に共有することができるようになった。現場の施工スピードに合わせてCIMモデルは随時更新する必要があるが、このシステムを導入することでモデル構築から打合せ日程調整、移動・確認時間を削減することができた。
 
 

Office365を活用した情報共有

清水建設では、全社でマイクロソフト社の「Offi ce365」を導入している。これまでのマイクロソフト社のMicrosoftOffi ce製品と異なり、データがクラウド化されて関係者間で情報が即時に共有されることになった。これまでも利用していた「Word」「Excel」「PowerPoint」に加え、必要なファイルを保存することができるクラウドスペースの「OneDrive」、PDFや写真などのファイルを貼り付けることができるノートアプリの「OneNote」などを活用し、情報の共有化を図っている。例えば、打合せ記録や使用している基準類は「OneNote」に整理して保管している。こうすることで、OneNoteは各自のPCに加えてタブレット端末やスマートフォンからでも利用できるため、必要な時に必要な情報にアクセスすることができる。
 
クラウド化された効果として、複数人での同時アクセスが可能になったことも生産性の向上に効果がある。一般的な物理サーバーに保存されたファイルは、誰かが使用していると開くことができず更新をすることができないが、クラウド化されたファイルは複数人での同時更新が可能である。クラウド化することで、「実施しようとしている業務について、他者がファイルを使用しているから、その業務ができない」といった事態が削減される。また自動的に上書き保存が行われるため、PCなどの不具合で上書き保存ができず、実施した作業が無駄になることもなくなる。さらにクラウド上のデータは、ほぼリアルタイムで更新される。そのため、打合せに出席している人間がOffice365 のOneNoteアプリを用いてメモを記入することで、打合せに参加できなかった人間もリアルタイムにメモを共有することができる。
 
 

BIM360Docsを用いた受発注者間のファイル管理

発注者である中日本高速道路株式会社とAutodesk社製のCDE(CommonData Environment: 共通データ環境)である「BIM360Docs」を用いた試行を実施している。これは受発注者が同時に利用できるクラウドスペースであり、特に図面の管理に特長があるシステムである。BIM360DocsはWEBブラウザで動作するシステムであり、利用に当たりソフトウェアのインストールなどが不要である。各種図面ファイル(DWG、IFC、RVT)に加えPDF形式やNavisworks形式(NWD)のファイルも保存することが可能であり、これらのファイルはソフトウェアを起動することなく、WEBブラウザ上で閲覧・確認することが可能である(図-6、7)
 

  • 図-6 BIM360Docsのイメージ

  • 図-7 BIM360GLUEイメージ



1.最新版管理
BIM360Docsは最新版ファイルを管理・閲覧することに特長があり、図面ファイルを更新した際にもファイル名を変更することなく上書きすれば良い。その際、過去のファイルはバックグラウンドに保存されており、上書きした回数がバージョンという表記で表される。例えば、図面を始めて保存した場合は「バージョン1」であり、3回更新されている場合は3回上書きされているため「バージョン4」と表記される。また、「誰が」、「いつ」更新したかの記録が残されており、いつでも履歴を確認することができる(図-8)。
 

図-8 最新版管理




2.変更点の抽出
特長的な機能として、図面のバージョン間の比較を行うことが可能である。これは最新の図面と更新前の図面を重ね合わせ、変更した箇所、削除された箇所などを着色表示するものである。この機能を用いることで、細かな変更点を漏らすことなく確認することができ、さらに2次元図面だけではなく3次元モデルでも変更点の抽出を行うことが可能である。
 
3.マークアップ
2次元図面、3次元モデルにマークを配置し、文字や添付ファイルを追加することができる。この機能を用いることで、特に注意が必要な事項や関係者で共有するべき事項、さらには施工時の写真や関係書類などを、2次元図面や3次元モデルの位置とリンクさせて共有することができる。記入できるマークアップは、矢印や雲マーク、文字、吹き出し、寸法など多岐に渡っており、紙図面に手書きで各種事項を記入する要領で作成することが可能である。
 
4.指摘事項
2次元図面や3次元モデルに確認事項などがある場合、これまでは確認事項を朱書きした資料に確認が必要なファイルを添付して関係者に送付するなどの対応が必要であった。本システムでは、図面上の確認したい箇所に指摘事項を付加することができる。指摘事項には、その内容に加え、期限や確認する相手を設定することができる。指定された担当者にはシステムからメールが送付され、そのメールのリンクを開くとBIM360Docsが起動して指摘内容が表示される。内容を確認して回答を記入すると、指摘事項作成者にメールが返信される。指摘事項は2次元図面だけではなく3次元モデルにも作成可能であり、しかも全ての履歴は保存されるため、関係者は、いつでも図面の変更履歴や過程を確認することができる。BIm360Docs内で関係者間の情報の伝達や共有を行うことができるため、意思決定の迅速化が期待される。
 
5.タブレット端末での利用
BIM360Docsは、タブレット端末やスマートフォンでも利用することができる。図面データはクラウドに保存されているため、ファイルのコピーなどをタブレット端末に保存する必要がなく、常に最新版を閲覧することができる。そのため、施工現場で常に最新の図面を確認することが可能となり、さらに3次元モデルの確認も可能となる。3次元モデルは任意の断面で切断することができるため、施工位置・状況に合わせた状態を確認することが可能である。
 
 
新東名川西工事では、CIMモデルやVR・ARシステム、Offi ce365のようなクラウド製品の積極的な導入に加え、CDEシステムであるBIM360Docsの試行を行い、生産性の向上・働き方改革に取り組んでいる。このような機能を有した各種技術・システムを発注者間で共有して利用することで、最新情報を共有し、さらに疑問点の解決スピードが向上するという効果を得ている。
 
新東名川西工事は、測量・設計・施工・検査・納品に至る一連の過程で「i-Construction」に取り組んでおり、生産性の向上を図っている。今後も、「ICT-Full活用工事」としてICTツールをフルに活用し、受発注者間の情報共有を促進した取り組みを進めていく。

 
 
 

清水建設株式会社 土木技術本部 設計部 CIM推進グループ グループ長 柳川 正和

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集3「建築ITの最新動向」



 
 
 

最終更新日:2020-08-17

 

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